おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第27回
ビーナスライン


ビーナスラインは長野県茅野市の国道299号・国道152号と上田市の美ヶ原美術館を連絡する山岳道路で、蓼科有料道路(約35km)と霧ヶ峰有料道路(約40km)の2本の道の総称。茅野から蓼科、白樺湖、車山高原、霧ヶ峰、美ヶ原、と、人気の観光地を結ぶ。86年から区間単位で無料化され、02年から全線無料に。

ビーナスラインMAP

 

 ビーナスラインといえば信州でも指折りのグッドロードとして有名だ。ツーリングで利用したことがあるライダーも多いことだろう。今回は特に素晴らしいといえる霧ヶ峰有料道路のことに関して書くことにする。俺が最初に乗り入れたのは、40年近く前だった。まだ群馬の田舎町、富岡市(最近、明治初期に建造された日本初の官営製糸工場を世界文化遺産にと、かまびすしい)に住んでいた17の頃だった。

 TX500に乗っていた俺は以前書いたように、上毛三山や長野県境の碓氷峠などを走っていたが、ちょっと足を延ばして、軽井沢や蓼科、白樺湖方面までひとっ走りツーリングに出かけることもあった。で、友達の友達でCB750FourK2に乗るヤツなど数人と碓氷峠を越えて白樺湖畔まで行き、湖を見下ろす場所にあるビーナスラインの料金所まで走った。そして料金所の手前で一度止まり、乗り入れるかどうか迷った。料金が安くなかったからだ。結局、夕暮れが迫っていたこともあり、引き返したように記憶する。だからほんの端っこをちょびっと走っただけだったのだが、白樺湖畔から駆け上る料金所までの道も周囲の景色もよくて、印象に残った。

 同じ頃、数回デートしただけで別れてしまった、彼女とも呼べないほど浅い付き合いで終わった女子をリヤシートに乗せて白樺湖まで行ったこともあったっけ…。でもビーナスラインには入らず、ボート遊びをして早めに帰路に着き、立科町まで戻る途中、県道40号沿いのレストランで昼食を摂った。その後も、18の夏に上京するまでの間に、何度か白樺湖方面へはひとりで、または友達と一緒に走りに行ったが、ビーナスラインには乗り入れなかったように思う。貧乏な夜学生にとって有料道路は贅沢だったから。そういえば、その頃、俺はビーナスラインといえば白樺湖上の料金所から美ヶ原までの霧ヶ峰有料道路のことだと思い込んでいた(蓼科有料道路はそれに含まれていないと認識) 。

 初めて霧ヶ峰有料道路を全線走ったのは、上京後の20代前半の頃で、バイト仲間達と信州ツーリングに出かけたときだった。東京からR17、R18とつないで碓氷峠を越え、軽井沢、小諸と繋いでR152に入り、大門街道で大門峠へ。そして白樺湖上の料金所からビーナスラインに入った。天気は良く、車山から霧ヶ峰周辺の道のよさと景色の美しさは、雑誌などに掲載されていた写真で目にしていた以上に素晴らしいもので、感動した。緑にくるまれたなだらかな稜線の山々や草原。そこを曲がりくねりながら貫く道。仰げば青い空…。

 霧ヶ峰、八島ケ原湿原から国道142号と交差する和田峠までの区間は比較的開けた感じで、Rのきついコーナーは少なく、山岳道路らしい雰囲気で気持ちよく走れる。和田峠から県道67号と交差する扉峠までは、適度なRのコーナーが多く、扉峠から終点の美ヶ原美術館の区間は勾配のきついタイトコーナーの連続で、それまでとは違う面白さがあるし、景色もそれまでより山深い感じになる。登りきると美ヶ原高原で、高原美術館は広範囲の野外に規模の大きいオブジェ、美術品が置かれている。そのツーリングのときは、それらを適当に見たりしながら休憩し、引き返した。どこかで泊まったと思うが忘れてしまった。

 バイク雑誌制作の仕事に就いてからは、信州ツーリング特集を企画し、ビーナスラインを詳細に掲載するための取材に出かけたこともある。80年代半ばのことだ。カメラマンと数人の女性スタッフと、泊りがけで出かけた。蓼科牧場や女神湖、白樺湖周辺を取材し、車山や霧ヶ峰、八島ケ原湿原、扉峠など、主要な場所で写真を撮り、美ヶ原高原美術館も当然取材した。時期は初秋の頃だったように思う。そのときも天気は良かったし、トラブルもなく、充実した取材ができた。

 その後も、個人的に何度か信州ツーリングの際にはビーナスラインを走ってきているが、もう10年ほど前になるだろうか。バイク仲間のふたりと信州ツーリングに出かけ、そのときもビーナスラインの霧ヶ峰有料道路区間の全線を走った。無料になっていたが、平日だったので交通量は少なく、コーナリングと景色を満喫することができた。高原美術館で一服した後、おいおいたのんますよ~、という感じの狭く路面も荒れた県道を下って浅間温泉の旅館に投宿した。夏の終わり頃だった。

 2、3年前、白馬で長年続いているバイク仲間の集まりがあり、その時の往路は関越道/上信越道~菅平~長野~国道402とつないだ。白馬で1泊し、2日目はビーナスラインを通って帰ろうと思い、国道143号線から県道に入って上っていくと美ヶ原牧場があり、放牧された牛が草を食んでいた。先方には美ヶ原美術館が見える。交通量は少なく、牧歌的で解放感にあふれる景色は、遠回りしてきてよかったと思わせた。だが、進んでいくと行き止まり。高原美術館につながっていると思われるダートの道はあった。しかし、一般車両は通行禁止の管理用道路で、柵と鎖が…。もう! と思いつつ引き返し、県道を下って国道254に出たのだった。

 とゆーわけで、結局、その時は走れずに終わったビーナスラインだが、信州ツーリングには今後も出かけるだろうし、ビーナスラインをルートに組み入れるであろうと思う。若葉の季節か、紅葉の頃がいいなあ…。


ビーナスラインの落合から始まる急坂区間。
ビーナスラインを美ヶ原に向けて走る。
景色もよしワインディングも楽しい。だからこそ脇見運転や飛ばしすぎには十分注意を!


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、15年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで6万5000km。

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