順逆無一文

第29回『 SL350 』

 前回は、ジジイの昔話と新刊本の宣伝だけで終わってしまって申し訳ありませんでした。今回は役に立つ(かもしれない…)ネタをお届けしよう。前回、SL350のことを書いたが、その件で知人から連絡がありました。やはりSL350に乗っていた方で、気になってあれこれ調べたのだが、車種が車種だけに情報がほとんど無かったのだそうです。で、多分、他ではほとんど目にすることがないと思われるSL350のデータを「ミニ・ヒストリー」のカタチにまとめてみましたので、ご活用下さい(やっぱり役に立たないか…)。といっても著作権フリーではありませんので、コピペ転載は、もちろんNGです。
 
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 ホンダのトレール・マシンとして“SL”の名称が登場するのは、1969年8月1日発売のSL90から。それまでのホンダのオフテイストモデルとしては、“CB”をベースに開発されたスクランブラー・モデルとして名を馳せていた“CL”シリーズがあるが、そのCLシリーズに取って代わるモデルというわけではなく、オフテイストモデルのバリエーションを拡大しようという戦略で、その後もCLシリーズとSLシリーズは併売されていくことになる。

 SL350の発売は、1970年1月17日。『精悍なスタイルで、不整地で優れた操縦安定性を発揮するストロークの長い前輪テレスコピックサスペンション、ブロックパターン大径タイヤを採用、エンジンは2気筒30馬力(9,500回転)、5段ミッション、最高速135km/h、低中速向きの減速比を設定し、ゆとりをもってオフザロードを走ります』(ホンダの当時のリリースより)。発売当時の“全国標準現金正価”は217,000円。これはSL350シリーズを通して変わらずだった。エンジンはCB350系の4ストロークOHC2バルブ2気筒をベースに開発したもので、最高出力よりも中低速向けのセッティングを重視したことにより、CB350の36馬力やCL350の33馬力よりも若干デチューンされていた。

“本格派のモトスポーツマシン”としての装備は、スチール製の「ハイ・フェンダー」や、モトクロスタイプの「ロングストローク・フォーク」を採用。シルバー塗装されたフレームのサイドを沿うように通したブラックのエキゾーストパイプ、そしてその先にはSL350のセールスポイントの一つとされた“スパークアレスター”内蔵のブラックマフラーが装備された。この“スパークアレスター”というのは、アフターファイヤなどが発生しても火の粉を飛ばさない仕組みで、山火事に注意をしなければならいカナダの森林警備隊に納車するモデルなどでは必須の装置、と説明されていた。イグニッションキルスイッチの標準採用も当時としてはまだ珍しい話題だった。
●SL350●
■空冷4ストローク2気筒OHC2バルブ、ボア64mm×ストローク50.6mm、総排気量325cm3、圧縮比9.5:1、最高出力30PS/9,500rpm、最大トルク2.50kg-m/7,500rpm(輸出モデルは、CL350とほぼ同一の33PSと2.67kg-mを発生)、CVキャブ×2、バッテリー点火、5段リターン・トランスミッション、前リーディング・トレーリング×後リーディング・トレーリングブレーキ、車両重量165kg。
■フレームNo. SL350-1000001~
■エンジンNo. SL350E-1000001~
■カラー ルビーレッド/サファイアブルー/ゴールド
 
 このSL350が発売された年の5月1日には、SLシリーズとして先行したSL90が、登場後1年も経たずに、1PSアップの新エンジンや個性的な“コブラマフラー”を採用した新型に発展。本格的な“SLスタイル”のモデルに変身。さらに6月5日には、兄貴分のSL175が登場する。国内販売を前に、1970年2月からアメリカを中心に発売され、その時点で9,800台が輸出されていたというモデルだ。

 そして9月22日、その後の空冷125エンジンの定番として連綿と歴史を築き上げることになるOHCシングルを搭載するSL125Sが登場(CB125S、CD125Sと同時開発&発売だった)。この年、SLシリーズは、一気に勢力を拡大することとなった。

 ただ、SLシリーズの隆盛期間は短く、1975年5月17日に発売されることになるXL250、XL125という“XL兄弟”が登場するまでのわずかな期間でしかなかった。ちなみに最初のSLモデルであるSL90は、あの偉大な名車、CB750FOURの発表と同時にリリースが行われている(発売日は8月1日で、CB750FOURの8月10日発売と若干ずれていたが)。まさにビッグニュースの陰に隠れてしまった感がなきにしもあらずの登場だった。その後のSLシリーズの命運を暗示していたのかも知れない。

 それはともかく、SL350の初期型もSLシリーズのトップバッター、SL90同様、発売後わずか半年ちょっとで大幅なモデルチェンジを受けている。それは、シングルだったダウンチューブがダブルに変更されるという、フレーム構造までが変わるほどの、まさにフルモデルチェンジといえるものだった。蛇足ながら、このSL350(K1)の登場により、SL350の初期型を「K0」の通称で呼ぶ方が多いが、CB750FOURと同様、その後のモデルにK1、K2…の識別記号が付くために初期型をK0とするあくまで便宜的な呼称で、正式にはSL350の初期型はただの「SL350」だ。

 1970年10月20日に発売開始されたSL350(K1)は、ニューフレームになると同時に、初期型の大きな特徴であった1人乗り仕様をさっさと諦め、彼女も乗せられる2人乗り可能なモデルとなった。初期型はオフマシンとして割り切った上での一人乗り仕様だったのだが、さすがに販売戦略的には無理があったのだろうか。また、初期型では装備されていたセルスターターも廃止され、軽量化が図られた。

