順逆無一文

第30回『勢利必腐』

 1月の末、警察庁から昨年1年間に懲戒処分を受けた警察官のデータが発表された。一般各紙でも取り上げていたのでご存じの方も多いかも知れないが、改めてここで取り上げさせてもらう。
 警察庁がまとめたそのデータによれば、処分を受けた警察官の数は全国で458人。全国の警察官の総数は約25万人なので、なんと懲戒処分を受けた警察官は千人に1.8人、0.18%にもなったという。逮捕者も93人(対前年比27人増)、4日に1人は逮捕者が出ている。
 処分の内訳は、免職62人(対前年比17人増)、停職が128人(同45人増)、減給が172人(同49人増)、戒告が96人(同20人減)。
 ちなみに都道府県別ランキングでは、警視庁の70人が最多で、続いて大阪府警38人、北海道警37人。ただしこのランキング、数の多さだけで比べては大都市圏を抱える都道府県は、もともと警察官の人数自体が多いので不公平。で、職員千人あたりの処分人数に直して比較すると、トップは奈良県警4.337人、群馬県警3.904人、山梨県警3.586人の順となるそうだ。「やはりね」と納得している方もいるのでは。
 で、処分の理由としては、窃盗や詐欺などが100人(同22人増)、飲酒上の信用失墜や異性関係問題74人(同15人増)、公金や公文書紛失など63人(同42人増)、特別法犯60人(同8人増)、交通事故や違反54人(同1人増)、勤務規律違反50人(同24人増)など。
 これは、産経新聞さんからのデータだが、実は新聞社によって理由の項目のまとめ方が微妙に違っていた。ちなみに朝日新聞さんは、痴漢、強制わいせつ、セクハラ、不倫など異性関係をまとめて139人、証拠隠滅、文書偽造が61人、窃盗、詐欺、横領が55人、交通事故、違反が54人、職務放棄、怠けが34人、暴行、傷害が30人、収賄、供応、職権乱用が14人と、こちらの方が分かりやすいのですが、何なのでしょうか、この数値の扱い方の違いは。
 それはともかく、次に交通関連に絞って最近の警察官の“不祥事”とその“顛末”を振り返ってみると…。
 2013年2月1日、警視庁は、2012年12月17日に酒気帯び運転で検挙された警部補を停職6ヵ月の懲戒処分にしたと発表。一般公務員のケースでは、酒気帯び運転摘発を理由に懲戒免職処分にしていることも多いというのに、懲戒のみ。ただしその警部補は同日退職したとのこと。免職以外の懲戒処分なら退職金が出るので“配慮”しているのでしょうか。
 ちなみに同じ昨年12月、酒に酔った神奈川県警の警部補が県警本部の駐車場から捜査車両を運転して県道に出ようとしたところを当直の警察官が制止してアルコール検査。当然ながら基準以上のアルコール値を検知したのだが「まだ駐車場内で公道ではないので道交法は適用されない」と処分せず。一般人相手なら駐車場でも「公道に開放されており誰でも出入りできる所なら公道と一緒だ」とヘルメットを被っていなかった、無免許で練習していた、などという理由でキップを切られた方もいるのでは。身内に甘い警察組織、というのはどうやら事実のようですね。お得意の、物影に隠れて公道に出るまで待ってから取り締まればいいのに。何とか言い逃れが出来るように配慮したのが見え見え。
 2013年2月1日、大阪府警の警部補が2011年1月22日、河内長野市内の一般国道(制限速度50km)を92kmオーバーの142kmで走行していた所を摘発され、懲役3ヵ月、執行猶予2年の判決が確定。懲戒処分を受け、依願退職していたことが朝日新聞の情報公開請求で露見している。一般国道、そして車でこのスピードです。情報公開でばれてしまったんですねぇ。これまた懲戒免職じゃなく依願退職ですって。
