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「64万9千950円です」

 試乗会の技術説明会でそう耳に入った時、会場から小さく唸るような感嘆の声があがった。そこにいたのはほとんどが二輪専門誌の人だから、事前にこの価格を知っていた人が多かったはずなのに、思わず出てしまったのだろう。250スクーター、FORZAより安いんだもの。

 試乗前に実車を細かく見てまわったけれど、素材感がミックスされた凝ったデザインの外装。各部のチリ(※注 建設土木用語で、面と面が合っていること)。メーター周り。ハンドル周り。とても、その価格とは思えない仕上げと存在感。見たところに安かろう云々はまったくない。

 価値観は人それぞれだが少なくとも私は乗る前から驚いていた。かなり意地悪くアラを探していて、いつの間にか「すごいな……」と呟いている。これが2倍の130万円だったら少し不満に思うところも出てくるかな、というもの。

こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/dcnpD24g1ec」で直接ご覧ください。 こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/-TK76YM5W1Y」で直接ご覧ください。

 シートに腰を降ろすと、通常なら燃料タンクだけど、このモデルは21Lのラゲッジスペースになっている部分がセクシーなカーブできゅっとくびれていて、シートの形状と相まって股の挟み込みは細い。上から見て外装からエンジンがはみ出して見えないスリム体型は2気筒ならでは。身長170cmでは両足の指の付け根までは届いた。堂々とした車体ながら跨ったまま足を着き左右に振った感じは重くない。

 エンジンを始動させると、静かながら不快にならない程度の排気音の歯切れ良さと鼓動がある。アメリカンクルーザー並のボア・ストローク比をしたロングストロークエンジンは常用域の力強いトルク感と、スロットル操作に対するリニア感にとことんこだわっただけあって、発進から開ければ開けただけ車体を前に押し出した。説明されたようにスロットル開け閉めに対しダイレクトについてくる。

おなじみプロジェクトリーダーの青木柾憲さんを中心に開発陣の記念撮影。今回の試乗会で説明を担当したのは、ニューミッドシリーズ完成車テストまとめ役、副LPLの宮﨑英敏さん(写真右から5人目)。

 以前、ホンダ青山本社でこのエンジンの発表会があった時に、あまり回らない、最高出力もほどほどなスペックを聞いた時、正直「初心者ならいざ知らず、バイク好きの誰がそんなエンジンのバイクを欲しがるんだろう?」とかなり疑問に思ったことを告白する。

 走り始めた瞬間にニヤリとしながら、「そう思ってゴメンナサイ」と言いたくなった。ダダッと開けたら開けただけ機敏に進む。ほど良くパワフルでスロットルを絞るのが気持ち良く楽しい。これを“ツマラナイ”や“遅い”なんて表現は出来ない。

 6千500回転がレブリミットでカットされるので、回して乗るクセのついた人はすぐにそこまでいき不満に思うかもしれない。でも、それを理解して積極的にシフトアップする乗り方に変えればいいだけだ。ワイドなギアレシオなこともあって、私個人は試乗中に低いレブリミットを気にせず乗れた。少しタイトなワインディングに連れて行っても、そのことさえ心にとめておけば、楽しい。

 一般的なライダーのエンジン使用領域を計測、解析して決めたという、あまり使っていない上の部分を削り、いつも使うところへのこだわり。そのいらない部分の線引きと、必要な部分の肉付けが絶妙で、2時間の短い試乗だったけれどストレスに感じることはなかった。

 背が高く一見重心が高そうに見える。しかしエンジンのシリンダーは寝そべっていて、フレームは下方向に大きく湾曲しているから、実はとても重心が低い。だから、コーナーでの倒しこみに唐突なところはなく、とても自然だ。切り返しでもオフ車的な「よっこいしょ」はなく動きは軽い。通常のデュアルパーパスよりステップ位置が後方にあるので、踏ん張りが効いて、ちょっとした連続コーナーを走っている時はネイキッドスポーツモデルに乗っている感覚で乗れた。重心の低さはUターンの時にも生きる。極低速で倒していってもグラっとこないので不安が小さい。1車線プラスアルファくらいの広さでクルっと回れた。フロントにシングルディスクを採用したブレーキの性能はとても好ましいもの。迷わずにABSが効くまでがっつりやれる。

