バイクの英語

第20回 Gray cells(グレイ セルズ)

新東名ができました! 4月14日にスタートですって。
最初は140キロ制限なんていわれてたけど、実際はドイツに習って速度無制限になったらしいよ。……なーんて話があったらステキだなぁ!

 People don’t think! 「人って、考えない!」とわめく外国人が近くにいます。かの国(西洋出身者)では様々なことが合理的に行われ、「それはいいアイディアだ」とされれば次々と仮採用されていくお国柄。常に物事を両面から捉え、日本では「前例がない」と一蹴されてしまうようなことでも「でもこういったいい結果が出るかもしれない」ととりあえず試してみるのだ。

 もう幾度となくこのコラムで書いている「ラウンダバウト」の話は耳にオクタプスだろうけれど、ヨーロッパでは普通に使われている大変効率のよいローターリーシステム。最近ではアメリカでも導入が進んでいるのに、日本では何で導入されないの? 導入したら信号を作ってる会社の仕事が減って困るとか、安全性が確保できないとか色々出てくるんだろうけど、そもそもそこまで辿り着かないのが日本という国。海外でそんなシステムを見つけても「へー便利だねー」と思うだけで、じゃウチもやってみようかというとこまでは考え至らない。

 People don’t think! なのですよ。長野県の名誉のために言うと、長野県のある地域ではこのラウンダバウトに取り組んでるそうですけどね。


旭川

釧路
広い北海道には「ラウンダバウト」(日本的にはロータリ)が大きな街にも存在しますが、信号機も付いているんじゃあまり意味は……。

 ロンドンをぐるりと回るM25という高速道路があります。東京で言うところの中央環状線ぐらいの位置付けかな。これが慢性的に渋滞していて、全く動かないことから「世界最大の駐車場」と呼ばれていました。ところがこの渋滞による経済的損失、環境汚染、人々のストレス、車の磨耗、道路の磨耗などマイナス面が深刻で、さらにはロードレイジ(ロードは道路、レイジは激怒すること。運転中の運転者同士のトラブル)が社会問題化したことで、道路公団(現在はJH)的位置付けの団体が警察とタッグを組んでこの渋滞解消に本気で取り組んだ。

 綿密な調査によると、どうやら流れる所でみんなスピードを出しすぎ、ちょっと上り坂などでは落としすぎるという結果に。じゃスピードが出やすいところでは取締りなどにより確実に上限速度を守らせ、反対に速度が落ちやすい所では最低速度を設けてこちらも確実に守らせるという策に出た。

 そしたらなんと、解消したんですよ! 慢性渋滞の名所だったM25がちゃんと高速道路として機能する。こんな取り組みに西洋の柔軟さが伝わってきます。

 中央道小仏トンネル付近。東名綾瀬バス停付近。いっつも混む。しかもわずかに上り坂になってるってだけですよその原因は。バカじゃなかろうかと思うんだけど、考えないドライバーがいつのまにかスピードを落としていて渋滞を作る。「あ、速度が落ちてきたぞ? 上り坂だからか。アクセルをもっと踏み込まないと」をDon’t thinkですよ。考え至らない。

 さらにJHもそういった場所では「最低速度80キロ!」とか「上り坂につき80キロ以上に速度維持のこと」とかサインを出せばいいじゃない。そして警察とタッグを組んで取り締まればいいじゃない。JH側もそこまでは思い至らない。People don’t think.

 高速道路の最低速度は60キロなんていうツッコミをする人は、じゃその区間だけ80にするように道交法を改正したらどうかということに思い至っていない。さらに80キロで走れない人もいるじゃないか、などという人は、じゃ右2車線だけを最低80キロにしたらどうか、とかいう発想にも思い至っていない。

 M25と同じようなことを日本でしたら、速度が上がるところの取締りをガンガンして、速度が落ちる所の対処はしないだろうな。厳密に言えば60キロを割った時点で違反なのに。あぁDon’t think……罪だぜ!

