MBFCC-B1 毛野ブースカ 湯めぐりみしゅら~ん

第55湯:長野・新潟湯巡りツーリング(前編)

 昨年以来、アームズマガジンのMOOKの発売日が変わったことで、なかなかまとまった休みが取りにくくなってしまった。ゴールデンウィークももろもろの事情が重なり、仕事三昧だった。何とか出かけようと画策するが、仕事が舞い込んでくる。とてもありがたいことなのだが、そんなことを繰り返しているうちに夏が来てしまった。実は7月下旬に出かけるタイミングができそうだったのだが無理だった。もう今度こそ休むと決め込んで、8月23〜25日の3日間、今年初の3連休をようやく奪取した。
 奪取したのはいいものの、今年の関東地方は8月に入ってから雨続き。まあ、「雨のブースカ」と異名を取るだけに、雨が降っても違和感はないのだが、できれば雨は避けたい。連日、天気予報とにらめっこして、近すぎず遠すぎずというところで、まだ走ったことのない新潟県の下越・中越地方に行ってみることにした。宿泊予約サイトを見ながら、長野県から上越市に入り、日本海沿いを走るルートにして、1泊目は以前行ったことのある長野県の野沢温泉の温泉民宿、2日目は初めて行く新潟県の弥彦温泉の温泉宿に決めた。

 出発日が近づくにつれて、東京の天気は回復してきたものの、なぜか向かう先は天候がどんどん怪しくなってきた。天候不安はあるものの、休みは変更できないし、宿は予約してしまったし、もう行くしかない。出発当日の朝、関越自動車道を通り、昨年訪れた南魚沼地域まで行き、そこから野沢温泉に向かうつもりだったが、雨雲レーダーを見て急遽予定を変更。中央自動車道を通り、長野自動車道に入って豊科インターまで向かい、長野市を通過して野沢温泉に向かうことにした。当日のルート変更は人生初。本当に今年の天候不順には泣かされる。

 自宅を午前6時00分に出発。調布インターから中央自動車道に乗り、渋滞もなく順調に進む。天気も問題なし。まさにツーリング日和だ。午前9時30分頃には豊科インターに到着。そこから国道19号線を通って長野市にある善光寺を目指す。スムーズに進んでいくかと思いきや、雨がパラついてきた。もう雨が降ってきたか…心が折れそうになりながらも、レインウエアを着込む。善光寺に向かう前に温泉に寄ろうと思い、善光寺近くにある「据花峡天然温泉宿 うるおい館」に行くことにした。
 長野市の県庁街をウロウロして道に迷いながら住宅街の奥に目的地を発見した。「据花峡天然温泉宿 うるおい館」は長野県長野市妻科の長野県庁近くにある宿泊もできる入浴施設だ。館内は広々としていて、平日にもかかわらず地元の方が大勢訪れていた。入湯料は670円。浴室・内風呂とも広く、特に和風の露天風呂は大きく、ゆったり入れる。お湯はナトリウム・塩化物泉のやや茶褐色で、ちょっと塩気がある。資料によると毎分776リットルと湯量は豊富。内風呂、露天風呂ともいい湯加減で、早朝から走りっぱなしの体を癒してくれた。

 汗も引かないうちに外に出ると、雨が止み始めている。「据花峡天然温泉宿 うるおい館」から数分走ったところに善光寺があり、到着するころには雨が止み、晴れ間が見え始めた。「牛に引かれて善光寺参り」という故事で有名な善光寺。今回訪れるのは2回目。内陣から真っ暗な回廊を巡る「お戒壇めぐり」をしてみた。お守りを買っておみぐじを引き、駐車場に戻ってみるとすっかり天気が回復し、一気に気温が上がってきた。雨雲レーダーを見る限り、天候の急変はなさそうだが、夕食が午後6時からだったので、早めに宿に向かうことにした。

