スーパースポーツって、いやほんと、本当に速いですね! CBR900RR辺りは、今乗るともはやそんなには速く感じなくなりましたが、例えばGSX-R1000の初期型とかは今乗っても本当に速い。公道で走らせるときはちょっとアクセル開けて、とんでもない加速にうわー! ってなり、すぐギアを上げていっちゃいますから、結局本当のパワーバンドはほぼ使わずに、それでもビックリするほど速くてニヤニヤ、もしくはドギマギしちゃいます。
初期型GSX-R1000が出たのが2001年ですから、それ以降16年分のスーパースポーツはどれもみんなとてつもなく速い、ということになります。もちろん、CBR900RRも十分に速いのですが、21世紀のスーパースポーツと比べてしまうと、優しさがあるというか許容してくれるというか。GSX-R1000以降はもう、「容赦のない速さ」という感じで、ちょっとそこには線引きがあるように感じられます。
そんなスーパースポーツ達も今や200馬力にとどく車種も出てきて、電子制御なしでは走らせるのが難しいほどにまで先鋭化しました。電子制御は速く走らせるための装備ですが、しかし最近では公道で安全に走るための装備にもなってきましたね。あまりにパワーがあって、そして低温時は気を付けたいハイグリップ志向のタイヤを純正装着しているから、ちょっと不用意にアクセルが開いちゃったときに途端に横向かないようにトラコンがあるわけです。ウイリーコントロールもABSも同様に、公道で予定外にパワーを解放してしまった時の安全策として有効だと思います。
電子制御をごく最近まで入れてこなかったホンダCBRは、絶妙にセットアップができていれば電子制御は必要ない、というスタンスで、それには共感していました。いくらパワーがあろうが、それをじんわり路面に伝えることが出来やすいエンジン及び車体の設定になっていれば怖いことも少ないでしょう。CBR900RRだって120馬力以上ですが、そういった扱いやすさはホンダらしいと思います。だから速くないんじゃなくて、速く感じないだけなのかもしれません。
そんなスーパースポーツ群ですが、公道で走らせるのとサーキットで走らせるのはまた別の話です。公道ではアクセルをキッチリ開け切った状態でレッドゾーンまで引っ張るという状況は皆無なのに対して、サーキットではそれが日常茶飯事。こうなると速いだけじゃなくて怖いがプラスされ、しかもうまく走らせるのが難しい……
最近久しぶりに筑波サーキットでスーパースポーツに乗りました。そしたら全然うまく乗れずに驚きました。プロのテスターの人たちが、600ccぐらいまでなら400ccの延長といった感じで乗れるけれど、1000ccは別物、などと書いている記事を思い出します。とにかくギアがロングですから、1速でとんでもない速度が出ます。2速、3速と使えばもう十分。こんどはコーナーに差し掛かるわけですが、車体が硬いしスピードが出ていますし、しっかりと減速したいわけです。さらにその過程で特にリアの接地感を豊富に得たいから、バァン、バァ~ンと1速まで落としちゃいます。エンブレがかかっていると安心ですからね。
ところがそうするとリアが暴れてみたり、スリッパ―クラッチが介入してリアの感じがむしろわからなくなったり、そしてそもそも減速し過ぎちゃってコーナーの前でまたアクセルを開け直す、みたいな本末転倒なことが起きたりしていました。これは困った、全然乗れないじゃないか!
四苦八苦の末、午前中はもうあきらめました。どうしたって上手く乗れません。どうも雰囲気がつかめないのです。きっと何かコツがあるのでしょうけれど、それがわからない……。なかなかGet the Hangをできません。
Get the Hang
直訳すると「ぶら下がりを手に入れる」というよくわからない意味ですが、使われ方としては「コツをつかむ」というものです。コツをつかんだ、と言うときは「I’ve got the hang of it」などと言い、そのうちコツが掴めてくるよ、などと言うときは「You’ll get the hang」と言います。知識ではなく、手作業に関わる言い回しですね。勉強すればわかることではなく、経験を積んでコツをつかむ、といった事柄について使われます。
語源は諸説ありますが、ここで取り上げたいのはサイドカーにまつわるものです。
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日本ではなかなか乗る機会の少ないサイドカーだが、欧州では多くの人が楽しんでいる乗り物だ。しかしサイドカーの運転は独特なものでかなりの慣れが必要となる。勘所の良い人ならば基本的な操作を習得するのにそれほど時間は要さないが、コツをなかなかつかむことができない人も少なくなく、楽しさを見出す前に敬遠されてしまうことも多い。
特殊な乗り物であるこのサイドカーは、欧州ではレースも盛んである。ロードレース、モトクロス、トライアル、グラストラック、そしてマン島のような公道レースも含めて、こんなレースもサイドカーで行われているのか、と驚くような様々なカテゴリーが存在し、競技人口も確保されている。ドライバー及びパッセンジャーという別々の役割があり、それぞれがサイドカーを走らせるために重要な役割を担っているのだが、そんなこともあり二人の絆が強いのも特徴。一人で乗るバイクでは結果を残せば自分一人の誇りだが、サイドカーでは連帯感が強いのだろう。4輪でもナビゲーターがいたり、2輪でもメカニックがいたりとモータースポーツは決して一人でできるものではないが、特にサイドカーでは二人で1台を走らせている、といったようなプライドを持っているのだ。そんな人たちだからか、2輪ライダーとも4輪ドライバーとも違う「何か」があり、変わり者と呼ばれることも少なくない。
サイドカーにおいてはパッセンジャーの仕事も決して軽視できない。パッセンジャーの体重移動による運動性能の違いはとても大きいからだ。ドライバーは2輪のように体で大きなアクションはできないため、3輪という不安定な乗り物を速く走らせるためにはパッセンジャーの勘所がとても大切なのである。カーの浮き上がりはもちろんのこと、リアタイヤのスライドも感知してトラクションを掛けたり抜いたりということが求められる。これは「勘」がものを言う世界で、コツをつかむのは難しい。ゆえにサイドカー乗りは2輪とも4輪とも違う特殊なことをしているという自負があるのだろう。
そんなサイドカー乗りの間でよく使われたのが「Get the Hang」というスラングだったらしい。Hangとはぶら下がるという意味。サイドカーを速く走らせるにはパッセンジャーが地面すれすれにぶら下がる場面が多く、その恐怖心に打ち勝ち、かつ効果的な体重移動を習得するにはコツをつかまなければいけない、というわけである。新人パッセンジャーに「You’ll soon get the Hang」などと声をかけてあげる、ヒゲを蓄えた百戦錬磨のドライバーの姿が思い浮かぶではないか。