試乗者の身長は170cm。シートが気持ち高いかも知れないが、35°という多めのハンドルの切れ角、そして低重心のおかげでまったく不安はない。

 この試乗で感じた自分ならここをこうしたい部分は2ヶ所。前後サスペンションは通常では乗り心地も良いのだけれど、ちょっとペースを上げてコーナーでギャップなどを越えた時、フロントフォークの動きに少し抑制が欲しい。「ダッ」と軽くいなせずに「ダダッ」となる。それによって怖い思いはしなかったし、通常使うには何の問題もなく、車体価格を考えればよく仕上がっていると思う。ただ自分が所有するならもう少しなんとかすればもっと幸せになりそうだと思った。2つ目はレバーに調節機構が欲しい。私は指が短い……(指だけね)。不謹慎ながら試乗中、「もし手に入れたら~」とカスタマイズメニューまで考えていた。裏を返せばそう思わせる魅力があるということ。

 総じてとても気に入った。鼓動感もあって、デザインもなかなか(写真で観るより実物はもっとイケてた)。所有感、趣味性もある。それでいてこの車両価格。今回試乗したデュアルパーパス風タイプの他に、スクーター風タイプとネイキッドタイプが後から出る予定だとしても、ほとんどが専用部品で構成されているのに、だ。ホンダというオートバイメーカーの底力を強く感じた。

 試乗を終えて、NC700Xから離れ、しばらくしたら試乗会スタッフが
「忘れ物ですよ!」と私のところへやってきた。出かける前にお腹の前のラゲッジスペースへ、いつも持ち歩いている荷物でパンパンになったPatagoniaの7Lバッグを入れていたのをすっかり忘れていた。やっぱり荷物が入るのは便利だね。(濱矢文夫)

通常のマシンであればタンクのある位置にはラゲッジスペースが。一般的なフルフェイスが入る21リットル容量を確保。ちなみに試乗者が被ってたヘルメットは入ったが、帽体の大きなもの、後ろに大きめのディフューザーがあるタイプ、つばのあるオフロード系は入らない場合がある。気になる人は事前に確認するといいだろう。リッド前部にあるキーシリンダーにより右に回せばリッドの解錠、左に回すとリアシート部が解錠する。 リアシート下には、燃料タンクの給油口があり、ヘルメットホルダーも装備されている(写真をクリックすると、シートを開けた状態が見られます)。工具入れに収納されているワイヤーをヘルメットホルダーに引っかけて使用する。
エンジンは、(1)270°位相クランクによる不等間隔爆発で“鼓動感”を演出、ツイストクランク製法という独特の鍛造方法を採用(2)あえて1次カップリング振動を残し“鼓動感”を生かす1軸1次バランサー、(3)2気筒間であえて吸入行程を干渉させるヘッド内分岐吸気ポート、(4)カムプロフィールに変化を付けることで、2気筒それぞれで異なるバルブタイミングを設定、(5)超ロングストロークとイリジウムプラグの採用などにより燃焼の高効率化、(6)PGM-FIや直下型キャタライザー(三元触媒)を採用する排出ガス浄化システム、(7)モリブデンパターンコーティングピストンやアルミロッカーアームなどによる低フリクション化、(8)バランサーシャフト駆動オイルポンプ、カムシャフト駆動ウォーターポンプなどの採用によるコンパクト化、をキーポイントに開発された。
コンパクトなエンジンを支えるフレームは、徹底的なCAE解析を行うことでしなやかさと剛性感を高次元で融合させた丸型鋼管によるダイヤモンドタイプを採用。荷物積載時を含めた操作性やFUNライディングにも充分な剛性を確保しながら、鋼管の持つ靱性を生かしたフレームワークを採用。
フロントサスにはインナーチューブ径φ41mmの正立式、ストロークはロードモデルよりも長めの153.5mmを確保。リアはスペース効率に優れたプロリンク式。減衰力を最適化したHonda Multi-Action System(H.M.A.S.)ダンパーを採用、アクスルトラベルは150mm。75×35mm角断面のスイングアーム長は570mm。
大型モーターサイクルの大径幅広ホイールとしては初という高圧ダイキャスト製法によるアルミホイールは独特のY字型スポークを持つ。ブレーキディスクはフロントとリアを一枚の鋼材からプレス抜きするユニークな製法が採用されている(特許技術)。フロントがφ320mm+2ピストンキャリパー、リアがφ240mm+1ピストンキャリパーの組み合わせ。ABSモデルには前・後輪連動ブレーキシステム“コンバインドABS”を採用。
ヘッドライトは60/55WのH4バルブを1灯配置。マルチリフレクターにより効率的な配光を行っている。アルミ製のメーターステーにより取り付けられているウインドスクリーンはボルト4ヵ所で上下2ポジションに取り付け高さを変更可能だ。写真は上げた位置。 フローティングマウントされたシンプルなメーターは、タコをバーグラフ表示、スピードをデジタル表示する。
ホンダ純正アクセサリー中心のカスタマイズ・コンセプトモデル。VFR1200Fでおなじみとなったフレームレスのサイドケースにフルフェイスが2個楽々入ってしまうトップケース、パニアパネルとイメージを統一したフロントサイドパネルなどを装備。メインスタンドやフロントサイドパネル、フロントLEDフォグランプなどもラインナップされている。 こちらはホンダモーターサイクルジャパンによるカスタマイズ・コンセプトモデル。特徴的なHEPCO&BECKERブランドのXPLORERシリーズのサイドケース、トップケースやMUGENエキゾーストシステムやMORIWAKIマフラーもスタンバイ。http://www.honda.co.jp/bike-customize/
 並列2気筒のシリンダー前傾角を62度と深くすることで車体のレイアウトに自由度が得られる軽量コンパクトな新型700ccエンジンをゼロから開発。それに合わせて、低い位置にメインパイプ配置することが可能となったローフレームの組み合わせにより“ニューミッドコンセプト”が誕生している。

