ホンダドリーム東京
激戦区に挑む
ホンダV4・1200。

 V4エンジンを搭載したアドベンチャー・ツアラー、VFR1200X クロスツアラー。VFR1200F譲りのV4エンジンがアドベンチャー・ツアラーというパッケージでどんな走りを見せるのか想像をかき立てる。弟分のVFR800Xクロスランナー、そしてNC700Xを加え、ホンダは新しい“Xバイク”をラインナップしたのだ。

 このクラスは、単気筒のXL600RファラオやXLV750Rなど、オフモデルの泣き所でもあった小排気量、低出力を一挙にカバーするカタチで排気量アップ、マルチシリンダー化をはかり、独自の進化を遂げてきた。1986年に登場したトランザルプ、1988年に登場したアフリカツイン、その上位モデルとして登場したバラデロなど、ホンダはこのセグメントで高い評価を受けてきたのと同時に、よりパワフル、より快適に、と市場の高まる要求や、ライフスタイルの変化などをにらみ、新たなV4エンジン搭載のモデルを送り出したのだ。

 それは、BMWのGSシリーズをセグメントの頂点に日欧入り乱れての激戦区でもあり、オプションパーツの充実、アフターマーケットパーツの多さ、ウエア周りの充実度など、メーカーの本気度も同時に試されている。ある意味、一番うるさい客が注目しているセグメントでもあるのだ。

ボリューム感で威厳を示すタイプではない。ハンドルの高さがおわかりいただけるだろうか。コンパクトながら有効なスクリーンもヘルメットの顎の部分までは確実にカバーされていた。
ハンドルが高くややアップライトなスタイルながら、攻めても一体感が崩れないのはさすが。タイヤ、サスペンションの総合的グリップ感は走る楽しさを高次元でまとめている こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/8Ils3FbgKyc」で直接ご覧ください。
DCTは第二世代に進化。
その自在度が翼を広げる。

 試乗したのは、株式会社M-TECHが無限テクニカルショップ(ホンダドリーム全店)を通じて販売を開始したVFR1200X / XDクロスツアラーをベースにした特別モデルで、無限オリジナルのスリップオンマフラー、専用デカールを配している。マニュアルトランスミッションのVFR1200X無限(163万2750円)、デュアルクラッチトランスミッション(以下DCT)を搭載するVFR1200XD無限(175万3500円)の2機種を6月25日に発売したもの。今回はDCT搭載モデルをテストした。

 走り出す前の心境を正直に告白すれば、VFR1200Fをベースにいくら煎じてもアドベンチャー・ツアラーの美味しい2番茶はでないだろう、と決め込んでいた。

 他にもある。前傾姿勢のVFR1200F+DCTではミッションのメカノイズがヘルメットの真下から聞こえて案外賑やかで洗練度を求めるこのクラスのユーザーにはどうかなぁ、とか、第一世代のDCTはMTとATのモード切替えをした後でないとスイッチでのシフトが機能せず、今使いたい時にすぐ使えないというちっちゃいストレスがあったのも事実。つまりは軽い消化不良になる、という点でどこか苦手意識が芽生えていたのだ。だからこそ、テストそのものが消化試合のように無味乾燥なものにならなければ、と実は心配していたのだ。

 しかし1200XDに搭載されるDCTはすでに第二世代。AT/MTのモードスイッチに触れずとも、シフトスイッチの+/-を押すだけでマニュアルシフトが可能だし、その後そのままシフトしないで走行を続ければATモードに自動復帰してくれる。NC700シリーズのDCT同様、欲しい時はいつでも、でもあとはおまかせで、というわがまま許容型に進化している。

 1200XDを目の前にしてもそれほど巨漢、という印象はなかった。R1200GSと比較しても各部がしっかり絞り込まれ、細身にすら思える。自慢のV4エンジンはアイドリングからフルルルルル、という軽快な音を奏でる。ストックのマフラーでの音を聞いていないので、この無限のスリップオンとの比較ができないが、軽くブリッピングしたときの音など、上質で心地よさを持っていながら、何処へでも連れてくぜ、という逞しくも優しい雰囲気を予感させる。

