MBHCC A-7

みなさま、いかがお過ごしですか?
うちの娘は今月から、二輪の免許を取りに行っているのですが、楽しみ半分、心配半分……。
でも、免許が取れたら、どこかへ母娘ツーリングなんかもいいなあ~~、なんて思っています。
バイクに乗りたがる娘を見ていると、私が創刊間もない女性バイク雑誌『レディスバイク』の編集部員をしていた頃をふと思い出しました。
当時は、毎月のように発売されるニューモデルに乗って、全国各地へツーリング取材に出かけたものです。なんだかついこの間みたいに思えますが、あれから、もう四半世紀も経ってしまったんですよね……。
そういえば、あの頃はバイクブームで、休日になるとツーリングライダーがたくさん走っていたものです。あ~~、ほんとに、懐かしいなあ~~。

さてさて、『ミスター・バイク』で長年連載してきた「一瞬の真実」シリーズ。私がこの中で取り上げた「愛媛白バイ事件」は、テレビでも同時に特集されていたので、ご記憶の方も多いことでしょう。
事故発生から8年目を迎えるこの事件、実は今も裁判が続いているのです。
今回は、この事件の高裁判決結果をレポートすることにします。
この国の司法って、本当にこれでいいのかと、首をかしげたくなる事件です。


■『愛媛白バイ衝突事件』 ついに最高裁へ!

 2012年5月10日、高松高等裁判所で、愛媛白バイ衝突事件の国賠訴訟判決が言い渡されました。
金馬(こんま)健二裁判長は、

「原告の男性が白バイの通過を待って右折していれば事故は避けられた。白バイに過失があったとは言い難い」
として、原告側の山本少年に9割の過失があったと認定し、77万円の支払いを求めました。

 原告側は、「なぜ、体験したことをそのまま言ってきたのに伝わらないのか。全く事実と異なる。納得できない」と主張。判決後、記者会見に応じた原告側代理人の水口晃弁護士も、
「緊急走行なら右折車や背後の車両を確認する必要もなく、なにをしてもいいのか。むちゃくちゃだ」
と憤りをあらわにし、判決を痛烈に批判しました。

 この事故は、2004年、愛媛県松山市の三叉路交差点で発生しました。

 250ccのスクーターに乗っていて足などを骨折するなどの重傷を負った山本少年(事故当時16歳)は、当初から、
「自分は右折するため足をついて止まっていただけ。前には右折待ちの車が停止していたが、その車が右折した直後、前から白いもの(白バイ)がぶつかってきた」

と主張していました。ところが、その証言は無視され、一時は「保護観察処分」(有罪)を言い渡されてしまったのです。

 この処分に納得できなかった山本少年の両親は、2週間以内に高松高裁に抗告の手続きをとり、その訴えを理解した高裁は、再び松山の家庭裁判所に事件を差し戻し。結果的に、松山家裁は、
「警察官等捜査関係者作成の供述調書のみに基づいて非行事実を認定することは、少年側に、裁判所の中立性ないし公正さに対する疑念を抱かせかねないから、原裁判所の審判手続きは、手続きの適正さを著しく欠いており、原決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反があるといわざるを得ない」
と警察捜査を厳しく批判した上で、山本少年の処分(有罪)を取り消していました。

 一方的に容疑者扱いされ、苦痛を受けた山本少年は、その後、白バイ隊員と愛媛県、国を相手に、慰謝料など約350万円を求めて国家賠償請求訴訟を起こしました。

 一方、訴えられた愛媛県や国は、「白バイ隊員には過失はなかった」と主張し、逆に山本少年側に治療費などを求めて反訴。双方の言い分は真っ向から対立したまま、この裁判は続いていたのでした。

 事故車の破損状況をみれば、白バイがどれほどの衝撃をスクーターに与えたのかがよくわかるでしょう。山本少年が乗っていたスクーターのフロントフォークは折れ、タイヤは完全に外れています。もし、ほんの少しでも衝突箇所がずれていたら、最悪の結果になっていたかもしれません。

 実は、この事故には、一部始終を目撃していた人がいました。現場のすぐ前にある青果店の中にいた店主は、テレビのインタビューにも名前と顔を公表して、次のようにはっきりと証言していました。

「白バイのサイレンがなったので、店の前に出てみると、交差点の中央に右折しようとしている車が1台止まっていました。で、その後ろに単車(スクーター)が走ってきて止まったんです。白バイが赤ランプを点滅させて走ってきているのに、前の車は急に右折していった。その直後、取り残された単車に白バイがすごい勢いで衝突。単車は人が乗ったまま相当後ろへ飛ばされ、白バイの運転者は宙を飛んで進行方向へ落下しました。衝突前ですか? 単車の少年は足をついて止まってましたよ。それは間違いありません」

