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 西村 章
スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura
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セパンテスト

 みなさんご無沙汰しています。ノマドワーカーのにしむらみふゆです。さて、2013年のMotoGPプレシーズンテストが2月5日から7日の三日間、恒例のマレーシア・セパンサーキットで行われた。今回のテストは、大方の予想どおりダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)とホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)が頭ひとつ抜けたパフォーマンスを披露した。
 三日間を通じてトップタイムをマークし続けたペドロサは、「(テストメニューの)リストはいつもすごくたくさんの項目があるけど、今回は最初のテストなので、プログラムを終えたから終了した。さらに細かい事項は、次のテストでやっていく」と、最終日の昼過ぎにいち早く切り上げた。気分よく終了したことは間違いないだろうが、トップタイムに対するこだわりはさほど強くないようで、「過去のテストを見てもらえればわかると思うけど、レースと違ってウィンタータイムのラップタイムには自分はさほどこだわっていない。だから、プログラムを終了したらテストはおしまい」とあっさり話すあたりは、いかにも彼らしい。三日間ともトップタイムだったのはこれが初めてではないか、と訊ねられても「そうかな。おぼえてない」とじつに淡々としたもの。「テスト内容には総じて満足している。とくに重量配分とハードウェアでいい進捗があった。自信を持てているのは、順位じゃなくてフィーリングがよかったから。次回のテストでは、前後ショック、マッピング、別案のクラッチなどを試したい」と締めくくった。
 昨年度チャンピオンのロレンソは新しい車体を試したようで、旋回性が良くなった、と話し、以後もこの車体で進めてゆきたい、と語った。三日目にはロングランを実施したものの「14〜15周あたりに雨がぱらついてきたから止めた。でも、そこまでの感触は悪くなかったと思う」と話した。本人が「悪くない」といったパフォーマンスだが、じっさいにタイムシートを見てみると、今回の自己ベストに匹敵する2分00秒台を何周も連発しており、さすがアベレージではいつも頭ひとつ抜けているこの選手らしいタイムだと感心する。

 

ダニ・ペドロサ ダニ・ペドロサ ダニ・ペドロサ
MotoGP8年目。今年こそ悲願達成なるか!?

 

ホルヘ・ロレンソ ホルヘ・ロレンソ ホルヘ・ロレンソ
狙うは連覇。高水準の走りを今回も披露。

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 この両選手以上に今回のテストで注目を集めていたのは、ヤマハファクトリーに復帰した33歳のバレンティーノ・ロッシとレプソル・ホンダ入りを果たした19歳のマルク・マルケス。ロッシは2011年にドゥカティへ移籍し、昨年までの二年間は過去にない苦戦が続いた。自分は終わってしまったのだろうか、という若干の不安も抱いていたようだ。今回のテストでペドロサ、ロレンソに匹敵するパフォーマンスを発揮できてまずはひと安心、といった様子。だが、そこから先のレベルで、はたして彼ら二名と真っ向から激突する互角の勝負を繰り広げられるかどうか、ということに関しては、けっして安堵ばかりしているわけでもなさそうだ。
「(彼らとバトルができるかどうかを)語るのは今はまだ時期尚早だけど、トップとの差は詰めていきたい。昨年終盤のロレンソとペドロサの戦いは一周目から飛び抜けて速かったので、彼らと争うのはきっと大変だろうね」
「(今のロレンソは)完璧な状態だと思う。どんなコンディションでも最初から速くて、失敗を犯さずに巧く乗りこなすし、集中力も高い。レースシミュレーションではいつも速くて安定している。2008年から2010年まで、ロレンソは常に強かったけれども、今はさらに成長を遂げている」
「この2〜3年でMotoGPバイクの乗り方は、とくに電子制御とタイヤに関して大きく変わった。ロレンソやペドロサたちトップライダーのライディングスタイルは2008年や2009年当時から大きく変わっている。だから、自分も乗り方をだいぶ変えていかなくてはならない」
 両選手がレースキャリアとして頂点を極める状態にあることを認めつつ、体力的には盛りを過ぎた自分自身の現状も謙虚に受け止め、彼らに戦いを挑んでいこうとする貪欲な姿勢は、まさに「闘争心に火がついた」状態といえるだろう。
 ロッシのこの復活に対して、マルケスの
「今は、自分のライディングスタイルをバイクに適応させようとしているところ。次のテストでは、さらに順応していると思う。日々、バイクへの理解が進んでいるのがうれしい。一歩ずつMotoGPについて理解できていると思うし、プレシーズンはまだ時間があるので今後もこの調子で進んでいきたい」
 ということばを対比させると、これから大きな成長を遂げることが確実な若者との違いも浮き彫りになる。今シーズンの激しい戦いと四選手それぞれのありようをはからずも示唆しているようでとても面白い、と思うのだが、どうでしょうか皆さん。

