おやびん道


それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第21回・赤城山麓の道


上毛三山のなかで、山岳としてもっとも名を知られているのが赤城山だ。日本百名山にもその名を連ねている。その山麓にも数本のワインディングがあり、’80年代は走り屋の間でも有名になった。というわけで、今回は赤城山麓の道について書き記すことにする。
赤い山麓の道
※赤城山周辺の観光情報とマップは赤城山ポータルサイトで。

 赤城山はカルデラの複成火山で最高峰の標高は1828m。上毛三山のなかでは最も高く周囲に広く緩やかな裾野をもつ山容も立派である。かの博徒、国定忠治が本拠を置いていたことでも知られる。『赤城の山も今宵限り…』芝居の名台詞も浮かんで来る。上州名物である、かかあ天下と空っ風、の空っ風は赤城山から吹き下ろす寒風のことだ。

 この山も春は若葉が、秋は紅葉が美しい。カルデラの内側には大沼、小沼といったカルデラ湖があり、大沼ではわかさぎ釣りも楽しめる(冬期は氷結した湖面上での穴釣りもできる)。小沼は春期のレンゲツツジの群落が美しい。また、南麓には赤城南面千本桜と呼ばれる桜の名所もあり、満開時期は観光客で賑わう。カルデラ内への連絡道路は、県道4号=前橋赤城線、県道251号=沼田赤城線、県道16号=大胡赤城線の3本がある。

 言うまでもなく、それらの道も俺は富岡にいた17、18の頃に走り、その後も何度か通ったことがある。妙義山や榛名山と比べるとその頻度は低い。地理的に遠いこともあったし、何かほかの目的があってついでに通る、ということがほとんどなかったからだ。それでも、初めて訪れたときのことは今でも覚えている。TX500を買ってからしばらく経った頃で、’73年の夏だったと思う。 

 当時はまだヘルメットの着用が義務づけられていなかったので、ノーヘルだった。ウエアもラフなもので、普通のスラックスにYシャツ。靴はモカシン。今では考えられない軽装だ。ただ、当時好きだったセーム革のグローブは着けていたように思う。コースは高崎に出てR17で前橋まで行き、県道4号で富士見村を経由して赤城山を登った。

 そしてカルデラ内にある地蔵岳をグルッとまわり、帰路は県道16号線を使って山を下った。で、そのとき、前年に発売された4輪のシビックと競争になった。後ろから追いついて来たそのシビックは結構速くて、ちょっと驚いた。また、その翌年の5月頃だったろうか、同じようなコースで赤城山に行ったとき、帰りの県道16号、大胡手前あたりのところだったと思うが、沿道にツツジの花が咲き乱れていて、その鮮やかさが印象に残った。

 上京後、バイク雑誌の仕事をするようになったわけだが、’80年代の前半から半ばにかけて、赤城山麓の道もローリング族に人気となった。例の、車の走り屋の漫画、でも赤城山麓の道は登場するが、ライダーの間では沼田側の県道251号が北面、前橋、伊勢崎側の県道の4号か16号が南面と呼ばれ(どっちがそうだったのか忘れた)、どっちのほうが面白い道か、など、ライダー間で論戦になったこともあるように記憶する。

 その頃、それを確認する意味も抱いて帰省のついでに赤城山に走りに行ったこともあるのだが、どちらも山頂に近い区間は結構タイトで、Rの小さいコーナーが連続する、という印象だった。そして、どちらもバイク乗りには面白い道であることを再確認した。

 所帯を持って、子供が出来てから、家族を車に乗せて赤城山に行ったこともある。そのときも帰省の折りで、夏の時期だった。榛名山や榛名湖ほどは観光化されてなかったが、大沼でボート遊びもしたと思う。車だったので大人しく走ったが、自然が豊かで、家族で行っても楽しい山である、と認識した。

赤城山
赤城山山麓のワインディング。冬季は凍結するので要注意。
大沼
冬はわかさぎ釣りで賑わう大沼。
シビック
1972年7月に発売された初代ホンダシビック。シビックと言えば世界を驚かせたCVCCエンジン(搭載は1973年から)で元祖エコカーのイメージが強いが、乗り手次第でかなりの走りをみせ峠の伝説も数知れず。
赤城山
赤城山から関東平野を一望。

 カルデラまでは行かないが、南麓を東西に走る国道353号線はここ10年くらいの間に何度か走った。バイク仲間とのツーリングで栃木県内から桐生に入り、大間々から渋川〜榛名山に行ったとき利用した。で、なかなか面白い道だな、と思った。観光道路的で土曜か日曜だったこともあって交通量はそれなりだったから、思いどおりのペースで走れない区間もあったがコーナリングを楽しめて景色もよく、今度は平日の交通量のないときに走ってみたいなと思った。

 赤城山のカルデラ内にはもう随分ご無沙汰なので、近いうちに行ってみたいと思う。山麓の道をすべて走破するのもいいだろうし、妙義山と榛名山も入れて、上毛三山めぐりのツーリングをするのもいいかも。



野口眞一

野口眞一
バイクに乗って40年、二輪雑誌の仕事をして30年、の55歳。若い頃からツーリングが好きで日本各地を旅してきた。現在の所有車はトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、15年乗り続けている。

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