順逆無一文

第72回『電動アシスト自転車』

 先日、ヤマハの電動アシスト自転車PASのニューモデルに試乗させてもらった。電動アシスト自転車PASのニューモデルが出るたびに開かれる試乗会に参加させてもらってきたが、ここ数年、毎年のようにニューモデルが出てくるというのは、現在の電動アシスト自転車の勢いを端的に表している。それも色が変わりましたとか、バリエーションを増やしましたとかのレベルじゃなく、毎回確実にメカニズムそのものが進化しているのだから驚く。
 しかもヤマハでは今年の9月頭にPASの「YPJ」シリーズという男性ユーザーをターゲットとした“ロードタイプ”“クロスバイクタイプ”の電動アシスト自転車の発表試乗会を行ったばかり。矢継ぎ早の新製品投入は、かつての“原付バイクブーム”を思い起こさせる。
 
 今回試乗したのはいわゆる電動アシスト“ママチャリ”。「Babby un」と「Kiss mini un」という子供も乗せるための様々なアイデアが詰まった新製品。従来製品に対する「重い」「取り回しにくい」などといったユーザーの声を反映させて、フレームからの軽量化や、更なる使い勝手の向上を図ったモデルだ。
 前後にチャイルドシートを取り付ければ4歳未満の子供2人とお母さんの3人もが乗れて、しかも軽々と走れてしまうのが電動アシスト自転車。
 かつて、空前のブームを謳歌した原付バイクの販売が絶不調に陥った理由は様々に言われているが、その大きな原因の一つが電動アシスト自転車への需要の移行があるのは確かだろう。電動アシスト自転車はあくまで自転車。今や公共施設はもちろん少規模な店舗でも必ずと言っていいほど駐輪場が整備されてきているので、停める場所で頭を悩ますことは無い。
 
 裏を返して言えば、現在の原付バイクは、一人しか乗れず、停める場所探しで苦労し、ヘルメットも被らなければいけない。
 そんな中で、原付バイクが狙えるターゲットとして残っているのは、電動アシスト自転車ではちょっとバッテリー切れが心配な距離を走る通学生や、駅までのコミューターとして利用する、毎日の行動パターンがほぼ決まっている通勤者、公共交通機関が止まってしまう深夜でも活動する若者くらいか。
 しかもそれらのユーザーも、一度でも30km/hという原付一種バイクの速度制限違反や二段階右折などの取り締まりにあった経験を経れば、さっさと原付二種バイクへと移行してきたのはご存知の通り。125以下限定の免許を取る手間など、恣意的な取り締まりを受けることを考えれば大した障害にはならなかったはず。彼ら、彼女らにとって原付はいまだに生活必需品なのだから原付二種がこれほどの隆盛を極めているのは当然だろう。
 
 このように身内といえるバイク乗りからも敬遠されてしまっている原付一種バイク、このまま巷でいわれるように“絶滅危惧種”として終わってしまうのだろうか。
 ヤマハのPASの試乗会に登場した“コクーンルーム”という子供専用のカプセルシートは、ちょっと形状を変えれば専用の“トランク”になるだろうし、リアキャリアにはパニアケースだって装備できる。となると原付バイクの優位性は唯一自分の足でこぐ必要がない、ってことぐらいしか残らない。いやそれだって現在の健康志向の時代には、逆に意識せずに有酸素運動を実践できるというメリットだし、電動アシスト自転車は充電の手間や費用がかかるから、といわれても、燃料代に比べれば電気代など微々たるもの。税金もかからないしトータルの維持費を考えればまったく比較にならない。
 いやはや書けば書くほど原付バイクの不利さが目立ってきてしまう。いっそのこと通勤通学などで、どうしても原付バイクが必要な特定のユーザー向けにはもちろんきちんと残していただくとして、ヤマハ以外のメーカーさんも電動アシスト自転車をさらに発展させた様々なスタイルのモデルや、特定の機能、個性を持たせたモデルを発売することで底辺コミューター分野のバトンタッチを図ってはどうだろう。
 
