松井 勉の日々是試乗三昧「DAEGという個性、DAEGという走り方。」

KMJ

 朝晩の気温が低い。たった数週間前まではあれほど世間を賑わせた残暑だが、今では口にすることも耳にすることもなくなった。秋だ。
 個人的には春から憂鬱な梅雨を挟んでやってくる、あの急な坂をぜいぜい言いながら登るのに似た暑さの夏よりも、さわやかな風に吹かれ、夕方の景色が早めにやってくる秋が大好きだ。
 


DAEGという個性、DAEGという走り方

 こんな季節になるとちょっと高い所から風景を眺めたくなる。しかも朝の澄んだ空気なら、さぞ“秋”を堪能できるはず、そこで山の裾野から駆け上がる峠道へとダエグを走らせた。

 2009年春。ZRX1200ダエグはZRX1200Rの後継機として登場した。そもそもAMAスーパーバイクのチャンピオンマシン、Z1000R、Z1100Rことローソンレプリカの風味をたっぷり効かせたZRXシリーズの伝承者が踏まえたのは“ジャパニーズ・スタンダード・ネイキッド”というコンセプトだ。
 ご存じZRXシリーズはアグレッシブさとビッグバイクらしさを時間を掛けて煮込まれたことで、ビッグネイキッドに新しい潮流となったことはご存じのとおり。
 しかし、そのビッグネイキッドらしい体躯とは裏腹に、けっして大きさを誇張した作りにはなっていないのもZRXの伝統だ。例えば全長。CB1300SFの2200㎜に対し、ダエグは50㎜短い2150㎜。XJR1300よりも25㎜短く、独自の方向性を持つバンディット1250より5㎜長いだけだ。
 ホイールベースを比べると、CBの1510mm、XJRの1500mm、バンディットの1480mmとなるが、ダエグのそれは1470mmと短く設定されている。また、フロントのキャスター角/トレールを見ても、CBの25度ジャスト/99mm、XJRの25度30分/100mm、バンディットの25度20分/104mmと、およそ25度プラスのライバルに対し、ダエグは24度30分/100㎜。
 フレームの形態や剛性バランス、重量など様々なファクターが絡むハンドリング作りをこの数値だけで追いかけるのは意味がないが、キャスターはカワサキの走り系ネイキッド、Z1000、ニンジャ1000と同等と聞くだけで、そのキャラクターが透けて見えてくるようだ。


こちらで見られない方、もっと大きな画面で愉しみたい方は直接YouTubeでご覧下さい。
■主要諸元 ZRX1200 DAEG(EBL-ZRT20D)■
●水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ、79.0mm×59.4mm、1164cc、圧縮比10.0:1、最高出力81kW(110PS)/8000rpm、最大トルク107N・m(10.9kgf-m)/6000rpm、燃料タンク容量18L、オイル容量3.5L、燃料消費率25.8km/L(60km/h)●全長2150×全幅770×全高1155mm、ホイールベース1470mm、最低地上高135mm、シート高795mm、車両重量246kg●常時噛合式6段リターン、キャスター角24°30’、トレール100mm、タイヤ前:120/70 ZR17M/C (58W)、後:180/55 ZR17M/C (73W)、ブレーキ前:油圧式ダブルディスク、後:油圧式シングルディスク、懸架方式前:テレスコピック式、後:スイングアーム式、ダブルクレードルフレーム●価格:1,140,000円
足着き 足着き 足着き 足着き
身長183センチ、装備重量約90キロが乗った状態。膝はゆったり曲がり、太腿の内側にシート、サイドカバーなどが当たる感覚は皆無。ステップに足を載せると膝位置がヘッドカバーに近く熱を感じる場面も。ハンドルバーは幅も適度。ややセットバックされているためライポジ全体にコンパクト感がある。

感性を刺激するダエグ。

 セミカウルの付いたシュっとした顔、角形マルチリフレクターのヘッドライトによって作られるフロント周りはダエグのアイコンだ。
 パッと跨がってシート、タンクが作るフィット感を確かめる。その取り合わせは、しっかりビッグバイクらしいサイズ感を楽しませながら、ニーグリップエリアを絞り、シートとのつながりを実に良好なものにしてくれている。足着き性もスムーズだから、日本の街乗りでも気にならないのは相変わらず。
 ダブルクレードルフレームに積むエンジンは、サイドカムチェーン採用の伝統のコンパクトユニットだ。フューエルインジェクションを組み合わせているのがダエグの特徴で、厳しい排ガス、騒音規制をクリア。キャブ時代よりも1200という排気量を後ろ盾にしたそれはダエグをよりダエグらしく走らせる。