 国道18号線から国道403号線、そして国道292号線を進んで飯山市に向かう。飯山市からは野沢温泉、新潟県の十日町方面に向かう国道117号線に入る。このまま天候が持つことを祈りつつ、ちょっと時間に余裕ができたので、野沢温泉の入口近くにある「いいやま湯滝温泉」に入ることにした。「いいやま湯滝温泉」は長野県飯山市の国道117号線沿い、千曲川が眼下に流れる日帰り入浴施設だ。入湯料は510円。それほど広くはないが、開放感のある内風呂に加えて、露天風呂からは周囲に山々が見渡せる。気持ちいいロケーションに無色透明の適温の湯は、時間が経つのを忘れてしまう。もう少し晴れていれば、もっとよかったかもしれない。
 まったりしたところで、いよいよ野沢温泉に向かう。実は野沢温泉は7年前に訪れており、その時は外湯のひとつである大湯だけ入ったのだが、土砂降りでいい思い出がなかった。今回の野沢温泉はその時のリベンジも兼ねて、大湯を含めた13湯ある外湯をすべて巡るのが目的だ。野沢温泉の入口からほど近い、県道38号線沿いに今夜お世話になる「リゾートインあべ」があった。駐車場に着くなり、事前にバイクで来ることを知らせておいたので、ご主人が出てきて屋根付きの車庫に案内される。荷物を解いてチェックイン。「リゾートインあべ」はご夫婦2人でやっている民宿で、和室中心で部屋数は少ないが、アットホームな感じ。宿のお風呂はもちろん温泉だ。

 ご主人から野沢温泉施設マップをもらい、外湯のおおまかな解説を受ける。部屋に入り、この貴重なマップをもとに作戦会議。夕食が午後6時からなので、1時間の間に3湯入湯し、夕食後に「ナイトセッション」と称して宿から遠い8湯を巡り、翌朝に宿から近い2湯を巡るという算段で進めることにした。
 装備を整えて、早速宿から南方向にある「中尾の湯」に向かった。野沢温泉の13湯ある外湯は、村の人たち(=湯仲間)によって支えられている無料の共同浴場。各湯とも源泉100%だが、規模はもちろん泉質が微妙に異なる。私はこういった共同浴場が大好きで、野沢温泉はまさにうってつけなのだ。立派な作りの「中尾の湯」に浸かるとお湯は熱め。どこも泉温は70〜80℃、源泉掛け流しだから当然。汗をぬぐいながら坂を登り、スキー場近くにある「秋葉の湯」へ。先ほどの「中尾の湯」に比べるとやや小さい。「秋葉の湯」をあとにして、坂を下って大湯通りにある「十王堂の湯」へ。ここは建物の2階に男湯がある。お湯は硫黄の臭いがしており、地元の方が水で冷ましているが、それでも熱い。ここで前半戦終了。3湯巡るのに約40分かかった。

