ホンダドリーム世田谷

VTRを購入! 納車までの1週間が、永遠に感じたのでした。

 やっぱりホンダVTRしかない! と心に決めてからは、「どこに行こうかな?」とか「自分に似合うかな?」とかいろんなことを考えていました。そしてとうとうバイク購入の日が……。

 ホンダドリームに行くのも、前回より足取りが軽いです! 早速購入手続きをしたのですが、けっこういろんな手続きがあるんだなと思いました。お金を払って商品を受け取って帰る、というわけにはいかないもんですね(笑)。 

 白畑店長に「オプションはどうしますか?」と尋ねられました。オプションと言ってもハーフカウルからエンジンガードまで色々あって、たくさん説明していただいたのですがとりあえずガラスコーティングのみに。オプションはいつでも付けられるから、実際に乗るようになって、欲しいと思ったものがあればその時に購入しようと思います。

 そういえば、バイクの購入をしようとしているのに、自分はまだヘルメットを持っていない! ということで、ホンダドリームの2階にある用品コーナーでヘルメットを物色。フルフェイスにするか、ジェットにするか迷ったのですが、最終的にはHONDAのJS-3Bというジェットにすることに。事前に自分でも色々と調べたのですが、やっぱりヘルメットは頭を守る重要な用品なので、ちゃんとしたものを購入することにしました。

 自賠責保険や任意保険、初回点検のことなどを前回と同様詳しく丁寧に説明していただいた白畑店長には本当に感謝しています。きっとこれからもお世話になると思うので、今後もよろしくお願いします!

ドリーム世田谷の白畑店長にはホントにお世話になりました。訳の分からない質問ばかりでスミマセンでした! これからもいろいろヨロシクお願いします。 ホンダVTR B-Styleに決めた。ブラックのカラーリングに真っ赤のフレームが際立って、一目で気に入りました。

 一週間後に納車の運びとなったのですが、待っているその一週間は本当に長くて、まるで永遠のようにも思えました。そして待望の当日。バイクは白畑店長が直接家まで届けてくれました。お店で見たVTRと目の前にあるVTRは、当たり前だけどまったく同じバイクなのですが、やっぱり「自分のバイク」というのは何かちょっと違うというか感慨深いというかなんというか……一言では表現できませんね。あまりにもピカピカで、すぐそこの駐車場まで乗っていくのもビビってしまい、思わず押して行っちゃいました(笑)。それくらい綺麗で本当に格好よかったんです! でも同時に、これから自分がこれに乗ると思うと楽しみよりもやっぱり緊張のほうが大きくなってしまいました。

 

「自分のバイク」が手に入ったのに、怖くて乗れないんです……。助けて、分かる人!

 普通自動二輪の教習では公道を走ることはなく、僕は正直なところいきなり公道を走ることに不安を感じていました。学科教習は勿論終えているものの、公道をいきなり走って標識をしっかり見ることができるかどうかもわからないし、交差点の真ん中でエンストしたらどうしようとか、たくさんの不安があったのです。

 せっかく納車されたのに、なかなかバイクに乗らない僕の不安を察してか、父が僕のために公道の練習コースを作ってくれました。プリントアウトされた地図にはマーカーが引かれていて、比較的通行量が少なく、一時停止や坂道発進があるルートでした。これがAコース。Aコース以外にも別のマーカーが引いてあって、それがBコース。Bコースは山手通りや国道1号線などを少し走るようになっています。Aコースが完璧に走れるようになったと思ったら、父にクルマで後ろをついてきてもらい、OKが出たらBコースをトライ。同じように、BコースのOKも出たら好きなところを走ってもいいそうです。早いところクリアしてやるぞ! と意気込みながら、初めての公道ライディングに向かいました。

 しかし結果は散々なもの……。教習所を卒業してから半年以上が経過していたこともあって、ヒドイもんでした。だいたい、まともに発進ができないのです! 半クラッチの感覚を完全に忘れてしまっていて、すぐにエンスト。信号待ちでまたエンスト。平らな道を30キロぐらいで走っているだけなのに、なぜか車体はグラグラ。その上、標識を見なければならないし、歩行者や他のクルマにも注意しなきゃいけないし、キョロキョロしてひどい有様でした。結局15分位走って即退散。自分の部屋に戻ると全身に痛みが……。どうやら緊張して体中ガッチガチに力が入っていたらしい。どっと疲れてしまいました。

 初めて公道を走って自分の運転の下手さと不安定さをイヤという程味わった僕は、それ以降3日もバイクから遠ざかってしまいました。自分がこんなにもバイクに乗れなくなっていることがショックだったのもあるけれど、なによりも公道を走ることが怖くなってしまったのです。

