“DCT”って、ホントのところどうなんだ?

HONDA

 ある晴れた休日、気持ちのいい道にNC700X Dual Clutch Transmission<ABS>と走りに出かけた。ご一緒したのはチャーリィ湯谷さん。トップクラスのファッションモデルとして長いキャリアを持ち、映画、舞台、ドラマで俳優としても活躍中のチャーリィさん。渋い男のオーラは、人生の中で時間を掛けて培われてきたものなのだろう。かっこいい、という簡単すぎる表現がぴたりとはまる存在感ある人だ。

 同時にチャーリィさんはライダーとしても長いキャリアをもっている。車齢35年に迫るBMWのR100RSを愛用しメンテナンスだって怠らない。他にも様々なオートバイを走らせた経験を持つチャーリィさんがNC700Xに、なにより新しいDCTに興味を持ったのは自然の流れ。新しいメカに長年のバイク乗りとして築いてきた嗅覚が働いた。はたして、どんな印象を聞かせてくれるのだろう。

 その前にまずDCTについておさらいしておこう。“デュアル・クラッチ・トランスミッション”を意味するDCT。その特徴は、マニュアルトランスミッションの機構をベースにクラッチ操作やシフト操作を全てオートマチックにしてイージーライドを可能にしてくれたことだ。

 メカニズム的には、油圧制御でコントロールされるクラッチや、プログラミングされた変速システムで、走行状況に合わせた絶妙なクラッチ、シフト操作をしてくれる。1−3−5速と2−4−6速、つまり奇数段と偶数段にトランスミッションを二組のパックに分けそれぞれにクラッチを装着。

 例えば1速で加速中に2速のギアを次なるシフトチェンジに備えてあらかじめ回しておくことで、変速の速度が素早く、かつショックが少ない特徴を持っているのだ。

 2010年、VFR1200F DCTに搭載され登場したDCT。これがNC700Xなどニューミッドシリーズに搭載されるにあたり、油圧経路の短縮化や、よりライダーの感覚に近いようプログラミングの緻密さ、使い勝手などもグッと進化を遂げているのだ。

 NC700X DCTに跨がった長身のチャーリィさん。その操作方法を説明すると、少しの距離を走らせ、Uターンして戻ってきた。「どうしても左手がクラッチレバーを探して、左足がシフトペダルをかきあげちゃうね」と笑っている。そして何度か距離を伸ばして走るうちに馴れてきた、と話す。

「力があるね。ドドドドって走り出す感じに驚いた。ホントに700㏄? 馴れてくると分かったけど、クラッチを操作しないで済むのは回りの風景を見る余裕が生まれるね」


フムフム、それだけでいいの? とシステムのシンプルさを感心するチャーリィさん。


初ライドの発進時、力強い蹴り出しに「オ!」と声を上げたわずか数分でDCTに馴染んでいきます。 「こうした道で風景を見る余裕が違うね。クラッチやシフトをしないだけなんだけど」と、チャーリィさんは新鮮な驚きを語る。

 DCTのもう一つの特徴であるマニュアルモードも試しているようだ。ATモードでも左のスイッチボックスにあるシフトスイッチをタップすれば、ダウンシフトもアップシフトも思うがまま。

 その後、自動的にATモードに復帰してくれるのがニューミッドシリーズに搭載された第2世代のDCTの特徴だ。

 長年のライダー経験で培った走り方に合わせていろいろ試している様子。ベテランライダーらしく「むかし乗ったホークATより断然いいね」なんていぶし銀のコメントも飛び出した。

 チャーリィさんが感じたインプレッションは是非動画でチェック!


こちらで動画が見られない方は、YOUTUBEのサイトで直接ご覧ください。

DCTの取説!?

 オートマチックと聞くと「マニュアルミッションよりも退屈で、スポーツ度も低いのでは」と連想するかもしれない。しかしDCTの完成度に触れると、そんな乗る前の想像は見事にひっくり返る。

 その扱いはいたってシンプルだ。エンジンを始動し、右ハンドルスイッチにあるニュートラルからのシフトスイッチのDを押すと、マニュアルミッション車でシフトしたような“ギアの入る”音が耳に届き、メーターパネルのギアポジションに1が表示される。走行準備完了。あとはアクセルを捻るだけ。

 まずそのクラッチミートのスムーズさに驚く。意地悪く低速でUターンをしても、その接続の絶妙さに脱帽させられる。シフトアップ、ダウン時のスパッときまるクラッチにももたつき感など介在しない。

 走行中にN-Dスイッチをもう一度D方向に押すと走行モードがDからSモードへと変更される。このモードはDモードよりもエンジン回転を高くキープすることでアクセルに対するレスポンスをよりシャープに、またアクセルオフ時にはしっかりとしたエンジンブレーキを体感することができる。

 また、右側のスイッチボックスにあるAT / MTスイッチを押せば、ATからマニュアルシフトモードを選択でき、左スイッチボックスにある+、−のスイッチを操作し、ライダー自身でギアの選択が可能になる。

 例えば4速で走行中に赤信号で停止するような場面では、自動的に速度にあったダウンシフト操作をDCTが行い、停止時には1速で発進にスタンバイしてくれるのが特徴だ。



DCT車に装備されるパーキングブレーキ。写真はパーキングブレーキが掛かった状態。リリースもボタンを押しながらレバーを戻すように操作する。便利な機能だ。 右側スイッチボックスにあるグレーのスイッチがギアセレクター。N-D、D-Sをこのスイッチで操作する。スイッチボックス前側に、右手人差し指で操作しやすい位置にAT/MTの切り替えスイッチも装備される。


左スイッチボックスの操作しやすい場所に陣取ったシフトダウンスイッチ。ウインカーの下にあるグレーのスイッチ。クリック感、そのストロークとも感覚にあったものだった。 こちらはシフトアップスイッチ。アップ、ダウンのスイッチを操作する時、ハンドルグリップを普通に握ったまま操作出来るのがDCTの嬉しい特徴。

DCTは峠でどう?