 この共通のプラットフォームを使い回すことで、より多様なニーズに合わせたモデルの展開が可能となったのが“ニューミッド”シリーズだ。

 すでに海外では“スポーツ・コミューター”のINTEGRAがデビューしているので、NC700Xは国内第一弾。東京モーターショーでは一番反響の多かっただけに“オン・オフ”モデルのNC700Xをトップバッターとして指名したのだろう。

 エンジンは、昨年9月に単体で発表されたグローバルエンジンの、水冷4ストローク並列2気筒、ボア×ストローク:73mm×80mmの総排気量670ccで、低中回転域での力強い走りを実現しながら、ピストンに樹脂コーティングを施すとともに、摩擦を低減するローラー式のロッカーアームには二輪車初のアルミ材を採用、燃費向上も図っている。

 排出ガスの浄化効率を高めるため、ヘッド内に分岐吸気ポートを採用、排気側ではキャタライザーをエキゾーストポート直下に配置するなど、従来の縦型シリンダーエンジンとは異なるアプローチにトライしたのもニューミッドコンセプトの特徴だろう。

 ただ想定されていたのとは若干異なり、VFR1200Fで採用されたデュアル・クラッチ・トランスミッションをさらに軽量化、コンパクト化を図ったという“第二世代デュアル・クラッチ・トランスミッション”モデルの設定は、今回は行われていない。

 通常の6速マニュアルミッション仕様のみ(といってもかなり特徴的なギア比配分が行われている)で、市販化へのスケジュールを最優先としたのだろうか。いずれ“デュアル・クラッチ・トランスミッション”仕様も登場するはずだが。

 東京モーターショーで紹介された開発コンセプトは「都会でも、自然の中でも映える躍動感あふれたデザインに、アップライトなポジションによるオフロードでの快適性と行動半径を広げる機動力を両立させた」マシン。ロードモデルでは躊躇してしまうような、ちょっとしたオフもテリトリーとする“道を選ばない”柔軟性と目に新しいスタイリング、と“オン・オフ”の教科書通りの構成だ。
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■NC700X〈NC700X ABS〉主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,210×830×1,285mm、ホイールベース1,540mm、最低地上高:165mm、シート高:830mm、車両重量:214〈218〉kg、燃料タンク容量:14L●水冷4ストローク直列2気筒SOHC4バルブ、排気量:669cc、ボア×ストローク:73.0×80.0mm、圧縮比:10.7:1、燃料供給装置:PGM-FI、点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火、始動方式:セル、潤滑方式:圧送飛沫併用式、最高出力:37kW(50PS)/6,250rpm、最大トルク:61N・m(6.2kgf・m)/4,750rpm●常時噛合式6段リターン、1速:2.812、2速:1.894、3速:1.454、4速:1.200、5速:1.033、6速0.837、一次減速比:1.731、二次減速比:2.687●フレーム形式:ダイヤモンド、サスペンション前:φ41mmテレスコピック、ホイールトラベル153.5mm、後:スイングアーム、プロリンク、ホイールトラベル150mm、キャスター/トレール:27°00′/110mm、ブレーキ:前φ320mシングルディスク、後φ240mmシングルディスク、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後160/60ZR17M/C 69W●価格:649,950円〈699,300円〉


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