素人目にも細部まで手入れが行き届いているのがわかる。これまでの長い年月の間、大切にされてきたのだろう。見ているだけで気持ちが良くなる。
この島へ来て感じた事だがここで見かける車両はどれもキレイだ。車もバイクも大切なものとして扱われているのが見て取れる。だが本来はこうあるべきなのだろう。
時計を見ると時刻は正午をまわったところだった。
とりあえず腹も減った。何か食べようと思い売店に入った。すでに多くが売れてしまって置いてあるものは限られる。サンドイッチかハンバーガー。あとはスナック菓子が数種類。
ほぼほぼ選択の余地はない。
オレは朝食とかぶってないという理由だけでサンドイッチを手に取った。ついでにコーンスナックとコーラも。
それだけ持ってレジへ行くとレジのオバちゃんが
「Oh, Lovely. Are you a Japanese?」と話しかけてきた。
オレは「Yes. I Came from japan.」と答えたのだが・・・ちょっと待てよ。
頭にラブリーとか言ってなかったか。どういうことだ?
いや、意味がわからないわけではない。何に対して言ってるのかがわからないのだ。
オレが身に着けているものの何かを指して言っているのだろうか。
オバちゃんはまるで遊んでいる子供を見つめるような表情でさらにもう一回「Lovely.」とつぶやいた。
まさかとは思うが・・・Me? と聞くと「Yes, You are Lovely.」との返事が。
クールでもない。ナイスガイでもない。
この島ではオレはラブリーなのだ。
受け入れがたい評価ではあるがこれは喜んでおいた方がいいのか。それともこれって笑うとこ?
できれば異議を唱えたいところではあるが・・・英語で抗議なんてできねぇし。
それにオバちゃんに逆らってもロクなことにはならない。なぜならオバちゃんとは最強の生き物なのだから。そんな彼女らからして見ればオレなど赤子も同然なのだろう。
少々、納得はいかない。だが好かれてはいるようだ。ならそれでいいではないか。
オレは社交辞令的に「Thank you. I’m glad.」と心にもない返事を返して売店を出た。
昼食を食べ終え、一服しているとラジオから聞こえてきていた音声が急に慌ただしくなった。シニアクラスが始まった。マン島TT最後のレース。
改造無制限のリッターバイクに乗ったブチキレライダー本気の暴走劇の始まりだ。
スタートから10分もしないうちにヘリの音とともに最初のマシンが見えてきた。
その姿は凄まじい排気音と共に見る見るうちに迫ってくる。