おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第30回
霧降高原有料道路


霧降高原有料道路は日光市と大笹牧場経由で栗山村(今は日光市栗山地区)を結ぶ栃木県道169号栗山日光線の一部区間の道で、1976年に共用開始された、生活&観光道路。2006年9月下旬まで有料だったが、以後無料開放された。だから、正確には「旧霧降高原有料道路」と呼んだほうがいいのかもしれない。延長は約16km。コーナリングが楽しめ、景色も抜群である。

霧降高原有料道路MAP

 有名な「いろは坂」はすでに書いたが、日光周辺にはほかにもいい道がいくつかある。今回はそのなかのひとつ、霧降高原有料道路について記す。彼の道は若葉/紅葉シーズンの休日を除けば交通量は少なく、コーナリングを満喫できて、景色も最高だ。初めて走ったのは約30年前で、個人的なツーリングではなく、取材で訪れた。それだけ走って面白く、景色もいい道だったので、某誌で数年連載していた“道”を紹介する企画でもピックアップしたのだ。

 編集プロダクションに入ってまだ1、2年の頃で、そこの社長と先輩カメラマンの3人で赴いた。霧降だけではなく、中禅寺湖周辺の道でもバイクの走り写真を撮ったりした。1泊2日の日程で、泊まったのは中禅寺湖畔(正確には、国道沿いではなく1本山側を走る道沿い)の民宿だった。そういえばその宿にはその後も個人的なツーリングなどで何度も世話になった。家族を連れて日光~中禅寺湖周辺に旅行に出かけたときも利用させてもらった。

 当時30代半ばくらいの姐さんが接客をしていて、彼女が明るくひょうきんな性格で客あしらいに長けていて楽しかったし、部屋は清潔で料理も民宿のそれとしては上等でうまかったからだ。だが、もうずいぶん前に、ご主人夫婦が年を取り、人手が足りなくなって、しばらく素泊まりのみで営業した後、閉めてしまった。本当にいい宿でとても気に入っていたのに、残念である。

 道の話に戻ろう。霧降高原有料道路は、その後も、仕事で数回、遊びのツーリングでも数回訪れた。東北自動車道で宇都宮ICまで行き、日光・宇都宮道路で霧降に、というルートで行くことが多かった。直近でいくと3、4年前の秋たけなわの頃に走った。仕事で知り合い20年来の付き合いになる茨城のバイク友達と、大内宿へ一泊ツーリングに出かけた折、初日に利用した。

 そのときは東北道の佐野藤岡IC近くの道の駅「みかも」で待ち合わせ、その後県道をつないで北に進み、山の中の細い峠道を越えて国道122号線に出て右折。しばらく行くとT字路になる。左は中禅寺湖方面への国道120号線で、右は日光方面の国道119号線だ。俺はサンダーバード、友人はW3で、澄み切った青空に映える紅葉の中、2台は予定通り右折して先に進んだ。

 日光市街から県道169号を左に曲がって北へ向かい霧降橋を渡って山を登ってくと霧降高原有料道路の入り口に至る。曖昧だがそのときもまだ料金所のゲートは残っていた、と思う。料金所の前後の沿道にはつつじが植えられていて、春は美しいらしい。料金所を過ぎると、やや長めのストレートとコーナー、という構成で、左手前方の赤薙山に向かって上って行く感じ。そのあと道は低中速コーナーが連続するワインディングとなり、樹林のなかを曲がりくねりつつ、時に緩く時にややきつい勾配で伸びる。


霧降高原有料道路

霧降高原有料道路

霧降高原有料道路

霧降高原有料道路
日光のランドマーク、東照宮の脇から県道169号線を経由し霧降高原道路へ。走りごろのワインディングで高度を稼いでいく。写真の人物は親分ではありませんし、季節も秋ではありません。念のため。

 ニッコウキスゲの群生で知られるキスゲ平、眺めのいい駐車場を過ぎると、大きなアーチで支えられている六万沢橋に至る。名所のひとつで、下の沢からの高さ130mと言われている大きな橋だ。山側の景色も谷側の眺望も壮観で、欄干から真下を覗けばお尻がムズムズしてくる。シーズンは多くのマイカーやバイクが駐車してその景色を愛でたりカメラに収めたりする場所で、30年前の取材時も橋がらみで撮影したが、そのときも橋の上で山をバックに何枚か記念写真を撮り合った。錦繍に彩られた山の美しかったこと。

 橋を過ぎてしばらく進むと雰囲気は一変し、緩く下りながら牧場内を縫うワインディングとなる。草原でのんびりと草をはむ牛が点在するその牧歌的な風景を30数年前に初めて目にしたときは夏の終わりごろだったが、草の緑もまだ鮮やかで、感動した。3、4年前のときは牧場越しに見える山々が紅葉できれいだった。昔は下っていくと牧場の中に料金所があったと記憶するが、無料化後に撤去されたようだ。そこで霧降高原有料道路の区間は終わる。

 で、すぐ先はT字路になっていて、正面に大笹牧場のレストランなどの施設がある。初めて取材で訪れた時は、そこで新鮮な牛乳を飲みソフトクリームも食べたっけ(そういう画もほしいということで)。だが、友人と行ったときはレストランに入ってジンギスカン定食を食べた。味はまずまずだった、かな。腹を満たした後は牧場施設の前の道を北に進み、数km走って県道23号線とのT字路を右折。その後R121号を左に折れて、南会津の大内宿に向かった。


霧降高原有料道路

霧降高原有料道路
日光側から登っていくと終点にあるのが大笹牧場。ソフトクリームが名物。ちなみに写真の人物は親分ではありません。念のため。

 紅葉の季節はもちろんだが、若葉の頃も山や牧場はとてもきれいだし、夏場も涼しくて気持ちがいい。コーナリングを楽しめて景色のよさも抜群!のグッドロード・霧降高原の道は、ぜひまた走ってみたいと思う。周辺には温泉も豊富だからやっぱり泊りがけで行くのがいいだろうなあ…。


霧降高原有料道路
秋たけなわの頃だったので、道すがら紅葉を存分に楽しめた。ちなみにこの写真は霧降有料道路区間内ではなく、その前後の道で撮ったものですが…。


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、16年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで6万5000km。

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