オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ750?。
第45回 アイル・オブ・生月 神の降り立つ聖地にて

 
 下衆い。耳に聞こえてくる話の内容はそう表現しても差し支えないような言葉の組み合わせである。ステージの上のオジサマたちは居酒屋で飲んでいるご機嫌なオヤジ連中のような様相で満面の笑顔である。有名人が公の場でこんな会話を繰り広げれば大いなる問題発言ととられる事だろう。そんなNGワードを連発しながら談笑しているのは国内の自動車レースの最高峰であるスーパーGTでレイブリックホンダを率いるチーム監督の高橋国光氏とモータージャーナリストの山田純氏。両氏ともモーターサイクルの世界では超が付くほどの有名人である。
 だが……ここが公の場であるかどうかはひじょうに微妙なところだ。アイル・オブ・生月。この場においてクニさんは一応ゲストというスタンスであるがここ数年の立ち振る舞いはもはや遊びに来たイチ参加者でしかないし純さんに至っては今回は完全なるプライベートである。トークショーとしてスタートしたこの対談も今や座談会の域を通り越しもはや過去の暴露話合戦を含む雑談となっている。だが……困ったことにこれが凄まじく面白い。



絵面だけ見ると豪華なダブルゲストのトークショー。しかしその内容はエロ全開。バイク、車、ほとんど出てきません
絵面だけ見ると豪華なダブルゲストのトークショー。しかしその内容はエロ全開。バイク、車、ほとんど出てきません。

 
 今回は色んな面で久しぶりだ。生月島へ来るのもクニさんに会うのも。そして何よりもこの空気と言うか雰囲気と言うか、この独特の感じ。苦労してきた甲斐があったというものだ。
 そう、オレは苦労してやってきたのだ。自宅からこの生月島まで距離にして600キロ。マシンはCB750カフェ。600キロの距離をビッグバイクで走る事自体は楽勝なのだがやはりオレのCBではちょいとキビシイ。夏の新潟行きで懲りていたはずなのだがこのアイル・オブ・生月は別だ。このイベントに行くにあたりチョイスするマシンとしては我が家のラインナップではCB以外にはありえない。
 このイベントがスタートしてもう十数年にもなるが最初の頃は旧車ミーティングの名前で開催されていてその流れでこれまでも二輪四輪ともに博物館級の名車、珍車が数多くやって来ていた。そんな色を持つアイル・オブ・生月に行くならそりゃCBという事になるでしょうよ。もちろんオレのCBはRCB1000のレプリカでしかない。だがこの完成されたテイストは生月に集まる名車たちを前にして見劣りする事はないだろう。
 おまけに今回は宿をとってありキャンプ装備は必要ないので空荷である。まぁ今回とった宿については少々不具合が発生してしまったわけだがそれは後で語るとしよう。オレはリュックひとつを背中に背負って深夜の高速を腰痛に耐えながら生月島まで走った。この行きの道中でわかった事がある。夏にはあまりの暑さで試すことができなかったが今回、このCBで初めて全開にしてみた。するとメーターの目盛りはあっけないほどに最後の目盛りにまで達した。そしてそのあたりでは車体が軽くヨレ始める。リミッターが効いているのでこれ以上は出ないのだが仮に出たとしてもこのあたりがこの車体のままだと限界なのかもしれない。



夜に映える我CB。シートカウルにゼッケンも入りより一層レーシーな雰囲気を増した
夜に映える我CB。シートカウルにゼッケンも入りより一層レーシーな雰囲気を増した。


夜通し走り湾岸ハウスに到着。ハウス内ではAki姉が会場の看板作りに精を出していた。このぎりぎりの手作り感がアイル・オブ・生月らしさ


夜通し走り湾岸ハウスに到着。ハウス内ではAki姉が会場の看板作りに精を出していた。このぎりぎりの手作り感がアイル・オブ・生月らしさ
夜通し走り湾岸ハウスに到着。ハウス内ではAki姉が会場の看板作りに精を出していた。このぎりぎりの手作り感がアイル・オブ・生月らしさ。

