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第101回 第8戦オランダGP Rainmaker


 今季初のウェットレースである。日曜の決勝レースについては、週末を通して雨予報が確定的ではあったものの、じっさいにレースが始まってみると、アッセンにもほどがあるだろう、というほどの豪雨になってレースが中断。しばらく様子を見た後に、残り12周回のスプリントレースが再開した。
 その戦いをドラマチックに制したのが、最高峰2年目のジャック・ミラー(エストレージャ・ガリシア0,0 Marc VDS)。自分の短所は熱くなりすぎるところ、と普段から語るこの21歳の若者は、レースを振り返って
「2レース目は落ち着いて走るように心がけたんだ」
 と話した。
「今日はいわゆる『表彰台か診察台か』という展開になったけど、バレンティーノがグラベルで転倒しているのを見て、マルクはもう抑えるだろうなと思った。彼にしてみればリスクを冒す必要がなくて、レースを終えればいいわけだから。僕自身も、『2位でもいいかな』とも思ったけど、自分のリズムで走るように心がけてマルクをパスし、あとはご覧の通りの結果になったわけ」
 ミラーが推測していたとおり、2位のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)はレースを終えて
「今日の2位は勝ったも同然の結果。今日はとにかくレースをしっかり終えようと思った」
 と振り返った。今回の20ポイント獲得により、ランキング2番手のホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)との差を24ポイント、3番手のバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)に対しては42ポイントとした。とはいえ、シーズンはまだ10戦もあるので、当然ながらこれらの差はまだまだ決定的なものではない。
 3位はスコット・レディング(OCTO Pramac Yaknich/ドゥカティ)。表彰台は昨年第13戦サンマリノGP以来だが、今回はドライコンディションでも速さを発揮し、予選でもフロントロー3番手を獲得していたので、ウィークを通じて積み上げてきた努力をしっかりと結果に結びつけたリザルト、といえるだろう。
「シーズンの滑り出しがあまりよくなくて、運に恵まれなかったりちょっとしたトラブルがあったりでなかなか噛み合わなかったけれども、諦めずに頑張って昨日はフロントローを獲得できた。今日のレースでもこういう結果を得ることができて、すごく良かった。苦しいなかでも諦めず、『今年はもうこのままずっと完走できないかも』とも思ったけど、こうやって結果を出せたので、本当にうれしい」
 いつもとは違う顔ぶれの表彰台になったが、そういうレースも良いものだ。だからこそレースは面白い、ともいえるのだが。


#43

#45
優勝後のウィリーもバツグンに決まっていました。 晴れでも雨でも安定感のある速さを発揮。

*   *   *   *   *

 表彰台の3名以外に、今回のレースでおそらく大満足のリザルトになったのが、アンドレア・イアンノーネ(ドゥカティ・チーム)である。

 前戦の決勝で後方からロレンソを撃沈させた一件に対するペナルティで、今回のレースは最後尾スタートの処分を受けていたイアンノーネは、土曜の予選を終えて
「最後尾は初めてだから何もかも初体験だけど、がんばって追い上げるよ。スタートをうまく決めて最初の2周でポジションを上げられれば、面白いレースをできると思う。どんな展開になるかはまったく予測できないし、トップファイブで終われれば上々だろうけど、難しいだろうね。でもがんばってみるよ」


#29
今回は誰もやっつけませんでした。

 と話していたが、その言葉どおり5位でチェカーを受けた。
「第1レースを終えて、チームが第2レースに向けて完璧な仕事をしてくれた。第2レースはリアにソフトコンパウンドのタイヤを入れて良いペースで走ることができた。第1レースのときほど、前との差を埋められなかったけど、状況をうまくコントロールできたと思う」
 と説明する彼のことばを日本語で簡単にまとめれば「思わぬ拾いもの」とでもいうべきだろうか。あるいは「損して得取れ」か。

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 第2レースでは全選手がリア用にソフトコンパウンドのレインタイヤで臨んでおり、上記の選手たちはいずれもそれをうまく活かしたことが好結果につながったといえそうだが、対照的にそのソフトコンパウンドを活用しきれなかったのが、これから紹介する各選手たちである。
 まずはバレンティーノ・ロッシ。
 スタートを決めてレースをリードしながら、序盤に転倒を喫してリタイアとなってしまった。転倒時の状況は、ロッシ自身の説明によると以下のとおりである。

「第2レースではソフト側のコンパウンドで臨み、グリップも良かったのでスピードを発揮できた。でも、そのせいでちょっと攻めすぎてしまったんだろう。9コーナー立ち上がりで少し早めにスロットルを開けてゆき、10コーナー進入はいつもと同じポイントでブレーキ動作に入ったけれども、おそらく4〜5km/hほど速かったと思う。それで、フロントが切れてしまった」
 もうひとりはアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)。土曜の予選ではPPを獲得し、第1レースもトップを走行している最中に赤旗中断。再開後の第2レースでもスタートを決めて、レースをリードし始めた矢先の転倒だった。
「バレンティーノと凌ぎ合いになって、ふたりともプッシュしすぎたのだと思う」
 とドビ。
「自分を含む、多くの選手が転倒してしまった原因は、フロントが作動しなかったからだろう。自分ではそう理解している。
 2レース目ではソフト側のリアタイヤで、グリップは倍以上になった。それがフロントの問題をさらに大きくしてしまったんだ。高速の12コーナーに5速で入っていったときに、リアがフロントを押すのでスロットルをリリースしたら、あっというまに転んでしまった」
 さらにもう1名。ホルヘ・ロレンソは第1レースではまったく良いところがなく19番手。第2レースは、どんどん前が潰れたことで、どうにかこうにか10位フィニッシュ、という惨憺たる一日だった。


