幻立喰・ソ

第74回「あじさいの晩秋」

 
「いつまでも子供みたいなことをやっている幼稚な人」または、キ○ガイ扱の鉄道趣味でしたが、お子様連れで電車を見に来る超ソフトなママ鉄から、新聞沙汰を起こすような超ハードなアナーキー鉄まで、鉄道趣味=鉄というキーワードで認知されるようになりました。ちょっと前なら(といっても30年以上前)、電車の一番前に立っているだけで、しかもカメラなんかぶらさげていたら冷たい視線がざくざくと背中に刺さったものです(あの頃の運転士はカーテンを降ろしていましたから、なんとか隙間から覗こうと怪しい動きをしていたことも事実ですけど)。
 そんな鉄には、乗り鉄、撮り鉄、模型鉄など宗派がいろいろあります。最近赤丸急上昇なのが葬式鉄でしょう。廃止される路線や列車の最終日に集まって「ありがと〜」「さようなら〜」とお見送りをする宗派です。トワイライトエキスプレス、北斗星、カシオペア、はまなすと夜行列車が立て続けに廃止され、テレビや新聞などで大々的に報道されたので、横断幕を掲げて張り裂けんばかりに叫ぶ勇姿? をテレビでご覧になったことがあるのではないでしょうか。
 ところで、私はかねてより葬式鉄に強い違和感を持っています。おっと、誤解しないでください。葬式鉄の崇拝、戒律、作法についてではありません。鉄道教の崇拝対象は八百万ですから、他宗派についてあれこれ言うとたいへんなことになります。宗教対立が悲惨な結果に繋がることは、古今東西、歴史が十分すぎるほど証明しています。違和感は葬式鉄という言葉です。13号御料車や名古屋市電の霊柩電車、ちょっと気が早いですがスへ30も含めて(ここ笑いどころです)研究する宗派ならば葬式鉄で納得しますが、現行の葬式鉄が参集するのは営業最終日、葬式ではなくご臨終日前日です。ご臨終前に葬式はしません。墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年5月31日法律第48号)の第3条にも「埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠七箇月に満たない死産のときは、この限りでない。」と定められています(厳密に言えば火葬や埋葬はしちゃいけないけれど、お葬式をしてはいけないとは書いてありませんが)。
 なにが言いたいのかと申しますと、葬式鉄ではなく、お別れ鉄とか看取り鉄のほうがしっくりくると思います。だって廃止翌日に献花、ご焼香、合掌をする本物の葬式鉄のみなさん(こんな奇特な宗派もいらっしゃるはず)にしたら、「せめて生前葬式鉄と言ってもらわないと」と困惑しきりですよ。きっと……

 ならば、食べ鉄や呑み鉄は、線路を食べたり、車輌を飲み込む人たちなのか? ママ鉄ってのはママの格好をしているアブナイおっさんか? という話になっても困るので、この話はここまで。といいますか、秋の夜長この問題について、みなさまも一度じっくりとお考えになってみてはいかがでしょうか?(←結論丸投げのありがちなシメの言葉であいまいにシメ)。

 昨今立喰・ソの閉店もちょっとしたニュースになったりします。テレビで取り上げられるものもありますから、最後日が近づくにつれ訪れる人も増えます。常連さんは「名残の一杯を」とか、最終日といえどルーティーンの一杯であり、食べ終わって「長い間おつかれさんでした、ごちそうさん」と小声で一言かけて去って行く人はいますが、裏返った大声で「ありがと〜」「さようなら〜」叫ぶ人はあまりいないでしょう。感極まって叫んでしまう方はいるかもしれませんが。

 最終日であっても普段と変わらず店を開け、いつものように静かに営業し、そしてまた明日も開くんじゃないかというように淡々と終わる立喰・ソもあると思います。あまりにあって当たり前、だから閉店のおしらせが貼られていても気がつかない、最終日すら気がつかない。翌日のれんが出ていなくて、初めて貼り紙に気がつく。そんな立喰・ソがあじさい茶屋です(個人的な感想です)。
 あじさい茶屋といえば首都圏でお馴染み、JRの駅でよく見るオレンジ色の看板の駅ソです。国鉄がJRになり、食堂車や構内食堂を営業していた日本食堂がJR東日本系列のNRE(日本レストランエンタープライズ)になると、地元系駅ソがどんどんあじさい茶屋に生まれ変わり、最盛期には50店くらいはあったんじゃないかと思います(思うだけで、正確な数は不明)。

 どこでも同じ値段で同じ味(のはず)のソが食べられるようになりました。しかし、立喰・ソは個性も味の内で、地元密着が特徴のひとつですから、均一化に不満の声が日々大きくなっていきました。このまま放置すれば第二の上尾事件になるのではと心配したかどうかまでは、定かではありませんが、高くてまずい立喰・ソの代名詞的のようにも言われたり、地元業者を駆逐する大企業による地元いじめの権化とも言われてしまったのです。地元密着系から比べればやや割高な面もありますが、味やサービスは毎日食べても飽きない普通以上のレベルだと思います(個人的な感想で……す)。さらに、実は高齢化などにより撤退した地元業者を引き継いだあじさい茶屋も少なくはないようです。均一化すればコストが下がり、地元店が撤退してもカバーできる。よかれと思ってやったのに、まるで泣いた赤鬼です……残念なことに、均一化によって面白点と言いますか、わくわく点といいますか、私にとってかなりのウエイトを占める雰囲気点は0点でした(あくまで個人的な感想で……す)。そう思ったのは私だけだったのかどうか定かではありませんが、一部店舗は地名や関連がありそうな名前に看板を付け替えたりしました。名前を変えても実質はあじさい茶屋なんですが、少なくとも雰囲気点は5点くらいはアップしたように思います。



