ホンダモーターサイクルジャパン
こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/cz5Fsl-axO8」で直接ご覧ください。 シート形状やハンドル周り、足を前に出して乗るライディングポジションはスクーター的だ。

 既存のモデルにはなかったもの、という点でシリーズの中で、ホンダが呼ぶ「ニューミッドコンセプト」という表現にいちばんしっくりくるのがこのINTEGRAではなかろうか。

 見た目はビッグスクーターに見えるけれど、前後ホイールは17インチ。トランスミッションはベルトとプーリーを使った一般的なCVTではなく、VFR1200Fで採用されたDCT(デュアル クラッチ トランスミッション)。オートマチックモードとマニュアルモード(指シフト)で走れる。3兄弟の中で唯一、クラッチレバーを握って足でシフトチェンジするモデルが用意されていない。

 走りのモードや似た姿もあって「じゃあ、スクーターとどこが違うのよ」と思う人も多いだろう。結果を先に言うけれど、INTEGRAはビッグスクーターとはまるで違う乗り物である。今回、街中、高速、ワインディングを含め350km以上を走ることが出来た。そこで、このINTEGRAというバイクに新しい世界を感じた。

 シート形状やハンドル周り、足を前に出して乗るライディングポジションはスクーター的だ。やや硬めのシートに腰を下ろして、ハンドルを掴んで足を下方に伸ばすと、身長170cmの私だと両足のつま先がやっと地面に届くくらい。シリーズで基本を共有するのでここはしょうがないところか。それでも、フトモモを横移動しやすいシート形状もあって、免許取りたてホヤホヤのビギナーじゃないかぎり片足フロア、もう片足はべったりとクツ裏が地面に届くので気にならないだろう。跨ったまま両足バタバタで漕ぎたいメンドくさがり屋さんには厳しいかもしれないが、スクーターよりずっしり感もあるので、そこんところは素直に下りて押したほうが早い。

 走り出す前に、荷物をしまおうとシートを開けたら、見た目から想像したものと違い兄弟車に比べ明らかに荷室容量が小さい。シートの裏側と下部を合わせてスペースを稼ぐタイプで、スペックを調べるとNC700X/Sの21Lより6L少ない15Lだった。いつも持っているPatagoniaのワンショルダーバッグ、アトム(7L)を入れると、下側のボウルにきっちりと収まらない。だがシート裏に掘られた部分があるので、合わせで収納できた。

 キーをひねると、メーターに光が入って、「N」のマークとパーキングブレーキのランプが点灯しているのが見えた。どのモードで何速に入っていても、いったんキーをオフにするとニュートラルに戻る。これはクラッチを機械的に自分で切ることが出来ないから当然のこと。ギアが入ったままだと押せないし、入った状態でセルスタート出来てしまったら危ない。実際はブレーキを握らないとセルは動かないし、スロットル全閉じゃないと1速に入らない。「つい、うっかりして」というヒューマンエラーを防ぐためによく考えられている。停める時は必ずニュートラルに入っているのでパーキングブレーキがあるのだ。

 エンジンを始動。スクーターのコロコロした控えめな音ではなく、並列2気筒の存在を主張する音。右手の親指でDボタンを押せば、カシャンとヘルメットをしていても聞こえる音でギアが入りメーターに1速の表示が出た。これでスロットルを開ければスタート。発進はスクーター的なシームレス。だけどスクーターより出だしが格段に速い。信号からのダッシュでは並んだビッグスクーターより前に出られる。オートマチックではそこからほんの小さなショックと共にギアが勝手に切り替わって加速していく。

 これには「D」と「S」のモードがあって、最初にギアを入れた右手親指のボタンで切り替える。DモードからSモードにすると加速がキビキビ。結構意地悪にスロットルをオン/オフしたり、いろいろ試したけれど、「D」と「S」のキャラクター付けはしっかりしていて、どのシーンでもSの方が瞬発力はある。当たり前のようで実はすごいこと。ギアチェンジは単純にエンジン回転数や速度だけの判断ではなく、スロットル開度、その開く速さなど、車両の状態をセンサリングして、さらに様々な走行パターンに見合ったプログラムをしなければならない。ゆったりクルーズ状態から、いきなりガバっと右手をひねれば大きなタイムラグもなくガバっと加速。いつも適切なギアを選んでくれる。信号でストップしたら、必ず1速で待機。DCTだ、オートマチックだ、と強く意識することなく乗れることに感動して技術者達の苦労を賞賛したい気持ちになった。