 
 この日の早朝にオレは生月島に着いた。西九州自動車道が佐々ICまで開通したことによって島へのアプローチはとても楽になった。生月大橋を渡り島に入りいつもの湾岸ハウスに行くとAki姉が立て看板などの準備で忙しく動き回っていた。それを少し手伝ってからオレは島の先端にある灯台まで行ってみた。
 灯台の駐車場にはハーレーが十数台とそれと同じ人数のアメリカ人。佐世保基地の兵隊たちだろう。オレがCBで乗り付けるとわらわらと集まってきてヘルメットを脱いだ時にはオレは取り囲まれていた。そんな状態でこっちに向かって好き勝手にあれやこれやと喋りまくっていたがオレが理解できたのは“グレイト!”と“ナイス!”だけ。どうやらオレのCBは彼らにとっても実に興味深いマシンだったようだ。灯台の所まで歩いていくと日本離れした雄大な景色が広がった。相変わらずスバラシイ眺めだ。生月島は大手の車メーカーのCM撮影の舞台にもなっていてますます聖地としての色を深めている。



島の北端に位置する大バエ灯台。ここから眺める景色はそれこそ日本離れしていてとにかく絶景


島の北端に位置する大バエ灯台。ここから眺める景色はそれこそ日本離れしていてとにかく絶景
島の北端に位置する大バエ灯台。ここから眺める景色はそれこそ日本離れしていてとにかく絶景。

 
 島を一通り走りまわり再び会場の準備を手伝い、ぼちぼちと集まってきた仲間とのんびりと過ごしていた昼の3時頃、クニさんが会場に到着した。今年は空港から自らレンタカーを借りての島入りだ。至って普通の車から降り立つといつもの笑顔でやぁやぁと。もはや自分自身がこのイベントの目玉であるゲストである事などほとんど忘れてしまっているようである。一足先に到着していた純さんは早く呑みたいからと言ってそそくさに宿のチェックインを済ませ軽装でビール片手に会場をうろうろしている。そんな自由過ぎる空気の中、すっかり日も暮れてこの二人のトークショーが始まったわけなのだが……。
 絵面的にはステージがありそのうえで椅子に座ったクニさんと純さんがマイクを持って対談しており途中から以前クニさんのマネージャーをしていたという川原さんも加わりトークショーの体を成してはいるのだが話がなかなか車、バイクの話にいかない。目を閉じてすべての先入観を捨てて音声だけを拾ってみるとその内容はまさしく下衆いオヤジトークである。まぁこれも生月島限定といったところなのだろう。



ええ、そうです。クニさんです。オレ達の輪の中に普通にいますけどモーターサイクルの世界ではマジでスゲェ人なんです
ええ、そうです。クニさんです。オレ達の輪の中に普通にいますけどモーターサイクルの世界ではマジでスゲェ人なんです。

 
 トークショーが終わりオレもこの両名と少し話をさせてもらった。その後は久しぶりに会う仲間との呑み再開である。今回は本当に久しぶりに会うやつが多く話は終わらない。気が付きゃとっくに日付は変わり時間は2時を回っていた。さすがのオレもここらで寝ておかないと明日(正確には今日だが)が大変だと思い宿へ戻ると……入り口に鍵が掛かっていて中に入れない。なってこった! 受付の際に門限の話は聞いた気がするがまさか本当に鍵をかけてしまうとは思わなかった。



会場横の公園でキャンプ泊まりする者多数。オレの場合、今回は荷物の積めないマシンなので仕方ないが・・・宿は失敗だったなぁ
会場横の公園でキャンプ泊まりする者多数。オレの場合、今回は荷物の積めないマシンなので仕方ないが・・・宿は失敗だったなぁ。

 このまま会場に戻って呑みなおすという手もあったが前夜、夜通し走ってすでに睡眠を30時間以上取っていないオレの睡魔は限界にきていた。オレは仕方なく湾岸ハウスへ行き何とか空いていた一人分のスペースに転がり込んで眠りに落ちた。
 翌朝、周りの動きに合わせるように目を覚ましたのだが完全なる寝不足である。実質、寝た時間は3時間。もうこうなると睡眠と言うよりは仮眠である。さすがのオレでも二日で睡眠3時間はかなり堪える。だがそうも言っていられない。なんせこの日がメインイベントなのだから。 



本祭当日は前日以上にバイク、車共に集まってきた。その内容は名車、珍車のオンパレード

 
 ひとまずは本来、寝るはずだった宿へ行くと鍵は開いていたので部屋へ行き置いてあったバッグひとつを持って宿をでた。結果としては一泊分の宿代を払ってバッグひとつを厳重に預かってもらっただけという事になる。実にマヌケでお粗末な話である。まったくいつもの自分の立ち振る舞いを考慮もせずに泊まりの宿を予約するなんて慣れないことをするとこういう事になる。 

