MBHCC E-1

 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第13戦サンマリノGP「In the name of....」

 第13戦の舞台ミザノサーキットは、今年からその名称が正式に「ミザノワールドサーキット・マルコ・シモンチェッリ」へと改称された。昨年のマレーシアGPで、レース中のアクシデントにより逝去した彼の名を讃えて名称変更が行われてから今回が初のグランプリ、ということになる。レースウィークには彼を追悼する様々なイベントが行われ、コースサイドや観客席には、生前に彼が使用していたバイクナンバー58番のボードを持ったファンや横断幕なども多々、見受けられた。
 そんなイタリアのレースファンたちにとって、とくにMotoGPクラスの決勝レースは忘れがたい印象を残したのではないだろうか。シモンチェッリが兄のように慕っていたバレンティーノ・ロッシが、おそらくは本人自身も予測をしていなかったであろう2位表彰台。そして、シモンチェッリが昨年所属していたサンカルロ・ホンダ・グレジーニで今季を戦うアルバロ・バウティスタが、自身MotoGP初となる3位表彰台を獲得したのだから、シモンチェッリの関係者にとっても、そして彼を愛する多くの人々にとっても、このリザルトは忘れられない貴重な一戦、といっていいのだろう。

第13戦 サンマリノGP マルコ・シモンチェッリ 第13戦 サンマリノGP バレンティーノ・ロッシ 第13戦 サンマリノGP アルバロ・バウティスタ
本当に多くの人たちに愛されていたのだな、ということをあらためて感じる。 文字どおりの「地元」だけに取材陣の数やファンの期待も尋常ではない。 チームにとっても今回の3位は最高のリザルトになった。

 このサーキットでは、2010年のレース中にアクシデントで富沢祥也が逝去したことも、とくに日本人の方々はいまだに生々しい記憶として脳裏に焼きついていることだろう。事故が発生した2年前の決勝日9月5日、すなわち、彼の命日には世界中のレース関係者やファンがSNSで富沢の思い出を語り、今回のレースウィークにはアクシデントが発生したコースサイドに花が手向けられた。
 日曜日のMoto2クラス決勝レースで、幼なじみであり最高のライバルでもあった中上貴晶や、あるいは富沢のグランプリデビュー以来、弟のようにかわいがってきた高橋裕紀が表彰台を獲得すれば、まるでドラマのような出来事になったのだけれども、じっさいにはなかなかそんな予定調和にはならない。それが現実というものであり、レースの難しさと魅力でもある。とはいえ、このMoto2クラスの決勝では、マルク・マルケスとポル・エスパルガロが熾烈なバトルを展開し、最終ラップには計測セクターごとにトップの位置が入れ替わるという素晴らしい内容の戦いが繰り広げられた。この迫真のバトルこそが、富沢に対する最大の餞になったのではないだろうか。

第13戦 サンマリノGP マルク・マルケス 第13戦 サンマリノGP ポル・エスパルガロ
0.359秒差で激戦を制して今季7勝目。 ポイント差は53点。逆転王者は、やや厳しいか?

 さて、今回の決勝レースでは、MotoGPクラスのスタート進行が混乱した一件も、大きな話題になった。スターティンググリッド上でカレル・アブラハムのマシンが始動できずに、レースが仕切り直し。再スタートの準備進行では、ポールポジションのペドロサのマシンにトラブルが発生して、その対応処置の混乱でなんと最後尾スタートを強いられる羽目に陥ってしまう。レースがスタートすると、ペドロサは一気にごぼう抜きで8番手まで浮上したものの、6コーナーで後ろから追突されて転倒、あえなくリタイア、という結果になってしまった。
 この一連の出来事に関して、ペドロサ自身はなんら過失を犯していない。タイヤウォーマーがはずれなかったのは彼の責任ではないし、フロントローから最後尾グリッドに降順されてしまったのも、彼がなにかミスを犯したから、というわけではない。さらに、6コーナーの転倒は、自らのリアタイヤを後続選手のフロントタイヤに当てられてしまったからで、まさに「もらい事故」の典型例だ。
 前回のチェコGPを劇的な大逆転優勝で制して勢いに乗っている状態だっただけに、今回のノーポイントは本当にいたい。ランキング首位のホルヘ・ロレンソが優勝したために、13点差は一気に38点へ広がってしまった。残りは5戦。すべてのレースでペドロサが優勝したとしても、ロレンソが毎戦2位でチェッカーを受け続ければ25点しか縮まらない。状況は圧倒的にロレンソ有利に傾いた、といっていいだろう。
 それにしても、ペドロサはどうしてもこんなにいつも判官贔屓ポジションに追い込まれてしまうのだろう。今季はケガがなく、後半戦から追い上げムードで上昇機運に乗っていた矢先に、これである。悲運にもほどがある。
 次戦の第14戦アラゴンGPは、「MotoGPクラスもMoto2も、スペイン人同士のチャンピオン争いがさらに緊迫するだろうから、きっと観客もたくさん入るのかな〜」と日曜午前まで思っていたのだけれど、さて、このような状況になってしまった現在、はたしてじっさいにはどうなりますやら。
 というわけでまた次回。では。

第13戦 サンマリノGP ホルヘ

第13戦 サンマリノGP ペドロサ

第13戦 サンマリノGP ブラドル
今季6勝目。第7戦アッセンの転倒以外は全戦優勝か2位という高水準。 なぜ神は彼にかくも苛酷な試練を与え給うのか……。 中盤まで健闘するものの、終盤は空気圧等に課題を抱えて惜しくも6位。
第13戦 サンマリノGP ジョナサン・レイ 第13戦 サンマリノGP Viale D Kato 第13戦 サンマリノGP 小山
MotoGP初レースでトップから43秒差の8位。アラゴンも乞御期待。 正面エントランスへ続く100メートル少々の小道。 富沢祥也の在籍したTECHNOMAG-CIPで終盤6戦に参戦!!
第13戦 サンマリノGP
MotoGP決勝レース終了後、表彰台下に集まる人、人、人……。
■第13戦 サンマリノGP
9月16日 ミサノ・サーキット 晴れ
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #99 ホルヘ・ロレンソ ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
2 #46 バレンティーノ・ロッシ ドゥカティ・チーム DUCATI
3 #19 アルバロ・バウティスタ ホンダ・グレッシーニ HONDA
4 #4 アンドレア・ドヴィツィオーゾ ヤマハ・テック3 YAMAHA
5 #11 ベン・スピース ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
6 #6 ステファン・ブラドル LCRホンダ HONDA
7 #69 ニッキー・ヘイデン ドゥカティ・チーム DUCATI
8 #56 ジョナサン・レイ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
9 #14 ランディ・デ・ピュニエ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
10 #51 ミケーレ・ピロ ホンダ・グレッシーニ FTR(CRT)
11 #5 コーリン・エドワーズ フォワードレーシング SUTER(CRT)
12 #68 ヨニー・エルナンデス BQR BQR-FTR(CRT)
13 #77 ジェームス・エリソン ポール・バード・レーシング ART(CRT)
14 #9 ダニロ・ペトルッチ イオダ・レーシングプロジェクト IODA(CRT)
15 #44 ダビド・サロム アヴィンティア・ブルセンス BQR(CRT)
RT #41 アレックス・エスパロガロ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
RT #35 カル・クラッチロー ヤマハ・テック3 YAMAHA
RT #54 マティア・パシーニ スピード・マスター ART(CRT)
RT #8 エクトル・バルベラ プラマック・レーシングチーム DUCATI
RT #26 ダニ・ペドロサ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
RT #17 カレル・アブラハム カルディオンABモトレーシング DUCATI
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

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