幻立喰・ソ

第29回「困った時の2012年10大 幻立喰・ソNEWS」

 自民の圧勝で終わった衆議院総選挙。テレビ東京の選挙速報はおもしろかったです。当選した自民党候補H氏が当選第一声で「今日から4年後の選挙に向け活動を始めます!」と力強く宣言していました。スタジオは苦笑。民主党自爆で大量当選した漁夫の利チルドレン達の先が思いやられます。安倍さんも病気には気をつけてくださいね。今度は。

 と、知ったような社会派気取りで始まりました2012年最後の幻立喰・ソでございます。つまらないことを書き散らかす贖罪意識で「どうせ誰も読んでないから〜」とよく書きますが、当コラムは水増しなし源泉掛け流し果汁100%。数ある本誌コラム中、堂々最低のページビューです。そんな少数派のみなさまにお送りするのは、年末限定の飛び道具、2012年10大幻立喰・ソNEWSです。間違って初めて読む方におことわりしておきます。「10大NEWS」ですが、中身は私的な10の小ネタ集です。

その1.日本一高所の立喰・ソを制覇

 長年の夢でした日本一番高い室堂バスターミナルにある立喰・ソ「立山そば」でソをすすりました。さて、「日本一高い場所にある立喰・ソ」というような貼り紙は掲示されましたでしょうか? 詳細は第24回巻末「立喰・ソNEWS」をバックナンバー祭で。
※たいしたことは書いてありません(以下、所々で繰り返し)。


立山そば
日本一高い場所の立喰・ソは値段も日本一クラス。かつて欧州路線が北回りアンカレッジ経由だったころアンカレッジ名物のおいしくないアラスカうどんは一杯1000円だったとか。それに比べればはるかに安くおいしいです。食べたことないけど。

その2.ちかてつそば消滅

 貼り紙と言えば、いつ見ても慟哭を禁じ得ない「長い間ご愛顧いただきまして〜」の貼り紙。地下鉄東西線と共に歩んだ「ちかてつそば」が、まさかの2店同時幻立喰・ソ化で消滅しました。跡地は2店共にオレンジの看板でおなじみの牛丼店になっていました。詳細は第26回「立喰・ソ似非経済概論」の中段の下あたりを(前記の※部分繰り返し)。


ちかてつそば
哀しいお知らせです。

 ちなみに丸ノ内線方南町駅の階段を上がったところにある漢字表記「地下鉄そば」とは関係ありそうでないようです。豊富な自家製天ぷらを山のようにトッピングして昭和風味の正統派関東味立喰・ソをお楽しみください。

その3.鉄路死すとも立喰・ソは死せず

 消滅といえば、3月一杯で鉄道が廃止となった青森県の十和田観光電鉄。三沢から十和田市までの14.7kmを走る地方私鉄でした。廃止の主因はお決まりの「赤字」ですが、十和田市駅のあるビルが再開発で撤去となり駅の行き場所がなくなったことも原因のひとつ。駅の行き場がなくなる再開発ってどーよ……という疑問はさておき、中小私鉄のくせに(失礼)、起点終点ともに駅舎に立喰・ソがある鉄ソ隣接種でした。他には伊豆箱根鉄道駿豆線(三島と修善寺)、黒部峡谷鉄道(宇奈月と欅平)くらいでしょうか。さらに珍しいのは鉄道がなくなると駅もなくなり自動的に幻立喰・ソ化かと思えば、駅舎が残っている三沢はまだしも、駅が撤去された十和田市はバス停近くに移転再開して健在です。涙ちょちょぎれます。ぜひ再訪しなければいけません。無論、先立つものがあればの話です。

三沢の立喰・ソ 十和田市の立喰・ソ
現在もバリバリ営業中の昭和テイスト溢れまくりの三沢(左)と、かつての十和田市駅にあった立喰・ソ(右)。十和田市はともかく、現役店は紹介しないルールを破棄するのは毎度のこと。だって日ソ(=もちろんソバではなくソ連)不可侵条約を破って、おまけに北方四島まで占拠しながら、おとがめナシのソ連に比べたら。

その4.湯気は見えども人影なし

 再訪といえば年頭からえらい目に遭いました。北海道の遠軽駅立喰・ソ攻略作戦が失敗に終わったのです。詳細は第20回の下の方の立喰・ソNEWSで(またも※部分を繰り返し)。その後をご報告します。
「あんた、そのお金だけは堪忍や。堪忍どすえ。太郎の給食費やさかい」(菅野美穂調で)
「なに〜っ、うるせいっ! ソやソや! ソもってこんかい!」
「もう家にはソどころか七味すらおまへん」
「なに〜っ! このピ〜ッがっ! おまえがピ〜ッして金作ってこんかい!」と、昼の部、夜の部の二本立て一人芝居をこなし再出撃してしまいました。が、またも「湯気は見えども人影なし」状態。せめて遠軽でソをと駅前の混んでいた普通のそば屋さんでかなり待たされソをすすり、駅に戻ればすでに最終札幌行到着5分前。ふと立喰・ソを見ればぽっと灯りがともっているではありませんか。
「わいがなにしたっちゅうねん!」
「あんた、罰や。罰が当たったんやわ。ほほほほ。えー気味や」(藤原紀香風で)
 一人芝居遠軽公演をこなし「こちら黒岩。坊さんとサルは現場に急行。マルさんはヤサを当たってください。行くぞトク!」と、気分は大都会パートⅡで疾走する覆面の黒いセドリック(コラムAT?)で立喰・ソに猛ダッシュ。
「はあはあはあ、あの、はあはあ、最終の、はあはあ、特急に、乗りたいんですけど、はあはあ、大丈夫ですか?」と青息吐息で嘆願しました。すると「大丈夫ですよ」とにっこりしながらも動作はスローモー。サム・ペキンパーの名作「戦争のはらわた」のオープニングシーンみたいといえば、例外なく「いいね!」を押してくれることでしょう。どこかの。

