湯めぐりみしゅら~ん

第52湯:八幡平湯巡りツーリングその1

 ここ2ヶ月ほど、近年稀にみるほどの仕事の立て込みっぷりで、さすがの私も疲労困憊気味。しかし、新たな相棒であるホンダ400Xに跨ると、一瞬ではあるが、そんな忙しさを忘れさせてくれる。実は、この時期に忙しくなることが予見されたので、10月下旬にホンダ400Xで初の大遠征を敢行したのだ。行き先は、4年前に訪れた繋温泉を中心とした岩手県八幡平周辺。2泊3日、片道約600km、予想総走行距離は約1600km、初の大遠征としては十分な内容だ。2回にわたってその模様をお伝えしよう。

 直前まで忙しかったため、準備がままならぬままに当日の朝を迎え、毎度のことながら午前5時30分に自宅を出発。4年前同様、今回もHJ社の社員旅行に便乗するかたちとなった。天候は晴れ。400Xにはトップケース、パニアケース、タンクバッグをフル装着。このスタイルでツーリングに行くのが夢だった。絶好調の400Xに乗り、甲州街道、首都高を経由して、やがて東北自動車道の入口である浦和料金所が見えてきた。ここからが本番だ。料金所を過ぎて、しばらくは高速モードに突入。

 10月下旬なので、秋が徐々に深まりつつあったが、グリップヒーターを利用するほど寒くはない。気分的には一刻も早く試してみたいのだが…。栃木県を過ぎて、福島県に入り、いよいよ東北地方に進入。400Xは快調・快適そのもの。宮城県に入っても疲労度が少なく、ジェベル250XCとの車格、排気量の違いを実感した。やがて岩手県に入り、一関市を過ぎた頃から道が真っ直ぐになり、いよいよ花巻市、そして盛岡市に近づいてきた。時間は午後1時前。繋温泉の「ホテル大観」へのチェックインは午後5時なので、まだまだ時間がある。いろいろ考えた結果、八幡平に向かうことにした。

 松尾八幡平ICで降りて、県道45号線を進み、八幡平をグルリと回る県道23号線に進む。しばしワインディングロードを満喫。標高が高くなるにつれて紅葉は終わりつつあり、季節が冬に向かっていることを感じた。見返峠に到着し、しばし見晴らし台から見学。天気は快晴で、こんなに清々しく澄み切った空を見たのは、今まで数えるほどしかない。
あとちょっとで山々が雪に覆われてしまうことを考えるとラッキーだった。

 見返峠からそのまま県道23号線を進むと秋田県、県道318号線に向かうと岩手県側に向かう。午後5時までに繋温泉に向かわなくてはならないので、後ろ髪を引かれる思いで、県道318号線に進んだ。県道318号線を進んでほどなくして藤七(とうしち)温泉「彩雲荘」が見えてきた。ここまで来て入らないわけにはいかない。走り続けて身体も冷えており、ひと風呂浴びることにした。

 藤七温泉「彩雲荘」は岩手県八幡平市松尾寄木北の又にある温泉宿だ。周囲にはこの宿しかなく、秘湯そのものだ。受付で入湯料600円を払い、浴室に向かった。脱衣室から外を見ると、露天風呂が山肌に広がっている。こじんまりした内風呂を通って露天風呂に向かう。露天風呂は混浴で複数あり、ひとまずいちばん広そうな湯船に入ってみる。硫黄臭のするお湯は白濁しており、想像以上に適温。実に気持ちいい。湯量はかなり豊富だ。温泉は海抜1400mのところにあり、東北地方で最高地とのこと。山裾に沿って吹く風は冷たいが、開放感バツグンで何ともダイナミックな温泉だ。しばし入った後、冷えないように一目散に脱衣場に向かった。

 想像以上に手応えのあった籐七温泉をあとにして、県道318号線を進む。400Xに習熟するにはもってこいのワインディングロードを走る。やがて県道318号線から県道212号線に向かうところで松川温泉「峡雲荘」を発見。せっかくなので入ることにした。松川温泉「峡雲荘」は岩手県八幡平市松尾寄木松川温泉にある温泉宿だ。周囲を山々に囲まれており、ここも秘湯だ。入湯料は500円。内風呂と混浴露天風呂があり、混浴露天風呂に入ることにした。湯船に岩を配した豪快な雰囲気の露天風呂は広く、ゆったり入れる。お湯はやや緑がかった白濁色。湯量も豊富で適温。時間が経つのを忘れるくらい気持ちいい。東北の温泉は奥深いとあらためて実感した。

 松川温泉に入り、ここから繋温泉を目指すことになる。ここから山を越えて、前回来た時に入湯した網張温泉まで行ける道があれば、繋温泉まではそれほど遠くはないのだが、残念ながら設けられていない。県道23号線を走っていったん東北自動車道を横切り、国道282号線と国道4号線を通って盛岡市方面に向かうという方法しかなかった。県道212号線から県道23号線と進み、国道262号線を滝沢村方面に進む。分れ南という交差点から県道16号線に入り、盛岡市方面に向かう。国道46号線に合流したら、あとは田沢湖方面に向かえば繋温泉に着くのだが、あろうことかミスルートをしてしまい、気づいたら繋温泉から20kmほど離れた矢巾にいた。これはイカンと必死でスマホとツーリングマップルを駆使してルート検索し、道名もわからぬまま山道を進み、何とか繋温泉に通じる県道162号線に合流。夕暮れ時の御所湖のほとりをハイペースで走り、午後5時30分にようやく繋温泉「ホテル大観」に到着した。

