MBHCC E-1

Vol.119 第8戦 オランダGP Heading For A Storm

 決勝レースが日曜開催になって2回目のオランダGPである。1949年のロードレース世界選手権開催初年度から今も連綿と行われている唯一の会場で、今年で69回目。1925年の公道レース開催に端を発するダッチTTとしては、第二次大戦の影響による休止なども挟みながら、今回で87度目になるのだとか。日本でいえば、箱根駅伝や高校野球と同じような伝統と歴史があるわけだ。
 今年のダッチTTは、F1と日程が重複しているために決勝日のスケジュールが変更になった。Moto3クラスは現地時間午前11時のスタートでいつもと同じだったのだが、通常ならその後にMoto2クラス決勝レースが午後12時20分から、そして午後2時からMotoGP、という順序なのだが、それが今回はMotoGPが13時から、そしてMoto2の決勝レースが最後に14時30分から、という段取りになった。
 レースをいつも観戦している方ならご存じだろうが、MotoGPクラスの決勝レース時間はだいたい40分から45分程度。その後に表彰式などの進行があって、トップスリーの選手たちは各国のテレビメディアなどから次々とインタビューを受ける。それが一段落して彼らがプレスカンファレンスの席に着くのは、表彰式が終了しておおむね45分から50分が経過してから、という流れになるので、通常どおりの進行なら、MotoGPのレースから表彰式が終わって表彰台獲得選手のプレスカンファレンスが始まるのは、だいたい現地時間の15時40分あたり、つまりレース開始から1時間40~45分後、というというのが通例だ。表彰台をはずした選手たちは、このプレスカンファレンス時間を避けてその前後に、各人の個別囲み取材などを行うことが我々の間では慣例になっている。
 これを今回の進行時間に当てはめてみると、どうなるか。
 MotoGPのプレスカンファレンスや各選手取材時間とMoto2の決勝レースが、もろかぶりになるわけである。
 どうする。
 特に今回は、Moto2クラスで中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)がフロントロー2番グリッドを獲得。土曜までの彼の話を聞いていても良いレースをしそうな雰囲気だったので、日本人メディアとしては、これを見逃すわけにもいかない。
 さあ困った。

*   *   *   *   *

 とまあいうような、レースを観戦するファンの方々にとってはまったくどうでもよいであろうし関心もないであろう、レースを取材する側の事情で申しありませぬが、その面でも妙に緊迫感のあった今回の決勝日は、いつ雨が降り出すかわからないというアッセン独特の天候のあやうさが、この不安定感にさらに拍車をかける格好になった。
 まずMoto3クラスでは、いつものように怒濤の大集団抗争になった。序盤から中盤にかけてコロコロと順位が入れ替わる激しいトップ争いが続いたものの、今回は6台「だけ」の展開になるのかなと思っていたら、終盤で雲霞のように後続が一気に追い上げてきて11台の巨大バトルになり、最後はアーロン・カネット(Estrella Galicia 0,0)が、今季2回目の優勝。また、この大集団のなかで、最後まで積極的に戦いに参加していった日本人選手の鈴木竜生(SIC58 Squadra Corse)は、0.679秒差の8位でチェッカーを受けた。
 今年のMoto3クラスは、ホンダ勢が総じて強さを発揮しており、今回のレースでも優勝争いで団子になってゴールした9台のうち、7台がホンダである(その意味では、最終ラップの最終シケインで残念ながら転倒に終わったとはいえ、地元オランダ出身のKTM勢ボ・ベンシュナイダー(Red Bull KTM Ajo)の大健闘は非常に印象深い)。優勝したカネットや上記の鈴木と同様、ロマノ・フェナティ(Marinelli Rivacold Snipers)、ジョン・マクフィ(British Talent Team)、ホルヘ・マルティン(Del Conca Gresini Moto3)、ジョアン・ミル(Leopard Racing)などは上位争いの常連だが、今回はそのトップ争いにジュール・ダニロ(Marinelli Rivacold Snipers)もいた。なかなか良い成績を残せずに苦戦が続いていたのだが、彼の今回のがんばりは敢闘賞ものといっていいだろう。