 その原因は主に発進にありました。信号待ちの間はずっと「エンストしないようにしなきゃ、エンストしないようにしなきゃ」と考えていて緊張しっぱなし。気を取り直してその後も3回ほど走りましたが、ちょっとうまくなったかなと思うとまたエンスト。さらに、ちょっとした右左折の際にどうしても膨らんでしまい、センターラインをオーバーしそうになることもしばしば。事故や転倒が起きなかったのが不思議なほどです(泣)。

 このままではバイク自体も嫌いになってしまうかもしれない、……そう思って父に泣きついたところ、バイクの先生(?)を紹介してもらうことになりました。

ジャーナリストとして大活躍している(WEBミスター・バイクでもお馴染みですね)松井 勉さんが先生として登場。とっても分かり易い教え方です。

ジャーナリストとして大活躍している(WEBミスター・バイクでもお馴染みですね)松井 勉さんが先生として登場。とっても分かり易い教え方です。

 先生をしていただいたのは松井 勉さん。松井さんは一目見ただけで「うわぁバイク乗ってそう!」という感じの人でした(笑)。教えていただく前に、ほんの一瞬僕のバイクに乗ったのですが、体とバイクがひとつのかたまりになっているよう……とにかくものすごくカッコよかったのです。こんな風に乗れたらいいなあと素直に思ってしまいました。

 早速、僕がどうしてもできない半クラッチと発進について教えていただくことに。
 
:どうしても発進の時に焦っちゃってエンストしちゃうんです。
松井さん:まずクラッチを握るときはどうやってる?

:どうやってるって……こんなふうに指4本でクラッチレバー全体を握ってます。
松井さん:じゃあ、無理のない範囲でクラッチレバーの外側を握ってごらん。

:あ! 簡単に動きますね!
松井さん:クラッチレバーはテコの原理だから、支点、ピボットなんていうけど、根元に近い内側のほうは作動力が必要になるから重たくなるし、小さな可動距離でクラッチがつながってしまう。だからクラッチレバーの支点から遠い外側のほうが、指の力は少なくてすむし、操作範囲も大きくなるから、クラッチ操作で駆動が伝わる様子がわかりやすい。

クラッチの握り方だって、「なるほど!」なのです。テコの原理なんて考えもしなかったよ。4本指で握るか、2本でもオッケーなんだ、とか……。ブレーキレバーの握り方や位置も理解できた。

:なるほど……。
松井さん:そのレバーの性格を知って、馴れてしまえばもう簡単。つまり今はレバー操作が重くてつながる場所がシビアな所を握って運転しているんだ。それに発進の苦手意識はいろいろな事を全部一気にやろうとしているからだと思うよ。

:全部とは?(笑)
松井さん:発進の時、クラッチ操作とアクセル操作、そして動き出したらシフトアップのことまで考えている。しかも今はシビアなクラッチレバーの位置で操作しているから、エンストすることもあるし、エンストしたくないからついついアクセルを開けてしまう。そこでクラッチがポンとつながれば車体は急加速してしまうし……。右手も左手もメいっぱいなんだね。250クラスのバイクなら、平地でローならアイドリングのままでもクラッチをそろりとつなげば、ほら、簡単に動くでしょ。

 アイドリング状態でクラッチをつないでいきながらの発進。僕自身、アクセルを一度吹かして4000回転位にしてから半クラッチで発進という流れしか知らなかったので、このアイドリングでの発進に最初は苦戦。でも、慣れてくるとなるほどアイドリングのまま走れるように。バイクが動き出したらクラッチを慎重につなげると驚くくらいしっかり走れます。

松井さん:そうそう! 動き出したら少しアクセルを開けてあげればいいんだよ。
:なるほど! 確かに今までは全部一気にやってました。

松井さん:一気にやるのは僕でも結構難しいよ(笑)。確かに教習所だとこういうことは教えてもらえないもんね。
:そうですね(笑)。で、信号待ちの時はどうすればいいんですか?

松井さん:信号待ちの時、ギアはNに入れておくと玄人っぽいかもね(笑)。そろそろ青になるかな~って時にローにシフト、バイクが動かないようにリアブレーキを踏んで置いて、クラッチを少しずつ繋いでエンジンの音を聞くんだ。クラッチが繋がった時にエンジンの音が少し変わるからそこでキープ。後は青になったらリアブレーキを外して、動き出してクラッチから指が離せる状態になったら、右手を捻る。アクセルを開けるのは最後でいいんだ。
:その方法なら僕でもできそうです!

