バイクの英語

第27回 Inkle-weaver
(インクルウィーバー)

 車道か歩道か。自転車が走る道は結構アバウトなものだと思う。法律的にはどうなってるのかわからないけれど、そもそも免許もないしあらゆる年齢層や技量の人が必要に迫られて乗るんだからあんまり厳しいこともいえないでしょう。

 ところが歩道での自転車と歩行者の事故が増えたからって東京では「自転車は車道を走る事」と言い出した。ま、大筋ではいいのでしょう。自転車だって「車両」なのだから車道を走っても問題ないはず。特にスピーディなスポーツ用自転車(もっともこういうタイプの自転車に乗ってる人ははじめから車道を走ってると思うけれど)や通勤などで速いスピードで移動してる人はぜひ積極的に車道を走っていただきたい。ちゃんと交通ルールを守ってね。

 ところが、車道の左側には我々バイクがいるわけで、自分の空間だと思っていたところに突然自転車が急増した。東京都が「自転車は車道へ!」と言い出す前から車道を走ってるような自転車ライダーには問題はなかった。ちゃんと車やバイクとの共存をしていたから。駐車車両を右から追い抜かす時にはちゃんと右後方を確認して、右手をチラリと出して合図したりする常識が備わっていたからね。さらに自分を半人半車という都合のいい物ではなく「車両」としての認識をもって乗ってるから、信号もちゃんと止まり、夜間は前後にライトをつけるなど交通ルールも原付と同じレベルで守ってくれていた。

 問題は東京都に「車道へ行け」と言われて、何にも車道のルールを知らず、かつ教育も受けずにはいそうですかと車道に出てきた連中。フラフラと左車線を走り、駐車車両を抜かす時も何の前触れもなく右車線へ進路変更。赤信号でも突っ切るし、クルマのふりして車道を走っていたかと思えば歩行者のふりして横断歩道をスピード緩めずに渡る。車道を逆走する。で、交通弱者だからなのか、「都に言われたから」なのか、当然の権利のように傲慢に、縦横無尽に、車道のルールも守らずに走り回る。保険もないからぶつけたら大変なのにお構いなし。恐るべし傲慢チャリ。つーかちゃんと取り締まれよ東京都。

 笑ってしまうのは田舎に帰ったら、今まで歩道でヨチヨチ走ってた、孫の中学指定お下がりチャリンコに草刈り鎌をくくりつけているようなおばあちゃんが、テレビで騒いでた「自転車は車道へ」を真に受けて車道に出てきた事。だって歩道がスッゴイ広い上に歩行者なんていないんだぜ!? しかも田舎の県道はかなり流れも速い。なんでくだらないルールなんかよりも自分が住んでる環境にあった自己防衛を優先させないのか理解に苦しむ。

 都内でもみんなバカ正直に車道に出ることはないでしょう。歩道の方が安全なこともたくさんある。ベルの鳴らし方だって、遠くからチリンと一回鳴らし「すみませーん」と声を掛け、通り過ぎながら「ありがとうございまーす」なんて言えばいいじゃない。新聞の投稿欄なんかで「ベルを鳴らしてるのにどいてくれない」とか「ベルをジャカジャカ鳴らすからわざとどかなかった」なんていうのを見かけるけど、いやほんと、バカなんじゃないの?? 「すみませーん、通りまーす」「はいはいどーぞ」って言えばいいだけなのに、それができずに新聞に投書するなんて根本的に何かが捻じ曲がってる。ま、自転車に限らず最近の世の中はコミュニケーション不足で様々な愚かな摩擦がうまれていると感じますけれどね。

 ま、いーや。一つ話を戻して「傲慢チャリ」ですが、彼らでヒヤッとするのは、歩道をいいペースで走ってたかと思ったら突然車道に出てくる時。何か歩道の前方に障害物が現れたんでしょうね、前触れなく、後ろを確認せず、ピャッと車道に出てくる。ウワッてブレーキして衝突を避けたかと思ったら、ヤツラ、何事もなかったようにまた歩道に戻ったりするんだ。こっちは寿命が縮む。これが対向でもあるから怖い。何もいなかった車道に突如歩道から出てきた自転車がこっちに向かってくるんだからたまらない。しかもそれを「だって都が自転車は車道って言ったから」とあたかも当然のような顔をしてるからあきれる。極めつけはバイクを邪魔物扱いするからね。あぁ憎い。憎たらしい。

 断っておくけれど、都がこんなこと言い出す前から車道を走ってたスポーツチャリライダーの人たちはこんなことほとんどなかったんだ……。交通社会の中での自分の立ち位置をわかってたんだ。都が「チャリは車道」と言い出してから途端に増えたんだ、傲慢チャリは。歩道から追い出しただけじゃなくて、教育やら取締りやらちゃんと最後まで面倒見てくれよ東京都。都心の自転車の免許制・ナンバー登録制大歓迎。

 で、こんな傲慢チャリライダーの歩道からピャッ出てきてはピャッ戻る感じ。これはまるで「インクルウィーバーのよう」だと表現するだろうな、英語だと。出たり入ったりがとても盛んな「インクルウィーバー」、この生き物について説明しよう。未確認情報が多いが、ツチノコ的に世界中でその生態や存在は知られている。目撃情報を元にした有力な生態像がこちらだ。

