オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

復活の狂宴

 10月3連休の初日。高速道路はどのPAも多くの車で混雑している。オレは大きなSAを避け、比較的客の立ち寄りそうにない小さなPAに愛機ホーネット900(エイプ900とも呼ばれている)をすべりこませた。それでも二輪の駐車スペースにはBMWが3台とまっている。やはり秋の3連休だけあってバイクで出かける者も多いようだ。オレもその一人と言える。まぁオレの場合は旅に出てすでに3日目なのだがそのあたりは立場の違いって事で。


久々にコイツの登場だ。静岡までは下道と高速を使い分けながら走りそれ以降の行き帰りは高速の一気走り。当たり前だがやはり速い!

久々にコイツの登場だ。静岡までは下道と高速を使い分けながら走りそれ以降の行き帰りは高速の一気走り。当たり前だがやはり速い!
久々にコイツの登場だ。静岡までは下道と高速を使い分けながら走りそれ以降の行き帰りは高速の一気走り。当たり前だがやはり速い!

いつも外で肉焼いて食ってるわけではない。名古屋で食した手羽をはじめとする料理は最高だった。オレはグルメではないがたまには旨いもの食わないとね

いつも外で肉焼いて食ってるわけではない。名古屋で食した手羽をはじめとする料理は最高だった。オレはグルメではないがたまには旨いもの食わないとね
いつも外で肉焼いて食ってるわけではない。名古屋で食した手羽をはじめとする料理は最高だった。オレはグルメではないがたまには旨いもの食わないとね。

 旅の初日、オレは名古屋のシンちゃん宅に泊めてもらいその翌日、8月に亡くなった仲間のマコちゃんの実家を訪ねていた。彼の通夜、葬式に出席できなかったオレはこの旅の道中にせめて線香をあげさせてもらいたく彼の母親にお願いして立ち寄らせてもらったのだ。

 そしてその日の夜は富士の裾野でキャンプし、この日、河口湖から高速に乗り、圏央道、関越と繋いで北関東道にあるこの小さなPAで一休みすることにした。


2日目の寝床は246号沿いの道の駅。晴天の中、朝日を浴びた富士山の姿を目の前に見ることができる

昨年、仲間が死亡した事故現場に立ち寄る。なんとか防げなかったものかと考えてもその結果がでた現実の前にあっては成す術はない。今は彼の冥福を祈るのみ
2日目の寝床は246号沿いの道の駅。晴天の中、朝日を浴びた富士山の姿を目の前に見ることができる。

昨年、仲間が死亡した事故現場に立ち寄る。なんとか防げなかったものかと考えてもその結果がでた現実の前にあっては成す術はない。今は彼の冥福を祈るのみ。

 ホーネットでの高速を使った長距離走は本当に久しぶりだ。下手したら一年以上ぶりになるのか。それでもやはり連休の混雑したSAなどはその光景を見るだけでウンザリしてしまう。給油以外では立ち寄りたくもない。そう思って比較的こじんまりとしたPAを選んだのだが車の駐車スペースはかなり埋まっている。それでもまだマシな方だろう。飲み物を買い、オレが一服を始めたタイミングでBMWのグループが立ち去って行った。オレ一人になった二輪スペースでこれで気分的にも落ち着いてゆっくりできると思った直後、後方から4気筒のドロドロという排気音が聞こえた。振り返ると首を横に振りながら入ってくるのは黒尽くめのニンジャ。オレの道中での突然の仲間との出くわし方はいつもこうだ。ありえない場所でありえないやつと出くわす。


運命と言うほど大げさなものではない。だが偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎ。縁というのはそういうものなのかもしれないな

運命と言うほど大げさなものではない。だが偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎ。縁というのはそういうものなのかもしれないな
運命と言うほど大げさなものではない。だが偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎ。縁というのはそういうものなのかもしれないな。