#46
痛いノーポイント。シーズン後半にどう響くか。

#04
理論派も雨には勝てず。

#99
ここまでダメなウィークも珍しい。

 ロレンソは、以前にこのサーキットでウェットコンディションの走行中に大きな転倒を喫して鎖骨を骨折しているだけに、その苦い思い出が未だにアッセンの走りに影響しているのかとも思ってしまうのだが、彼自身の説明によるとどうやらそういうことではなく、フロントをより多く使うライディングスタイルに起因するのだとか。
「進入でも旋回でも立ち上がりでも、全域でインフォメーションがなくて、わずかのミスで転倒しそうな状態だった。(旋回速度を重視する)自分のライディングスタイルはフロントが重要なので、たとえば去年のもてぎのようにフロントに充分なグリップがあるときは雨でも誰より速く走れるけど、フロントがダメだと他のライダーよりも悪影響の度合いが大きくて、すごく遅くなってしまう。それが今日の自分に起こったことなんだ」

*   *   *   *   *

 さて、お待たせしました。Moto2クラスで優勝を飾った中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)である。
 今回の中上は、序盤からまったく危なげのない走りでレースの主導権を握り、自身のグランプリ初優勝を達成した。
「いや〜、長かったですね」 
 と本人が第一声を漏らしたとおり、125ccに参戦していた2008年から数えると、途中に2年の全日本時代を含みながらも9年目。Moto2クラスだけで考えても、5年目である。

「やっと優勝、というかんじだけど、でも意外に落ち着いていますね。レース展開は難しい部分もあったけど、序盤のごちゃごちゃしていたときにも落ち着いて状況判断をできました。今回は週末を通してアベレージタイムが良かったので、最終的にモルビデッリを抜いて前が開けてからは連続して数周プッシュし、3秒近い差を開くことができました。あとは、きっちりとコントロールしてペースをキープし、落ち着いて走りきることができました。最終的に雨が降ってきて、せっかく開いた後ろとのギャップが少し詰まってきたけれども、残り周回も少なかったのでいずれにせよ優勝は間違いなかったと思うし、(2位の)ザルコが言っていたように、あの段階で赤旗が出たのは好判断だったと思います」


#30
111戦目の初優勝。おめでとう!

 この中上の言葉にもあるとおり、赤旗が掲示される直前には、2番手を走行していたザルコが追い上げ体勢に入ろうとしていた。なので、表彰式を終えたザルコに「もし、赤旗が出なければ、中上に追いつけていたと思う?」と訊ねてみた。
 ザルコは苦笑をうかべながら「んー……、どうだろうね」と口を開いた。
「こればかりはイエスともノーとも言えないし、自分としては最後まで追いつけると信じて走り続けたんだけどね。雨が降ってきたときは、タカのペースが少し落ちたので、『ここが攻めどきだ』と思ってがんばった。プッシュしようとも思ったけど、ワンミスでレースを台無しにしてしまう可能性もあった。だから(レースディレクションが)、あと2周段階でレースを停めたのは良い判断だったと思う。いずれにせよ、今日のタカはとても強かったよ。良い走りをしていたし、どのライダーよりも乗れていたし、序盤からずば抜けて速かった。今日の彼は、パーフェクトなレースだったと思う」
 ランキング首位に立つ自分自身の2位という結果については、以下のように話した。
「ポイントを大量に獲得できて良かった。リスクをあまり冒したくなかったしね。次のドイツGPまでしばらく時間があるので、しっかりトレーニングをして備えるよ」
 了解です。
 では、第9戦のザクセンリンクサーキットでお会いいたしましょう。


#46

#93
86回目のダッチTT。これぞ「伝統と格式」 聚楽よ~、ではない。

#46

#93
歴代優勝者を称える「栄光のトンネル」

 



■2016年 第8戦 オランダGP TTサーキット・アッセン

6月26日 

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #43 Jack Miller Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


3 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


4 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


5 #29 Andrea Iannone Ducati Team DUCATI


6 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


7 #50 Eugene LAVERTY Aspar Team MotoGP DUCATI


8 #6 Stefan Bradl Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


9 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


10 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


11 #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


12 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


13 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


Not Classified #19 Alvaro BAUTISTA Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


Not Classified #51 Michele PIRRO OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


Not Classified #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


Not Classified #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


Not Classified #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


Not Classified #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


Not Finished 1st Lap #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


Not Starting #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


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