おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第52回 斑尾・妙高周辺の道



MAP


長野県にはグッドロードが多いが、県の北部とそれに隣接する新潟県南部の観光スポット、斑尾、妙高周辺にも面白いワインディングがある。いずれも県道で、2県にまたがる、斑尾高原の北側を走る長野・新潟県道97号線(飯山斑尾荒井線)、その南側と野尻湖岸などを通っている長野・新潟県道96号線(飯山妙高高原線)と、妙高山麓の北東南を巻くように続く新潟県道39号線(妙高高原公園線)だ。どの道も走って楽しく、景色も素晴らしい。眺望に優れる場所もいくつかある。そして上信越自動車道や国道18号線からのアクセスもいい。

 まずは数字の若い39号線。妙高市の笹ヶ峰と関山とを結ぶ、延長約37kmの県道だが、ふたつの区間が楽しい。ひとつは国道18号~笹ヶ峰間だ。ほぼ全線幅員が狭く、国道から西南に進むとしばらくは街並みもあるが、上信越自動車道をくぐったあたりから人家は減り、杉野沢の集落を過ぎると笹ヶ峰まで一軒宿やレストランが点在するだけになる。そして道は様々なコーナーが連続する舗装林道さながらに。勾配は全体的に緩やかだが、一部きつい場所もある。一部区間ではほぼ並行して流れる関川を見下ろすこともできる。

 この道を知ったのは10年くらい前だった。信州北部を2泊3日の日程でツーリング取材して、最終日に往復した。時期は周囲の木々の葉が見事に染まる頃だった。紅葉鮮やかな林間のくねくね道を登り切ると笹ヶ峰牧場が左手斜面に展開し、右は妙高山の山麓が広がる。スケールの大きい景観に「おお!」と感嘆の声が出た。奥に進むと小さな笹ヶ峰ダムによって造られた乙見湖に至る。この湖岸から西北方の眺めは格別で、湖周辺は茫洋とした趣があり、奥には火打山、焼山が見える。湖から先は長野県に至る林道となる。

 とても気に入ったので、その数年後、古くからのバイク仲間ふたりと赤倉温泉へ1泊ツーリングに出かけ、乙見湖まで走った。お盆すぎの頃だった。同行者のひとりは笹ヶ峰から距離的に近い白馬村の人で、信州はもちろん、各地を走りまくっているライダーだが「こんな道があったのか」と驚き、感心していた。もうひとりの横浜の人も大満足していた。3度目は一作年の晩秋、女房と車で旅行したときルートに組み入れた。斑尾高原のホテルに1泊し、翌日、訪れた。紅葉は終わりかけていたが、乙見湖周辺の眺めはやはり素晴らしかった。



笹ヶ峰


乙見湖
県道39号・笹ヶ峰牧場手前の区間。ここも紅葉はピークを過ぎていたが、それでもお天気に恵まれ、木々の間を縫う道を走るのはとても気持ちよかった。 笹ヶ峰・乙見湖の西北方向の景観。いつ行っても、しばらくボーっと眺めていたくなる。牧場も美しいし、笹ヶ峰は最高。今度は新緑の頃に訪ねてみたい。

 もうひとつは赤倉温泉から燕温泉への分岐までの区間だ。景色のよさでは前述区間に引けを取らない。スキー場のゲレンデを縫う道からの眺望は抜群で、眼下に赤倉温泉の街並みが広がり、その後方の美しい山々を見渡すことができる。取材のときは早起きして絶好の撮影ポイントまでバイクを走らせた。見下ろせば谷間には雲海が広がり、振り仰げば真っ青な空と紅葉に輝く妙高山。これぞ絶景、といえる感動的な風景だった。道は舗装林道さながらで、勾配はきついが、交通量は少なく、景色を愛でながらじつに気持ちよく走れる。

 この区間もやはり10年ほど前の取材のときに初めて走ってとても気に入ったので、前述したツーリングの時も、女房との車旅のときも訪れた。そういえば、最初に仕事で通ったときは燕温泉まで登って行った後、登山道を15分くらい歩いて、無料の露天風呂「河原の湯」にも浸かった。乳白色の湯は俺にとっては少しぬるかった。結構な人数の先客もいたっけ…。でも、登山道から見る山紅葉、特に対岸の景色が忘れられない。渓谷の切り立った黒い岩肌に黄や紅に染まった木々の葉が映えて、息をのむほどの美しさだった。

 県道97号線はずいぶん前に信州をツーリングしたときに通り、直近では2年前の秋の車旅のときも、国道117号線から斑尾高原の宿を目指して走った。それまで少しのんびりしたせいで、ヘッドライトを灯さなければならなかった。中央線の白線は消えかかっていたり、路面が多少荒れているところもあったが、幅員は充分で、変化に富んだコーナーが連続する。翌日は晴天の下、高原の景色を味わいながら楽しくドライビングした。しばらく下ってから左折し、三桁県道のような道に入ったが、直進すればその先もコーナリングが楽しめる。

 県道96号線も、一昨年秋に車で走ったのでよく覚えている(97号線と同じように、昔ツーリングで通っている可能性は高いが記憶が曖昧)。斑尾高原から県道97号線を下り、三桁県道のような道を介して96号線に乗り入れた。中野市と妙高市をつなぐこの道もコーナリングと景色が楽しめる、爽やかな道だ。特に野尻湖岸沿いは湖を眺めながら走ることができて爽快。俺は通り過ぎたが、湖畔に乗り付けて休憩するのもいいだろう。ボート遊びをしたり遊覧船に乗ったり、釣りを楽しむこともできるので、時間があれば立ち寄ってみてほしい。

 今回の3つの県道は観光スポットが近くにあるので、紅葉や若葉のシーズンの休日には交通量が増えて混雑するのかもしれない。ただ、シーズンでも平日なら自分のペースで走れると思う。また、周辺にはこれらの県道と接続する面白い県道や国道もある。39号線の国道18号線〜笹ヶ峰区間はロードバイクだと乙見湖の先の林道を抜けて長野県側に抜けるのは厳しいため、往復しなければならない。でもそれだけの価値ある道だ。他の2県道は、39号線の赤倉以北の区間やほかの道をつなげば、一筆書きにグルッと回ることも可能だ。



赤倉~燕間


斑尾高原
県道39号・赤倉温泉から燕温泉へ行く途中の、ゲレンデのなかの道から下方を見下ろすとこんな感じ。振り向いて見上げれば、妙高山の雄姿がそびえる。 県道97号線・斑尾高原にて。道路脇に広い駐車場があり、紅葉は終わりかけていたが、ゲレンデを抱えた山がきれいだったので、車を止めて記念にパチリ。


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、18年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万5000km。

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