フロントフォークは、φ43mmインナーチューブを持つ倒立フォーク。イニシャルと伸び側ダンパーの調整が可能。ブレーキはABS+コンバインドブレーキを採用。クロススポークリムの採用でチューブレスタイヤを装着。 エンジン右側にあるDCTユニット。2組のミッションとクラッチを装備することでシフトチェンジへのスタンバイを整え、変速ショックを低く抑え、変速も素早く完了させる。MTモデルよりも幅広になる。
赤、ゴールド、黒の無限カラーのデカールをノーズに貼る。ナックルガードや小型ながら効果的なスクリーンにより、雨、風圧、低温時のプロテクションを高めている。ライト前のノーズセクションは短い。VFR800X、NC700Xなどとイメージを共有する。 無限製ストレート構造のスリップオンサイレンサーを採用するVFR1200XD無限。歯切れのよい音ながら、音疲れ一切なしのジェントル&ワイルド系。プロアームによるハブは掘りの深いフェイスを見せる。クロススポークのチューブレス仕様。

 右のスイッチボックスにあるスイッチでNからDへとシフト。ガチョンと普通のミッション車のような音をたててギアが入る。しかしあとはアクセルをするりと捻るだけ。発進はDCTでクラッチ操作を要さないから緊張感がない。するっと動き出す様は「クラッチ名人か」と言いたくなるほど。大通りへ左折し流入というクルマの切れ目を狙った手に汗握りそうな場面もしれっと走り出せたのだ。

 あの巨大なR1200GSアドベンチャーの満タン時重量、271㎏よりもさらにヘビーな285㎏という1200XDだが、低速域からバランス感が抜群。アップライトなポジションにも助けられ、乗りだしの手強さ感はかなり低い。ポジションの関係で視界も良好。リラックスできる。

 特にハンドルが肩から腕をまっすぐ伸ばした位置にグリップがあるイメージで、最初はおっと思うぐらい高く感じた。しかし、馴れるとこれが楽ちんかつコントロールしやすい。アップハン的な取り回しの良さを実感する。

 ハンドリングも街中スピードから軽快。滑らかなDCTと振動の少ないV4の相乗効果は、驚きの快適さでライダーを包み込む。さすがに2000rpmあたりのトルク感はツインエンジンのライバルに一歩譲るが、アクセルをスッと捻って回転が2500rpmあたりまでになれば、V4らしい厚みある滑らかなトルクが涌きだし、車体が軽々と加速する。この立ち居振る舞いも重さを感じさせないマジックだ。

 60km/hで流れる3車線道路では、発進からわずかな時間でシフトアップを繰り返し、すでにその速度では6速、ズロロロ……という低めのV4サウンドを聞きながら走れる。

 DCTの完成度はゴーストップの度にうなずきたくなる。ムダ、ロスなくシフトし加速する。渋滞の中でもクラッチ操作の必要もなく、右折待ちの時の「エンストしたらやだな」がない。緊張感からの解放がこれほど気楽だとは……。

シート前部はエッジを落とし、足つき性を考慮し、後部はライダーの体重をしっかり受け止める幅広な形状としている。遠距離、街乗りでシートポジションを少し前後させるだけで印象が変わる優れもの。パニアケースホルダーを兼ねたリアフレーム周り、グラブバー一体型のリアキャリアも、トップケースをつけることを考慮したもの。 外観からV4エンジンという主張は残念ながら感じられない。唯一、複雑な形状のエキゾーストパイプをのぞき込むとそれを匂わせる。

 一般道から高速道路へ。ランプを駆け上がり本線への合流。ここでも1200㏄V4エンジンとDCTの組み合わせはこともなげに仕事をこなす。というか、本線合流前からすでに6速で巡航し、そこからわずかにアクセルを捻るだけでキックダウンを要することもなく100km/hまで余裕の加速を見せつける。