 宿に戻り夕食。テーブルに並べられた品数を見てびっくり。さらに馬刺しまでついてきた。決して宿泊代は高くないのだが、こんなに豪華だとは思わなかった。どれも女将さんの手作りで美味しい。久々にお腹いっぱい、大満足の夕食だった。
 夕食後の午後7時からナイトセッション開始。前半戦でわかったことだが、野沢温泉街そのものはそれほど広くはないが坂が多く、体力勝負の予感がしてきた。天候は曇りで、雨は降らなさそうなのが幸いか。まずは大湯通りを大湯に向かう手前にある「松葉の湯」へ。ここも2階に男湯がある。相変わらずどこもお湯が熱い。そして前回入った野沢温泉街の中心にあり、シンボル的外湯である「大湯」へ。湯屋建築と言われる立派な外観をしている。ここはあつい湯とぬるい湯があるものの、あつい湯はとても入れない…。入口付近では近所のご老人たちが談笑している。共同浴場らしいいい風景だ。
 大湯をあとにして、野沢温泉のいちばん奥にある「滝の湯」を目指す。街灯が少なく、マップを頼りに夜道を勘で(自称温泉レーダーをあてに)進む。お湯が噴出している「麻釜(あさがま)」を左手に見ながら、不安な気持ちで坂道を進む。人家も街灯もない先に「滝の湯」があったが、人気がなく室内灯がついていない。スイッチを探して自分で室内灯をつけ、小さい湯船に満たされた湯に浸かろうとするが、冷ましていないので強烈に熱い。とても浸かれないので、掛け湯をしただけで「滝の湯」は終了。ここまでで約1時間かかった。宿の門限は午後11時。あと5湯を3時間以内にクリアしないといけない。
 ここからがナイトセッションの本番。温泉街を通過して「河原湯」に到着。ここも大湯のような立派な作り。滝の湯と違って地元の方と観光客で賑わっている。宿に続く県道38号線につながる道まで下りてきて、麻釜通りにある「麻釜の湯」に入る。やはり温泉街の中心にあるほうが観光客が多い気がした。麻釜の湯から「真湯(しんゆ)」を目指したが、夜なので道がわかりにくく痛恨のミスルート。数分でいけるところを倍くらいかかってしまった。つつじ山公園近くにある「真湯」はこじんまりしているが、内外装ともに綺麗なのが特徴だった。ここまで約40分ほど。あと2湯入れば今日のノルマは達成だ。
 止まらぬ汗と熱気でメガネが曇る中、坂を下って「上寺湯(かみてらゆ)」を目指す。「上寺湯」も真湯同様、木造作りの風情ある作り。相変わらずどこもお湯は熱い。もう身体は火照りまくっている。タオルはびしょびしょ。もちろんエアコンなど効いていないので、歩きながら身体を空冷するしかない。
 そして午後9時、ようやくナイトセッション最後の「熊の手洗湯」に到着。ぬるい湯は適度に冷ましてあったので、ゆっくり浸かることにした。約2時間で8湯はなかなか強敵だった。どこもお湯は熱くて長湯できず、おまけにアップダウンがあり、こんなに体力を使うとは思いもよらなかった。途中、地元の方に道を教わりながら宿に到着。疲れたのか、布団を敷いたら寝落ちしてしまった。

 翌朝、宿のお風呂に浸かったのち、夕食同様、女将さんの手作り朝食をいただく。朝食後、残った2湯を攻める。まずは野沢温泉の入口にある「横落の湯(よこちのゆ)」に向かう。誰も入っていないが、適度に冷まされていていい湯加減。そう言えば、朝方降っていた雨が止んで晴れ間が見えている。大雨の予報なのにどうしたことか…。そして13湯目は宿の近くにある「新田の湯(しんでんのゆ)」へ。近くにある西ノ宮神社に手を合わせてからお湯に浸かる。ここは天井が高く、開放感がある。お湯も適温。これで、野沢温泉の外湯13湯をコンプリートした。感無量といったところ。今回は外湯13湯の写真をすべて入湯順にお見せしよう(暗くてブレているのはご愛嬌といったところで…)。
 宿に戻って身支度して、ご主人、女将さんに挨拶をして宿をあとにした。今日は上越市を通り、日本海沿いを進んで弥彦温泉に向かう予定だが、相変わらずこの地域一帯に大雨警報が出ている。今はほとんど雨は降っていないが、果たしてどうなることやら…。


