バイクの英語

第23回 Fiddle Sticks
(フィドルスティックス)

 あぁ!クソッ! なんてことは日常的にたくさんあって、でもそんなことを乗り越えて毎日の生活をしているわけ。

 最近のそんな出来事は、キャブの整備をしていてインマニからエンジンのほうへネジをコロンと落っことしちゃった時。伸縮マグネット棒を差し込んでネジを拾い、事なきを得ましたが、そのネジが何だか上手い具合に半開きのバルブとの間に挟まっちゃって取れないなんてこともありますよね。以前、大先輩がそんなことになって、一体どうするのかと思いきや伸縮マグネット棒をネジにくっつけたまま、セルを回してバルブを動かしました。いやー、アレは賭けですね。だってマグネットにくっつかずに中にコロンって入っちゃう可能性もあるもん。特にダンドラエンジンはインマニが上向いてるから、キャブを外したらすぐにフタをした方がいいと思います。

 他にはヤフオクかな。ちょっと旧いバイクをこねくり回したりする人にとってヤフオクは強い味方ですが、ま、失敗も多いわけで。売る時はとにかく相手に嫌な思いをさせないようにと思って僕は細かく細かく書くようにしてるけれど、みんながそうじゃないし、そもそも人によって気にする程度がまちまちですもん。

 この前買ったのはあるバイクの「純正ミラー左右セット」。写真はあんまり鮮明じゃなかったし、説明も簡素なもので「あとは写真で判断してください」というありがちなものだったけど、だってミラーだもん、そんなに悪くなりようがないじゃん! 多少のキズがあってもかまわないと思い入札&落札。届いてみてビックリ、車体につけるネジ面がサビサビで、ロックナットも固着。そしてミラーの鏡面には無数のサビ(そんなことってあるの!?)、さらにミラーの裏面はガリ傷だらけ。えーっ! 写真のものとベツモンじゃないの?? と思って改めてオークションページを見たら、不鮮明な写真をよくよく見ると確かにそれぞれの不具合のヒントは隠されている。あぁチクショウメ……悔しいから1時間ぐらいかけてネジの固着を解除し、ミラーはサビサビのまま使ってます。もはや意地ですよ。

 後ろが見難いミラーのせいとはいえないけど、極め付きの「クソッ!」経験が昨夜。編集部からの帰宅には超大型幹線道路国道246を使うのだけど、この道路が夜間はほぼ高速道路状態で、とてもよく流れる。編集部に行くと大体遅くなるから、帰宅は夜半過ぎになり、そうなると交通量も少なくて本当に快適に流せる道路なんですよ。ところが昨日はちょっと仕事がうまくいって、22:30ごろの帰宅。まだ中途半端に交通量があって、それを軽く縫うように走り、信号では先頭に出て、という、まぁ標準的な通勤ライディングをしてたわけ。ところがいつもと違うのは2日前に下ろしたばかりのバイクに乗っていたということ。いつもだったら125ccなのに、昨日は倍の250ccしかもDOHCの速いヤツ。「ほほー、100キロぐらいまではスグだなー」なんてイイ気になってたら、サビだらけのミラーになんだか赤いネオンが眩しいシルバーのクラウンがいるじゃない。なーんだよー! 明らかじゃん! 何で気づかなかったかなぁ!! 

  ここですよ!
「Fiddle Sticks!!!」

 こういった場面で使うのが、今回の英語です。要は罵り言葉ですね。だけど数ある罵り言葉の中でも、かなりソフトなものです。Fiddleとは「いじくる」などという意味で、手先で何かをこねくり回しているような動作。それの変化形にはFiddlyというのがあって、これは「扱いにくい」とか「細かくて扱いが難しい」というニュアンスです。最近そんな経験をしたのはスイッチボックスの中の配線をハンダ付けしたとき。小さな空間で短い配線にハンダを付けていく作業はとてもFiddlyでした。

 Sticksは「棒」という意味のStickの複数形ですね。ではこの2言葉をつなげてなぜ罵る時に発するようになったのでしょう。諸説ありますが有力なものを一つ。

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 そもそも中東の羊飼いたちが、羊の数を数える手段として石垣の上に棒を並べていたことからくるとされている。当時はまだ数字の概念がなく、自分が何頭の羊を飼っているのかを(数という概念では)知らない羊飼いも多かった。よって、夜間は囲いの中に入れておいて、昼間は野に放した羊たちが、また夕方に同じ数だけ戻ってきているかどうかを数える手段がなかった。

 しかし羊飼いたちは羊の数そのものを把握していなくても、その数の増減は気にしておかなければならない。そこで広く使われていたのが、この小枝を並べる手段だ。朝、羊たちを放す時に、囲いから出て行った数だけの小枝を石垣に並べ、そして夕方帰ってきたときにまたその小枝を地面に落としていくと、朝と夕方で同じ数の羊がいた、と管理できるというわけである。朝より羊が少なくなっていれば迷える羊を探しにいき、増えていればシメシメ、というわけだ。

 この仕組みは世界中の羊飼いたちが使っていたとされ、地方によって小枝ではなく小石を使ったりしてはいたものの、何かを羊の数と同じだけ並べておくという手法は共通していたそう。

 さて、この小枝だが、ある程度大きな枝を使わないと風で飛ばされたり、日中に鳥が持っていってしまったり、石垣の間に落ちてしまったりして羊の数の管理がおぼつかない。しかも羊の数が少ないうちはいいが、多くなってしまうとますます管理が大変で、小枝を集めるのだけで一苦労。必然的に小ぶりの枝を使うようになるのだが、数が多い上に枝が小さくなると大変管理が難しくなり、しかも羊の数も多いため一気に帰ってきてしまうと勘定が追いつかなくなる。焦っているうちにわからなくなってしまうということもあり、FiddlyなSticksによって罵り言葉が発せられることが多かったのだ。

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 いかがですか? 「あぁもう!このFiddly Sticksのせいで! わかんなくなっちゃったじゃん!」ということですね。よってこれは内向きの罵り言葉であって、人に対してのものではありません。自分の失敗に対して「クソッ!」って言うような、そんな使い方です。

 でも実際にこの言葉をカジュアルに使う人は、実は多くありません。というのは、もっともっと一般的となっている汚い罵り言葉「ファ○ク」が広く使われるようになってしまったからです。しかし紳士淑女はこんな言葉を使ってはいけません。なので、「ファ……!」と言いかけてしまったときに、急いで「フィドルスティックス!」と言い直すわけです。

 同じFの発音なので、この言葉が使われるのは「ファ○ク!」という言葉が思わず口をついて出そうになった時に、それを打ち消すような丁寧な罵り言葉とするためですね。Fiddle Sticksとは響きもなかなかかわいらしいもので、周りのムードも和むことでしょう。英語圏に行ったらぜひお使いくださいませ。


筆者 
アレックス・イツニナルダロ
今年からアプリリア市販車ベースのマシンに乗ってレースを嗜む茨城系スペイン人。クラウンの後部座席で「あんだっぺよイジヤケンナー」と発してみたが、ブルーの服を着た二人は取り合わずに赤キップを渡してくれた。免停確実なのだが、それがいつからなのかが気になってしょうがない。


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