 自転車協会の統計によれば、2008年に電動アシスト自転車の出荷台数は31万5千633台を記録。同年の原付一種バイクの出荷台数は29万5千908台だがら実際の数字の上でもすでに逆転してしまっている。ちなみにこの2008年という年は電動アシスト自転車にとって一つのターニングポイントの年で、この年の12月、それまで電動アシスト自転車は、モーターが補助する力の比率(アシスト比率)が最大で1:1と制限されていたのだが、道交法改正により時速10km/h未満の低速時にはアシスト比率を1:2まで引き上げることが可能になり、電動アシストの利便性が一気に高まった年でもあったという。
 ただ電動アシスト自転車としても、現在も右肩上がりで増加の一方かといえばそうでもなく、すでにここ数年で台数的には頭打ち傾向となってきており、より使い勝手に優れた製品への代替えシフトが始まっているという。今回のヤマハのニューモデルはそうした動きの中でのモデルチェンジだったわけだ。
 原付一種の販売不振や原付二種の隆盛というのは、まさにそんな背景も影響しているわけで、底辺コミューターの今後は、免許取得や利用環境の整備など、原付二種バイクを中心に据えた取り組みに主力を移すべきだと思うのだが。
 
                 ※
 
 それでは今月も“こまったちゃん達”のニュースから。
 
 なんでその立場の人がそんなことするかな~、と一般人からしたらとても信じられない不祥事。それは、10月18日のこと、飲酒運転を防止する側の人間といえる“交通指導担当”の警察官が飲酒運転で逮捕されたというのです。山口県警の若い巡査が車で出勤途中に乗用車に追突し、さらにその場から逃げてしまいました。当て逃げされたドライバーが追跡し10㎞ほど先で当て逃げ車はやっと停車。通報で駆け付けた警察官の調べで酒気帯び状態での運転が判明しました。立場上これだけはやってはいけないよな、という意識は持たないのでしょうか。
 
 こういったニュースを見て感じるのは、果たしてその後この巡査がどうなるかまで伝えるニュースがほとんどないということですね。起こった事実を伝えるのがニュース、それから先はまた別の問題、というのはもちろんわかるのですが、事件を報じるのと同時に、一般的な飲酒、当て逃げの罰則はどれぐらいか、そしてこういった事案では警察官の職も失うことになるのか、などというような事件による“因果応報”まで報道すれば少しは抑止力になるのでは。ただ単に事件を伝えるだけでは「馬鹿だな~」で終わってしまって、その後どれだけ大変な目にあうかを考えさせず、結果同じような事件が繰り返されてしまうと思うのですが。
 
 次は“警察官も人の子だな~”のニュース。でもただの人の子だったらある種特別な“仕事”を行う警察官になって欲しくはないのですが。
 長野県警の警察官が同僚の交通違反を見逃したとして犯人隠避などの疑いで書類送検されたというニュース。しかも警部補3人ですって。事件そのものは2014年とだいぶ前のことですが、今年の10月20日付けで書類送検され、2人が停職6か月の懲戒処分、1人が本部長注意の処分となりました。速度違反の取り締まり中に“網にかかった”違反車が警察関係者の車両だったため見逃したというもの。一応は業務中の捜査車両だったというのですが…。法定速度を超えて走るなら緊急走行の要件を満たすように。警察の決まり文句「違反は違反ですから」を身内にも徹底してください。
 
 10月26日のこと、休日だった兵庫県警の巡査部長が赤信号を無視。パトカーに停車指示を受けたが逃走。その後、車内で缶酎ハイを飲んで出頭しようとしたところを別の警察官に見つかり、信号無視と飲酒運転の容疑で逮捕されました。「酒の力を借りて出頭しようと思った」と釈明したというのですが、常識的に考えたらそんなことしませんよね。最初から飲酒運転がばれるのを恐れて逃走したと思われても仕方がないです。警察官ってその程度の倫理観なのですか。
 
 これまた山口県警の警察官、こちらは女性巡査でした。10月29日に山口県警の交通課の巡査が車で通勤中に追突事故。ここまでは“警察官も人の子”のままある事故ですが、この巡査も逃走しました。その後の経緯が報道では不明なのですが、10㎞ほど走った後、酒気帯び運転容疑で逮捕されたそうです。しかしその後、なぜか処分保留となったと伝えられているのですが……、なんだかまだまだ裏がありそうなニュースでした。
 
 このほか宮城県警の巡査長が交通安全協会の現金を盗んだニュースとか、兵庫県警の警部補らが脱輪事故を起こした男性の様態が急変したのに救急車を呼ばず死亡させてしまったとか、愛知県警の警部補らがひき逃げ事件の逮捕状を無断で訂正していた事件なども入ってきてますが、長くなってしまったのでここら辺で終わりにします。
 
 法定速度を守ることはあたりまえですが、だからといって交通の流れを無視するような自分勝手なノロノロ運転や、周りの交通状況に合わせられないスマホ運転は、他人をイライラさせ危険ですよね。今月も無事故無違反で乗り切りましょう!
 
(小宮山幸雄)
 


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


[第71回|第72回|第73回]
[順逆無一文バックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]