順逆無一文


『玩物喪志』

“ご当地ナンバー・プレート”がちょくちょく話題になるが「はやぶさ」ナンバー・プレートが発行される、というニュースが入ってきた。で、「はやぶさ」というキーワードにひかれてさっそくチェックしてみたのだが…。「はやぶさ」は「はやぶさ」でも、日本中に感動を与えたあの小惑星探査機「はやぶさ」にあやかったナンバー・プレートの話題でした。

 小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げた内之浦宇宙空間観測所がある鹿児島県肝付町が、この8月1日から「はやぶさ」をモチーフにしたナンバー・プレートを発行することになったという。小惑星探査機の機体のイラストと、日本、そして「はやぶさ」のカプセルが帰還したウーメラ砂漠があるオーストラリアなどを入れ込んだ地図をアレンジしたおしゃれなプレートで、原付一種用と小型特殊用の2種類を発行するという。ちなみに肝付町では、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還した6月13日を「はやぶさの日」として制定したという。「はやぶさ」ナンバー・プレートはこれを記念して導入したものなのだ。

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 バイク乗りにとっては「はやぶさの日」は8月8日なんですがね。ま、同じ「はやぶさ」つながりで、HAYABUSA乗り皆さん、来年の6月13日は肝付町に遊びに行きましょうか。

                   ※

 話は変わりますが、この春、国土交通省が貨物自動車に“衝突被害軽減制動制御装置”の義務付けを決定したのはご存じでしょうか。

 相変わらず多発している大型トラックによる追突死亡事故を防止する切り札として“衝突被害軽減制動制御装置”を自動車メーカーに義務付ける、というもの。

“衝突被害軽減制動制御装置”というのは、クルマの前面にレーダーを搭載して、前方の交通状況を監視。自車の前方にクルマなどの物体を認識した場合、自車のスピードと制動能力を元に衝突の危険度を判断。危険有りと判断すれば、警告音でドライバーに注意。それでもドライバーが何らかの操作をせず、対象物体と自車の距離が制動に必要な限界距離に近づくと、ドライバーの意志を介さずに自動でブレーキをかける、というもの。導入されれば、これまでに起きた追突死亡事故のほとんどのケースが回避できるようになる、とさえいわれている装置だ。

『道路運送車両の保安基準の細目を定める告示当の一部改正について』

衝突被害軽減制動制御装置(細目告示第15条、第93条、細目告示別添113関係)

貨物自動車の全事故に占める追突事故の割合が高く、乗用車と比較して死亡事故率が高い現状を踏まえ、衝突被害軽減制動制御装置の技術基準を導入する。

【適用範囲】
○ 次の自動車に適用する。
(1)貨物の運送の用に供する普通自動車(第5輪荷重を有する牽引自動車及び被牽けん引自動車を除く。)であって、車両総重量が8tを超えるもの。
(2)貨物の運送の用に供する普通自動車(第5輪荷重を有する牽引自動車に限る。)であって車両総重量が13tを超えるもの。

【改正概要】
○ 貨物自動車の事故実態を踏まえ、安全上の観点から衝突被害軽減制動制御装置の基準を導入する。(技術基準の概要については、別添参照)

【適用時期】
○ 以下の表のとおり、衝突被害軽減制動制御装置について義務付けを行うこととし、適用時期に至るまでは当該装置を備える場合の要件とする。

新型生産車:貨物の運送用自動車で、車両総重量が22tを超えるものと、同牽引自動車で13tを超えるものは、平成26年11月1日以降の新型車から適用。20tを超え22t以下(牽引車を除く)は平成28年11月1日以降。

継続生産車:貨物の運送用自動車で、車両総重量が22tをこえるもの(牽引自動車を除く)平成29年9月1日以降の製作車から適用。牽引自動車で13tを超えるものは平成30年9月1日以降。貨物の運送用自動車(牽引車を除く)で20tを超え22t以下は平成30年11月1日以降の製作車から適用。
(※以上、国土交通省の報道発表資料より)

 平成26年11月の新型車からスタートし、まずは総重量22t超の大型トラックと13t超の牽引自動車に義務付けられ、その後、継続生産の大型トラック車などに猶予期間を挟んで順次適用される。

 また、この義務化に先立ち、2012年4月からすでに“衝突被害軽減制動制御装置”搭載車両の自動車取得税と重量税の減税措置も始まっている。また、ツアーバスによる事故を踏まえ、大型バスへの義務付けも検討しているという。

 このところ乗用車のTVコマーシャルで頻繁に放映されていたのでご存じの方も多いだろう、壁にぶつかる直前でクルマが勝手に止まってくれる、というあれだ。ただこの大型トラック用の“衝突被害軽減制動制御装置”、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示を読んでも、また衝突被害軽減制動制御装置の技術基準の概要を読んでも、TVコマーシャルのように障害物の直前で完全に停まってくれるのではなく、あくまで速度を落として衝撃を“軽減”させる装置としか読み取れないのだが。