 100km/hで3100rpmほど。速度維持も簡単。エンジンが急ぎたがることもない。

 必要とあらばこの速度では2速まで守備範囲だ。怒濤の加速を引き出すのも造作ない。ヨーロッパ仕様の1200Fのスペックを見ると、127kW/10000rpm+129Nm/8750rpm。国内仕様の1200Fは82kW/7500rpm+120Nm/6000rpmとなっている。この1200XDは95kW/7500rpm+126Nm/6500rpmと、中間的。

 注目はヨーロッパ仕様と比較してエンジン特性が低中速型になっていること。慌ててシフトダウンしなくても6速巡航時で充分なトルクによって右手だけで充分な加速を引き出せる。何度か低いギアからの怒濤の加速も味わったが、速いし虜にもなるが、絶対必要か、と言われたら、巡航速度を維持して何処までも走りたくなるタイプだ。伝家の宝刀はまた別の時使おう。そう思える余裕がある。

 それよりもスムーズかつ低振動な巡航性能をほめたい。これはこのクラスでは出色の出来ばえだ。まだ走行距離が少ない試乗車だったので、これで距離が伸びれば前後のサスペンションの動きにさらなる滑らかさが加わり、乗り味もいっそうしっとりするのではないだろうか。

 ウインドプロテクションも優秀。低く、意外と遠くにあるスクリーンだが、視界を遮らず快適移動に貢献してくれた。ペースを上げても負圧で背中が押されるような巻き込みも無かった。

 高速道路の山間部で出くわすワインディング部分でも1200XDは意のままに走ってくれた。ブリヂストンのBW501/502を履いていたテスト車は、こうした場面でのフロントの舵の入り、バンクしたときの旋回力、そしてグリップ感も納得。このカテゴリーのモデルが持つ、ちょっと長めのサスストロークと自重を活かし、しっかりとタイヤを路面に押しつける感じが抜群なのだ。

左ハンドルスイッチ周りにはパーキングブレーキとシフトアップ用スイッチ(グリップ前側)、ウインカースイッチ下にシフトダウンスイッチが見える。
右側スイッチには、DCTのN⇔D⇔Sモードを切り替えるスイッチが。SモードはDモードよりも高い回転まで引っ張る、その回転域を維持するスポーツモードだが、今回は出番無しだった。 燃料タンクからノーズに向けて一体感あるデザイン。ハンドガードを含めスキなしのデザイン。エンジ色のバッジを着けるカテゴリーの最上級モデルらしい仕上がり。ライダーの膝周りとタンクの樹脂パッド、シート前端の部分の段差がちょっと気になった。

 高速を降りて森の中を貫く気持ち良い道を駆け抜ける。ここでもDCTはATモードのまま。よりアグレッシブなエンジン回転域を多用するSモードもまだ出番なしだ。それでも不満なし。-ボタンをタップするだけでシフトダウンし、望んだ加速やエンジンブレーキを呼び出せるから、なんのストレスもない。
 いつもの峠が濃霧と濡れた路面で実力を試せなかったが、ツーリングペースで抜けるワインディングでは車重を意識することもなく、このセグメントのバイクらしく、スイスイとロードセクションを切り取っていく走りを見せた。前後連動ブレーキとABSを採用するだけに、前後の制動バランスがよく、車体姿勢がフラットな印象のまま速度だけをきっちり取り除いてくれる。下りでも制動力と制動感のずれは無かった。

 総じて体躯の大きなバイクが多いアドベンチャー・ツアラーで、こうしたキメの細やかな
仕上げは大切な部分。今日、巧く乗れているね、を実感させてくれる作り込みはなによりも大切。

 最後に少しだけ走ったダートについても触れておこう。直線的な道ながら、梅雨の雨が表面を削り取り縦、斜めに掘れたけっこうな荒れ模様のロッキーロードだ。フロント145mm、リア146mmとスペックに出ているサスペンションストロークは、ライバル達のそれよりも少なめだ。しかし、その動きに固さや渋さはなく、想像以上の走破性を見せた。正直、車重のこともあり“通れます”程度の結末になると想像していた。それだけに走破性の良さ、走りの楽しさは想像以上。砂漠越えにはオススメしないが、ダートの峠越えぐらいは楽勝だ。

