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 これまでOEMメーカーとして世界各国の二輪メーカーにサスペンションを供給してきたSHOWAが、一般ユーザー向けに窓口を開くということはとても大きな出来事であると同時に、一般ユーザー向けにハイパフォーマンスを謳う日本製サスペンションブランドが誕生したことは非常に喜ばしいことです。

 この「BFF(バランス・フリー・フロントフォーク)」と「BFRC® lite(バランス・フリー・リア・クッション・ライト)」は、同機構を採用したスペシャルサスペンションが2015年にスーパーバイク世界選手権のタイトルを獲得したカワサキのファクトリーマシンに採用されていたほか、MotoGPクラスでもその第一線で戦ってきました。また2016年モデルのカワサキZX-10Rや、2015EICMAでアンベールされたスズキのコンセプトマシン/GSX-R1000にも、同機構を採用した市販車用サスペンションが装着されています。

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 今回SHOWAが発表した、一般ユーザー向けハイパフォーマンスサスペンションの「BFF」と「BFRC® lite」は、レース用サスペンション技術を取り入れてダンピング性能を高め、セッティングやメンテナンス性の高さもレース用と同様。しかし耐久性においては各二輪車メーカーの新車に装着される量産車用SHOWA製サスペンションと同様という、高性能と高耐久性および性能持続性を両立させるSHOWAならではのアフターパーツなのです。
 
 では「BFF」と「BFRC® lite」は、どんな特徴を持っているのか。それはダンパーの応答性を極限まで高めていること、です。S字の切り返しなどで、一度グッとサスペンションが縮んだ荷重状態から、サスが伸びる、いわゆる抜重状態となって、再び荷重状態に戻るような動きをするとき、荷重と抜重を繰り返しながらもその過程で求められる減衰力を瞬時に、的確に発揮するのが良いサスペンションの証なのです。しかしサスペンションオイルに圧力をかけることで減衰力を生み出すサスペンションの構造上、最適な減衰力を発揮する、必要な圧力を得るためにはタイムラグが生まれてしまうのです。ダンパーの応答性を高めるということは、そのタイムラグを小さくすることとイコールなのです。

 この応答性の高いサスペンションは、乗り心地にも大きく影響します。平坦に見える一般道は、実はウネリや凸凹が多く、それに合わせサスペンションは常に伸びたり縮んだりを繰り返しています。その際に応答性が悪いと、フワフワしたりゴツゴツしたりという乗り心地に直結するのです。
 
 そこで「BFF」と「BFRC® lite」は、減衰力を生み出すピストンに、圧力側/伸び側ともに一定の圧力を保つバランスフリー構造を採用。そのピストンをサスペンションシリンダーから切り離す、いわゆる別体構造としています。そして、そのバランスフリーピストンを直列に配置しオイル経路を短縮。それによってオイル流路抵抗を減らしているのです。

 またすでにさまざまな二輪メーカーのスーパースポーツモデルに採用されている“BPF/ビッグ・ピストン・フロントフォーク”の技術を応用。減衰力を生み出すピストンの直径を大きくすることで、ピストンに掛かる面圧を低く抑えながら高い減衰力を生み出しているのです。面圧を低く抑えることができれば、求める圧力=減衰力を得るまでタイムラグが減る。このBPFの技術も合わせて、「BFF」と「BFRC® lite」の優れた応答性が生まれているというのです。
 
 もちろん市販化に至るまでは苦労の連続。その最たるモノは、耐久性の向上だったそうです。ハイパフォーマンスサスペンションが活躍するレースの世界は、各パーツのコンディションがしっかりと管理されていて、最高の状態を求めて推奨メンテナンススパンの2000kmの走行距離を待たずして、しっかりとメンテナンスされています。短いスパンでのメンテが前提ですから、構造もシンプル。しかし一般ユーザーが使用する市販パーツとなれば、メンテナンススパンは大幅に延長しなければなりません。

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 ポイントはシール類。シール類の耐久性を高めるには、シール部分をきつく締め付ける必要があります。その結果、シール部分の抵抗が大きくなる。そのバランスが非常に難しいのです。またシールからオイルが漏れたときのことも考慮し、そのときにはオイル漏れによる大きなトラブルが発生する前に、小さなトラブルで発見できるような構造も考える必要がある。しかし、それこそがOEMサスペンションを数多く開発してきたSHOWAの強みでもあります。