 もうそろそろ新東名が開通します。これが素晴らしい。コーナーは現東名の最小半径300メートルからなんと10倍の3000メートルに。最大勾配は現東名の5%から半分以下の2%になっている。安全性は飛躍的に向上しているでしょうし、筆者のように高速道路をたくさん利用する人からしてみれば大変ありがたい。

 しかし! 当初の最高速度140キロという噂は頓挫。結局現東名と同じ100キロになってるのだ。考えられん……。140が危ないとか言うのは、まぁわかる。今まで日本にあった最高速度の1.4倍なのだから。だけどじゃ120にしてみようかって何でならないんだろう。まずは2割り増しでやってみよう。それでも現東名より圧倒的に事故が少なかったら、さらに引き上げてもいいじゃないか。そんな発想には……People don’t think.

 
 いや、個人的には140で良いと思う。かなりハイペースな道になるから、運転に自信のない人は現東名を使えばいい。最低速度も110ぐらいに設定してトラックも現東名を使ってもらうようにする。そのためには現東名のほうの料金を安くしたほうがいいでしょう。

 現在は新東名の料金設定に合わせて現東名も料金を下げるという話だけど、新幹線だって距離は短いし移動時間も短いけど料金は高いんだから新東名はもっと高くても良い。短い移動時間を金で買ってもらうのだ! 快適に速く(かつ安全にという意味でも新幹線と似ていますね)移動したい人は高い料金を払う。急いでない時はノンビリ、安く移動する。スピードが怖い人はノンビリ路線を走って、しかも安く上がる。速く移動する人の路線には遅い車は入ってこない。トラックだって他の車のペースを乱して追い越しをかける後ろめたさから解放されるし、そもそも交通量が減るから現東名も走りやすくなる上に今までより安く、快適に目的地につけるわけだ。

 今のまま新東名がオープンしたら、コーナーが緩くて、広くて快適なんだからそっちに交通が集中するでしょう。延々60キロで走り続けるドライバーも紛れ込む。距離も短いし走りやすくて安全なんだからトラックもみんなそっちに行く。最悪の場合、急いでる人がコーナーも勾配もキツイ(危険も大きい)現東名を走ることになっちゃうなんていう本末転倒なことが起きそうだ。
……なんかおかしい事言ってますか??

※    ※    ※

 さて。今月の英語ですが。
 ここまでの流れですと「People don’t think」だと思うでしょ? 違いますよ、だってそれじゃ「人は、考えない!」というタダの一文じゃないすか。

 今月の英語はGray cellsです。Grayとは色のグレー、cellsとは細胞のことです。「灰色の細胞」と言うことで、「頭を使え」という意味になります。

 使い方としては
①「Wow that was clever! How did you think of that!?」
(うわ!賢いね!何でそんなこと思いついたの!?)

「Gray cells my friend」
(友よ、灰色の細胞だよ)

②(コックをリザーブにしたままガス欠した人に対して)
「(あきれるように)Gray cells!!」

 例文を見ても意味がわかりません。使うときには頭をトントンと指先で指し示す、もしくは軽く叩く動作とセットだと想像がつくかもしれませんが、Gray cellとは脳細胞のことなんですね。脳細胞はミトコンドリアの配合度合いから、その色が灰色だそうです。なので頭を使うことを、Gray cellsを働かせる、と表現するのです。

 例文1にある「Gray cells my friend」と最後に「友よ」と付けるのは、いくらか相手を小ばかにしているようなときに使います。当たり前の質問をされた時に、ネットでは「ググレカス(聞く前にグーグルで調べろカス野郎)」などとやりあってるようですが、そこまで悪意はないものの、質問する前にまずは考えてごらんよ、という意味でも使います。

 一方で発する時のニュアンスにも左右される言葉です。頭いいねぇ!という時にも感心したようにGray cellsと言うこともあります。

 日本の道路事情を決めている人はあまり使ってませんね、灰色の細胞を。


筆者 
ラタパー・グレイロー
ラタパー・グレイロー日本と同じ左側通行の国、タイから来日。世界の道路事情に異常な執着を見せる。2012シーズンは引き続き「元②」という世界選手権クラスでレースも参戦。引退後は現在ではイマイチ何をやっているのかわかりにくい「国土交通政策研究所」に勤めてGray cellを目いっぱい働かせたいと考えている。「だってウィキですらラウンダバウトの有効性をわかってるよ!」が口癖
※例によって写真はイメージです。


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