 2013年2月1日には、福井県警のパトカーがノーヘル、2人乗りのバイクを発見、追跡。右折して逃げようとするバイクの左後部にパトカーの右前部を当てて転倒させている。乗っていた少年ふたりは幸い軽傷で済んだそうだが。「適正な緊急走行だった。結果的に事故となったのは遺憾」とすかさず副所長がコメント。ノーヘルの2人乗りで逃げたからといって接触させて止めていい、などとは寡聞にして耳にしたことがないが。
 2013年1月24日、愛知県警の巡査部長が、公用車用の給油カードを使って自分の車に給油。窃盗容疑で書類送検された。これまでにも複数回犯行に及んだとか。
 2013年1月24日、新潟県警の巡査長が交通違反の記録に虚偽の記載をし、虚為有印公文書作成、同行使容疑で書類送検。運転中に携帯電話を使用したドライバーにキップを切ったのだが、車両ナンバーを記載するのを忘れ「怒られたくなかった」と、勝手に別の車のナンバーを記載したというもの。ウソは警察の始まり。最初に間違いを素直に謝っていれば…。
 2013年1月6日、愛知県警の元巡査部長が並走車のドライバーを拳銃型の催涙スプレーで脅したという裁判で「速度違反を繰り返しているのを見て懲らしめようと思った」と証言。また同容疑者はクルマにリボルバー1丁と実弾を隠し持っていたという。懲らしめるのは警察官の役目ではありません。かといってあなたでもありません。そんなことも分からずに、ただ拳銃が撃ちたくて警察官になっていたのでしょうか。
 2013年1月14日、兵庫県警の警部補が捜査車両に関する情報を漏洩していたことが判明。2012年に起きた兵庫県警の調書ねつ造事件もこの警部補が主導したと見られているらしいですね。
 2013年1月12日、大阪府警の交通課長が二日酔い状態で車を運転、略式起訴は不相当として通常の公判で審理することに。すでに停職6ヵ月の懲戒処分を受けて依願退職したとか。呼気1リットル中0.15ミリグラム以上のアルコール濃度だった。
 2013年1月12日、死亡事故を起こした車両を保管中の兵庫県警東灘署が誤って付けてしまった車両の傷を、事故時の傷として処理していたことが露見。死亡事故の裁判自体にも影響が。「証拠品の管理を徹底したい」と同署。証拠品管理の徹底なんて当たり前。警察官がウソをつかないように徹底してもらわなければ。
 2013年1月9日、静岡県警の白バイの巡査長が富士市の国道1号で交通取締りのキップを風に飛ばされ紛失。違反者には新たに別のキップを作成して渡したという。ちなみにこのキップ、翌日になって現場から2キロ離れた場所で発見できたとか。
 2013年1月8日、速度違反車両を追跡中の白バイの女性巡査長が甲府市の国道で転倒。別の乗用車に衝突し重傷を負った。山梨県警初の女性白バイ隊員で、2012年9月にデビューしたばかりだった。お大事に。
 2013年1月8日、山形県警の警部が公務に必要ない車のナンバーを不正に照会し、所有者の個人情報を得ていたとして本部長訓告処分とされていたことが判明。「個人的に知りたかった」ですと。県警監察課も「外部に流出した形跡無し」とあっさりと断言。どうしてそんなに簡単に言い切れるのでしょう。そして事件としての情報公開もしていなかった。
 2013年1月7日、栃木県警のパトカーが真岡市の県道交差点で乗用車と衝突。相手の運転手に怪我をさせる。パトカーは緊急走行中で「赤色灯を付け、サイレンを鳴らしていた」という。
