MBHCC E-1
 西村 章

MBHCC E-1

スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第60回 開幕戦カタールGP「FromDuskTillDawn」

 開幕戦は恒例のナイトレース。コース全周を取り巻く照明設備にライダーとマシンが鮮やかにライトアップされ、日中のセッションとはひと味違う華やかな色彩がえもいわれぬ美しさを演出する。今年はさらに、MotoGPクラスのレース進行に変更があり、これが結果的に大成功で、手に汗握るじつにスリリングな予選になった。
 昨年までは、3回のフリープラクティスを経て1時間の予選を行い、そのタイム順で決勝レースのグリッドを決定していた。今年は、3回のフリープラクティスで各選手の記録したタイムによって、予選をQP1とQP2の二組に分け、それぞれ15分間のセッションとして行われる。まずは、フリープラクティスで11番手以降の選手がQP1へ、トップテンのタイムを記録した選手はQP2へと進む。これらの各予選に先だち、30分のフリープラクティス4回目(非計時)を行い、10分のインターバルを置いていよいよQP1が始まる。QP1は事実上、CRT勢で争われることになるわけだが、この15分のセッションの結果、上位タイム2名はさらにQP2へ進み、トップテンの選手に混じってフロントローから12番グリッドまでの順位を争う。QP1の3番手以降の選手は、翌日の決勝レースグリッドが13番以降、順次自動的に割りあてられる。
 さて、ポールポジションを争うメインイベントのQP2は、まさに一発勝負。今回のロサイルインターナショナルサーキットの場合、一周に約2分かかることから、アウトラップも含めて計算すると、可能な周回は7周。つまり、コースインして第1回目のアタックを二周実施し、ピットに戻ってきてタイヤを交換。さらに2周のアタックをしたら時間終了、という流れになる。
 これがじつに緊迫するセッションで、クリアラップを取れるか渋滞にハマるかで明暗はくっきり分かれる。今回の開幕戦では、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー)がピット作業も含めた作戦がバッチリと成功して完璧なタイムアタックを敢行。見事に全力を出しきってポールポジションを獲得した。
「この新しい予選はいいね。エキサイティングだし、予選タイヤがあった2008年に少し似ている」と、ロレンソ自身も満足げな様子。
 一方、この時間管理にハマってフラストレーションの溜まるセッションになってしまったのが、チームメイトのバレンティーノ・ロッシ。存分なアタックができず、3列目7番グリッドに沈んでしまった。翌日の決勝レースでは劇的な展開でヤマハ復帰戦を2位表彰台で飾ったものの、予選のちょいとまずい展開については「新しい予選形式にはもっと慣れないといけないよ。自分くらいの年齢になると、何かを変えようと思っても時間がかかってしまうものでね」と自虐的なジョークで笑わせておりました。

ホルヘ ロッシ
今年のヤマハファクトリーはコンビ仲(?)も良く、最強チームかもしれない。

 ※        ※        ※ 

 ロッシといえば、昨年まで2年間在籍していたドゥカティ時代について「皆の期待が大きい一方、100パーセントで走れないことが自分にはわかっていたので、プレッシャーが大きくて辛かった」と語っていたのだが、プレッシャーの大きさという意味では、ドゥカティ側にもロッシと同様かそれ以上のものが非常に重くのしかかっていただろうことは、想像に難くない。
 ロッシが去り、開発の主導権を握っていたプレツィオージも去り、新たな態勢で2013年シーズンが動き始めた同陣営は、ファンとロッシ双方の抑圧から開放されて開発を進めることができるようになるのではないだろうか。
 ニッキー・ヘイデンやアンドレア・ドヴィツィオーゾの話を聞いていると、過去から連綿と続くマシン面の課題はおいそれと急に払拭はできないようだが、予選ではドヴィツィオーゾが意地を見せて4番手。PPのロレンソから0.446秒差の2列目4番グリッドを確保した。
「ソフトタイヤなら気持ち良く走れる。が、レースラップは大いにクエスチョンマーク」と語ったとおり、決勝はオープニングラップで3番手につけて気を吐いたものの、それも長くは続かなかった。上位陣が1分55秒台で走行している頃には56秒半ばから後半、終盤にトップのラップタイムが56秒に落ちた頃には、自分たちはなんとか57秒台がやっと、というラップタイムで、終わってみれば両選手はトップと24秒差の7位と8位。
 昨年のちょうど開幕戦で、ロッシが当時自分たちのマシンだったドゥカティのエンジン特性を評して「カウルの中にライオンがいるようなもの。これが良くなれば、タイヤを温存できるようになるだろう」と語っていた頃から一年経って、こういってはナニだが根本的な問題の解決はあまり見られていないのではないか、という気がしないでもない。心機一転の開発体制で、彼らが今シーズンどのような進化を遂げていくのかというところにも注目をしておきたいと思う。
 

