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ホンダ

 
オートバイとしての完成度を上げ、さらに優れたものに

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NC750X ライディングポジション。ライダーの身長は170cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます)

 初代のNC700Xの発売は2012年の初頭で、思い切った割り切りと、リーズナブルな価格設定からベストセラーになった。しかし遅れてヤマハが近い価格帯にMTシリーズを投入してから風向きが変わったことは否めない。そこで新たに手を入れ魅力を高めた、という流れだろう。モーターショーの会場や写真で見た時と違い、太陽の下では、一体的になったサイドの造形など、少し縦にボリュームを出しながらすっきりスマートにまとまった感じがする。ヘッドライトがLEDになって目つきがきりっと精悍になった。
 
 NC750Xの特徴的な部分としては、通常では燃料タンクになるところにラゲッジスペースがあるところだろう。今回、その容量が1L増加して、22Lになった。旧型と並べ比べてはいないけれど、フタの造形が替わって、気持ち深くなったようだ。試しに、最新のアライAstroプロシェードコマンドヘルメット(シェードは取り外した状態の55-56、Sサイズ)を入れてみた。シールド部を上にして落としこむ。ラゲッジスペースの内部壁面前方に純正工具があるのは変わらない。ヘルメットの吸入ダクトが内部壁面後方に少々触るけれど(その分、中で揺れない)、きっちり収まった。前より奥に入って見え、そのままフタも余裕で閉まる。ラゲッジスペース底面が二重底で、ETCを収めるスペースになっているのは変わらない。フルフェイスヘルメットは物やサイズによっては入らないという意見もあったのは確か。そこに手を入れ、より使いやすく、かゆいところに手が届く変更だ。
 
 さらに、そのラゲッジスペースのフタの上には、クルマのルーフキャリアみたいな積載用ネットのフックなどがかけられる樹脂製のキャリアが追加された。ラゲッジスペースに入りきらない、ちょっとした荷物を積みたい場合に、鉄の燃料タンクじゃないので、マグネット式タンクバッグが使えない。今まで通りリアシート下に給油口があるので、リアシート上に括りつけると、給油のたびに取り外しが面倒。だからこの追加機能は実に便利だ。完全にフタの上なので、あまり重いものは無理だろうが、積載してもラゲッジスペースへのアクセスは出来る。
 
 新しいNC750Xは、他もこのように基本を大きく変えず、評価されてきたところを残しながら、細部をさらに煮詰めたものになっているのである。当然、ライバルを考えて車両価格は大幅に上げられずコストの制約もあっただろうが、その中で、ドラスティックに変えるのではなく、弱いと思われそうな部分に手を入れたワケだ。オートバイとしての完成度を上げ、さらに優れたものにする。けっして派手ではないが、その部分の違いが乗っても大きく効いている。
 

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 試乗したのは、Sモードを3種類に設定できる熟成した新しいDCT付モデルじゃなく、通常のトランスミッションでABS付。いささか残念だけど、それは次のお楽しみにして、素の状態だからこそ走りに集中できて違いが分かりやすかった。ここでの大きな目玉は、新型のフロントフォークを採用したこと。2014年のEICMA(ミラノショー)でSHOWAの新技術としてお披露目したデュアルベンディングバルブフロントフォークだ。これまでのフリーバルブ式では厳しい、ストローク速度に応じた減衰特性を、カートリッジ式にせず、シンプルな構造で出来るというもの。カートリッジ式より安価で軽いというのも強み。
 
 初めてNC700Xに乗った時の試乗記で、「全体的にまとまっていて良いのだが、たとえ車両価格が上がったとしてももう少しコストをかけたフォークが欲しい」と書いた。クルージング時の乗り心地や性能に大きな不満はなかったけれど、積極的に走った時、ちょっとした路面のうねりやギャップで、減衰が追いつかず、接地感が頼りなく感じる時があったのでそれを正直に書いた。この部分が大きく改善された。フォークを沈ませ旋回中にギャップを通過しても、ドタバタせず、ラインが乱れにくい。タイヤのグリップを掴みやすく安心感が出た。リアショックもプリロード調整式に変わったけれど、そこは触らず標準設定のまま。まだ新車でこなれていないのか、沈みだし初期段階でやや硬さが残るものの、抑制のきいた動きで、乗り心地と走りが確実にレベルアップした。全体的に剛性が増したしっかり感もある。
 