 黒忍と呼ばれる九州のニンジャ乗り。西の走りのイベントでトップを獲った事もある猛者である。普段、ほとんど高速を使わないオレが気まぐれで走った高速で気まぐれに寄った関東のPAで初めて関東を走る九州の仲間とうっかり出くわす確率ってのはいくらくらいのものなんだろうか。それがすさまじく薄い確率であることはわかるのだがオレはこれまでにもなぜかやたらとこういう事に遭遇している。それゆえにオレの買う宝くじは当たらないのか。東京ドームキャンプ、二次会の武道館カラオケは実現しそうもない。

「世の中が信じられん」それが黒忍の第一声だった。ここ数年、彼は九州や近県以外でもやたらと見かけるようになった。相当に走り回っているようだ。この先、これからも今回みたいな事に見舞われるはずだ。そのたびに奇妙な感慨を覚えることだろう。ニンジャのリアシートには旅道具一式。そしてこの日のこの時間帯にこの場所で出くわしたという事は・・・目的は一緒という事だ。

 狂宴。2年前の2010年にオレが初めて参加させてもらったバイク乗りの集まりである。場所は東北福島飯館村。情緒あふれる藁葺き屋根の古民家を借り切っての宴。オレたちお得意のキャンプしながらの野宴と異なり全天候型の屋内での飲み。日本の古きよき風情の屋内という快適な環境にあって全国から集まったひと癖もふた癖もある個性溢れるバイク乗りによる大宴会は凄まじく楽しい時間をオレに与えてくれた。だが・・・その年明けの3月、東北を襲った悲劇はご存知の通り。狂宴の開催地である飯館村はその放射能被害で立ち入りさえも禁じられる事になってしまった。当然、昨年に関しては開催できるような状況でもなかったわけだが今年はやるという事を今年の夏の旅の最中にオレは聞いていた。もちろん今までのように飯館村にある古民家は使うことができない。だがこのまますべてが元通りに復興するのを待ってはいられないと主催中村氏呼びかけで今年は場所を変えてキャンプ形式でやる事となった。

 PAでしばしの休憩を取ったオレと黒忍は北関東道、東北道と経由して福島を目指した。今までにない異色のランデブーだ。とは言うものの彼のようなツワモノを相手に健全なツーリングになるはずもなく・・・オレたちは車の流れをはるかに凌駕するスピードでその隙間を縫いながら走った。おそらく黒忍にとってはまったく余裕のペースなのだろうがオレには限界だ。瞬間的であるならばまだまだイケるのだが目的地までの距離を考えてそれを維持するとなると集中力が続かない。なんせ本当に久しぶりなハイウェイトリップなのだ。それでもかなりなハイペースである。まったく・・・時間はたっぷりあるんだからのんびりと行けばいいものを相手に合わせて限界まで張り合ってしまおうとする心理は我ながら意地っ張りなガキそのものだ。結果としては無駄に疲れて必要以上のガソリンを消費するだけだというのに。

 昼頃に高速を降り、多少、迷走しながらキャンプ場に到着した。到着したキャンプ場では今年の夏の旅の道中で世話になった遠藤君を始めとする東北のメンバー数名が迎えてくれた。開催場所であるキャンプ場はデイキャンプでバーベキューを楽しむ多くのグループでにぎわっていた。その賑わいがある程度引いていくのを待ってオレ達はテントを設営していった。夜になればここはこの日集まるバイク乗りで入れ替わるようにいっぱいになるのだろう。案の定、ほどなくしてキャンプ場にいる人間は夜にかけて集まってきたバイク乗り一色となる。参加者の多くはやはり東北、関東を中心としたメンバーでオレなどは完全に遠方で黒忍は最遠方の参加者だ。

 すっかり日も暮れた頃、焚き火が焚かれ主催中村氏の挨拶で宴会はスタートした。まぁオレ達は明るいうちから呑んでたんだがね。ここ数年、ちょくちょく西の方に遊びに来るレア感のない東北の面子もいるが本当に久しぶりに会う奴もいる。本当にみんな元気そうで何よりだ。震災後約1年半が過ぎてやっとそれぞれの生活が落ち着いてきたようにみえる。だがすっかり元通りとなるにはまだまだ時間がかかるだろう。こういったものは人間の怪我と同じで機能は回復しても傷は残る。原発にしたって不完全な状態でまだそこに存在したままだ。それでも彼らのポジティブな陽気さはオレを安心させてくれる。きっと日常の中にはオレにはわからない不安や辛さってのはあるのだろう。だがそれと向き合ったうえで見せるその笑顔は恐ろしいほどの強さを感じさせる。そしてそんな面子との呑みは他での宴会とはまた一味違った独特の雰囲気を醸し出している。例に漏れずこの宴も陽気な笑い声とともにいつ終わるとも知れず深夜遅くまで続いた。