 混雑した都内を抜けて東名高速道路に入る。中身の成り立ちはバイクだから、スクーターより良好なスタビリティ。私の目と鼻の間くらいに上端がくる大きなスクリーンのお陰で速度を上げても風の当たりが穏やかで快適なクルージング。完全なフラットフロアではなく、センターに適度な幅の盛り上がった部分がある。そこをふくらはぎの内側で挟みやすく適度にホールド出来るのもいい。乗り味はとにかくフラット。3兄弟の中では重めなこともあって、前後のサスペンションは比較的硬めのセット。ピッチング方向の動きが抑えられていて、ブレーキングや加速でライダーの姿勢が大きく変わらない。椅子に座っているようなスクーター的ライディングポジションでの快適性を考慮してのことだろう。長距離移動にも向いている。

 厚木から小田原厚木道路に入って、小田原からターンパイクを上がって箱根のワインディングに。驚いたのはバンク角が深いこと。感覚的にはネイキッドのNC700Sよりもあるんじゃないかと思った(違っていたらゴメンナサイ)。でタイトなワインディングも躊躇なくコーナーリング出来た。深いバンク角は、少々悪い足つき(私は気にならない)を許せてしまうだけの説得力がある。

 このシーンでオススメはオートマチックのSモードとマニュアルモード。オートマチックのSモードでも左親指で操作するギアダウンボタンを押せば、ちゃんとギアが下がって適度なエンブレが使え、立ち上がりに必要なギアを選択可能だ。ギアダウンでのクラッチの繋がりは穏やか。べらぼうなギアダウンをしようとしても、制御コンピューターの判断でそれ以上落ちないようになっている。

 個人的にはマニュアルモードが一番フィットした。連続したタイトコーナーが続く峠道ではエンジン回転数の5千回転付近からレブリミットの6千500回転の間に入れておけば立ち上がりの加速が気持ちいい。Sモード+ギアダウンでは、このままスロットルを開けながら立ち上がると自動的にギアチェンジしてしまう。それの方が効率良くて速いんだろうけど、現実は次のタイトターンが迫っていることがあって、ギアが上がり速度が伸びると、進入で減速のお仕事が忙しくなってしまう。そこをマニュアルモードでギアを固定しているとスムーズにこなせるのだ。もちろん、場合によって、レブリミットに達して上手くいかないこともあるから、その時は指でシフトアップ。タコメーターを常に見ていることは出来ないが、レブリミット前にパワーの伸びが落ちる部分があるので、それを感じたらギアを変えるといった具合で走った。

 左手人差し指でシフトアップ、親指でシフトダウンのギア操作は30分も乗っていれば気にならなくなった。このINTEGRAが採用したDCTは、コーナーの中に飛び込んでポチっとギアダウンしてもショックがほとんどなくコーナーリング中の姿勢に影響を及ぼさないことにまた感動。深くバンクしていてもゲーム感覚でシフトダウン可能だ。路面のグリップが高いサーキットで一流ライダーならまだしも、滑りやすい普通の峠道で誰でも安全にそういうことが出来てしまう。初めてDCT車に乗った時より、進化していて完成度が高くなっている。自然さに磨きがかかった。

 実際の速さは元気な400クラスにも負けるかもしれないし、びっくりするようなスポーツ性能だと言えない。だけど確実に今までのバイクにはない新しい走りがあってとても面白く楽しい。エンジンのレブリミットが低いという、人によってはモヤモヤした気持ちになる部分をDCTが見事に帳消しにしただけでなく、魅力的に思えるものに仕上がっている。DCTとのマッチングは素晴らしい。仕組みが新しくなれば、新しい楽しみ方が生まれてくる。INTEGRAはそんなバイクだ。
(試乗:濱矢文夫)

 すでに何回か紹介してきた“ニューミッドコンセプト”シリーズなのだが、ここでインテグラの開発の狙いをあらためて取り上げておこう。

『INTEGRAの開発にあたり、開発チームはお客様の視点で徹底的に議論しました。そのテーマは、「モーターサイクルの走りの楽しさにコミューターの快適性を融合し、もっとリラックスしてライディングを楽しみたい」、あるいは「コミューターでも時にはFUNライディングやツーリングを楽しみたい」という従来モデルでは飽き足らないと考えるお客様の要望にいかに応えるかでした。

 お客様を、行動的で若い心を持ち、ステータスバリューを追い求める30歳代と想定。よりお求めやすい価格と低ランニングコストで爽快さを快適に味わっていただきたいという考えのもとに、“SCOOTING MOTORCYCLE(スクーティングモーターサイクル)”を開発コンセプトとし、開発キーワードを「FUN」「EASY」「COMFORT」と定め、次の三点を目標に開発を進めました。