 実走行では4000rpm以下でも実に生き生きとした走りを楽しませてくれたし、6速ミッションがもたらすつながりの良さを2000rpmプラスでどんどんシフトアップしても、行儀良くスルスルと走る姿が印象的だった。もちろん、ビッグトルクのパンチ感もある。だからどんな場面でもダエグを身軽に走らせる事に気難しさは介在しない。

 しかし、袖口から入る空気が冷たさを増していたワインディングに入ると、それまで軽快な中にも落ち着きを持っていたダエグのフロント周りは、より積極的に曲がろう、曲がろうと乗り手を誘惑し始める。やや高い位置からスっと寝て行くようなその素振りは、ZRXシリーズ伝統のそれだ。ダエグの身のこなしに安心して任せるために、エンジンの回転を少し高めて後輪に掛ける駆動力をたっぷり掛ける準備をする。あとは気持ち良いラインにダエグを載せ、サスペンションを押し沈めつつ、然るべきタイミングでアクセルをあてていく……。
 なにもエンジンはブン回さなくていい。4000から5500、あるいは6000回転ぐらいまでに生み出すトルクを右手次第でぐっと引き出せばよく、それだけでダエグは我がものとなって駆けはじめた。

 
 前後のペダルディスクは実に扱いやすくトゲのないコントロール性を持っている。フロントは右手の引きしろ、力加減で幅のある操作感を持ち制動力は充分だ。スーパースポーツのような食いつき感は希薄だが、下りのヘアピンへと進入する時も、しっかりとしたフロントフォークのおかげで自信をもって握り込めることのほうがコントロールする側の楽しみの幅を広げてくれている。
 このダエグが履いていたブリヂストンのBT-021というスポーツツーリングタイヤとのマッチングも上々。超最新スペックではないが、ツーリングペースも、峠走りもダエグらしさを余すことなく楽しめるパッケージだった。

 
 左右へと切り替える時の体が感じる重みと手応え感。そして曲がりはじめてから加速をはじめるまでのスポーティーさ。寝かし込みながら心地よい旋回ラインをたどるのはちょっとした夢心地だ。
 ツーリングも街中もワインディングも全部ビッグバイクで楽しみたい、そんなわがままな想いを見事に応えてくれるダエグ。登場から3年経った今もその走りはZRX1200ダエグを求める人に、澄み切った水のような透明感でしっかりとらしさをそこに湛えていた。