#moto3

#moto3
毎度毎度の大混戦。今回もじつに見応えがありました。
*   *   *   *   *

 そして、いつもより早いスケジュールでレースが始まったMotoGPは、バレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)が優勝。前回の勝利(2016年カタルーニャGP)以来、一年以上ぶりである。レース終盤は、緊張感に満ちた一対一のトップ争いを繰り広げていたダニロ・ペトルッチ(プラマック・レーシング/ドゥカティ)がバックマーカーに引っかかってしまい、これで勝負が決したかとも見えたものの、最終区間で猛追して最後は0.063秒の僅差。
 このトップ争いもすごかったのだが、さらにえぐい展開になったのが3位争いの集団。途中まではロッシとペトルッチについて行ったものの、「マシンの挙動がアヤしくなってきたので3位狙いに切り替えた」マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)とアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)の争いに、後方からものすごい勢いで追い上げてきたカル・クラッチロー(LCRホンダ)が追いついて、三つどもえの戦いに。クラッチローはラスト2周で一時は3番手に浮上するのだが、「少し早く手の内を見せすぎた」とレース後に話していたとおり、最後の最後でマルケスがもうひと絞りグイッと攻めこんで3位ゴール。ドヴィツィオーゾは5位のチェッカーフラッグを受けた。
 開幕戦以来ランキング首位につけていたマーヴェリック・ヴィニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)は、早い段階に転倒リタイアを喫し、これらの結果により、ドヴィツィオーゾがチャンピオン争いの首位に躍り出た。とはいっても、ヴィニャーレスとはたった4点差。その3点背後にロッシで、マルケスはロッシの4点ビハインド、とじつに緊張感に満ちたポイントランキングである。
「今年のチャンピオン争いは0ポイントのレースを作らないことが大切。イチかバチかの勝負をしなければならないときもあるけど、今日のように11点を取ることも重要」
 とレースを終えたドヴィツィオーゾは話していたが、おそらくそれは上位を争う選手たち全員に共通する心境ではあるだろう。


#46

#9
38歳でアッセン10勝目。流石、のひとこと。 今季2回目の表彰台。やったー。

#93

#04
次戦のザクセンリンクは大得意コース。 「現実主義者」がランキング首位に浮上。
#35 #25 #99
惜しくも4位フィニッシュの人(左)と8耐参戦を発表した人(中央)と今回は厳しい結果に終わった人(右)。
*   *   *   *   *

 そして、この日のファイナルレースになったMoto2では、フランコ・モルビデッリ(EC0,0 Marc VDS)が中盤以降5台に絞り込まれたバトルを最後にきっちりと制し、今季5勝目。2位はトマス・ルティ(CarXpert Interwetten)。中盤にトップに立ってぐいぐいレースを引っ張った2番グリッドスタートの中上は、一時トップ集団のなかで後方の5番手に沈んだものの、ラストラップに勝負を仕掛けて3位表彰台を獲得した。
 じつは着順ではマティア・パジーニ(Italtrans Racing Team)が3番手でゴールしていたのだが、最終シケインで中上とのバトルの際にマシンを引き起こしてコースをショートカットした行為が違反と見なされて、4位の降格処分を受けた。
「セクター4はウィークを通して速いとわかっていたので、最終シケインの入り口でチャンスだったので、ぎりぎりのブレーキングだったけど思いきり飛び込んで、勝負をしました。パジーニとは接触していないけど、彼がなぜかバイクを起こしてまっすぐ走っていったので、自分も一緒に出るとペナルティの対象になると思って、コース外には出ないようにふんばりました」
 と、中上はこの攻防の展開を振り返っている。パジーニは前の周回でも最終シケインでなぜか同じようなショートカットするラインを取っていたので、レースディレクションはそういったあたりの動きもしっかりと見ていた、ということなのではないかとも思える。

*   *   *   *   *

 というわけで、いろんな意味で緊迫した今回のレースに続き、次は2週連続開催の第9戦ドイツGP。サマーブレーク前のシーズン折り返し地点である。しかも、スケジュールは各クラス通常どおりのレース進行。よかったよかった。


#93

#04
優勝したモルビデッリは来季MotoGPへ昇格。中上は5戦ぶりの表彰台。

 



■2017年6月25日 
第8戦 オランダGP
TTサーキット・アッセン

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


2 #9 Danilo Petrucci OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


3 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


4 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


5 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


6 #43 Jack Miller Marc VDS Racing Team HONDA


7 #17 Karel Abraham Pull & Bear Aspar Team DUCATI


8 #76 Loris BAZ Reale Avintia Racing DUCATI


9 #29 Andrea Iannone Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


10 #41 Aleix Espargaro Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


11 #44 Pol Espargaro Red Bull KTM Factory Racing KTM


12 #53 Tito RABAT EG 0,0 Marc VDS HONDA


13 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


14 #5 Johann Zarco Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


15 #99 Jorge Lorenzo Ducati Team DUCATI


16 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


17 #42 Alex Rins Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


RT #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


RT #19 Alvaro Bautista Pull & Bear Aspar Team DUCATI


RT #38 Bradley Smith Red Bull KTM Factory Racing KTM


RT #25 Maverick Viñales Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


RT #94 Jonas Folger Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


RT #22 Sam Lowes Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

[第119回|第120回|第121回]
[MotoGPはいらんかねバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]