 ちなみに1970年モデルのCB350の車両重量は149kg、CL350の148kgに対して、SL350の初期型は本格的なオフイメージを追求したものの、車重はなんと165kgにもなってしまっていた。K1への変更にあたって、セルモーターの廃止の他、様々な軽量化により車重は、145kgに収めることに成功。またダウンチューブの変更に合わせて、エキゾーストパイプもフレームサイドからエンジン下を通すようにレイアウトを変更。本格的なスポーツユースへの配慮とともに、マフラープロテクターを省略することにもつながっている。

 フレームも国内仕様ではブラック塗装となった。キャブもロードスポーツ寄りの特性を持つCVタイプのデュアルから、シンプルなピストンバルブタイプのデュアルの組み合わせに変更。タンク形状も前後に短いずんぐりスタイルに変更、タックロールシートも2人乗りに合わせてロング化、サイドカバーは小ぶりなデザインに変更。テールランプ形状もCBシリーズに準じたものから小型軽量化された新形状のものが採用された。
●SL350(K1)●

■空冷4ストローク2気筒OHC2バルブ、ボア64mm×ストローク50.6mm、総排気量325cm3、圧縮比9.5:1、最高出力25PS/8,000rpm、最大トルク2.5kg-m/6,000rpm、φ36mmケーヒンキャブ×2、バッテリー点火、5段リターン・トランスミッション、前リーディング・トレーリング×後リーディング・トレーリングブレーキ、車両重量145kg。
■フレームNo. SL350-2000001~
■エンジンNo. SL350E-2000001~
■カラー ルビーレッド/サファイアブルー/トパーズオレンジ

 
 翌1971年のSLシリーズは、SL90のフレームもブラック塗装仕様に変更、タコメーターとセンタースタンドを追加したアップグレードモデル、SL90DXが7月20日に発売されたのみ。

 1972年は、4月11日発売でSL250Sがデビュー。このSL250Sは、SLシリーズでは一番知名度の高いモデルだろう。また、このSL250S、海外向けにはXL250の名称で輸出されたモデルでもあった。同じ年の7月20日発売でSL350がマイナーチェンジ、SL350(K2)となる。車体色の変更ほか、タンクにCLやCB風のラインが追加され、フレームもシルバー塗装に戻された。シート形状、テールランプ形状、ヘルメットホルダーの追加なども行われている(海外仕様ではフロントホイールを21インチに設定)。前後フェンダーはそれまでのスチール製の塗装仕様からアルミのポリッシュ仕上げに変更された。
●SL350(K2)●

■空冷4ストローク2気筒OHC2バルブ、ボア64mm×ストローク50.6mm、総排気量325cm3、圧縮比9.5:1、最高出力25PS/8,000rpm、最大トルク2.5kg-m/6,000rpm、φ36mmケーヒンキャブ×2、バッテリー点火、5段リターン、前リーディング・トレーリング、後リーディング・トレーリングブレーキ、車両重量143kg。
■フレームNo. SL350-3000001~
■エンジンNo. SL350E-3000001~
■カラー マリンブルーメタリック×イエロー/キャンディパンサーゴールド×イエロー

 

 SLシリーズは、このSL350(K2)へのマイナーチェンジを最後に、1973年、’74年と変更はなく、1975年5月17日、125、250のXL兄弟の発売によりシリーズとしての幕を下ろす。ホンダの4ストローク“オフテイストモデル”は、これ以降“XL”シリーズとして長い歴史を刻み始めることになる。

 ちなみにSLの名称は一度復活しており、それは初代SLシリーズから数えて四半世紀の後、1997年4月21日に、SL230が「SL」の名称を引き継いで発売されている。また、2002年4月には、同系エンジンを搭載するXL230が発売されたが、こちらは1972年のSL250Sをイメージした“ビンテージスタイル”のオフロードモデルだったことも付け加えておこう。
 
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 SL350のオーナーの方や、マニアック車種のトリビア通の方で記載内容の誤謬にお気づきになられましたら、出展を明らかに出来る資料をもってご一報下さい。正確なSL350ヒストリーを残すためにご協力をお願いできれば幸いです。
1970年ベンリィ SL90。 1970年ベンリィ SL175 1970年ベンリィ SL125S
1971年ベンリィ SL90。 1972年ドリーム SL250S
SL350が発売された1970年当時、国道といえども未舗装路の区間が結構残っていた。特に北海道では、未舗装路に出くわすことがしばしば。しかも泥濘路とさせないために砂利を厚く敷き詰めていた。クルマには良かったのだろうが、バイクにとっては厳しい環境。路肩に近い部分は砂利が集まって結構な深さに。そんな未舗装路でもスポーツモデルが普通に走り回っていた時代だった。ブロックパターンのタイヤを履くSL350は、旅バイクとしてピッタリ。オフバイクというより今でいう“オン・オフ”バイクだった。写真は日本の北半分をグルッとひとまわりしてきた時の1カット。この後、荷物の重さに耐えられなかったリアフレームが折れてしまったのが記憶に残っている。通りすがりの、親切なホンダさん(四輪店)で溶接をしてもらって旅を続けた。今日のようなテールボックスなどという便利なシロモノはまだ珍しく、重たいカメラバッグを愛用していた。ウインドスクリーンは汎用品を改造。アンテナは、携帯など夢の夢、の時代でアマチュア無線を活用していた。


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は“閼伽の本人”。 


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