スーパーカブのすべて
世界中のカブと取り仕切る、今田LPLが新型スーパーカブ110を語る

こんにちは、ピンキー高橋です。今回、世界各国で販売されるカブタイプのモデルの開発をとりまとめる、今田LPLに新型スーパーカブ110のお話を伺う機会に恵まれました。
今田さんとは最初のスーパーカブ110やPCXの試乗会、カフェカブミーティングでお話させていただいたことはあったのですが、インタビュー取材は初めて。しかもG2連邦大統領たれとも簡単に入ることは許されない、本田技術研究所二輪R&Dセンター内でお会いするとあって、インタビュー前から少々緊張気味……。
でも、フルモデルチェンジとなったスーパーカブ110に対する反響が大きいだけに、素朴な疑問から核心まで、色々と質問をぶつけさせていただきました。

PINKIE

登場からわずか2年でフルモデルチェンジ。その訳とは?


-現在、世界のカブタイプのバイクの開発を取りまとめていらっしゃるという今田さんの、これまでの経歴を教えてください。

 1983年に入社しまして、最初はATV(全地形対応車)をやっておりました。その後スクーターのジャンルに移り、最初に開発テストの責任者としてやったのがジャイロキャノピーという屋根付三輪車。1992年から3年半、香港に駐在し、その時まだ製造拠点がなかった中国向けモデルのハード的な不具合とか、市場の使い勝手の情報を提供するサーベイ(調査)をやらせていただきました。


今田典博
本田技術研究所 二輪R&Dセンター 
企画室 主任研究員 今田典博

 1995年に日本に帰ってきて、その頃からカブ、特にアセアンのカブタイプに携わるようになりました。2002年の125(WAVE)開発テストのLPL(Large Project Leader)代行を経て、それが終わってからタイに5年間駐在。HRSというタイの研究所(Honda R&D Southeast Asia )で現地のスクーターやカブタイプの外観チェンジなどの開発をやり、帰ってきたのが2007年。PCXにも関わりながら、2009年の最初のスーパーカブ110(JA07型)の開発責任者をやらせていただきました。今は世界中のカブタイプやスクーターといった150cc以下のコミューターのLPLをやらせていただいております。



-まず最初に、カブタイプと言われるモデルはそれこそ世界各国で生み出され、販売されていますが、ホンダ社内での開発体系はどのような仕組みなのでしょうか?

 カブタイプのみならずスクーターも、フレームとエンジンの新規開発はすべて日本の本田技術研究所二輪R&Dセンターでやっています。そして、例えば最初にモデル展開する国がタイであればそれが「コア」となり、これをベースにインドネシアやベトナムといった各国に広がるのは「派生」となります。一通りの開発が終わった後、外観チェンジなどの部分はタイのHRSをはじめとする海外研究所で行い、F.I.化などの「コア技術」開発は全て本田技術研究所二輪R&Dセンターで行なっています。デザインに関しましては、ユーザーターゲットといったリサーチは販売される現地でやっていまして、その中でお客様が求めているプライオリティですとか、要求性能といったところを整合した上で、海外研究所と本田技術研究所二輪R&Dセンターのデザイナー案の中からコンペのカタチでいくつかのデザイン候補を決め、精度を上げてひとつのモデルにして完成させています。



-日本のスーパーカブ、アセアンのDream、WAVE、BLADEといったカブタイプのバイクは、大別すると何種類くらいあるのですか?

 外装が異なるのでステーなども当然異なりますが、110系のフレーム(基本骨格)は1つです。125系のフレームは別物になります。今はカンボジアのみで生産している従来型(Dream 125)と、新規に開発したメットインスペースを設けたモデル(Supra X 125)の2つがあります。


Supra X 125

Dream 125
「ヘルム イン(ヘルメット イン)」のサブネームが付くSupra Xはアンダーボーンのカブデザインを継承しつつフルフェイスヘルメット収納が出来る画期的なモデル。ミニインプレッションはこちらで。 アセアン地域の上級モデルとして君臨したDream125。

-で、本題となる3月16日発売の新型スーパーカブ110(JA10型)について伺います。従来のスーパーカブ110は発売からまだ2年経っていません。なぜフルモデルチェンジに至ったのでしょう?