 デュアルパーパス、いわゆるアドベンチャー的なツアラーだから、ロードスポーツモデルのようにさっと前からクイックに旋回するのではなく、安定したリーンでたおやかに曲がっていく。速度の違いで変化しにくいハンドリング。フォークが変わった相乗効果として、タイヤのグリップ力を効率的に使えブレーキの効きも良くなったと感じた。動きに加わった好印象に気持ちが引っ張れられるのか、パラツインエンジンも、スムーズさに磨きがかかった気がする。スロットル操作に対しダイレクトにトルクが出て、神経質にならず気持よくパワーコントロール出来る好印象。
 
 砂浜とちょっとしたダートも走ってみたけれど、右手だけでフロント荷重を簡単に抜ける力が瞬時に出るので、舗装路より大きな障害を乗り越えるのも簡単だ。不整地でのトラクションも、履いているタイヤを考えると充分。スタンダードのシート高だと身長170cmでは片足しか接地しないけれど、それが気にならない扱いやすさ。
 
 70mmも高くなったスクリーンは速度が上がるほど効果が分かるなど、新NC750X は、機能、快適、走りで長距離ツアラーとしての資質に深みが出た。NC700XからNC750Xに変わった時より進化の度合いが大きいのではないか。デザインも含め巧みな仕上げで、その効果が分かる丹念な作り込み。間違いなく趣味性がアップして、オートバイの好き者を惹きつける力が強くなった。
 
(濱矢文夫)
 

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視認性に優れた配光のLEDヘッドライトを採用。導光タイプのポジションランプをヘッドライト輪郭に縁取り個性的な“顔”を演出。 フロントサスには“デュアルベンディングバルブ”を採用。乗り心地の向上と制動時のノーズダイブを軽減させている。 フォークキャップにはグレーアルマイト処理を施し、ハンドル周りの高級感を演出している。
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液晶メーターの表示面積を拡大し、様々なライディングシーンを演出する“表示色可変新メーター”を採用。反転液晶の採用により精悍なイメージのデザインとしている。 本来なら燃料タンクが存在するスペースにラゲッジボックスを備えるのがNCシリーズの特徴の一つ。 一般的なフルフェイスヘルメットを収納可能な容量22リットルのラゲッジスペースが出現。
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シート高800㎜のローダウン仕様(タイプLD)もタイプ設定。標準でもシート高は830㎜。 燃料給油はこちら。タンデムシートをオープンすると給油口が現れる。 リアカウルにビルドインされたテールランプもLED製。
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DCTモデルでは、従来のSモードをさらに3つのレベルで選択可能とし、高めのギア、低めのギアとライダーの使い方に合わせたシフトチェンジタイミングを可能としている。メインスイッチをオフにしてもレベル設定は記憶されている。ATモード走行時では坂道の斜度に応じて、坂道の登りや下りの走行時に適正なタイミングでの変速を実現している(写真の試乗車は通常のマニュアルミッション車)。各タイプで共通する変更としては、異形断面形状の2室構造を持った新型マフラーの採用がある。鼓動感のあるエキゾーストサウンド。
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■Honda NC750X〔<ABS>〕【Dual Clutch Transmission<ABS>】《Type LD》{Eパッケージ} 主要諸元

●全長×全幅×全高:2,230《2,215》×845×1,350《1,320》mm、ホイールベース:1,535《1,520》mm、最低地上高:165《140》mm、シート高:830《800》mm、車両重量:218〔220〕【230】{231}kg、キャスター:27°00′、トレール:110mm●エンジン種類:RC88E、水冷4ストローク直列2気筒SOHC4バルブ、総排気量:745cm3、ボア×ストローク:77.0×80.0mm、圧縮比:10.7、最高出力:40kW[54PS]/6,250rpm 、最大トルク:68N・m[6.9kgf-m]/4,750rpm、燃料供給:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)、始動方式:セルフ式、点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火、燃料タンク容量:14L、変速機形式:常時噛合式6段リターン式●タイヤ(前+後):120/70ZR17M/C 58W+160/60ZR17M/C 69W、ブレーキ(前+後):油圧式シングルディスク+油圧式シングルディスク、懸架方式(前+後):テレスコピックフォーク+スイングアーム(プロリンク)、フレーム形式:ダイヤモンドタイプ
■メーカー希望小売価格:743,040円〔793,800円〕【859,680円】{924,480円}


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