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据花峡天然温泉宿うるおい館
善光寺の近くにある「据花峡天然温泉宿うるおい館」。日帰り入浴はもちろん、宿泊もできる。善光寺を参拝するなら合わせて立ち寄りたい。
いいやま湯滝温泉
野沢温泉の入口近くにある「いいやま湯滝温泉」。国道117号線から千曲川を渡ったすぐのところにあるのでアクセスしやすい。
いいやま湯滝温泉
「いいやま湯滝温泉」の露天風呂。お湯は無色透明で、周囲の山々を見渡しながらゆっくり入れる。晴れていればベストだった。
リゾートインあべ
野沢温泉でお世話になった「リゾートインあべ」。バイクで訪れることを事前に伝えておいたら、屋根・シャッターつきの駐車場に案内してくれた。
中尾の湯
外湯巡りスタート。まずは午後5時5分に第1湯目「中尾の湯」に入湯。ここもそうだが、野沢温泉の外湯は湯屋建築が多く見られる。
秋葉の湯
午後5時24分、第2湯目は坂を登ってゲレンデ近くにある「秋葉の湯」に入湯。仕事帰りに湯に浸かる地元の方々が訪れていた。
十王堂の湯
午後5時40分に第3湯目となる「十王堂の湯」に到着。野沢温泉のメインストリートの大湯通りに面しており、アクセスしやすい。
夕食
いったん宿に戻って夕食。馬刺しをはじめとした女将さん手作りの料理が並ぶ。ボリュームはもちろん、味も大満足だった。
松葉の湯
お腹を満たした後、ナイトセッション開始。第4湯目となる「松葉の湯」には午後7時21分到着。十王堂の湯同様、男湯は2階にある。
大湯
午後7時33分、野沢温泉の外湯のシンボル的存在である「大湯」に入湯。ここで第5湯目。前回土砂降りの中で入ったのはこの大湯だった。
滝の湯
麻釜を通過して、街灯のない道を勘で進んで午後7時50分に第6湯目となる「滝の湯」に到着。到着した時は室内灯は点いておらず真っ暗だった。
滝の湯
「滝の湯」の湯船は小さいが、野沢温泉の源泉にもっとに近い場所にあり、源泉かけ流しの熱〜いお湯が淡々と注がれている。
河原の湯
人気のない滝の湯から観光客が行き交う大湯通りに戻り、午後8時10分に第7湯目の「河原の湯」に到着。大湯同様、なかなか立派な作りだ。
麻釜の湯
坂を下って、滝の湯方面に少し戻ったところにある「麻釜の湯」には午後8時22分に到着。ようやく8湯目。本日のノルマまであと3湯。
真湯
第9湯目となる「真湯」は麻釜の湯から本来なら5分ほどでいけるところをミスルートしてしまい、午後8時41分に到着。
熊の手洗 熊の手洗湯
本日のノルマまであと2湯。第10湯目の「上寺湯」には午後8時55分に到着。身体を癒しにきているはずなのに、疲れがどんどん貯まっていく…。 そして午後9時5分、第11湯目となる「熊の手洗湯」に到着。ここまで数分刻みで移動してきた。今回はなかなかチャレンジングだった。
熊の手洗 横落の湯
「熊の手洗湯」はぬるい湯とあつい湯の2種類の湯船があるが、あつい湯は本当に熱い湯がかけ流しで注がれている。 翌朝から外湯巡り再開。午前8時33分、第12湯目は野沢温泉の入口にある「横落の湯」に入湯。ちょうどいい湯加減だった。
新田の湯 新田の湯
そして外湯巡りのラストは、宿近くにある「新田の湯」に午前8時46分に入湯。表にある西ノ宮神社がランドマークとなる。 朝日が注ぐ「新田の湯」の湯船。他と比べて天井が高く、開放感溢れる作りが印象的だった。ここも湯加減がバッチリだった。

ブースカ的温泉評価
据花峡天然温泉宿うるおい館  ★★★★
湯量豊富なやや茶褐色のお湯が特徴。
いいやま湯滝温泉  ★★★★★
千曲川と山々を見渡せる野趣溢れる露天風呂。
野沢温泉  ★★★★★
温泉好きなら全湯制覇したい風情のある13湯の外湯。

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は754湯。湯巡りツーリングの相棒はホンダ・400X。ちなみにマイカーはスズキのエスクードだ。


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