バーグラフ型の回転計、下に速度、トリップ、外気温、時計、燃費情報、水温計、燃料計を備えたメーターパネル。このセグメントのバイクとしては表示面が小さく、もう少し新しいトライが欲しいところ。ちょっとコンサバな印象だ。 カウル部分に見えるのがトラクションコントロールのスイッチ。トラクションコントロールのON/OFFを操作できる。

 そして機能的だと感じたのがトラクションコントロール。オンとオフを選択できるこのシステム、その効果の程は「走行を撮影した動画」を直接見ていただくのがなにより早い。

 その作動はきめ細かで穏やかな介入を示す。停止状態からラフにアクセルを開けても、後輪と前輪の速度差を察知すると、とたんにパワーを絞り、そろりとした動き出しでロス無く走り出せる。そして20km/hぐらいからアクセルを開けても、路面とタイヤの回転がある程度シンクロしない限り、ムダなホイールスピンを許さない。あれ、なんで加速しないんだろう、と思うぐらいだ。GSやムルティストラーダなどけっこうガクガクしながら加速するのとは趣が異なる。好みの違いだが、これはこれでアリだ。

 また、速度がノッてからも無駄なホイールスピンや空転による横方向への挙動の乱れを穏やかに制してくれる。安心感あり。

 このトラクションコントロールをオフにしてV4エンジンを解き放つと、後輪はダイレクトに路面を蹴る。そして右手次第で後輪はいとも簡単にスピンを起こし挙動は乱れる。それを織り込み済みで操作をすることを求められる。馴れたライダーなら楽しめる部分だが、ツインのライバルよりもパワフルなエンジンなだけに、ワイルドな印象が強い。

 今回は軽くガレた路面だったが、濡れた赤土の上では横方向への滑りには注意が必要になるだろう。場面によってオンオフ出来る機能を使い分けるのが正解だと思った。当然だが、派手に開ければタイヤのトレッドも痛む。お忘れなく。

 この場面でもDCTのクラッチ操作をせずに動き出せることは強い安心感につながった。また、微速で進む時も、見事な動力伝達をしてくれている。緊張感の強まる場面ほどDCTの良さが光る。むしろダート向きじゃないか、と思えるほどだ。

 動画の撮影時を含め、ダートの走行は全てDモードで行った。トラクションコントロールをOFFにしてアクセルを開けたり閉めたり忙しいのがおわかりいただけると思うが、けっこう速度が乗ってもシフトアップせず回転をキープしてくれていた。ライダーの乗り方に合わせてバリアブルに変速プログラムを可変している様子がわかる。アクセルを閉めた時にシフトアップされては、細かく向きを変えたとき、フロントの荷重を加速させて抜きたい時など、一体感がそがれるだろうが、それがない。シフトスイッチに触ろうとも思わないほど。ただ、スタンディング時にシフトスイッチは絶好の場所にあるとは思えなかったのは事実。と、重箱の隅をつつくことしか思い浮かばないほどの完成度だったことも報告しておきたい。

 結論としてどんな場面でも完成度の高さを持ったVFR1200XD。アドベンチャー・ツアラーとDCTによるイージードライブというカップリングは、新しい可能性を感じさせてくれた。いや、車体の成り立ちからいって、クラッチ付きモデルでも印象は変わらないだろう。あらゆる場面で臆さずに走りを楽しめる。これぞアドベンチャー・ツアラーのツボである。

プロアームとシャフトドライブを組み合わせるVFR1200XD。ファイナルドライブのバックラッシュはライバルに比べても少なく駆動系スナッチ、ショックが少ない。アクセル操作に対するリニアリティーにも貢献している。
ダートが楽しい。それを実感できたのは大きな収穫。こんな道を走る頻度が極端に低くても、こうした道で楽しめなければ存在意義が薄くなる。むしろこうした道でどれほどファンかがこのクラスの大きな評価軸だ。
ライバルに比肩する総合性能とV4という独自性も加味したVFR1200XD無限。DCTの完成度で巨体を物ともしない走りを楽しませてくれた。


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