ヘイデン ドビ
2013年は開発体制一新。はたしていつ頃に、H&Yに肉迫できるか。

 ※        ※        ※ 

 では、締めくくりに小ネタを少々。このレースウィークにヤマハが、2014年以降のエンジンリース計画を発表した。リース価格や提供内容の詳細などについては後日明らかにされる模様。一方、ホンダはすでに量産レーサーの製作と販売を2月に公表しており、これらの選択肢が増えることはCRT勢にとって朗報であることは間違いないだろう。
 ホンダやヤマハが製作する戦闘力の高いマシンを手に入れることで、CRT勢のラップタイムが上位陣に近接してゆくなら、現在の2クラス混走のような状態も少しは改善されるだろうし、「CRTがプロトタイプマシンを喰う」場面も現実味を帯びてスリリングなものになるだろう。
 来シーズンは、これらCRTを巡る環境がかなり大幅に変更されるかもしれない。あとは、価格との折り合い、という現実的な問題だが、これはCRT側の参戦姿勢に依存する事柄で、「MotoGPクラスへ参戦することに第一義的な価値」を置く場合は、戦闘力が多少アレでもマシンコストが比較的安くすむ現状の<ありもの>CRT態勢で参戦しつづけるだろうし、「ファクトリーやプロトタイプマシン勢を脅かす」プライベーターの意地を見せて上位陣に肉迫したい場合には、多少の金のかかるマシンでも出費は厭わないだろう。要は、彼らプライベーターの<夢>と<価値>をどこに置くかというある種の人生観のような問題、ということになるのでしょうね。

 ※        ※        ※ 

 てなわけで次回の第2戦は初開催のテキサス州オースティン。オースティンといえばスティーヴィー・レイ・ヴォーン。”Pride & Joy”をテーマソングに、2週間後にお会いしましょう。では、また。

ダニ マルケス
オースティンは、3月のテストを見る限りレプソルのふたりがヤマハより有利?
中上
レース序盤の独走状態から最後は3位表彰台。目指せ表彰台の常連。
カタール カタール
昼はこんなん。 夜はこんなん。
カタール カタール カタール
そして、少年は大きくなったらライダーになろうと固く心に誓ったのであった……りして。 ドーハのおねいさん勢揃い。でもじつは、全員が欧州から臨時雇いのおねいさんなのねん。 日没は6時、あっという間に日が暮れて、周囲はサーキットの照明以外、真っ暗になる。
■第1戦 カタールGP

4月7日 ロサイル・インターナショナル・サーキット 晴
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
2 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
3 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
4 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
5 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
6 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
7 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
8 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
9 #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
10 #11 Ben Spies Pramac Racing Team DUCATI
11 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
12 #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
13 #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
14 #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
15 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
16 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
17 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
18 #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
RT #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
RT #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
RT #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
RT #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracing ART(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。


[第59回ヘレス合同テストへ|第60回 開幕戦|第61回第2戦へ]
[MotoGPはいらんかねバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]