バレンティーノ・ロッシ バレンティーノ・ロッシ バレンティーノ・ロッシ
復活に向けて着実に本来の姿を取り戻しつつある。
 

マルク・マルケス マルク・マルケス マルク・マルケス
恐るべき19歳。「アンファン・テリブル」ってやつですか。
 

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 CRT勢のアヴィンティア・ブルセンスで新たな挑戦を開始する日本人選手、青山博一は、テスト直前に左手首を負傷したため、充分に満足なテストとはいかなかったようだ。それでもある程度の大きなメニューを消化し、車体まわりの大きな部品やエンジンブレーキなどについてチェックを行って、方向性の確認を進めていった。
 また、今年からCRT勢に対してはプロトタイプマシンよりも一段階柔らかめのリアタイヤが供給される方向だが、これについても「初期の温まりもいいし、性能をキープしながら安全方向に振られているのでいいと思います」と、好感触を伝えた。角度によって手首の痛みが強くなるためにマシンの押さえ込みが難しく、青山は三日間ともテーピングを施した状態で、短い周回のピットイン/アウトを繰り返した。ロングランなどのレースを想定した走行については、まだしばらくお預け、となりそうだが、今年は開幕が4月上旬と遅いので、それまでにはきっと良くなっているだろう。

 

青山博一 青山博一 青山博一
万全な状態でベースセットアップを着実に積み上げてゆきたい。

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 最後に短めの話題を数点。すでに各所でも話題となっているとおり、ホンダは2014年に向けてMotoGP用の量産レーサーマシン開発を進めている。中本修平HRC副社長の話では、エンジンバルブはニューマチックではなく金属スプリング、電子制御はマニエティ・マレッリ社の共通ECU(=燃料容量は24L)を使用。トランスミッションはRCVのシームレスではないスタンダード品で、100万ユーロの価格で5台程度の販売を想定しているようだ。エンジンは現在ベンチテストで車体は鋭意開発中、という段階なので、シーズン半ばの合同テストでお披露目できるかどうかは微妙なところだが、最終戦バレンシアGP後の合同テストでは、おそらくその姿を見ることができるのではないだろうか。
 シームレストランスミッションといえば、ホンダは2011年からRCVに搭載しているが、ヤマハに復帰したロッシはYZR-M1への投入を待ち望んでいるようだ。この有無でホンダとヤマハはとくに二次旋回で顕著に差が現れる、とロッシは言う。「立ち上がりで全開にしていくとき、シームレストランスミッションは大きなアドバンテージだと思う。マシンの馬力差というよりも、メカニカルなグリップ力、トラクションをホンダのほうがうまく路面に伝えているようにみえるんだ」
 ザ・ドクターは健在なり、ということか。
 スズキの2014年復帰に関しても、各方面の注目が集まっている。今回のテストに会わせて行われたMSMA(モーターサイクルスポーツ製造者協会)のミーティングに、同社MotoGPプロジェクトのリーダーである寺田覚氏と技術監督の河内健氏が出席した。現在のMotoGPを巡る情報収集が主な目的だったようだが、スズキの復帰プロジェクトは2013年の予算をすでに確保しているために、以前から計画していた欧州の実走テストは予定どおり実施するという。一方で、復帰する場合のチーム体制についてもさまざまな噂の対象になっているが、これに関しては時間の経過とともに少しずつ明らかになってくるのだろう。
 というわけで、少し長くなってしまいましたが今回は以上であります。ではまた次回。

中本 バウティスタ ブラドル
量産レーサー、そしてマルケスについて質問が集中した。 今年はタイトルスポンサーが変更になった。 今季こそ初表彰台なるか!?
スピーズ 吉川和多留 中須賀克行
ドゥカティへ移籍。心機一転? ヤマハはご存知吉川和多留と中須賀克行。
秋吉 高橋 ヘイデン
ホンダからは秋吉耕佑と高橋巧がテストに参加。 悩みは深いのです。
     


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

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2013 MotoGP暫定エントリーリスト
No. ライダー チーム名 車両

#4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
#5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
#6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
#7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
#8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
#9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
#11 Ben Spies Pramac Racing Team DUCATI
#14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
#17 Karel Abraham Cardion AB Motoracing ART(CRT)
#19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
#26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
#29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
#35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
#38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
#41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
#46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
#67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
#68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
#69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
#70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
#71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
#93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
#99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA

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