φ310 ㎜のペダルディスクとトキコの4ピストンキャリパーを採用。マスターシリンダー、キャリパー、パッドといったコンビネーションに突発さを予感させるシビアさはなく、フロントのスプリング、ダンパーとの相性がよい。峠の上り下りを楽しむ絶好のコンビネーションだった
φ310 ㎜のペダルディスクとトキコの4ピストンキャリパーを採用。マスターシリンダー、キャリパー、パッドといったコンビネーションに突発さを予感させるシビアさはなく、フロントのスプリング、ダンパーとの相性がよい。峠の上り下りを楽しむ絶好のコンビネーションだった。
ジェネレーターカバーやカムチェーン側のカバーにも造形を施したダエグのエンジン。フューエルインジェクションを覆おう樹脂のカバーはリボルバーを思わせるスタイル。ポートからエネルギーをグッと押し込むようなイメージを想起させる
ジェネレーターカバーやカムチェーン側のカバーにも造形を施したダエグのエンジン。フューエルインジェクションを覆おう樹脂のカバーはリボルバーを思わせるスタイル。ポートからエネルギーをグッと押し込むようなイメージを想起させる。
パールスターダストホワイトと名付けられたカラーとマット系にまとめたシャーシ周りのコントラストがクオリティーを感じさせる。パイプで構成されたスイングアームにはカワサキお約束のエキセントリックカムのチェーンアジャスターをもつ。ホイールはY字スポークホイールだ。リアショックはダンパーイニシャルプリロードなどフルアジャヤスタブル
パールスターダストホワイトと名付けられたカラーとマット系にまとめたシャーシ周りのコントラストがクオリティーを感じさせる。パイプで構成されたスイングアームにはカワサキお約束のエキセントリックカムのチェーンアジャスターをもつ。ホイールはY字スポークホイールだ。リアショックはダンパーイニシャルプリロードなどフルアジャヤスタブル。
たっぷりとしたストローク感を感じさせながら、ワインディングでは尻にまとわりつかない絶妙なクッション設定。動きやすく快適。段付き具合がZRX系のアイコン シートの下には大容量のラゲッジスペースが。レインスーツなど旅の準備をここに詰め込むことも難しくない。床下ばかりか、シートに荷物を積むとき荷便利なタンデムグリップやリアショックマウントボルト、荷掛フックの装備など、ラッシングベルトやコードを活かしやすい構成となっているのがカワサキの伝統
たっぷりとしたストローク感を感じさせながら、ワインディングでは尻にまとわりつかない絶妙なクッション設定。動きやすく快適。段付き具合がZRX系のアイコン。 シートの下には大容量のラゲッジスペースが。レインスーツなど旅の準備をここに詰め込むことも難しくない。床下ばかりか、シートに荷物を積むとき荷便利なタンデムグリップやリアショックマウントボルト、荷掛フックの装備など、ラッシングベルトやコードを活かしやすい構成となっているのがカワサキの伝統。
ボリューミーなクラッチカバーほか、ケースカバーのボルト類にも神経を使ったエンジン周り。「ネイキッド」の顔を伝統の引用だけではない文法で表現。ステンレスのエキゾーストパイプが誇らしげ 全体の焼け具合がエキパイとバランス良く飴色になるよう設計されたサイレンサー。コンパクトなサイズの車体にあって突出した大きさを感じさせないのはさすが。リアブレーキはφ250㎜のペダルディスク。制動力は充分ながら適度にダルな操作性になっているので懐深いコントロール性をもっている。
ボリューミーなクラッチカバーほか、ケースカバーのボルト類にも神経を使ったエンジン周り。「ネイキッド」の顔を伝統の引用だけではない文法で表現。ステンレスのエキゾーストパイプが誇らしげ。 全体の焼け具合がエキパイとバランス良く飴色になるよう設計されたサイレンサー。コンパクトなサイズの車体にあって突出した大きさを感じさせないのはさすが。リアブレーキはφ250㎜のペダルディスク。制動力は充分ながら適度にダルな操作性になっているので懐深いコントロール性をもっている。
輝度の高いLEDテールランプと同じような透明感で統一された白レンズのウインカー。こちらも縦の寸法を詰めた細身でエッジの効いたスタイルをほこっている マルチリフレクターの反射具合がダエグの特徴。存在感はあるがハンドル周りへの慣性を感じさせないカウル。その清流効果は想像以上にクルーズ時に効果的
輝度の高いLEDテールランプと同じような透明感で統一された白レンズのウインカー。こちらも縦の寸法を詰めた細身でエッジの効いたスタイルをほこっている。 マルチリフレクターの反射具合がダエグの特徴。存在感はあるがハンドル周りへの慣性を感じさせないカウル。その清流効果は想像以上にクルーズ時に効果的。
ツイントリップ、時計、ODOを速度計内にそなえ、回転計内には燃料系。コンベンショナルな2眼メーターとはことなるデザインが特徴。どちらかといえば80年代のレーサーレプリカ流の韻を踏んだルックスだ 白いタンクがニーグリップエリアで深く絞られた事が解るカット。膝でしっかり包み込めるようなカタチに絞り込まれたタンク。ハンドルバーをゴールドとしているところもZRX系の伝統
ツイントリップ、時計、ODOを速度計内にそなえ、回転計内には燃料系。コンベンショナルな2眼メーターとはことなるデザインが特徴。どちらかといえば80年代のレーサーレプリカ流の韻を踏んだルックスだ。 白いタンクがニーグリップエリアで深く絞られた事が解るカット。膝でしっかり包み込めるようなカタチに絞り込まれたタンク。ハンドルバーをゴールドとしているところもZRX系の伝統。


※旧サイトではカワサキZRX1200 DAEG大全がご覧いただけます。
[カワサキZRX1200 DAEGのへぇ〜]