 乗用車に比べ質量の巨大な大型トラック用だから“衝突被害軽減制動制御装置”という名称の通り、最終的に衝突する時点での速度を少しでも落とそうという装置、と考えた方が良いかもしれない。

 それはともかく、大型トラックによる追突死亡事故が相変わらず無くならないことから「なんとかせねば」で世界に先駆けての導入となった。高速道路などで大型トラックに追突された場合、ガソリンタンクが損傷し燃料が漏れ出火、潰れた車内から逃げられずに焼死、といった悲惨なケースになることが多い。

 ただ、ここまで多発してしまっている真の原因は、大型トラックなどを走らせる運転手達のプロ意識の低下が根底にあるのではないだろうか。ちょっとした気のたるみ、「居眠りをしてしまって…」「携帯に気を取られて…」等々の実に安直な理由で追突事故を起こしている。人間の命を奪う可能性を常に抱えながら運転しているのだ、ということを自覚してくれているのか疑問だ。

 もちろん同じように走っている乗用車やバイクだって事故を起こせば他人を傷つける可能性があるのは同じだが、運動エネルギーの大きさは何十倍ととてつもない違いがある。だからこその大型免許であり、プロ・ドライバーとしての存在のハズ。

 悲惨な事故の被害者感情からすれば、単なる“業務上過失致死”などではなく、まさに“殺人”。当の追突した運転手はほとんど傷一つ負わずに済んでいるケースがほとんど。少なくとも怪我をするのは追突相手が自分と同じ程度の質量がある大型トラックだった場合のみだろう。

 以前も書いたことがあるが、何故大型トラックの運転席はあんな高い位置にしているのだろう。一度でもあの高い運転席に乗ったことのある方ならお分かりだろうが、人間高い所に登った途端、「どけどけ俺様が通る!」の気分になってしまう。

 大型トラックだろうが運転席を乗用車と同じ高さに規制すれば居眠りなんかしている余裕は無くなる。などと書こうものなら“トラックドライバーの命を軽視している”とすぐに他人を批判することだけを生き甲斐とする輩からお叱りのメールが来るのだろうが、安易な理由で殺される側の命はどうしてくれるのだ、といいたい。

 運転席が高いのは前方視界を良くして事故防止に役立っている、などともっともらしく解説する“有識者”もいるが、単にあおり運転を誘発させているだけ。前方の見通しが必要なのは、なにも大型トラックに限った話ではない。複合交通なのだから走っているすべてのドライバーやライダーに同じ程度の視界を確保する、が基本だろう。

 現に、最近の観光バスはワンボックス程度の目線の高さの位置に運転席が配置されるようになってきた。そのために事故が増えた、などという話は一向に聞かない。それより、前方のサンデードライバーの下手さ加減や、自称安全運転の身勝手運転ぶりが視界に入らなくなり、焦りやイライラ状態にならず、より安全に繋がってきているのでは。

 テクノロジーを応用して生活を豊かにしたり、安全にすることはもちろん大事だ。しかし、そのことで逆に人間に慢心が生まれ、運転に対する真摯な心がけがなくなり、実に簡単に事故を起こす。最近の首都高速など、ほぼ毎日事故が発生している。いかにABSだのトラクションコントロールだの、自動制動装置だのと技術が発展しても、そもそも根源的にいい加減な存在である人間が乗っている限り事故は無くならない。それこそ、人間には一切コントロールさせない、ぐらいの意識がなければ。中途半端に技術に頼るだけでは効果は相殺されてしまう。

 大型トラックの追突事故対策は“衝突被害軽減制動制御装置”の導入と言うテクノロジーの面だけではなく、運転席の位置を低くする、といった人間心理の応用も提案したい。

 ちなみに“衝突被害軽減制動制御装置”を導入すれば、車間を詰めた段階でピーピーと警告されるので“あおり”運転なんてのも無くなるはずですよね? あ、いや、“速度抑制装置”も勝手に解除してあおってくるとんでもない輩がいるくらいだから期待薄か…。

 やはり運転席を乗用車やワンボックス程度の高さにしましょう! 二輪では後ろにデカイのが走って来るだけでも恐怖を感じますよね。軽や小型車をあおる旦那カーや高級外車にも同じことが言えますなあ。

(小宮山幸雄)

※あおり運転罰則強化:平成21年10月から罰則を強化。「3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金」。

※速度抑制装置:平成18年の8月末から全ての大型トラックに導入完了。90km/h以上出ないようにする装置。ただ、大型トラックの法定速度は80km/hなので、それを超えた時点ですでに違法。速度抑制装置を不正改造した場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」。改造の事実を知りながら運転した場合は「3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金」。

※ドライブ・レコーダーの録画画像による一般市民からの告発がけっこう役立っているようです。証拠としては不十分なのであおり運転は実証できなくとも、追い抜きなどの速度が90km/h以上出ていることが目安として分かれば、実車を調べて不正改造として摘発できるのだそうです。

小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は“閼伽の本人”。 

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