天気も良く、川沿いの自然に囲まれたキャンプ場は気持ちがいい。テントを張り、夜に備える。まぁオレ達は一杯始めちゃってましたが

天気も良く、川沿いの自然に囲まれたキャンプ場は気持ちがいい。テントを張り、夜に備える。まぁオレ達は一杯始めちゃってましたが
天気も良く、川沿いの自然に囲まれたキャンプ場は気持ちがいい。テントを張り、夜に備える。まぁオレ達は一杯始めちゃってましたが。

天気も良く、川沿いの自然に囲まれたキャンプ場は気持ちがいい。テントを張り、夜に備える。まぁオレ達は一杯始めちゃってましたが

参加者の中にバイクを自在に操るアスファルトダンサーのイッコウ氏の姿も。ところが彼、酔うと情けないほどフラフラです
主催中村氏の挨拶で宴会スタート。狂宴のシンボルともいえる古民家はもう使えない。だが皆で集まれるなら場所などどこでもいい。まずはキャンプ形式にて再開。 参加者の中にバイクを自在に操るアスファルトダンサーのイッコウ氏の姿も。ところが彼、酔うと情けないほどフラフラです。

すっかり日も暮れて宴会はいい感じに盛り上がっていく。行き着く先は結構グジャグジャ。北のバイク乗りはやたらとエネルギッシュです

すっかり日も暮れて宴会はいい感じに盛り上がっていく。行き着く先は結構グジャグジャ。北のバイク乗りはやたらとエネルギッシュです
すっかり日も暮れて宴会はいい感じに盛り上がっていく。行き着く先は結構グジャグジャ。北のバイク乗りはやたらとエネルギッシュです。

 翌朝、オレたちは片づけを済ませて帰路に着く。快晴な天気の中、美しい会津の山々が目の前に広がっている。オレ自身、この時点でハッキリと決めてはいなかったが時間的にはまだ3日ほどあるのでのんびりと寄り道しながらの帰りの旅を計画できる。さて、どうするか!? で、結果このあとオレがどうしたかというと、最寄のICから高速に乗り、その日のうちに家に帰り着いてしまった。なぜに? と思う人もいるだろう。実際、オレ自身もよくわからん。特に急な用事ができたわけではない。強いて言うなら面倒くさかったってとこだろうか。おそらくはエイプの旅に慣れすぎた事による副作用ではなかろうかと。

 リッタークラスのバイクの中でホーネットがいかにライトでコンパクトだといってもちょこまか走る機動力においてはエイプにはかなわない。さらに高速ではそれなりのスピードを有して走る事ができるため福島から岡山まで10時間ほどもあれば帰る事ができてしまう。しかもそのスピードにものをいわせて行きの道中に予定していた事のほとんどをこなしていたためモチベーションの再浮上が困難だったと思われる。ざっくりといってしまえばオレは狂宴が終わった時点ですっかり満足しちゃったって事なんだろう。


宴も終わり翌朝、それぞれがバラバラにキャンプ場を後にする。家に帰る者もいれば旅を続ける者も。オレは・・・なぜかそのまま帰っちゃいましたねぇ
宴も終わり翌朝、それぞれがバラバラにキャンプ場を後にする。家に帰る者もいれば旅を続ける者も。オレは・・・なぜかそのまま帰っちゃいましたねぇ。

 
 まったく贅沢な話だ。そしてこの旅の後、オレはさらに贅沢な状況を迎えることとなる。見近島ショットガンパーティー。このオレ自身が主催を務める集まりがあのようになるとはこの時、想像すらしていなかった。その模様は次回にて。


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