 

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■有力情報その1

 もっとも多く「インクルウィーバー」が目撃されているのはアメリカ北部のモンタナやカナダである。夏の間の目撃情報はなく、「インクルウィーバーに似た物を見た気がする」と調査しても結果的にカワウソであったりすることが多い。

 冬場に目撃されることの多いインクルウィーバーは白色で、大きめのイタチのような動物だとされる。カナダの広い雪原で目撃されることがあるが、非常に警戒心が強く、遠くに目撃したと思われた瞬間に雪の中にもぐってしまう。その白い姿からオコジョのように夏には別の色をした生き物なのかと推測されていたが、夏期の目撃・確認例がないため詳しくはわかっておらず、通常の動物が冬季の間に冬眠するのとは対象的に、夏の間は地下で過ごしているのではないかという説も有力だ。

 カナダ政府の要請で生態の調査に乗り出したチームもいたが、深く雪が積もった雪原にしか現れないことから調査は難航。一度その姿を捉えたとしても、雪面から顔を出したその同じ場所から再び現れることはないそうだ。よって雪の中にトンネル網を持っているのではなく、移動の度に新たにトンネルを掘っていると推測されている。よって次、どの位置に現れるかの予想を立てるのは不可能であり、目を皿にしてただただ雪原を眺め続ける調査は結果をもたらすことなく打ち切られた。

 この予測不可能で謎に満ちた生物の調査に当たったメンバーは、ピョコッと出てはすぐにいなくなり、また予想だにしない所に顔を出すこの生物に悩まされたあの冬を回想し、そのような動きをするものを「まるでインクルウィーバーのよう」と表現したという。

 その後大きな調査が行われたことはなかったが、今も雪原でインクルウィーバーを見たという人は後を絶たず、かつ雪がない季節での確実な目撃情報は1件もない。

■有力情報その2

 一方で「珍しいものではない」とインクルウィーバーの謎を笑い飛ばすのはオーストラリアだ。オーストラリアでのインクルウィーバーとはトカゲの一種の俗称であり、砂漠地帯では一般的な生き物である。オーストラリアの生物の多くは独自の進化をしており、砂漠に生きる生物の多くは何かしらの毒を持っていたり、擬態の能力を持っていたりする。しかしインクルウィーバーはどちらも持ち合わせておらず、ただの無害なトカゲだ。特別凶暴でもなく、捕食しやすいことからタカなどの鳥に狙われることが多く、これを避けるために砂の中を移動することが多い。とはいえトンネルを掘るほどの深さではなくごく浅い所を移動する。インクルウィーバーが通った後は浅い所をモグラが通った後のように砂が盛り上がっていることが多く、人間の目からは発見しやすい。


インクルウィーバー

 このインクルウィーバーの通った後を追うと実際にインクルウィーバーに会えることもあり、砂の中をそそくさと進んでいる様子が見える。これを観察して後をつけると、インクルウィーバーはこちらの足音に気づき、何がいるのだろうと砂から頭部だけを露出させ、こちらを確認する。人間がのぞき込んでいるのを確認するとすぐにまた砂に潜り、しばらく進み、また確認のために頭部を出す。

 この頭を出したり引っ込めたりする動作からオーストラリアでも、前触れなく出たり入ったりする動作を「インクルウィーバーみたいに」と表現するようになったとされている。

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 いかがですか? カナダのオコジョのような生き物とオーストラリアのトカゲではイメージが違いますが、いずれも同じような理由から「出たり入ったりする動作」を「インクルウィーバーのように」と言うことが定着しています。実際にこの言い回しを使用する時は、出たり入ったりがかなり高速な印象ですね。例えば昔の発動機などでバルブやロッカーアームが露出していて、それがチャカチャカと動いてるのが見える時、「お、インクルウィーバーみたいに頑張ってるね」などと使います。小刻みに動いてる様を指しているのですね。もしくは子供が喜んではしゃいでるような場面では「Jumping up and down like an Inkle-weaver」(まるでインクルウィーバーのように飛び上がってはしゃいでるね)などとも使います。

 そもそもウィーブとは織るという意味ですので、往復運動を連想させる言葉です。そうなるとウィーブするインクルということになるので、そもそも「インクルウィーバー」という生き物ではなくただの「インクル」かもしれません。まだまだ謎多き生き物ですね!

筆者 
カルク・カクデス
 幼少よりエンデューロレースを楽しんだスペイン人ライダー。スペインの砂漠地帯でもインクルウィーバーを見たと言い張るが、それはカナダのものともオーストラリアのものとも違った、蛇のようなものだったという。ロードレースを始めてからは大変順調で、来年はスペインの大きな企業をスポンサーに、ホンダ車のシートを確保。日本のチームと組むに当たり急速に日本に馴染んできている。来る2月には二十歳になるのだが、「誕生日にはサントリー角瓶で乾杯だな!」との宣言をし、地元のサングリアファンを困惑させているとか。


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