 この証言は、警察、検察の調書にもはっきり記されていました。

 ところが、愛媛県警は山本少年が停止していたことは認めようとせず、あくまでも右折中に白バイにぶつかったという事故状況を作り上げたのです。

 後でわかったことですが、愛媛県警は実況見分調書の「総括捜査報告書」の中に、目撃者の商店主と山本少年の家族は『仕事を通じて面識がある』と虚偽の記載をし、その上で、『目撃者の供述の信憑性は乏しい』とまで書いていたのです。

 私・柳原三佳は、数多くの交通事件を取材してきましたが、捜査報告書にここまであからさまな虚偽を記載されたケースも珍しいでしょう。


愛媛白バイ衝突事件

愛媛白バイ衝突事件
衝突した白バイと山本少年の250スクーター。スクーターの破損を見れば衝突時の衝撃の大きさは一目瞭然。山本少年は事故直後から、「僕は右折待ちで、足をついて止まっていただけ」と主張しているのだが……

新聞記事

新聞記事

新聞記事

新聞記事

新聞記事
裁判の結果を伝える2012年5月11日の各新聞記事。

 被害に遭った少年の母・山本純子さんは、こう訴えます。

「白バイ隊員はなぜ直近に至るまで対向走行してくる息子に気付く事が出来なかったのか? 衝突直前の状態は詳細に説明できるのに、右折車の存在についてだけは「記憶にない、覚えていない」と曖昧な証言をしている。そんなことがまかり通るのでしょうか。厳しい訓練を受け、白バイ隊員となったはずの警察官が、このような曖昧な証言をし、保身のため、組織を守るために息子を加害者に作り上げていったのです。本当に恐ろしいことが起こっています」

 5月15日、山本さんは最高裁に上告することを正式に決めました。

 事故から8年……、愛媛県警との理不尽な闘いは、まだ続いています。

 愛媛白バイ事件については、柳原三佳のホームページhttp://www.mika-y.com/で、これまでに放送されたテレビでの特集番組を動画で配信中です。ご存じない方は、ぜひご覧ください。現場検証時の被害者のお母さんと愛媛県警の激しいやり取りが収録されています。
●http://www.mika-y.com/info/yamamoto.html

 また、山本少年の母親のブログ
「愛媛の白バイ事故・・母ですhttp://blogs.yahoo.co.jp/toshikazu2355/199002.html

 そして、同様の被害を受けている「高知白バイ事件」の支援者によるブログにも、「愛媛白バイ事件」についての経緯や裁判記録等が全て紹介されているので必見です。
http://blogs.yahoo.co.jp/littlemonky737

 最高裁の結果は、またこのコーナーで報告させていただきます。

(柳原三佳)


遺品
*私の新刊『遺品~あなたを失った代わりに』を、WEBミスターバイクで取り上げていただきました。
これまでミスター・バイクで交通事故連載「一瞬の真実」を読んでくださっていた方なら、「あ、このご遺族はあの事件だな?」とお分かりになると思います。
事故から長い年月が過ぎても、心の中の宝物はずっと色あせずに遺っているのですよね……。
ぜひ読んでみてくださいね。


柳原三佳
柳原三佳
(やなぎはらみか)

1963年京都市生まれ。交通事故、司法問題等を中心に執筆。「週刊朝日」「ミスターバイク」などに連載した告発ルポは自賠責制度改定の大きな契機に。また、2004年からは死因究明問題の取材にも力を入れ、犯罪捜査の根幹に一石を投じた。主な著書に『遺品~あなたを失った代わりに』(晶文社)、『これでいいのか自動車保険』(朝日新聞社)、『死因究明~葬られた真実』『巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語』(講談社)、『焼かれる前に語れ』(WAVE出版)、『交通事故被害者は二度泣かされる』(リベルタ出版)、『自動車保険の落とし穴』(朝日新聞出版)、『交通事故鑑定人』(角川書店)、「裁判官を信じるな」(宝島社)、『交通事故の被害者になったら』(インシデンツ)など多数。

●柳原三佳のホームページ
http://www.mika-y.com/

●柳原三佳のブログ
http://mikay.blog44.fc2.com/

●柳原三佳の著書紹介
(amazonにリンクしています)
●柳原三佳への問い合わせはこちらから


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