 繋温泉「ホテル大観」に来るのは4年ぶり。部屋に入ると同僚が待っていた。彼らも到着したのは私とほぼ同じくらいだったらしい。荷物を解除して、宴会前にひと風呂浴びることにした。相変わらず大浴場は湯量豊富で泉質も素晴らしい。冷えた身体が芯から蘇る。風呂のあとは、いよいよ宴会。お膳には豪華で味・ボリューム満点の料理が並ぶ。実に贅沢な時間だった。宴会のあとはもちろん〆の温泉。じっくり繋温泉を満喫した。

 翌朝、バイキング形式の朝食を摂り、同僚よりも早く出発。2日目の宿泊先は岩手県二戸市にある稲庭交流センター「天台の湯」に決めていたのだが、当日のプランは決めていなかった。散々迷った挙句、せっかくだから国道282号線を走って秋田県の鹿角まで足を延ばして名物「きりたんぽ鍋」を食べて、その途中で温泉に入ることにした。

 しかし、ちょっと気がかりなことがあった。それは天候だった。どうやら夕方にかけて雨が降るらしい。初の大遠征で、400Xがいきなり雨に見舞われる恐れが出てきた。なんとも私らしいツーリングだ。


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岩手県の前沢といえば前沢牛。前沢SAで売っていた「牛タン串」を昼食代わりに食べる。なかなか贅沢な一串だった
岩手県の前沢といえば前沢牛。前沢SAで売っていた「牛タン串」を昼食代わりに食べる。なかなか贅沢な一串だった。
八幡平の見返峠から安比高原方面を望む。言葉に表わせないほどの素晴らしい絶景! これは神様からのご褒美かも…
八幡平の見返峠から安比高原方面を望む。言葉に表わせないほどの素晴らしい絶景! これは神様からのご褒美かも…。
今度は藤七温泉のある雫石方面を望む。太陽が降り注ぐ! 実は、こんなにいい天気はこの日だけで、翌日からは雪が降ったらしい…
今度は藤七温泉のある雫石方面を望む。太陽が降り注ぐ! 実は、こんなにいい天気はこの日だけで、翌日からは雪が降ったらしい…。
見返峠からほど近いところにある藤七温泉「彩雲荘」。周囲には他に建物がなく、山小屋風の建物は、いかにも秘湯然としている
見返峠からほど近いところにある藤七温泉「彩雲荘」。周囲には他に建物がなく、山小屋風の建物は、いかにも秘湯然としている。
脱衣場から見た山肌に広がる露天風呂。段々状になったおり、上から源泉がかけ流し状態で各湯船に注がれる。このワイルド感は最高!
脱衣場から見た山肌に広がる露天風呂。段々状になったおり、上から源泉がかけ流し状態で各湯船に注がれる。このワイルド感は最高!
県道318号線と県道212号線の境にある松川温泉「峡雲荘」。混浴露天風呂となっており、やや緑がかった良質な白濁湯が旅人を迎えてくれる
県道318号線と県道212号線の境にある松川温泉「峡雲荘」。混浴露天風呂となっており、やや緑がかった良質な白濁湯が旅人を迎えてくれる。
4年ぶりの訪れた岩手県を代表する名湯である繋温泉にある「ホテル大観」。ここのお湯はすべて源泉かけ流し。湯量・泉質ともバツグンだ
4年ぶりの訪れた岩手県を代表する名湯である繋温泉にある「ホテル大観」。ここのお湯はすべて源泉かけ流し。湯量・泉質ともバツグンだ。
宴会で供された食事。これにプラスして汁物(名前は忘れてしまったが、これが旨かった!)とお寿司が食べ放題! 腹がパンパンになるまで食べてしまった…
宴会で供された食事。これにプラスして汁物(名前は忘れてしまったが、これが旨かった!)とお寿司が食べ放題! 腹がパンパンになるまで食べてしまった…。

 繋温泉から国道46号線に出てすぐに給油し、昨日と同じ県道16号線を通って分れ南の交差点まで進み、そこから国道282号線を安比(あっぴ)高原方面に進んだ。天気は曇りで、気温は一桁台。果たしてどんな2日目になるのやら…。
(つづく)

ブースカ的温泉評価
藤七温泉「彩雲荘」 ★★★★★
広大・絶景の混浴露天風呂は入湯する価値あり。
松川温泉「峡雲荘」 ★★★★★
いかにも秘湯らしい落ち着いた風情ある露天風呂。
*繋温泉「ホテル大観」は前回入湯しているのでカウントしない

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は725湯。湯巡りツーリングの相棒はホンダ・400X。ちなみにマイカーはスズキのエスクードだ。


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