 その言葉にウソはなく、わずか3分で見事に間に合ったのです。「流氷特急オホーツク8号、遠軽駅死角の3分間」と西村京太郎先生みたいなトリックはありません。単に持ち込み容器に入れてもらって車内ですすったということです。大枚はたき2度も行き、挙げ句に車内持ち込み。これで攻略と言えるのか? いいんです。もう行く気力もお金もありませんから。 
 なんとか攻略しましたが、前記の小芝居のごとく年間予算を大オーバーという無計画っぷりを遺憾なく発揮、以後の作戦計画どころか、人生設計が大幅に縮小再生産されたことはいうまでもありません。


遠軽の立喰・ソ
蛍光灯の灯りが目と心に染みました。

 この話をすると、例外なくみんな私を蔑んだ目で見ます。すると今まで感じたことのなかったゾクゾク感に目覚めてしまい当惑気味です。

その5.YTバブルに救われる

 破綻寸前の財政を助けてくれたのが大手チェーンYTでした。創業18周年と半端な記念のトッピング無料券を大量配布していたのでせっせと通い10枚ほどため込みました。海老天(150円)、かきあげ(120円)、コロッケ(50円)、そば大盛(100円)チケットが各2枚計8枚綴りで総額840円分。それを10枚ということは、8400円分の無料トッピングです。トッピングバブルです。
 来る日も来る日もかけそば(260円)に無料トッピングという立喰・ソにしてみれば獄門、磔、よくて遠島島流の極悪人(その理由は第26回を。※部分はまたも繰り返し)。行く度に「またか」と嫌な顔を79回されそうですが、大陸系おねーちゃんは無表情でソを茹で続けていました。
 この立喰・ソは昼過ぎに店主らしき人物が出勤してきます。その人が某別冊S編集長にそっくり。思わず挨拶してしまいました。その御利益か、さらにバブルは続くのです。


 YTチケット
創業19周年記念でもぜひまたお願いします。

その6.YTバブルの絶頂期

 ある日のこと「カツ丼1つ弁当でよろしく」と頼まれました。代金の500円玉1枚、かけそばの100円玉2枚、10円玉6枚を両手にしっかりと握りしめスキップスキップ。かけそばとカツ丼の食券をカウンターに出しました
 しばらくして大陸系おねーさんが平坦なアクセントで「カツ丼セットのかた〜」とコールしましたが店内には私ひとり。見えないお客様がいらっしゃるのでしょうか? 二度目のコールはイラッとした抑揚感を感じたので、恐る恐るカウンターに出頭しました。
「あなたが注文したのは、カツ丼セットですか?」(金の斧銀の斧の女神様口調で)
「めっそうもございません。わたしが頼んだのは、いつものかけそば+無料トッピングでございます」
「ならばこのカツ丼セットはいったいなんでございましょう……コロリにございますか」(JINの綾瀬はるかみたいに)
「正直に申し上げますと、私はカツ丼の弁当とかけそばの食券を提出いたしました」
「ということは私のミスだと言うか。この怖い者知らずめ。シベリア送りにするぞ」(ミュージシャンじゃない方のスタリーン口調で)
「へへ〜っ、そいつはご勘弁を。ニキタの野郎ときたら五カ年計画を三年で達成できると〜」
(中略)
「あなたは正直者です。カツ丼弁当は作り直します。その間にこのカツ丼セットをお食べなさい」(完全にメーテルで)
-以上妄想と誇大表現が多々入り交じっております-
 こうして私は260円でカツ丼セットを手に入れたのです。大陸系おねーさんの口元がニヤッっと動いたように見えたのは気のせいでしょう。

その7.某店で怒られる

 世の中いいことばかり続くはずがありません。東京は西の方にある某店を訪ねた時のこと、営業時間なのに人の気配がないので店舗写真をと、カメラを構えた瞬間「コラ! 登録商標だぞ! 著作権侵害だ。勝手に写真撮るな!」と主とおぼしきオヤジが店の横から顔を出して怒鳴っているではないですか。めんどくさいので「それは気がつきませんで」と素直に画像を消去しましたが「登録商標だ、著作権侵害だ」としつこいしつこい。いいかげんキレて胸ぐらを掴んで4mほど投げ飛ばすことを妄想しつつ、某店を立喰・ソマップから永遠に削除しました。極度に度量の狭く小さい私ですから、毎晩寝る前「早く幻立喰・ソにな〜れ」と星に願いをかけています。