○環境性能に優れたクラストップの低燃費を実現しながら力強く扱いやすい出力特性とすること
○卓越した操縦安定性を実現するハンドリングを有すること
○快適装備と個性的なデザインにより所有する満足感を高めること

 これらを踏まえ、デュアル・クラッチ・トランスミッション(有段式自動変速機)の持つマニュアルモードでの走りの楽しさと、オートマチックモードでのイージーライディングの両立という特性を最大限に活かし、さらに利便性の高いラゲッジスペースの確保などコミューターの持つ快適性を高次元で融合させることにより、新しいモーターサイクルライフを創造し、お客様に提案したいと考えました。そして、その商品開発プロセスは常に環境を最重要課題とし、地球的視野に立ったグローバルな視点と各国の地域特性の双方を、お客様視点で考慮し、「お客様の喜びの最大化」を目指して行いました。

 優れたハンドリング特性から得られるモーターサイクル本来の操る楽しさや、オートマチックでありながら胸のすくような力強いダイレクト感のある走り味。収納など優れた使い勝手に加え、誰もが憧れる機能美に裏付けられたスタイリング。さらにはパッセンジャーのより快適な居住性などに開発チームの思いを込めています。』(※以上、ホンダのPRESS INFORMATIONより)

カラー設定は3色。パールサンビームホワイト、キャンディーグレイスフルレッド-U、そして下のカスタマイズ・モデルの写真にあるパールコスミックブラック。
写真のライダーの身長は176cm。オプションで用意されるローシートに変更すればシート高は20mmダウンの755mmになる。
 やはりインテグラの一番の特徴はスタイリングだ。エンジンやフレーム周りは、他の2兄弟と基本的には同じなのだから。開発キーワードの“SCOOTING MOTORCYCLE”の「モーターサイクル」の部分がエンジン、フレーム、そして足周り。「スクーティング」の部分が、その上に乗る一見スクーター風のボディ、ということになる。

 マルチリフレクターヘッドライトと被視認性の高いワイドサイズのウインカーをV字型に組み合わせるとともに防風効果に優れた大型スクリーンを採用した大きなフロントフェアリング。そしてステップスルーをイメージさせるステップ周り。実際には“センタートンネル”が結構高いので、乗車時にはスクーターの様にではなく、バイクの様に後ろから足を回して乗る方が自然だが。また、スクーター風のデザインとしたため、NC700XとNC700Sのようなラゲッジスペースは取れず、インテグラの場合はフロントシート下にちょっとしたトランクが用意されている。

 このスタイリングを除けば、あとはNC700XやNC700Sと同じだ。ということはその気になれば同じようなスポーツライディングも可能ということ。いや、現時点ではインテグラだけの特徴がもう一つあった。

 NC700XやNC700Sにも6月にはタイプ設定される予定といわれている“デュアル・クラッチ・トランスミッション”を標準で採用しているのがインテグラなのだ。VFR1200Fに搭載して話題を呼んだ“デュアル・クラッチ・トランスミッション”をベースに、油圧回路のシンプル化を図るなど、軽量化・コンパクト化をさらに進めた第2世代のデュアル・クラッチ・トランスミッションを採用している。ソフト面でも、従来はATモード中にシフトダウン、シフトアップ操作を行うと自動的にMTモードに切り替わっていたものを、シフトダウン、シフトアップ後は自動的にATモードへと復帰する機能に変更している。コンバインドABSを標準で装備するのもインテグラのみの特徴だ。