2002年4月 あじさい 津田沼


2002年9月1 あじさい 佐倉


2002年11月 あじさい 津田沼


2004年6月 あじさい 川崎


2010年1月 あじさい 平井


2011年1月 あじさい 船橋


2011年7月 あじさい 上野


2011年10月 あじさい 市川


2011年11月 あじさい 渋谷
あちこちで見られたあじさい茶屋。これらのお店はすでに他ブランドになったり閉店したりして、すべて幻になってしまいました。


本八幡


亀戸
ご利益がなかったのか、あじさい茶屋から看板を変えた亀戸と本八幡にあった「ご利益そば」はすでにブランド消滅。「お馴染み田舎そば」もお馴染みどころか信濃町がラスト1。少数派は消えるのも早そうです。

 波瀾万丈なあじさい茶屋とその仲間たちは、最近は急激に数を減らしています。2016年9月現在数えてみたら、なんとあじさい茶屋は、11駅に13店のみ、ずいぶん減ってしまいました。改名系も代表格の大江戸そば14店、濱そば8店、清流そば6店、菜の花そば4店など、まだそこそこあるようですが、明らかに減少傾向で、「ご利益そば」のようにすでに消滅したブランドもあります。
 そんなあじさい茶屋と仲間達を駆逐して天下を取りつつあるのが、ちょっとアップグレードして、女性でも入りやすそうな「いろり庵きらく」です。現在49店と増殖中で、まだまだ増加しそうな勢いです。今流行の豊臣VS徳川の構図を見るようですが、この闘い(ではないけれど)に六文そばはまったく関係ありません。閑話休題。「せっかくいろいろと改名したのを均一化しちゃうと、あじさい茶屋みたいになるんじゃないの?」と考えたりします。でもそんな声も聞かれませんし、あの頃とは時代が違います。立喰・ソ業界が、おっさん相手では立ちゆかなくなるご時世なのです。
 天下のNREが同じ失敗を繰り返す訳はありません(たぶん)。こうなってくると雰囲気点0だ! などとこき下ろしていたあじさい茶屋に雰囲気があるように思えてくるから不思議なものです。ああもう、人間って勝手ですねえ、鉄オヤジは特に懐古主義が強く、古い=エライ! 少数になるとさらにエライ! と思う傾向が強いのです(言い訳)。新幹線0系だって現役でばんばん走っている頃は、ほとんどの人が見向きもしませんでした。
 立喰・ソ帖を紐解き驚いたのは、あじさい茶屋にはほとんど行っていないこと。残った13店でも未食は9店もあります。が、たぶん未食で終わるでしょう。あじさいの季節はまだずいぶんと先ですから(うまくまとまらないので、意味不明なシメで強制終了)。 



2011年10月 鹿角花輪のあじさい


2011年10月 鹿角花輪のあじさい
チェーン店といえど店舗によって微妙な味の違いはあるようです。が、本来バカ舌のわたしにはよくわかりません。そんなあじさい茶屋ですが、まさかこんな所に!? と驚いたのが盛岡県の好摩と秋田県の大館を結ぶ花輪線の鹿角花輪のあじさい。囲炉裏端風のテーブルで食べるソは格別でした。現在もたぶん盛業中ですがNREから地方系列へと移管されたようです。

●立喰・ソNEWS 2016
立喰・ソ神のバチ直撃

夏休みを3日もいただけました。今年は8月末にも大休パスが発売されましたので、普段は簡単に行けない平日昼間しか営業していない難関店を中心に攻略作戦を敢行いたしました。平日朝の7時台の東北新幹線は、これから出張に向かう企業戦士と、大休パスであろうおじちゃん、おばちゃんでほぼ満席。なんとか確保したのは3列のど真ん中B席。もちろん両脇がきれいなおねーさんだったことは一度もなく、ノートPCを開いて一心不乱に仕事に打ち込む企業戦士か、死んでるんじゃないかと心配になる疲れ切って眠るおっちゃん。こちらは休みですから遠慮無用、朝から缶ビールをぷしゅ〜(ウソです。見栄を張ってしまいました。第三のビールです)。白い目で見られながらの朝酒はたまりません。大宮を発車するころにはすでに3本目。320km/h区間ではすでにワンカップに突入。しかし、午前中からこういうことをやっていると、ちゃんとバチが当たります。スタートはいい気分だったのに、結局10店回って、食べられたのは4店。1店はすでに幻立喰・ソ、1店は臨時休業の貼り紙、残る4店はなぜかシャッターが降りていたり、のれんがでていなかったりという、何らかの理由で営業しておりませんでした…。ひょっとしてすでに幻立喰・ソになってしまったのでしょうか? それを確かめられる日は再び来るのでしょうか。これが私の夏休みでした。



下諏訪


八戸


八戸


秋田


水戸


牛久

青森県2店、秋田県2店、山形県2店、長野県2店、茨城県2店を回って、幻立喰・ソ1、臨時休業1、シャッターがらがら3、のれん出てない1の計6タコを食らいました。ショックでかいです。


バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在800店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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