おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第25回 大内宿こぶしライン


大内宿こぶしラインは、福島県南会津地方にある県道131号下郷会津本郷線の別称で、大沼郡会津美里町と南会津郡町大内宿を結ぶ13.5kmの区間を指すようだ(県道131号線は大内宿の南方8kmまで続き、そこで県道346号線に接続)。ほんの一部を除いて十分な道幅がある対向2車線の山岳道路で、景色もいい。

こぶしライン

 近年、一大観光地となって、春から秋まで大勢の観光客でにぎわう大内宿。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている同宿は、かつての会津西街道の宿場町で、全長450mの往還の両側に、茅葺・寄棟作りの民家が立ち並ぶ。かの戊辰戦争では官軍=新政府軍に攻め込まれたが、住民の嘆願によって焼き討ちを免れ、今に往時の街並みを残している。築300年ほどの家もあるようだ。 

 その大内宿への会津側からのルートのひとつが大内宿こぶしライン(県道131号下郷会津本郷線氷玉バイパスとも言われ、‘03年に開通)だ。国道118号線や国道121号線とほぼ並行していて、今ではシーズンに大渋滞する国道の抜け道的な存在にもなっている。名前の由来は、春先にこぶしの花が沿道を彩るから、と地元の人に聞いたように思うが、俺がこれまでに走った時期は初夏から晩秋までの頃だったので、残念ながら、白くてきれいなこぶしの花を楽しんだことはない。


大内宿

大内宿
大内宿は江戸時代からの宿場町。約450mに渡り民家や民宿、お店がならぶ山奥の大観光スポット。5月には鯉のぼりが歓迎してくれた。

  初めて走ったのはいつだったろう。正確には覚えていないが、開通して間もない頃だったと思う。路面がきれいだった。長距離試乗の仕事で東北地方に複数で出かけ、古民家が連なる大内宿の往還や宿の上にあるロックフィル式の大内ダムで撮影などをした。それは初夏の頃だったが、その前後の年にも試乗の途中、宿に寄って写真を撮った。寒くなり始めた初秋の頃だった。その後、交通量が少なくてコーナリングが楽しめ、景色もきれいなこぶしラインはお気に入りの道になった。

 5、6年前にも取材で大内宿を訪れ、宿場でもこぶしラインのコーナーでも写真を撮った。そして、後継ぎがなく今や5、6軒に減ってしまっているという民宿のなかの一軒で一夜を過ごした。蛍をぎりぎり見ることができる初夏の頃で、夜、ひとり散歩に出て、数10年ぶりに野生の蛍を見た。終わりかけの時期だったので、数は少なかったが稲が青く伸びた田んぼのあちこちで、幻想的な光がポツン、ポツンと…。翌日はこぶしラインを走って美里町に下り、集落内にあって、看板を掲げていない、隠れ家的な蕎麦屋さんで、辛みの効いた大根おろしそばを食べた。

 プライベートで山形や福島へツーリングに行く場合、それまでは日光から会津へのルートに前記の国道121号と国道118号を利用することが多かった。オフシーズンの平日なら2本の国道もあまり混んではいない。でも、その存在を知ってからは、マイペースでコーナリングを楽しめて景色もいいこぶしラインを利用している。大内宿側から美里町へ向かうこともあれば、その逆もある。ここ5年の間に3、4回利用しているだろうか。秋は紅葉が美しい、ということだったので、ある年の秋に茨城のバイク乗りの知人と大内宿の民宿に1泊でツーリングに出かけ、錦秋を存分に楽しんで、こぶしラインも往復してコーナリングを堪能してから帰路に着いた。

 3、4年ほど前の夏には息子と横浜のバイク仲間と3人で大内宿に出かけ、同じ民宿に泊まり、こぶしラインを走った。一昨年の夏は息子と東北ツーリングに行き、帰路、裏磐梯に泊まり、そこから会津経由でこぶしラインを走って大内宿、大内宿でそばを食べた。昨年は春と秋に東北を復興支援ツーリングを敢行し、こぶしラインで走りを楽しんだ。春は高校時代の友人と山形の友のところへツーリングに行く途中で大内宿に寄り、そばを食べてからこぶしラインを走った。俺はサンダーバード、連れはハーレーの883。白河からR289で下郷町まで、というルートだったが、R289もいい道だ。秋は息子と横浜のバイク仲間と裏磐梯へ出かけ、帰路、大内宿経由で、昼食にやはりそばを食べた。ここ3年ほどはほぼ同じパターンだ。

 そうそう、昨春のGWに883に乗る旧友と大内宿に寄ったときは、震災や原発事故の風評被害も一段落していて観光客は多く、国道から大内宿に向かって左折した県道329は大渋滞だった。だから一度Uターンして県道346から県道131とつないで大内宿に入った。それ以前のときも夏や紅葉の季節は県道329が混んでいることが多かったように思う。県道131の大内宿の南側路線はいつもガラガラで、こぶしラインと呼ばれる区間ほどの景色のよさはないものの、走りやすい。

 最後に、こぶしラインの道の様子をもう少し詳しく紹介しておくと、大内ダム沿岸の区間は低中速コーナーが連続し、氷玉峠前後は少しRが大きいコーナーやトンネル、短い直線がある。美里町側は中、高速のコーナーと長めの直線で構成されているが、中速の回り込んだコーナーもいくつかある。全体的に走りごたえがあって、距離もほどよく、見晴らしもいいこぶしライン、そして大内宿。今後も山形や福島など東北にツーリングに行く際は、寄って、走りたいと思う。ちょっと寒いだろうけど、春を告げるこぶしの花が咲き誇る頃にでも出かけてみたい。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、15年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで6万5000km。

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