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第105回 第12戦イギリスGP Defeat Is No Option


 マーヴェリック・ヴィニャーレス(チーム・スズキ・エクスター)初勝利。シーズン7人目の優勝者登場である。今年は第6戦イタリアGP以降、毎戦異なる選手が優勝している(ロレンソ−ロッシ−ミラー−マルケス−イアンノーネ−クラッチロー−ヴィニャーレス)。こんなシーズンは、ちょっと今まで例がなかったのではないだろうか。
 今回の彼らの優勝は、2011年末の活動休止と復活に向けた努力、そして2015年の活動再開という経緯をずっと目の当たりにしてきただけに、ヴィニャーレスがトップでチェッカーを受けた瞬間は、取材する立場ながら心の底から喜ばしい気持ちになった。もちろん、いずれかの陣営を贔屓するつもりはないし、しているとも思わないけれども、長い間近い場所から取材をさせてもらっていると、誰によらずなにかしら情が移るような状態になってしまうものだ。
 ヴィニャーレスは、来シーズンの移籍が決定しているとはいえ、「レース人生で最高の瞬間になった。今年のうちにこれを達成できるとは思わなかった。日本でがんばってくれる人々とチームのおかげで優勝できた。とてもハッピーな気持ちだし、スズキを去る前に、自分にできる最高のことを達成できたと思う」と述べた気持ちは、偽らざる正直なところだろう。
 ヴィニャーレスとともに2015年から開発を担って戦ってきたアレイシ・エスパルガロは、自らは7位でレースを終えたが「今日最も重要なのは、スズキがトップに立ったこと。とてもスペシャルだし、マーヴェリックのためにもとてもうれしく思う。才能のあるヤツだよ。スズキの人たちもすごく雰囲気のよいファミリーで、この20ヶ月間にスズキが達成した進歩がうれしいし、誇りに思う」と話した。
 前戦の優勝者で今回は2位に入ったカル・クラッチロー(LCRホンダ)は、「もっとバトルをすれば、もっとレースが楽しかっただろうにね」と、ひねりの利いた祝福を贈った。「まあ、それはともかく、彼はファンタスティックなレースをやってのけたよ」
 3位のバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)も「今日のレースで唯一残念だったのは、マーヴェリックが自分たちを待ってくれなかったことだね」とジョーク混じりに述べた。「マーヴェリックは、来年が脅威だね。才能があることはハナからわかっているし。彼がヤマハとサインした瞬間から『これはリラックスできなくなるな』と思った。でも、今日の勝利は彼のためにもチームのためにも素晴らしいと思うし、スズキにはたくさんの友人がいるので祝福を贈りたい」


#25

#41
弱冠21歳。今後がますます楽しみな逸材である。 自分自身はやや苦戦したものの弟分の偉業を祝福。
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 クラッチローやロッシと激しいバトルを繰り広げながら、今回は4位に終わったランキング首位のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、表彰台を獲得出来なかった敗因を次のように述べた。
「レース序盤は速く走れたけれども、4周ほどすると、フロントにソフトコンパウンドを選んだのは失敗だと思った。挙動が大きいし、旋回も遅い。肘を使ってフロントをマネージしなければいけなかった。それが第一のミス。その後、バレンティーノはチャンピオンシップの直近のライバルなので、彼とのバトルに集中しようと思った。アタックしすぎたのかも、リスクをとりすぎたのかもしれないけど、2位を狙えると思っていたのでがんばってプッシュした。結果的には順位を下げてしまったけど、3ポイントを詰められただけなので、そこはポジティブにとらえたい」
 一方、3ポイントを詰めて50点差としたロッシは
「前戦での53ポイントから1レース減った段階での50ポイント差だから、厳しいことに変わりはない。でも、あまり気にせず、最終戦まで勝利を目指して戦い、表彰台を獲ることを狙っていく。チャンピオンシップはどうなるかわからないけど、難しいだろうね」
と話している。