 2012年12月27日、北海道警は旭川市内で酒気帯び運転をして自損事故を起こしながら届け出なかった交通課の巡査部長を酒気帯び運転と事故不申告の疑いで逮捕。事故から約40分後に自ら110番通報したらしいが。
 2012年12月27日、静岡県警の交通課警部補が袋井市内の県道で行っていた交通違反取締中、25キロオーバーで通過したドライバーが同僚警官と分かり、違反キップを切らず、測定の記録資料も廃棄したという。匿名通報で判明。停職1ヵ月の懲戒処分、同日依願退職したという。「再発防止と信頼回復のため、職務倫理を強化したい」と静岡県警の首席監察官。日常茶飯なのでしょうか、匿名通報で表に出てしまった、という点がこのニュースのポイント。
 2012年12月26日、神奈川県警の警部補が駐車中の車に衝突、3人に怪我を負わせて逃走したとして逮捕された事件で、この警部補は一緒に乗っていた部下の巡査に指示して嘘の説明をさせていたという。犯人隠避教唆と当て逃げの罪で略式起訴。対応は「検察の処分を踏まえて検討」と監察官室。同乗していた部下達の方はどうなったのでしょう。当然犯人隠避罪ですよね。
 2012年12月23日、栃木県警宇都宮東署が2011年7月から2012年5月までに行った速度違反取締りで、機器設定の誤りで速度を過大に計測して摘発したとして、なんと4,136件もの処分を取り消すと発表。この事件は鶴田さんの『そのキップにNO!』(http://www.m-bike.sakura.ne.jp/?p=39405)のコーナーに詳しいのでそちらをご参考に。
 2012年12月19日、茨城県警の巡査長が2007年夏頃から2012年1月までの間に、当時担当した無免許運転や自損事故など計6件の捜査書類を署内のシュレッダーで裁断したりして勝手に破棄。公用文書毀損で書類送検された。停職3ヵ月の懲戒処分、同日付で依願退職。6件はすべて時効になってしまったという。
 2012年12月12日、沖縄県警の巡査部長が酒気帯び運転で検挙される。那覇市の県道でバイクで転倒したところを、たまたまパトカーに発見され飲酒運転が露見。罰金20万円。停職6ヵ月の懲戒処分とされ、依願退職。
 2012年11月3日、警視庁の覆面パトカーがスピード違反で追跡中だったバイクが転倒、ライダーが死亡した。「1キロほど追跡、トラックの陰になって見えなくなり、その後バイクは転倒していた」とか。「追跡方法は適正だった」とすかさずコメントを出しているが、こういったケースではほとんどの場合「見失った後…」のフレーズになるのはなぜでしょう。
 とまあ、交通関連に限っただけでも、わずが数ヶ月遡るだけでも出てくる出てくる警察官の不祥事や事件。さすがに読むのも飽きてきたでしょうからこれぐらいにしましょう。
 ちなみに警察官の不祥事多発を受けて、2012年の8月に「被害の不安に困り苦しむ人に応える警察」(国民のための警察の確立)、「警察行政の透明性の確保と自浄機能強化」、「警察活動を支える人的基盤の強化」などを柱とする“新たな警察改革要綱”と呼べるものをまとめている。
 その名も「警察改革の精神」というもので、もともと現在と同様、警察をめぐる不祥事が多発したことを背景に、対応を求められた警察庁が2000年8月に発表した「警察改革要綱」ではまったく効果がなかった、というわけで、その「警察改革要綱」を見直す必要に迫られて打ち出したものだったわけだが…。