アイドリングだけでもバイクは動く、進む……らしい……。初めは上手く出来なかった。エンストばかり。で、どうしてもアクセルを煽ってしまう。でも、何回も何回もやっているうちに(先生、ヘタくそでスミマセン!)、出来た! クラッチの位置の調整や、ブレーキレバーの角度の調整なども出来るんですね。初めて知った。

 
ここで松井先生が小さな六角レンチを持ってきた。どうもクラッチの位置の調節らしい。ライダーは、こうやってクラッチを自分好みの位置にするそうです。知らなかった(汗)。レバーの角度を少し変えるだけで、びっくりするくらい扱い易くなりました。

松井さん:あとは何かあるかな?
:街を走っていて、標識を見逃していないかなとか不安になるんです。

松井さん:それはずばり視線だね。
:視線ですか……実は教習所に行っているとき、教官にずっと視線について言われていたんです。

松井さん:視線が前に向けば視界は広がるし、姿勢も安定するからね。右左折の時は曲がり角を見るんじゃなくて、曲がり角の先を見るようにすると自然にバイクは曲がってくれるよ。メーターなんか見てない? メーターにはバイクの上手な走り方なんて何も書いてないからね(笑)。
:はい! 意識してやってみます!
 

教わったことを実践。いよいよ公道に出ています。

 そしてとうとう公道へ。松井さんが先導してくれるとのことでしたが正直不安でした。

 まずは発進。おお! うまくいった! いつもよりずっとスムーズに発進することができました。その後もなんとか松井さんの後ろについていこうとしますが、距離があいてしまいます。どうしてもアクセルを開けることにためらいがあって、車間距離があいてしまうのです。途中の信号で松井さんに「もっと開けていいんだよ!」とのアドバイスをいただき少し勇気が湧いて来ました。が! ここでなんとエンスト。完全に調子に乗っていました。

 油断は禁物ですね。肝に銘じようと思います。

松井さん:とりあえず一周走ってみてどうだったかな?
:発進の時アタフタしなくなりました! あと、視線を前にするだけで一気に色々なものが目に入ってきた気がします。

松井さん:もう少しスピードをあげてみよう。それから、ミラーで見ているとどうやら右カーブが苦手みたいだから意識してみてね。
:はい! 頑張ります!

松井 勉さんに先導してもらって、いよいよ公道へ。そんなに恐いの? って思うかもしれないけれど、恐いんです。「メーターを見ても上手な走り方なんて書いてないよ」っていわれても、ついついメーター見ちゃうし……。右コーナーでは膨らんじゃうし……。

 
 2周目は先程よりもスピードを出せたような気がします。少し長めのストレートでふとメーターをみると55キロ! おそらく人生最高速です(笑)。一度走った道だったので少し余裕ができたのか、今度はエンストすることなく完走。更にもう一周、松井さんに一緒に走って頂きました。

松井さん:最初よりも全然フラフラしなくなったし、全体的に走りに安定感が出てきたと思うよ。
:ホントですか!? 嬉しいです!

松井さん:ただひとつだけ言うとすれば、やっぱり右カーブの時に若干膨らんじゃうね。何故だかわかる?
:うーん……速度が速いからですか?

松井さん:今の乗り方では速すぎるんだね。でも、今はバイクが自然に曲がろうとする運動性をライダーが抑えてしまっていると思うね。アクセル操作をすることに意識が集中している分、肩から伸びている右腕全体に力が入っている。すると曲がろうとして寝かしはじめた車体に追従して切れるフロントタイヤの動きを抑えてしまうんだ。それが今、右カーブで曲がりにくい原因だと思う。
 自転車で実験すると分かるけど、角を曲がろうとする時、ハンドルを持つ両腕全体にぎゅっと力を入れるとすごく曲がりにくくなる。それと同じだね。
 コーナーで曲がるとき、両腕とも肩、肘、手首を力んで固めず、バイクが自然に曲がろうとする動きを邪魔しないようにすることが大切なんだ。バイクの場合、クラッチやブレーキ、アクセルの操作などがあるから、ついつい腕に力が入りがち。右カーブではアクセルを握ってるからどうしても肘が曲がらずに腕が伸びるから特になんだ。だから腕全体がまっすぐなって力が入りにくいようなグリップの持ち方も一つのヒントになる。
 