#93

#46
「肘でコントロール」と平気で言うところがスゴい。 次戦は文字どおりの地元コース、ミザノ。

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 このトップグループを猛烈に追い上げて、これはどうかしたらヴィニャーレスにも迫ってゆくのではないか、というほどの勢いを一時は見せながら転倒に終わってしまったのが、アンドレア・イアンノーネ(ドゥカティ・チーム)。転倒の直接の原因は、バンプにヒットしてしまったためだが、そうなってしまったことにもさらに理由があったようで、レース後に彼が明かしたところでは、途中から右腕に腕上がりの症状が出たのだとか。
「序盤からバイクをうまくコントロールできたけれども、残り9周で右腕が厳しくなってバイクを扱えなくなった。走るのを諦めてピットに戻るか、左手だけでなんとか凌ぐかどちらかしかなかったが、感覚がなくて厳しかったけど、がんばって諦めずに走り続けた。最終コーナー手前の切り返しで少し反応が遅れ、バンプに乗ってフロントが切れてしまった」
 チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾも良い追い上げを見せたが、6位フィニッシュ。4列目スタートだったことがレース展開を厳しくした、と振り返った。
「前方との差を詰めるために、少し攻めすぎてしまった。それで体力を使ってしまい、以後は余力が無く、なかなかスムースに乗れなかった。バイクはスピードを発揮できていたし、2位も見えていただけに残念。レースリザルトはハッピーじゃないけど、4列目スタートでも2位争いと7秒差で終えることができたのは、ポジティブな材料だと思う」
 次戦はホームGPのミザノ。2週間前にプライベートテストも実施したばかりである。期待と展望を訊ねてみた。
「もちろん期待してるし、今回よりも良い結果にしたい。テストは良い手応えで自信もあるけど、テストとレースは別だから。週末に、現実がはっきりわかると思うよ」
 との回答はやはり、いつもの沈着冷静なドヴィツィオーゾである。好結果を獲得してほしいものだが、さて、どうなるでしょうか。


#93

#46
腕上がりは2013年以来なのだとか。 次のミザノこそ捲土重来。

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 一方、Moto2クラスでは中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)が3位表彰台を獲得した。カタルーニャの3位、アッセンの優勝に続く、今季3回目の表彰台である。
 ウェットセッションになった土曜の予選では11番グリッドと低い位置に沈んでしまったが、それはあくまで想定内だったと話す。
「決勝はドライになることがほぼ確実なので、このセッションではグリッド獲得にあまりこだわりすぎず、むしろ苦手の雨を克服することに徹してノーピットで45分間周回しました。明日はドライなら、追い上げてトップ争いをする自信があります」
 じっさいに、日曜のレースは周回ごとに着々とポジションを上げていった。終盤は、フランコ・モルビデッリ(エストレージャ・ガリシア 0,0 MarcVDS)との一騎打ちに。
「お互いにアドバンテージのある場所があって、バックストレートエンドのブレーキングで抜かれた後に、最後のS字でもう一度抜きかえそうと思ったらうまくラインをふさがれてしまいました。ちょっと悔しい部分もあるけど、気持ちを高めて挑んだサマーブレイク後の2連戦で苦戦していただけに、また這い上がって3位を獲得出来たのでうれしい。短い時間でチームが一所懸命にバイクを仕上げてくれて、それがなければ表彰台を獲れなかったので、彼らの努力に応えられたことがうれしいです。
 次戦のミザノは自分にとって特別なサーキットなので、絶対に勝ちたいですね」
 というわけで、次回のサンマリノGPは今週末の開催。では、レース後にまたお会いいたしましょう。
 


#30

#30
ドライでは初日から速かった。 ランキング3位も射程圏内に。

#25

#76
レースは厳しい結果で25位。 前方選手の失格で繰り上がって19位。

ニッキー

#76
今回はこんな人も来ていましたよ。 地震犠牲者を追悼し一分間の黙祷。

 



■2016年 第12戦 イギリスGP シルバーストーンサーキット

9月4日 

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


2 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


3 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


4 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


5 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


6 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


7 #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


8 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


9 #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


10 #19 Alvaro BAUTISTA Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


11 #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


12 #50 Eugene LAVERTY Pull & Bear Aspar Team DUCATI


13 #22 Alex LOWES Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


14 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


15 #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


16 #43 Jack MILLER Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


17 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


Not Classified #29 Andrea Iannone Ducati Team DUCATI


Not Classified #6 Stefan Bradl Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


Not Starting #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


Not Starting #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

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