順逆無一文

第73回『それでもプロですか?』

 国土交通省がバス事業者の団体である“公益社団法人日本バス協会”宛てに「乗務中の携帯電話・スマートフォンの使用禁止の徹底について」という通達を出した。
 ご存知の通り、バスの運転手がスマホのゲームアプリを見ながら運転していたことが露見し、ひとつ間違えれば重大な事故を起こしかねない状態にあったことなどが背景に出された通達だが、国土交通省がこんな通達をわざわざ出さなければならないほど、わが国の“プロ”の方々の意識が地に落ちてしまってきているということだろうか。

別紙 国自安第145号
平成28年11月7日
公益社団法人日本バス協会会長殿
                       国土交通省自動車局安全政策課長
 
乗務中の携帯電話・スマートフォンの使用禁止の徹底について
 
 事業用自動車の安全確保の徹底については、機会あるごとに注意喚起しているところであるが、今般、大阪府門真市において、貸切バスの運転者が運転中にスマートフォンを用いてゲームアプリを操作するという事案が発生した。
 本件については幸い事故に至らなかったものの、先月26日には愛知県一宮市において運転者がスマートフォンでゲームアプリを操作しながら走行していた自家用トラックに小学生がはねられ死亡するという事故が発生している。いうまでもなく、運転中にスマートフォン等の画像を注視する行為や携帯電話を用いて通話する行為は、道路交通法で禁止されている極めて危険な行為であり、本年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を受け、貸切バスの信頼を回復するための様々な取り組みを行っている最中に、事業用自動車の運転者が、このような安全を軽視する行為を行ったことは極めて遺憾であると言わざるを得ない。
 
 ついては、貴会会員に対し、乗務中の携帯電話による通話やスマートフォンの操作の禁止について改めて徹底するとともに、貴会においても、同種事案の再発防止のための有効な対策を速やかに検討し報告するよう要請する。

 バスの運転手といえば、多数の人命を預かる責任重大な仕事。そのプロとしての自覚が無い運転手がいること自体驚きだが、それも特別な一人や二人でないことは、多くの目撃談や事故寸前の報告が上がってきているということでも裏付けられている。
 さすがに不幸にも死傷にいたってしまった事故は、まだ一般ドライバーが起こしているだけだが、それにしても例のゲームに踊らされている人の多さが不気味だ。それも大人、親父と言われる世代が多いというのだから…。

■道路交通法
 
第4章 運転者及び使用者の義務
(運転者の遵守事項)
 第71条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
 
 5の5 自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第120条第1項第11号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第120条第1項第11号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第41条第16号若しくは第17号又は第44条第11号に規定する装置であるものを除く。)に表示された画像を注視しないこと。
 
第8章 罰則
 第120条 次の各号のいずれかに該当する者は、5万円以下の罰金に処する。
 
 11 第71条(運転者の遵守事項)第5号の5の規定に違反して無線通話装置を通話のために使用し、又は自動車若しくは原動機付自転車に持ち込まれた画像表示用装置を手で保持してこれに表示された画像を注視した者(第119条第1項第9号の3に該当する者を除く。)

 道交法では、運転中に、手に持たなければ送受信できない携帯電話などを、通話のために使用したり、液晶画面を注視したりしてはいけないとされている。違反すると5万円以下の罰金だ。
 
 実際には、反則事項とされ、単純使用では1点の反則点数と、二輪では6千円、原付で5千円、普通車では6千円の反則金、さらに「交通の危険を生じさせた場合」は反則点数が2点、反則金は二輪が7千円、原付が6千円、普通車が9千円となっている。
 
 また、画像表示用装置というのは、携帯やスマホだけではなく、カーナビや携帯ゲームのディスプレイも含まれるという解釈だから注意が必要だ。多くの方が当たり前のように運転中も見ている車載テレビも、本来、走行中は画面が映らないのが正しい設定だが、当たり前のように走行中でも見られるように“改造”してもらっているドライバーの方が圧倒的に多いのでは。TVなのだから当然のこと“注視”するわけで、携帯やスマホの取り締まりなどと同様に積極的に取り締まるべきだと思うが。「音声を聞いていただけ」などと言い逃れする運転者が多いのだろう。
 
 走行中は表示されない本来の設定を順守している善良な運転者だけに不利益を被らせた状態を放置してしまっていることを当局者は自覚してほしい。いやその当局者の中にも自分の車ではTVを見られる設定にしてもらっている方もいるだろう。それほど骨抜きになっている“キマリ”だ。
 
 話が逸れてしまったが、交通の流れに乗れずにもたもた走っていたり、必要以上に車間を開けたり、はたまた急に加速したりという車両の運転席を見ると、ほとんどがスマホをいじっている。周りのドライバーやライダーをイライラさせることで危険を振りまいているということを自覚させるためにもガンガン取り締まってほしい。一時は目の敵のように取り締まっていたのだが。のど元過ぎればなんとやら、か。
 
 クルマやバイクにもどんどんとIT技術の賜物といえる便利な装置が普及してきたが、常識を知らないごく一部の運転者のためにくだらない規制が続々とできてしまうのはこの国の習い。一部の暴音族のためにできてしまった“二輪車通行規制”などがいまだにゾンビのように残っている。とはいえ、法律で決まっている以上はそれに基づいてきっちりと取り締まるのが警察の役目。コソコソと一時停止違反や安易な点数稼ぎの取り締まりだけに励まずに、どんな些細なことでもお得意のフレーズ「違反は違反ですから」で取り締まっていただきたい。
 プロ意識を取り戻しましょう、日本の全ての“プロ”の方々!
 
(小宮山幸雄)
 


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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