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 さらにはモトクロッサー用に開発したエアサスペンションのシール技術や、乗り心地の良さを徹底的に追求したホンダのダカールマシン/CRF450Rallyにおける低フリクションサスペンションの開発で培った技術も積極的に用いています。シール性を高めながら作動性も高めるという、レーシングスペックを量産製品にフィードバックするノウハウを持っているのは、各カデゴリーのトップクラスのレースを戦いながら量産車用サスペンション開発を行うSHOWAならではの技術だと、大いに自信を持っているのです。
 
「BFF」と「BFRC® lite」の発売は2016年春頃を予定。Kawasaki ZX-10R、BMW S1000RR、SUZUKI GSX-R1000、Honda CBR1000RRなど順次ラインナップを増やして行くとのこと。レースでの使用はもちろん、街乗り用として使用することができます。日本およびアジアにおける販売窓口は「SPK」が行います。■http://www.spk.co.jp/ TEL:03-3472-5015

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『これまでOEMのサスペンション開発と製造を行ってきたSHOWAにとって、アフターパーツ市場への参入は大きな決断でした。しかしそれは、我々が目指すSHOWAブランドには必要なステップだと考えています。SHOWAのサスペンションが装着されているから、その二輪車がさらに魅力的になる。SHOWAのサスペンションが装着されていることが、その二輪車を購入するきっかけになる。我々はそんなブランドにならなければならない。そのためにはアフターパーツ市場でも“SHOWAのサスペンションは良い”、“SHOWAのハイパフォーマンスなサスペンションを使いたい”と思って頂かなければならないのです。そのために我々は、長い年月をかけ準備を進めてきました。そして2015年のEICMAで、「BFF」と「BFRC® lite」を発表することができた。やっと、この日を迎えることができた、という感じです。
 
 昨年(2014年)EICMAに初出展したとき、多くの欧州ユーザーからSHOWA製高性能サスペンションが欲しいという声を頂きました。それは自分たちが目指してきたSHOWAブランドのカタチが間違っていなかったとう確信になり、アフターパーツマーケットという新市場に挑む我々にとって大きな力となりました。

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 SHOWAの目標は、レースの現場で培った高性能をいかに一般ユーザーに届けられるか。同時に量産パーツとは違う価値、たとえば高性能にふさわしい質感を提供できるか。そのふたつを高い次元で融合させることでした。今回発表した「BFF」と「BFRC® lite」はそれにふさわしい製品になったと、自信を持っています。
 
 もちろんアフターサービスについても熟慮しました。日本における販売やメンテナンスの窓口は「SPK」が行います。「SPK」はサスペンションのスペシャリストであり、これまでも協力関係を続けてきたパートナーです。また「BFF」と「BFRC® lite」を手に入れたことで広がる世界も啓蒙しサポートしていきたい。製品を取り巻くカルチャーを含めたアフターサービスも展開していく予定です。
 
 アフターパーツ市場への参入により、SHOWAのモノづくりはこれまで以上に深度が深くなると同時に、カバーする領域が広がったと感じています。もちろん、今まで以上に大変になるわけですが、ここにチャレンジしないと我々が目指す“SHOWAブランド”は完結しません。SHOWAブランドの拡大を目指し、今後も新しいチャレンジをしていきたいと考えています』 (門屋 彰氏)。

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『SHOWAとカワサキ、そして自分のライディングは、いま凄く良いバランスにあると思う。もちろん最初から良好だったわけではないけど、徐々に良くなってきたって言う感じです。自分はダイレクトなフィーリングを重視しているので、それを求めて継続的にテストを行っています。
 
 昨シーズン/2015年はマシンのポテンシャルを100%引き出すことができなかった。いま2016年シーズンのテストが始まっていて、SHOWAのエンジニアと協力し合って、新型のカワサキZX-10Rのポテンシャルを可能な限り引き出そうといろんなトライをしているところです。「BFF」と「BFRC® lite」は2015年も、また2016年も僕のレースマシンに装着されているサスペンションと同じ構造を持っていると説明を受けました。レーストラックにおける「BFF」と「BFRC® lite」のフィーリングは素晴らしい。レーストラックで開発されたテクノロジーがそのまま詰まった「BFF」と「BFRC® lite」をストリートで体験できるなんて、とても贅沢だと思います』(トム・サイクス選手)。

(Photo & Report:河野正士)



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