 DCTは変速をオートマチック(AT)に行うシステムだ。通常のモードで平地をクルージングすると、トルクバンドを使った早めのシフトアップするスケジュールが組まれている。

 しかし、ひとたび峠道などに入り、カーブに合わせた加減速が増えると、それまでの早めの変速するプログラムが陰を潜め、まるで道を知っているかのような変速プログラムとなる。適切なギアをキープして、例えば下りでエンジンブレーキが欲しい場面で、自動的にシフトアップするような無粋なシフト操作をしない。

 さらに強めにエンジンブレーキを効かせたい、という時はシフトダウンスイッチをタップすればそれで済むし、あとはまた自動的にATモードに復帰してくれる。さらにノーマルモードよりエンジンを高い回転数でキープしてくれるSモードを選ぶことも出来るから、ライダーのイメージに近い走りを選択することが可能なのだ。DCTはATなのに峠道で退屈することがない。MTで馴れた感覚のまま、操作を換えて再現する楽しさにあふれている。

 結果的にライン取りや、ブラインドコーナーへの注意力にも余裕が出るように感じる。イージーながら退屈などというイメージは微塵もない。


ワインディングを得意科目としているNC700X。DCTを操作してスポーティさを引き出せば通常のマニュアルバイク同様のファンを体感できる。

DCTで市街地をさらに楽しく。

 DCTのシフトスケジュールは、NCの低中速からたっぷりしたトルクを生み出すエンジン特性を知り尽くしているようだ。回転数から想像するより加速の厚みがしっかり感じとれる。これはマニュアルモデル同様、NCシリーズの走る楽しさにつながっている。市街地は発進停止の多い環境、渋滞、クルマやトラックが多い環境でマニュアルトランスミッションのバイクからクラッチ、シフト操作を省きながらも、同等の走行感覚を楽しめる。

 さらに言えばDCT持ち前のシフトショックの少なさと、2000rpmほどでテンポよくシフトアップしていくトルクの波にのった感じはNCならではの走りの世界に誘ってくれる。

 それでいて、追い越し加速などダッシュ力が欲しい瞬間はアクセルを捻るだけでも出遅れ感ゼロでシフトダウン(キックダウン)ももちろん自動的にしてくれるし、感度のよいシフトダウンスイッチをタップしてその瞬間に備えることもライダーの自由だ。AT / MTの切り替えスイッチを触ることなくこうした走りが出来るのがNCに搭載されたDCTの大きな特徴だ。

 何よりシフト、クラッチ、それに合わせたアクセル操作に使っていた感覚を前後左右への注意に振り向けることも可能だから、結果としてリラックス度が高まる印象だった。



DCTで車重増量分はどうなのか。

 DCT搭載車両はマニュアルミッションモデルよりも車重が14キロ増えている。この中にはDCT車がABSを標準装備する分も含まれるので、実質マニュアルミッションモデル比でメカニズム分の増量は10キロとなる。押し引きで重さを感じることはある。しかし走り出してしまうと慣れの範疇だと感じた。スペック上は少なくない差だが、DCTの魅力を知ってしまうとその差が“MTかDCTのどちらを選ぶのか”という大きな分岐点とはならないように思う。



高速道路では

 高速道路でのクルージングはそもそもNC700Xの得意分野だ。速度を一定に保ってクルージングをするところにエンジンの特性がとてもマッチしている。というかそれが楽しめる性格だ。一定速でどこまでも走りたくなる感覚はバイクに乗る冒険心のような部分を刺激してくれる。マニュアルミッション同様の伝達効率なので、NCシリーズのエンジンが持つ持ち前の燃費の良さもスポイルされていない。これは嬉しい。そもそも満ち足りたトルク特性の恩恵で、高速道路の巡航時にシフトダウンをする必要性がほとんど無いNC700Xだ。アクセル操作に集中してシフト操作をDCTにおまかせで走れるイージーさはやはり嬉しい。




DCT体験のススメ。

 NC700XとDCTは自然なカップリングだった。エンジンの特性とハンドリングなどNC700XらしさをむしろDCTが引き出しているようにすら感じさせられた。以前、MTのNC700Xで長距離ランを体験したが、思い出すとその時シフト操作したことの理想型がDCTのシフトプログラムだったと確認できた。

 長い距離を走るとついシフトミス、シフトのサボりなどしてしまうが、DCTはその辺を完璧にこなしてくれる。

 DCTで未舗装路も走ってみたが、発進時にあったあの緊張感が無い。例えばギャップのある場所をスタンディングで通過するような場面でも、シフト操作をミスってトラクションがぬけるような瞬間を連想せずに走れるのは最高のメカだと思う。悪条件でライダーに優しい。

 もちろん2人乗りをするときも断然楽だろう。このシームレスな変速感はライダーにもそうだが、むしろリアシートの人の疲労感も低減してくれるはずだ。DCTでハッピーライディングを体験してみてはいかがでしょうか。今までの普通を超えた新鮮な驚きを見つけるために。

こちらで動画が見られない方はYOUTUBEのサイトで直接ご覧ください。

NC700X Dual Clutch Transmission<ABS>のスペックなど詳細は新車プロファイル2011を参照してください。