:なるほど。ではどうすればいいでしょうか?
松井さん:ハンドルグリップの握り方だね。肘を内側に絞らず、自分の胸の前に大きなボールを抱えるように外側からグリップに手を添える感覚、簡単な方法としては、バイクの横に立って、アクセルグリップをドアノブを回すむような感じで握り、グリップを握ったままバイクに跨がると、自然に右腕が曲がったポジションになる。
 バイクに跨がってまっすぐグリップに腕を伸ばしたときと比べると、手首の角度がグリップを外側から45度ぐらいの角度になっていると思う。小指、薬指、中指と掌で包み込むようにグリップをもてば、肩、肘、手首に余裕が出てもっと安定すると思うよ。
 この状態だとアクセルを全く開けていない状態から全開まで肘の高さを変えずに開けられる。肘から先を回す感じになるでしょ。グリップを直角に近い角度で持ちアクセルを手首の可動範囲だけで捻ると、全開まで回せないし、回そうとすると肘を下にグッと落とさないといけないし、肩がハンドルに近づいて、アクセルを開けるだけで上半身全体がうごいてしまうんだ。

もっともっと練習して、ツーリングへ行きたいなぁ。

もっともっと練習して、ツーリングへ行きたいなぁ。

:ホントだ!
松井さん:まぁとにかくうまくなるためには走ること(と馴れること)が一番! 走っているうちに気づくこともあると思うし、クラッチの繋がる場所とかは慣れが大事だしね。また気になることがあったら気軽に聞いて下さい。夏にはツーリングに行こう!
:はい! 今日は本当にありがとうございました!

 松井さんに教えていただいた帰りに、早速父の指定コースを走ってみると、前とは見える景色が全く違ってびっくりしました。発進に不安が無くなったことで落ち着いて運転できるようになったし、視線が上がったことで次にすることが早く分かるので対応しやすい。走り方を大きく変えたわけではないのに、こんなに違うとは……松井先生恐るべしです(笑)。

 その後も何回か乗りましたが、コースに慣れたこともあって今では余裕を持って走ることができるようになりました。教習所で教わることはあくまでバイクに乗る上で基本的なこと、あとは実際に自分でたくさん乗って経験を重ね、バイクに乗るスキルを自ら学んでいくということが分かりました。とにかく今は早く次のコースに進んで、「親父の免許証」をとって、自分の好きなところに自分のバイクで行ってみたいです! 教習所で初めてバイクに乗った時の楽しさが蘇って来ました。

(文・“息子”渡辺志門) 
 

父より──“あの時”とは違うけれど、これが僕なりの「親父の免許証」。

 正直なところ、バイクを購入すること自体たいしたことではなかった。決して安い買い物ではないけれど、クルマのような「残価設定ローン」に助けられたおかげもあります(笑)。お金の話なら、任意保険料のほうが驚いた。17歳で年間9万円強。冷静に考えれば、そりゃそうだろうな、とも思う。免許を取ってから、ようやく生まれて初めて公道を走る人間にかける保険なのだから。

 父親として、心配のすべてはそこにあった。クルマなら助手席に乗ってあーだこーだ教えることもできるが、バイクはそういうわけにいかない。生まれて初めての公道走行でさえ、走り出したら最後、戻ってくるまでたったひとりで重量級の緊張と責任を背負ったまま運転しなくてはならない。自分はバイク経験があるので、それでもある程度の予想はついたが、母親は本当に気が気ではなかったと思う。

「残価設定ローン」にサイン。バイクが息子の元にやってくる。『父と息子とバイク』の第2章は、ここから始まるのかもしれない。秋には一緒にツーリングへ行こうか。

「残価設定ローン」にサイン。バイクが息子の元にやってくる。『父と息子とバイク』の第2章は、ここから始まるのかもしれない。秋には一緒にツーリングへ行こうか。

 父親として何ができるのか。ない知恵を絞って思いついたのは、走行ルートの設定だった。自宅の周りの地図をプリントアウトしてしばし眺める。そして、信号のある交差点、信号のない交差点、坂道発進のあるところ、下りのコーナーがあるところ、横断歩道のあるところなど、できるだけ多くのシチュエーションが盛り込めて、なおかつ交通量も歩行者もそれほど多くない道を選んでラインマーカーで線を引いて、ひとつのループを作った。まずはここを右回り、左回りして、自信がついたら自分が後ろからクルマで付いていき、きちんと走れていれば合格。

 次のループは山手通りや国道1号、工事箇所、バスレーン、駅前などを通過するもの。同じように慣れるまで走らせて、最後は自分の目でチェックする。それで大丈夫だと思えば、後は好きなところへ行けばいい。BOSSの時とは少し違うけれど、これが自分の「親父の免許証」。

 BOSS、あの頃は「めんどくさいなあ」なんて言ってごめんなさい。ようやく貴方の気持ちが分かりました。ありがとう。

(文・“父”渡辺慎太郎)



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