順逆無一文


抜本塞源

 首都高速が“距離別料金”制を導入して約2ヵ月が経った。
 通勤に首都高速を利用させてもらっている身なので、新システムと2ヵ月つきあったことになる。どうなることやら、と当初は不安もあった。我が“通勤快速”にはETC装置が付いていない。
 それでなくても、ETCの付いていない二輪は料金所で肩身が狭いのに、「いちいち領収書を料金所で見せなくてはならないのか」と。しかし、それは無用の心配だった。通過する料金所の数が変わるわけでもなく、距離別料金の導入前とほとんど変わりないのだ。料金所を通るごとに金を支払う、が、領収書を見せる、に変わっただけ。いや、いちいち料金所を通るごとに小銭を出していたことを考えれば、領収書一枚見せるだけだから、ちょっとは楽になった、とさえいえるだろう。(紙っぺら一枚なのでポケットから飛ばさないように!)
 それよりも、路線区間を越えて利用する場合は割安になったことの方が大きい。
 横羽線(高速神奈川1号)と羽田線(高速1号)を乗り継いで利用していたのだが、これまで片道600円+300円=900円かかっていた(三ツ沢〜平和島間)。実は会社のすぐ近くに勝島の出入り口があるのだが、一つ手前の平和島で乗り降りするようにしていた。
 それだけで東京線の利用料金700円が、短距離の特別料金だったのか、300円で済んでいた。出口一つの違いで実に400円もの違いがあったのだ。
 それが距離別料金になったおかげで、勝島まで利用しても一律の上限900円となった。
 ただしETCが付いていれば、平和島で降りても、勝島で降りても同じ800円。三ツ沢と平和島間は21.8kmで800円。三ツ沢と勝島でも24.0kmでぎりぎりの800円。微妙な距離だ。
 蛇足ながら下りで三ツ沢出口で出ずにそのまま第三京浜や横浜新道に行ってしまうと、なぜか900円になるのでご注意! 一度三ツ沢出口を出て、一般道を100mくらい走ってすぐの所にある新道や第三方面の入り口から自動車専用道に戻れば100円ゲットとなる。
 ちなみに首都高速で一番長い距離となる、神奈川県の幸浦から埼玉県のさいたま見沼までは85.7km。
 距離別料金では、6km以下が500円、12km以下が600円、18km以下が700円、24km以下が800円、24kmを超えると上限の900円となっている(6kmごとに100円ずつ加算していく5段階の料金体系)。500円の基本料金に、1km約16.6円の走行分料金をプラスと考えられるので、短距離の利用者ほど割高な料金と言える。
 先の幸浦からさいたま見沼間を利用する方は、上限900円の措置がなければ1,700円になっていた計算なので、800円も浮いている勘定だ。
 ちなみに都内をグルッと一回りしている山手線なら、3kmまでが130円、4〜6kmが150円、7〜10kmが160円、11から15kmが190円、16〜20kmが250円。首都高速にくらべたらずいぶんと安い。山手線は一周34.5kmの環状線なので、250円が上限でそれ以上の料金は無い(ハズ?)。鉄道にまったく詳しくないので恐縮ですが、東京から神田(隣の駅)まで、グルッとほぼ一周しようと思ったとして、そんなキップを売ってくれるのでしょうか。脱線です。
 距離別料金制導入でも、「首都高速は短距離の利用は損」という状況は、変わらなかったということでしょう。それと、軽自動車と二輪ライダーにとっては、絶好の機会だったハズの料金区分の見直しが無く、これまでどおり“普通車”枠に入れられたままだったのが大変残念なことでした。
 ETCシステムからすれば、二輪や軽自動車を“普通車”と別枠にするなどお手の物。でかい4.5トントラックなどとも同料金というのは、なんだかな〜、です。
 ちょっと古いですが、2009年現在のデータで、高速道路利用が可能な二輪車(126cc以上)の保有台数は350万台(自動車検査登録情報協会調べ)。これと日本無線の累計出荷台数のデータと合わせると、この時点での二輪車のETC車載器搭載率は5%程度だったそう。ちなみに同時期のクルマの保有台数は、7,529万台(自動車検査登録情報協会調べ)。ETC車載器の累計セットアップ件数が2,503万件(同2009年4月)で、クルマのETC普及率は33%。3台に1台程度ということになる。しかもその後クルマは“高速道路無料化実験”などの追い風でさらに急激に増え、総セットアップ件数から再セットアップ件数を引いた実セットアップ件数は、3,715万件(2012年5月現在、GO!ETC調べ)。クルマの保有台数は、7,563万台(11年11月末現在、自動車検査登録情報協会調べ)とほとんど変わってなく、普及率は49%までハネ上がっている。
 一方、二輪車のETCはクルマに比べて頭打ちになっている。現在、二輪車用ETC装置は、日本無線とミツバサンコーワの2社独占の状態で、低価格モデルが存在せず、アンテナ一体式で1万9千円程度〜別体式で2万7千円式と本体価格が高価なのと、必ず専門のセットアップ業者に取り付け工事まで行ってもらわなければならない、という二輪車独自の事情が存在する。
 セットアップ料金まで入れると、ETCが使えるようになるまで、最低でも3万円弱(アンテナ一体式)から4万円強(別体式)程度の出費が必要だ。
 今や値崩れ状態で、高速道路事業者によるETC普及キャンペーンなどの期間中なら、わずか5千円程度で取り付けられてしまうクルマ用とは雲泥の差がある。
 もともとクルマに比べて圧倒的に需要の少ない二輪用が、このような状態になることは簡単に予想できたはず。2006年11月の二輪車ETC導入以降、未だに何も改善されていない。道路専有面積で数倍〜十数倍も違うクルマと同じ料金を支払わされた上で、この状態だ。まさに二輪車差別、いや二輪車無視としか言いようがない。
 もともとETCを導入するに当たって、装置の取り付けをユーザー側に自己負担させること自体が間違っていないだろうか。
 料金徴収にかかる手間等が大幅に合理化できるETCシステムを導入するというのに、さらに肝心の端末代は利用料金を払っている客の懐を当てにしようというのだからとんでもない話だ。
 利用するユーザーには、これといったメリットはほとんど無く「料金所で料金支払いの面倒が無くなっていいでしょ」とは聞いて呆れる。自分たちは合理化によってさらに利益を上げ、体よくお客には余計な出費を強制する。
 まあ、ユーザーというのはよほど人が良いというか…。せめて、首都高には超簡単に実施できる料金区分の細分化だけはきちっとやってもらいたい。積載超過で路面を痛めつけて走行している大型ダンプが二輪車の料金の2倍、などという論外な料金設定は即刻改めていただきたい。
 とにかくETCの導入費用をユーザー側が負担するのはおかしい、という認識をライダーが持つ必要がある。いや、ライダーに限らず自動車専用道を利用するすべての方が、だ。
 それでなくとも、自動車専用道は我々の血税も使って作っているのに、さらに利用料金という名目で二重にふんだくられているのだ。
 なんだかんだどさくさに紛れて高速道路無料化はとうとう“実験”で終わってしまった。この無料化が恒久的になっていたら、ETC導入で儲けたのは誰だったのか、馬鹿を見たのは…もきちんと見極めておく必要があるのでは。
(後ろのドライバーさんに迷惑になるからと、事前に小銭をきちっと用意して、グローブはめるのももどかしく走り出していたのがなんだかアホらしく思えてきた。二輪車を無料にしないと料金徴収所が渋滞する、なんてことになっても知りません。 小宮山幸雄)

小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は“閼伽の本人”。

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