“ニューミッドコンセプト”シリーズに共通する、60/55WのH4バルブ1灯を組み込んだV字型マルチリフレクターヘッドライトを採用したフロントフェイス。被視認性の高いワイドなV字型ウインカーとともにホンダの“スポーツモデルフェイス”をイメージさせる。フロントカウルのエアインテークは優れた冷却性とウインドプロテクションに効果を発揮。 フル液晶タイプのメーターは“ニューミッドコンセプト”シリーズを通して共通のデザインを採用。インテグラではABSやパーキングブレーキのコーションランプが追加されている。
足周りは“ニューミッドコンセプト”シリーズ3兄弟すべて基本的に共通スペックだ。フロント、インナーチューブ径φ41mmの正立テレスコピックサス(クッションストローク120mm)。リアに、プロリンクサスとH.M.A.S(Honda Multi-Action System)ダンパーの組み合わせ。75mm×35mmサイズの角型断面パイプで構成されるスイングアームも長さ570mmまで同一。高圧(High Pressure)ダイキャスト製のアルミホイール、新デザインのI(アイ)字断面形状のY字型スポークのデザインも共通で採用されている。フロントφ320mm+2ピストンキャリパー、リアφ240mm+シングルピストンキャリパー、1枚のステンレス鋼から前後両方のディスクをプレスで抜き取るユニークな製法もシリーズを通して共通だ。
グリップ周りに配置された“デュアル・クラッチ・トランスミッション”のコントロールスイッチ類。右のグリップホルダー部の手前側につく「S-D-N」スイッチで、スポーティー走行に適した「Sモード」、一般走行用の「Dモード」そして「ニュートラル」を選択する。ホルダーの前側には「MT(マニュアルシフト)と「AT(オートマチック)」を切り替えるボタン。そして左グリップホルダー部の手前側にある「-(マイナス)」ボタンでシフトダウン、前側にある「+」ボタンでシフトアップを行う。
こちらは、インテグラのカスタマイズ・コンセプトモデル。ホンダ純正のトップケースやサイドケースなどがスタンバイ。インテグラ用カスタマイズパーツは、ホンダモーターサイクルジャパンへカタログ請求するか、ショップにてお問い合わせを。http://www.honda.co.jp/bike-customize/
 シリンダー前傾角を62度と深くすることで車体のレイアウトに自由度が得られる軽量コンパクトな新型水冷・4ストローク・OHC・4バルブの並列2気筒669ccエンジンをゼロから開発。理想的な燃焼室形状や最適なバルブタイミングとすることでより安定した燃焼を実現。ピストンには樹脂コーティングを施し、摩擦を低減するローラー式のロッカーアームに二輪車初の軽量アルミ素材を採用している。

 270度位相クランクを採用。不等間隔爆発と1軸1次バランサーの採用とあいまってツインエンジンの振動を低減しながら鼓動感を残すセッティングとしている。吸気経路は、2気筒分を同一経路として、あえて吸入行程を干渉させ、コントロールされた燃焼タイミングの変化を実現させることができる“ヘッド内分岐吸気ポートレイアウト”を取り入れた。また、1本のカムシャフトで2気筒相互のバルブタイミングを変えるため、2種類のバルブタイミングを設定している。エンジン始動時にキャタライザー(三元触媒)を早期活性化させるため、キャタライザーをエキゾーストポートの直下に配置して、燃焼ガスの温度が下がらないうちに触媒に通すようにしている。

“デュアル・クラッチ・トランスミッション”はVFR1200Fの初代に対して、油圧回路のシンプル化を図り、油圧回路長を約40%も短縮。また、プライマリードリブンギアを2つのクラッチで挟み込むサンドイッチ構造としてメインシャフトの短縮化を図っている。さらに、より応答性が高く、限りなくシームレスな特性を目指して、右側カバーにリニアソレノイドバルブを内蔵している。

「ATモード」と「MTモード」が選択できるのは同一、さらに「ATモード」には一般走行用の「Dモード」とスポーティな走行用の「Sモード」を設定しているのも従来通りだが、「ATモード」中にライダーが「シフトダウン」または「シフトアップ」スイッチを操作した場合、従来は「MTモード」に切り替わっていたものを、そのまま次のボタン入力がなければ自動的に「ATモード」へと復帰するように変更している。

 車体周りでは、重量配分を50:50と最適化し軽快さと高い旋回性能を実現。着座位置に合わせたハンドルは絞り角21度、下げ角20度という自然なポジションに設定。インテグラではコンバインドABSが標準設定となる。

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■INTEGRA主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,195×790×1,440mm、ホイールベース1,525mm、最低地上高:135mm、シート高:775mm、車両重量:238kg、燃料タンク容量:14L●水冷4ストローク直列2気筒SOHC4バルブ、排気量:669cc、ボア×ストローク:73.0×80.0mm、圧縮比:10.7、燃料供給装置:PGM-FI、点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火、始動方式:セル、潤滑方式:圧送飛沫併用式、最高出力:37kW(50PS)/6,250rpm、最大トルク:61N・m(6.2kgf・m)/4,750rpm●電子式6段変速、1速:2.666、2速:1.904、3速:1.454、4速:1.200、5速:1.033、6速0.837、一次減速比:1.921、二次減速比:2.437●フレーム形式:ダイヤモンド、サスペンション前:φ41mmテレスコピック、クッションストローク120mm、後:スイングアーム、プロリンク、キャスター/トレール:27°00′/110mm、ブレーキ:前φ320mシングルディスク、後φ240mmシングルディスク、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後160/60ZR17M/C 69W●価格:808,500円


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