 近い将来、日本での走行騒音を含めた騒音規制が世界統一法規となる可能性があります。そうなると、EC法規をベースとしている中国からカブタイプの安いバイクが入ってくるという状況になるだろうと予想されます。そうなった時、Hondaのスーパーカブは生き残っていけるだけの価格ポテンシャルをもっているのか? ということの議論を重ねてきました。従来型カブ110もエンジンはタイ生産でしたが、エンジン含め変えられる部品を海外で作り、日本の熊本製作所で生産することも検討しましたが、中国の地場メーカーが作るモデルよりどうしてもコストは高くなってしまいます。

 その一方でタイ、ベトナム、マレーシアといった地域のDreamが生産の切替時期も迎えていました。タイに関してはエミッション規制でキャブレター仕様のDream 125は売ることができなくなってしまい、ベトナムに関しては規制の強化対応が避けられない状況でした。マレーシアには最廉価のプレスフレームのDreamが残っていましたが、この国でも新規導入される法規対応が必要になっていました。これらの国々にまとめて対応する最適な選択肢はと考えたところ、各国にあるDreamをひとまとめにして、刷新をはかるという決断をしました。


日本では大好評でも、アセアン地域では受け入れられなかったその訳は

 その時、これまで50年変わらないデザインとお伝えしてきた日本のスーパーカブ110をどうするか? まず、このモデルをアセアン各国に持っていき、ユーザーサーベイを行いました。結果、すこぶる人気がなくて……(苦笑)。このデザインはアセアンの中では受け入れられないと。もちろん、シングルシートはウケないのでロングシートを付けてもっていきました。何がダメかというと、ヘッドライトもウインカーも「丸」というところが全然ウケなくて、「なんでこんな昔っぽいデザインなんだ」と。その頃、タイのバンコクに昔のカブをレストアして乗っているクラブみたいなものがありまして、イケルんじゃないかと思ったんですが、そのタイですら圧倒的にウケなかったですね。


レンダリングル

レンダリング
新型スーパーカブ110最終段階のレンダリングスケッチ。車名はアセアン向けのDreamになっている。

 ということで、丸型ヘッドライトのデザインを共用することはできないと。各国の様々な要望を聞きながら、最終的に完成したのがDream 110になりました。

 日本市場は台数面ではフォロワーというのが現状です。丸ヘッドライトを否定された時点で従来型のデザインを継承するハナシは無くなってしまいました。私達は本当にそれでいいのか? と大山本部長(本田技研工業 専務二輪事業本部長)も交えて議論しました。研究所の上層部も皆、そう考えていました。

 しかし最終的には、スーパーカブは今のホンダを大きくした立役者で、今後はさらにグローバルな位置づけでホンダの二輪を牽引していかなければならない存在です。このような背景から、グローバルモデルとしての位置づけを鮮明にしました。


今田さん


先代モデル

先代モデル
2009年に登場した先代スーパーカブ110。従来のスーパーカブイメージを残しつつのフルモデルチェンジを行ない、日本では高い評価を受け現在でも好評なのだが……。

 もう一度お客様に買っていただけた時代に戻そうという価格帯をターゲットに、今回22万8900円という価格で提供させていただくことになりました。



-クルマだとビートルとかミニとかチンクエチェントとか、新型になっても見た目ですぐそのクルマとわかるデザインが受け入れられているようです。日本のカブ110も見た目は明らかにカブながら、モダナイズされたデザインだと思うんですが……。レトロチックだけど優れたデザインは廃れないという文化は、アセアン諸国にはまだ一般化されていないようですね。

 従来のカブ110のデザインは日本のお客様には好評でした。あのデザインが決まるまで、かなり時間かけましたからね。今回のデザインに変える決断には、最初は社内にも異論がありました。お客様の中にも最初は抵抗を持つ方もいらっしゃるかもしれません。


最新モデル

最新モデル
丸目から角目、曲線から直線基調へとデザインは大きく変わったが、誰が見ても「スーパーカブ」だと解るシルエットは不変。スーパーカブをデザインする上で最も難しくやりがいのあるところでもあろうか。