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キック、キック、キック!!! 何度蹴ってもウンともスンとも言わない。いや、別に誰かを蹴飛ばしてるわけでも憂さ晴らしにサンドバッグに向かって蹴りを放っているわけではない。エイプの話だ。いやいや、まったく困ったもんだ。まぁ一年近くかまってやらなかったオレが悪いのだがこればかりは仕方のない事である。 ご存知のようにオレは年末から夏にかけて横浜にいた。あんな都会に何台ものバイクを持ち込む事はできないしセローに比べて盗難などのリスクの高いエイプを持っていくことはまったく考えなかった。つまりはエイプの事を思えばこその選択だったわけだ。なのに……キックし続けるオレの姿はまるで引きこもった我が子の部屋のドアを空しく叩き続ける親のようだ。 う~ん、このままではラチがあかん。とりあえず自宅のガレージでキャブをばらしてジェット類をパーツクリーナーで洗浄してやり再び組み上げる。これで再度キック! エンジンはかかった。だがアクセルを戻すとエンジンは止まってしまう。何度やってもアイドリングしない。こりゃぁ、ちょっと掃除したくらいではどうにもならん。オレはエイプを車体ごとバイク屋に持ち込み再びキャブレターを全バラし、各ジェット類を専用のキャブクリーナーに漬け込み本体も丹念に洗浄した。なんせよく見るとフロートチャンバーの底など緑色をしたコケのようなものがこびりついていて腐りかけといった有様である。そりゃ機嫌が悪くならない方がおかしいってもんだ。 漬け込んだジェット類はその汚れを細部まで完全に除去するためしばらくは放置である。その間、オレはバイク屋の置かれている中古パーツを眺めていた。その中にヨシムラのエイプ用のマフラーが。モリワキのモナカもあったがやはりカチ上げのカーボンサイレンサーの方がオレの好みだ。いくら? と聞くと激安の価格を提示されたので即買いである。 だがまずはエンジンの状態を正常に戻すことの方が先だ。バラしたキャブレターを組み上げエンジンをかけてみる。順調に始動した。アイドリングもベストな所で調整してやると今度は止まる事なく一定のリズムでアイドリングし続けている。よしよし、いいコだ。ご褒美をくれてやろう。さっそくにヨシムラのマフラーを装着してやるとこれまでとはまた違ったサウンドが響き渡った。うん、なかなかにイイ。サウンドだけではない。これまでずっとダウンマフラーをつけていたので見た目のイメージもだいぶ変わった。最後にカムチェーンを調性してやると少し気になっていたメカノイズもきれいになくなった。 さてちょいと走ってみようか。ギアをローに入れてクラッチを繋ぐとエイプは力強くその車体を押しだした。んっ!? マフラー交換の効果なのだろうか、トルク感が太くなったように思える。かなりいいコンディションである事は間違いない。さぁ後はオイルを換えて完了となるわけだが・・・オイルはとっておきのモノを用意している。この時点ではそのオイルはまだ届いていなかったのでそれ待ちという事になる。 まぁその後、そのオイルはほどなくして手に入ったのだが交換してやれたのはそれから2週間後。それまでの2週間はまたしても仕上がって帰ってきたCBが活躍していたわけだがそれはまた別の話。
今回エイプのために用意したオイルはYACCO(ヤッコ)のMVX RACE4t。日本ではイマイチ馴染みの薄いメーカー(オレは友人から紹介されるまでその存在自体知らなかった)ではあるが世界的に見るとトップレベルの超高性能オイルなのだ。その頂点となるグレードにギャラクシーというのがあってその二輪用がMVX RACE4tという事になる。当然、その価格も高額で今までエイプに使っていたホンダのG2の実に4倍である。 その2リットルボトルを今回、購入。これでエイプとセローのオイル交換をやるつもりだが……まずはエイプだ。前回のオイル交換からまだ500キロも走っていないが丸一年近くも放置していたのだから当然、交換した方がよい。走っていないのだからそんなに汚れているわけでもないだろうに…もったいないと、思うかもしれないがオイルの劣化とは色んな意味でそんなに単純ではないのだ。 なにはともあれエイプにこの超高性能で高級なオイルを投入した。このオイルについてオレの耳に入ってくる話はいろいろあるが一言で言ってしまうとエンジンが生まれ変わるともっぱらの評判だ。さてその効果はいかがなものか。さっそくエイプを走らせてみる……ふっふっふっ、まったくわからん。
まぁこれは予想通り……というか、オレが事前に得ていたこのオイルに関する情報でも交換直後では体感できるほどの変化はないという事だった。そしてその変化というやつは車種や排気量などによっても異なるがある程度の距離を走ったところで突然に訪れるらしい。さらにはその次にもう一度、オイル交換をしたところでもう一段階のステップアップがあるのだという。それはそれでまた楽しみな話であるがもう少し先の事になるであろう。 ひとまずは完全なるコンディションを取り戻したエイプが更なる変化を見せるにふさわしいステージはやはりフル装備な旅の道中においてだろうな……なんて事を考えていたらこの後にオイル交換したセローが一足先にその変化を見せちまったのだが、これもこれでまた別の話。