その8.重文級の鰻の寝床2店が幻立喰・ソに

 狭いと言えど私の度量には及びませんが、鰻の寝床級の狭く長—い2店が幻立喰・ソ入りしてしまいました。この2店は、せっかくのネタなので近々にやります。たぶん。

その9.鶏まみれの午後

 消滅した鰻の寝床某店ですが、1店は消滅ではなく揃いのTシャツに元気な声、変わり種な太い平麺を出す流行の新進気鋭系新店へと大変身を遂げたのです。
 その記念すべき新店で何を食べるか、迷いに迷った末「Mそば」という店名を冠したメニューを発見。迷わずこれにしました。
 

 出てきたソは、右の写真のとおり、ながーい天ぷらと温玉にわかめ、さらに鶏の唐揚げが2コ。う〜む……。穴子天? まさか。イカ天でしょと一口かじるやいなや、わぬ〜っ! わむわむ感が口中を駆け抜けます。
 ささみ天だ……お恥ずかし話ですが、鶏苦手なんです。ついでに鰻も。何の因果か鰻の寝床で鶏づくし。半分ほど食べたあたりでヤバ目のMr.うえっぷさんが登場。「限界っス。リバース寸前っス」。ここでリバースは熱すぎる。ささみ天と唐揚げをおつゆに沈下させ、さささっと返却口に置き去りささささっと退散しました。


鶏
現役店のソは……残してしまった贖罪の特例ということで許してください。立喰・ソにしては珍しい平太麺はもっちもち。この内容で450円はお得です。が、鶏好きの天国は鶏嫌いの地獄。思い出すと胃がきゅんとします。

その10.宝の山がまた消えた

 ささっと言えば、ぱぱっと注文してさくっと食べるのが立ち喰いの真骨頂。池袋駅にあった伝説の立ち食い処「すなっくらんど」を、ある人は「B級グルメの聖地」と褒め称え、ある人は「食文化への冒涜」と叫び、またある人は「安くて満腹になればいいんじゃない」と斜にかまえたりと、賛否両論、議論百出、喧々諤々、「さえた答えさ、対話に沸いた。言葉の遊園地、脱線問答、司会のはかま満緒です。アシスタントの五十嵐麻利江です」状態でした。
 かの東海林さだお先生も、名著まるかじりシリーズ「鯛焼きのまるかじり」で「すなっくらんどは宝の山、B級食品の遊園地」と書いておられましたように、ごはんもの、麺類(ソ・ウ・ラは言うに及ばず焼ソ・ス・冷中も)から、揚げ物、粉もの、お酒類など各種B級スターが満喫できる若者以外は胸焼け必至なワンダーランドした。
 1997年に閉店したのですが、第二世代のグランドキッチンみかどにグレードダウン(品揃えが減った)し、その面影を平成の御代に伝えておりました。が、これも残念ながら2012年8月24日に閉店してしまいました。グランドキッチンみかどは幻立喰・ソネタなんですが、ソ以外にも魅力的な食べ物だらけ。だからかんじんなソの記憶がぼんやりぼうや。
 そんなことよりも、B級グルメで町おこしを企んでいる青年会議所のみなさんに朗報です。焼きそばバブルはいつか崩壊します。だからおらが町にすなっくらんどを再現してみてはいかがでしょうか?「すなっく? 駅の裏にあるっぺ。美代子の店に東京のキャバ嬢が入ったちゅーから行ったら、まんず山姥かと思ったっぺ。あれがホントのマンバGAL。ところで、やんばダムはどうなったっぺ?」のスナックではありません。
 すなっくらんどが見事成功したら、多々見かけるよう海沿いに「すなっくシー」の増設もご検討ください。

グランドキッチンみかど そ
在りし日のグランドキッチンみかどと、1回だけ食べたかき揚げソ。秘伝の立喰・ソ帖には「意外とおいしかった。でも次はナポリタン大盛が食べたい」と頭の悪さ全開の走り書きのみ。よく見ると、かき揚げの下に隠れているかまぼこが良心の現われのように思います。

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 今年も最後まで、よた話にお付き合いどうもありがとうございました。
 もういくつ寝ると大晦日。年越しそばの準備はお済みですか? 
「この師走のクソ忙しいときにそんなの後回し」
 そんな貴方の強い味方がカップ・ソです。最近はカップ麺のソもラインアップが充実しております。立喰・ソが正月休みでも、年末年始はご家庭でソ三昧が楽しめます。

 それではみなさん、来年も10大クソ小ネタでお会いできれば幸いです。よい年越しソをご堪能し、よりよい新年をお迎えください。


カップそ
地方限定、店舗限定などもあります。来年は低予算で満喫できるカップ・ソ方面にも出馬しようと思います。

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在500店以上を制覇したものの、データ化されていないのでたいして役に立たない。そば好きから、立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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