おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第51回 伊豆スカイライン



MAP


 富士箱根伊豆国立公園内にあって、伊豆半島東部の山稜を南北に縦走する屈指のワインディングロード。それが多くのライダー周知の伊豆スカイラインだ。標高は高くないがスカイラインと呼ぶにふさわしい眺望のよい道で、駐車場やビューポイントも多く、富士山、駿河湾、相模湾、伊豆七島など見渡せる。熱海峠~天城高原間の延長は40kmあまりで走り応えがあり、その割に料金はリーズナブルだから嬉しい。低、中、高と様々なRのコーナーで構成され、区間によって表情を変える。バイク乗りなら一度は走りたい道のひとつである。

 ここ数年、ずいぶん頻度が下がり、走る機会は年に数回程度になってしまっている。だが、全盛の頃は仕事がらみで週に数回走ることもあり、プライベートでも2ヵ月に一回ペースで利用していた伊豆スカイライン。仕事で試乗する場合は、大半が小田原からターンパイク~県道20号線経由だった。たまに小田原から熱海まで海岸線を走り、そこから伊豆スカに上ることもあった。個人的ツーリングの時は、往路、伊豆半島の東か西の沿岸を駆け抜け、帰路、南端の天城高原から熱海峠まで伊豆スカを北上したり、その逆ルートだったり…。

 これまで多くの道を走ってきているが、もっともお世話になった道路が伊豆スカだ。ざっと計算してみると、500、600回は走っているのではないかと思う。全線を走ることは1割くらいで、試乗での大半は亀石ICか、その先の冷川ICまでの間だったが…。だから熱海峠から冷川までの道筋は脳に刻まれ、体も覚えていて、コーナーのひとつひとつを思い浮かべることができる。展望駐車場ほか、止まり写真や走り写真を撮るに適した駐車場やコーナーも同様だ。

 県道20号線を左折すると数100mで熱海峠の料金所だ。行く先を告げてそこまでの区間料金を払い、出口券付きのチケットをもらう。走り出すと道はすぐ右に曲がり数100mの直線になる。それが終わると左のヘアピンで、その後は中速コーナーと短い直線がいくつか。その先、右側に滝知山の駐車場がある(分岐道を少し入る)。相模湾、駿河湾の両方を見渡すことができ、富士山も望める。切通しなので風が強いことが多い。その左下(伊豆スカを挟んで反対側)にも駐車場があり、熱海市街や相模湾、初島、伊豆七島を見渡せる。

 先に進む。一度少し下って緩く登り、その後はしばらく平坦となる。緩やかなコーナーの先左側に、かつては営業していた玄岳レストハウスの廃屋が現れ、そこを過ぎて側道を左に入れば、玄岳ICの料金所だ(熱海新道に接続)。レストハウスのちょうど反対側の下方には氷ケ池、という小さな池がある。伊豆スカから細いダートを数100m下る。ガレ場というか深い轍の泥道で、大型車では下りるのはもちろん、登って帰るのも困難だが、水も池の周囲の景色も美しい。30年も前、この池に降り、某二輪誌の企画でウエアの撮影をしたことがある。



熱海峠
一番北側の熱海峠料金所。ここから伊豆半島を南下していく。●以下すべて撮影-舟橋 朗

 玄岳レストハウスの前を左に曲がり直進するとややタイトな右コーナーで、それを過ぎると、右側に駐車場がある。富士山や駿河湾の眺めが素晴らしい。そこから韮山峠の立体交差までは比較的タイトなコーナーが多いが、長めのストレートもある。韮山の分岐を右に入れば、旧富士見パークウエイへとつながる。この道はかつて有料だったが無料になってずいぶん経つ。このタイトな林間の道で試乗したことも数10回はある。韮山の立体交差や、その手前の連続S字コーナーでもよく走行写真を撮った。

 韮山から亀石までの区間は、低速コーナー、中速コーナー、ストレートと、変化に富んでいる。韮山峠からしばらく走ると、県道80号線がつながる山伏峠だ。小田原から海沿いの国道135号線を南下し、網代手前で右に折れて伊豆スカに上ったことも何度かあるが、県道80号線への入り口がちょっとわかりにくく、中間点くらいまではとてもタイトで走りやすいとは言えない。ただ、もうずいぶん前に中間点以降の道は整備され、道幅も充分で、面白い道になった。



玄岳レストハウス
玄岳レストハウス跡は伊豆スカイラインのランドマーク?

 亀石手前には長いストレートがあり、アクセルを思い切り開けたくなるが、速度に注意。熱海峠側から行くと、緩い下りのその直線が始まる左側に鹿ケ谷公園がある。小さな駐車場があるけれど、利用したことは少ない。亀石峠ICの手前には広い駐車場とレストハウスがある。昔はガソリンスタンドもあった。仕事でも遊びでも、そのスカイポート亀石に寄ることが多かった。一区切りつけたところで昼食をそこで摂ることも多く、俺は生姜焼き定食をよく食した。休日はもちろん、夏休み時期などはこの亀石の駐車場にズラーッとバイクが並んだものだ。

 亀石から冷川までの区間も変化に富んでいて面白い。ただ、林間の道となるので眺望に優れるところは少ない。一番見晴らしがいいのは巣雲山の駐車場だ。道の左右にあり、海側からは富士山や駿河湾が見渡せる。南下するとゴルフ場が隣接するところに撮影しやすいコーナーがある。そこでもよく走り写真を撮った。しばらく南下すると緩く下りながらのワインディングとなる。冷川ICの手前右側には茅葺の茶屋がある。麦とろろ飯やそばが評判で、何度も立ち寄った。冷川ICで伊豆スカを降り、修善寺を経由し西伊豆に行くこともあった。

 冷川から先は上りになり、中高速コーナーが多いけれどストレートも何本かある。熱海峠から亀石や冷川までの区間と比べると、冷川~天城高原間は交通量がグッと減る。ざっとシミュレーションしてみたが、伊豆スカはじつに快適に走れる面白い道である。全線でなくても走り応えがあってコーナリングを満喫できて、見晴らしがいい所も多い。都内やその近郊からなら東名高速など利用すれば日帰りでも楽に行って来られる。ツーリング好きでコーナリングを楽しみたいライダーには最高のルートだ。


スカイラインという名に恥じない眺望も自慢。

 ただ、昨今、残念なことに二輪車の死亡事故が多発し、バイクが走れなくなってしまうのでは…と危惧されている。伊豆スカでの二輪事故はずいぶん前から問題になっていた。そのため、有志による事故撲滅キャンペーンなども何度か行なわれてきた。バイク乗りはこの素晴らしい伊豆スカイラインを失ってはならない。今後も多くのライダーがその景色とコーナリングを楽しみ続けられることを切に願う。ライダーひとり一人が自覚を持ち、危険な、無理な走りをして事故を起こさないよう十二分に留意してほしい。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、18年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万5000km。

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