オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。
時折、かかってこい! と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250?、エイプ750?。
第59回 海外編第6章 White night

 
ISLE OF MAN。
アイリッシュ海の中央に位置する島。人口は8万人ほどだがこのレース期間中、人の数は10万を超える。そしてオレは今、その中の一人なのである。
空港で荷物を受け取ったオレははやる気持ちをなだめつつゆっくりとした足取りで外に出た。変わりやすい天候だと聞いていたがこの日は晴れている。
タバコを取り出し火をつけた。たっぷりと吸い込み、ゆっくりと吐く。実にウマイ!
自覚はないがオレはかなりニヤケていたに違いない。そんなオレに地元のオバサマがなにやら話しかけてきた。
何を言っているのかはさっぱりわからない。取りあえずオレは満面の笑顔で親指を立てて見せる。するとそのオバサマは首を振りながら立ち去って行った。
どうやら彼女の言葉に対するオレの立ち振る舞いはかなりズレていたようだ。

えらい高さの二階建てバスが目の前を通り過ぎる。
その直後に旅行会社が手配してくれたレンタカーがやってきた。
実はオレは個人でレンタカーを借りようと空港内にあるレンタカー屋で聞いてみたのだがやはりレース期間中は予約がいっぱいで無いと言われた。今後、島での移動は公共機関かタクシー。あとは旅行担当者が借りたレンタカーで送迎してもらう事になる。
オレ達はレンタカーとタクシーに分かれて宿泊先へと向かった。

レンタカー

 
空港を出てダグラスの街中を走る。この時間は、その日のレースも終わり、島の道はすべて一般に開放されている。ここでは車は日本と同じ左側通行だ。だが雰囲気はあからさまに違う。なんといっても軽ワゴンのいない道の景色ってスバラシイ。
初めて目にする信号機、車のナンバー、標識などなど。そのどれもがいちいちカッコイイ。
信号は少なく交差点はロータリー形式が多い。交通量はそれなりに多いにもかかわらず車の流れは気持ちがいいくらいにスムーズである。
老若男女を問わずここでは皆、車の運転が上手い。もちろん比較対象は日本であるがオレのひいき目とかではない。本当に上手なのですよ。

ダグラスの街中

 
しばらく走るとTTレースのメインスポンサーであるモンスターエナジーの横断幕を道の左右に見かけるようになってきた。その先にメインスタンドが見えてきた。
この日のレースが終わったにもかかわらず会場内に多くの人がいるのが遠目にもわかる。
レースのスタート地点となる場所からすぐの交差点を曲がり少し行ったところにオレの泊まる家がある。マン島での宿泊はホームステイだ。とは言え、そこの家族と一緒に過ごすわけではない。家一軒を丸ごと借りる形でオレと同じくレース観戦に来た日本人8人で生活する。

ホームステイ

 
家に着くと家主の女性が出迎えてくれた。場所は閑静な住宅街でメインの会場からも近い。
実にイイ環境である。さっそく割り当てられた部屋へ行き荷物をほどく。
必要なものを持ってオレは会場へ行ってみることにした。時間は19時を回っていたがまだ明るい。会場に着くとこの時間からでもやってくるバイクがいる。もしかして昼夜通しでのお祭りみたいな感じなのだろうか。

会場
会場

 
入り口を入るとそこからずらっとTTレース関連のグッズを売っている店が軒を連ねるその先に広場があり、飲食店が並んでいた。まずは晩飯だ。
マン島での最初の食事である。ならばここはイギリス名物のフィッシュ&チップスだろう。
ちなみにオレはこいつを食べた事がないのはもちろんの事、見た事すらない。
ちょうど目の前の店にFISH&CHIPSと書かれている。
フィッシュ&チップスとコーラをオーダーすると金髪のカワイイおねえさんが10分待ってくださいと。むっ!? ファストフードにしてはずいぶんと待たせる。
そして時間通りの10分後に出てきたフィッシュ&チップス。
オレはそれをしばらく眺めていた。いくらなんでもこれはあまりにもそのまんま過ぎねぇか!? 目の前には山盛り、いや超メガ盛のフライドポテト。そしてその上に同じ色をした魚のフライが乗った不思議な料理が。
とりあえず魚を一口、そしてポテトを一口。コイツはどうにもこうにも……ほとんど味がしねぇ。何らかの下味くらいはついてるかと思ったがまったくない。
せめて塩くらいふっておいてもらいたいものである。
そんな不満げなオレを見て店のおねえさんは店の横にあるテーブルを指さしてなにかしゃべりかけてくる。よくわからんが……テーブルの上には巨大なボトルのケチャップやマスタードが置いてある。なるほどあれで自分の好きなように味付けしろという事か。
とりあえずケチャップをつけて一口食べてみる。やはりケチャップの味しかしねぇ。
それでもあれこれと調味料をとっかえひっかえしながら黙々と食べた。しかし……
魚は食べきったがポテトは一向に減っていかない。マズイというわけではない。
ただ、ただ、……おいしくないのだ。結局、食べきれず残りは家に持ち帰る事にした。
時間は20時になろうとしているがまだ明るい。広場の奥の方に各チームのブースが並んでいる。さすがにこの時間ではどのブースもシートで覆われていて中は見えない。
まぁ本番は明日からだ。会場の様子もだいたい分かった。グッズの店で帽子とステッカーを買いオレは帰路についた。途中のスーパーでビールを仕入れて家に戻る。
時刻は21時。まだ明るい。んっ!? おかしい。6月が最も陽が長い季節とはいえ21時でこの明るさは一体なんだ。日が暮れていく気配というものが全くない。
聞くとマン島は経緯度的に日本と比べてかなり北に位置しておりこの季節、暗くなるのは23時を過ぎてからなのだという。まったく……ここは色んな意味で別世界だ。まるで夢の中にいるかのような。改めて思う。ずいぶんと遠くに来ちまったなぁと。


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