本祭当日は前日以上にバイク、車共に集まってきた。その内容は名車、珍車のオンパレード


参加バイクの中で特に目を引いたのがコレ。フルカスタムされたGT750。完成度高すぎです。超カッコイイんですけど
参加バイクの中で特に目を引いたのがコレ。フルカスタムされたGT750。完成度高すぎです。超カッコイイんですけど。


ビートとNSXのオーナーズクラブが揃って参加。さすがにこれだけ集まるとその光景は圧巻


ビートとNSXのオーナーズクラブが揃って参加。さすがにこれだけ集まるとその光景は圧巻
ビートとNSXのオーナーズクラブが揃って参加。さすがにこれだけ集まるとその光景は圧巻。

 
 そんな愚かなオレの行動とは裏腹に会場では多くの名車、珍車、カスタムされた車両などの多くが集まりその賑わいを増していた。
 そんな中、プログラムは次々と進行していく。その一つであるビンゴゲームが始まった。参加者は配られたビンゴシートを手に読み上げられる数字を折り曲げていく。そんな参加者の中の二人組がオレのCBの前に立ち、「これ、当んねぇかな」と。



ヨタハチです。ビートもNSXも名車と言える領域だがやはりコイツの存在感にはかなわない
ヨタハチです。ビートもNSXも名車と言える領域だがやはりコイツの存在感にはかなわない。

 
 
 オイオイ、ちょっと待て。寝不足のせいで若干ぼーっとしている事もあってステージ上でのやり取りに注意を払っていなかったせいもあるがいつの間にかオレのCBがビンゴゲームの景品の一つにされている。もちろん司会の金太郎氏はこのオレをイジる意味での冗談として言ったのだろうがそれを本気にしている参加者がいるというのが問題だ。まぁ考え方によってはそれだけこのCBが参加車両の中でも注目度が高いという事なのだろうが・・・。
 ここでは楽しい方向でものを考えた方がいい。この後のチャリティーオークションでも出品車両のような扱いを受けたが気にしないことにしよう。
 イベントも中盤にさしかかり参加者にとっては一番のお楽しみであるクニさんと走る島ツーリングがスタートした。普段は閑静な島の外周路を普段なかなか見かける事のないような車両が大挙してのパレードランである。生月島のお祭りは最高潮を迎える事となった。
 島の北部にある喫茶パラオに一度集合して小休止をとる。前回来た時には元気に走り回っていた犬のコロスケが亡くなっていた。かつて彼が住んでいた犬小屋には遺影が飾られている。少し残念な気持ちと同時に時の流れと言うものをしみじみと感じさせてくれた。この世にあるものすべてが、生まれ、時間とともに様々に形を変えそして消えてなくなる。オレにしたってそうだ。愛車であったシェルパとホーネットは卒業し新メンバーとしてセローとCBがやってきた。ここで会った仲間にしたってみんな色んな面で変わった。かつてゴミ屋敷のような部屋で一人暮らしをしていた仲間は今や家庭をもち子供もすっかり大きくなっていたし四国にいた仲間は今では地元の九州に戻りのんびりとした日常の中、猫に夢中だ。かつてのイメージからは想像もつかない今の姿もただオレが知らなかっただけでみんなそんな別の色んな面を持っていたという事だ。逆にそうでなければ面白くない。何もかもを知る必要はないが一つのイメージだけで付き合っていくのも少々退屈に思える。くどいようだが変わっていく事は決して悪い事ではない。人間はアホな生き物ではあるがその変化を受け入れきちんと消化する事によって成長する生き物でもあるのだから。
 パラオでちょっと長めの休憩を終えた後は参加者は来た道を走り会場へ戻っていった。そして今年のアイル・オブ・生月はいよいよフィナーレを迎える。Aki姉、そしてクニさんの挨拶のあと最後は残った参加者全員で記念撮影をし、イベントは幕を閉じた。オレも東へ向けて帰路についた。本州へ入るころにはすっかり日も暮れて空には丸い月がその姿を見せている。折しもこの夜の月は中秋の名月。その姿はその名に恥じない美しさである。オオカミ男が走るにはおあつらえ向きな夜だ。しかし・・・しばらくはCBでの長距離走は控えよう。やっぱ腰がイテェ!



最後に参加者全員で記念撮影。天気にも恵まれてそれぞれにいい思い出ができた事だろう。来年もまた元気な姿で再会できたらいいね
最後に参加者全員で記念撮影。天気にも恵まれてそれぞれにいい思い出ができた事だろう。来年もまた元気な姿で再会できたらいいね。

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