−−以下警察庁のWEBサイトから。

■検討の経緯

○警察改革から10年が経過した平成22年以降、全国において非違事案が増加傾向にあるほか、警察署の幹部が非違事案を組織的に隠蔽した事案や、警察の対応の不備をめぐる事案の再度の検証において「警察改革の精神」の不徹底が明らかとなる案件も生ずるに至り、憂慮すべき事態となっている。

○こうした状況に鑑み、警察庁においては、本年4月、庁内に「「警察改革の精神」の徹底等に向けた総合的な施策検討委員会」(以下「検討委員会」という。)を設置し、「警察改革の精神」の徹底のための施策等を総合的に検討することとした。

○本年5月以降、検討委員会を9回にわたって開催し、現状の問題点や具体的な取組方策につき議論を行ったほか、国家公安委員会へ報告を行い、指導をいただきつつ、施策案を作成した。

○また、番敦子弁護士、國廣正弁護士等の部外有識者、都道府県公安委員会委員及び都道府県警察から意見を聴取し、また、本年度第1四半期の監察(全国統一実施項目「警察改革の精神を踏まえた非違事案防止対策の推進状況」)の結果も検討に活かし、施策に反映させた。

■「「警察改革の精神」の徹底のために実現すべき施策」について

上記の経緯を経て、「警察改革」の重要な精神である「被害の不安に困り苦しむ人に応える警察」(「国民のための警察」の確立)、「警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化」及び「警察活動を支える人的基盤の強化」の3つのテーマの下に12の施策を「「警察改革の精神」の徹底のために実現すべき施策」(以下「実現すべき施策」という。)としてとりまとめた。

■今後の予定

警察庁長官通達「「「警察改革の精神」の徹底のために実現すべき施策」に基づく各施策の着実な実施について」(平成24年8月9日付け警察庁甲官発第222号ほか)を発出し、全国警察において、これに基づく各施策を着実に実施するよう指示を行うとともに、実現すべき施策中、「早急に実施すべき施策」については、準備が整い次第、順次実施に移す。
また、それ以外のものについては、今後も引き続き、全国の都道府県公安委員会から意見を聴取し、国家公安委員会から更なる指導を受けつつ検討を深めることとし、この際、施策に関連する高い専門的知見を有する部外有識者にも検討をいただくなどして、真に実効ある施策を構築する。

■12の施策

1 被害の不安に困り苦しむ人に応える警察の確立
 施策1・・・警察安全相談・事件相談への迅速・確実な組織対応
 施策2・・・被害者の立場に立った被害届、告訴・告発等の迅速・確実な受理と対応
 施策3・・・女性被害者等に対する対応強化
 施策4・・・都道府県警察の業務運営の在り方等の見直し

2 警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化
 施策5・・・非違事案等の未然(再発)防止対策の強化
 施策6・・・厳正な調査・検証の徹底
 施策7・・・非違事案の組織的隠蔽等を根絶するための取組
 施策8・・・証拠品や書類の取扱いに係る非違事案防止の徹底

3 警察活動を支える人的基盤の強化
 施策9・・・警察職員の使命感と誇りを醸成する施策の推進
 施策10・・・警察官の採用等の在り方の見直し及び女性警察官の採用・登用の拡大
 施策11・・・職務執行の中核たる中堅幹部(警部・警部補)の資質の向上
 施策12・・・警察組織における適切なコミュニケーション方策の推進”

※出典「警察改革の精神」の徹底のために実現すべき施策について 資料

−−以上警察庁のWEBサイトより

 以下、施策ごとに具体的な中身であれこれお題目が並べられているのだが、「警察改革の精神」が打ち出された2012年8月以降も、一向に状況は変わらなかったということは、前半で取り上げた数々の例でもお分かりの通り。
 老朽、疲弊、腐敗している組織に手を入れずに末端の警察官ばかりに「清く正しく」、などといっても効果など出るはずはない。なにより閉鎖社会の最たるものといわれる警察組織を改革し、風通し、見通しを良くしてからでなければ、何をやっても無駄ということだろう。
 とうの昔に交通違反に関しては、ほとんどのドライバー、ライダーが「捕まったのは運が悪かった」としか思わない状況になってしまっている。それは、警察とて犯罪を犯す人間も大勢いる単なるひとつの組織、偉そうに他人の罪を問える立場か、の意識が出来上がってしまっているからだろう。
 犯罪に走る警察官の対極で、まじめに社会の安全に奉仕しようと日夜頑張って働いている末端の警察官が一番悔しい思いをしているのでは。
(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は“閼伽の本人”。 


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