バイクの英語

第31回 Daft as a brush(後編)
(ダフト アズ ア ブラシ)

 考えなし。これが全ての元凶だと感じている昨今。本来であればDaft as a Brushの説明から入るべきの「下」だが、今月も道路事情に対する不満の吐露から入りたい。

 高速道路での「考えなし」事例2つを挙げよう。一つは左側車線を使わないDaftなドライバーの皆さん。高速道路を走っていると、なぜか速い車線であるはずの右側が混んでくる。右側車線を快適に走ってきて、そして詰まってくると非常に腹立たしい。前方を見てみると、意味もなく、考えなしにただ追い越し車線に居座っている車がいたりする。これには大変腹が立つのだが、これはとりあえず置いておこう。問題は、追い越し車線から第2通行帯に戻りたいのに戻れない、というシチュエーションなのだ。ついつい追い越し車線に居座る車に非難を浴びせてしまうことも多いが、ところが彼も戻りたいのに、第2通行帯に居座る車がいるため戻れないことも多々あるのだ。

 こういう場合は、もとをただせば第1通行帯が空いているのに第2通行帯に居座っている車が妙な渋滞の原因だ。確かに3車線ある高速道路では第1通行帯及び第2通行帯が「走行車線」となっていて、第3通行帯が「追い越し車線」となっていることがほとんど。しかし第1通行帯がガラガラなのにもかかわらず、第2通行帯に居座り続けたら第3通行帯もいずれ混むのは目に見えている。少し考えれば、せっかくの3車線道路を2車線として使っていることに気づきそうなものだが。

 ここで特に初心者は「第1通行帯はトラックがいて、追い越しが怖い」だとか、「合流してくる車が怖い」などということがある。しかしそれは甘えでしかない。高速教習も受け、運転免許証をもらっているのだ。怖がっている場合ではない。車線変更もできないような未熟な運転技術では、極論にも聞こえるかもしれないが、高速道路は走らないでいただきたい。そんな言い訳は免許取得時に再三「してはいけない」と教えられる「身勝手運転」に他ならない。自分の都合で決めた勝手な「当たり前」や「普通」で二次的な事故を起こす可能性があることもしっかり認識せねばならないのである。

 さらに言えば、追い越し車線を時速98キロで走り続け、「制限速度で走っているのだからどく必要はない」とかたくなに後続に譲らないドライバーもいる。アレは一体どんな心理状態なのだろう。速度制限の厳守よりも円滑な交通の流れを妨げない方が安全であることも多く、かつそのような運転はいらぬ事故を引き起こす、ということに考え至らないのだろうか。そんなドライバーは高速道路どころか、自分の判断で操作する乗り物に乗らないでいただきたい。バス・電車をどうぞ。

 ヒートアップしてしまって申し訳ない。例2に移ろう。
 雨天の高速道路の表示板である。これについてはこういったコラムでグダグダ書いてもNEXCOの人が読んでいるわけもなく、よって改善されないのだからここに書かずにちゃんとした意見書を出せばいいだろう、と自分でも思う。しかしドライバー諸君にも気づきがあれば、という気持ちと、いずれ書くその意見書の練習として書いておこう。ここで言う「考えなし」の人はドライバーではなく、高速道路を運営している会社だ。

 雨天時の一番の危険は何だろう。スリップすることだろうか。制動距離が長くなってしまうことだろうか。ハイドロプレーニング現象だろうか。雨天時の首都高には「雨の日、事故5倍」などと表示が出る。意見書を書くまでにはその内訳を調べておきたいと思うが、スリップも制動距離も実は二次的な要因でしかないと筆者は思っている。一番の原因は視界が悪いことだろう。見えないからギリギリまで気づかず急ハンドルや急ブレーキになってしまう。スリップする。制動距離が伸びる。事故に繋がる。見えていれば急ブレーキも急ハンドルも必要ない。あくまで仮説だが、よくよく考えてみれば様々な事故の一次的要因がこの視界の悪さであることに異論を唱える人は少ないと思う。

 では見えるためにはどうするのか。ワイパーを使ったりという「見る側」の努力も必要だが、「見られる側」の簡単な一つの行いで飛躍的に視認性が高まる。それはライトの点灯である。見るためのではなく、見られるためになのだが、ここに考え至るドライバーは、雨の高速道路の実情から察するにせいぜい35%ぐらいだと思う。なお、後ろからの被視認性のために車幅灯をつければいいと思うかもしれないが、では追い越しをかけるとき、もしくは追い越された後に自分の前に戻ってくる車からの、ミラーからの被視認性はどうだ。雨天時はミラー本体に水滴がついていたり、ミラーを見るための横の窓が曇っていたりするため、後方の確認は前方以上に困難なのだ。ここはやはり、車幅灯だけでなくヘッドライトを点灯するべきだろう。

 ドライバーの質が低いのは様々な教育システムも含めて見直しが必要だと思うが、しかしそういったソフト面はそうすぐに改善できるものではないことを考えると、高速道路の表示板で呼びかけるのは有効なのではないかと思うわけだ。しかし雨天時の高速道路表示は大抵「雨走行注意」「雨天スリップ注意」。これが例えば「この先雨走行注意」であったり、「ここから5キロ区間スリップ注意」といった表示ならわかるが、雨走行注意といわれてもそんなことはわざわざ教えてくれなくても知っている。ドライバーが知らないこと、そして思い至らないことを表示しなければ意味がない。

 筆者が表示板の担当者だったら「雨・視界悪し・前照灯つけよ」や「雨・車間距離とれ」、「雨・安全速度確認」、「○○インターまでの区間、雨天時事故多し」「この先降雨量増加」などとするだろう。雨天時に全車がヘッドライト点灯したらそれだけで数割は事故が減るのではないかと思える。そもそも、高速道路は高速での移動による時間の短縮と同時に、一般道以上の安全性を求めて料金を支払って利用しているのだ。運営側は利用者の安全な高速移動を確保するべく常に考えをめぐらせておいていただきたいものだ。

 とりあえず二つの「考えなし」事例を、いつもの個人的交通事情危惧にそって紹介しましたが、これを強引に英語に結び付けなければならないのがこのコラムです。そこで今月(と先月)の英語、Daft as a Brushが初めて登場するわけです。

 Daftとはよく言えば「あほらしい」といった柔らかいニュアンスを持つ言葉だけれど、一方で「馬鹿が度を越している」「低能」といった強い使い方もされたりします。発音は「ダーフト」もしくは「ダフト」。今回の英語の「Daft as a Brush」では「ダフト」と短く使うのが一般的かな。

 Daft as a Brush とは、「ホウキと同じぐらい低能」という意味であることは先月の「上」で説明したとおり。ではなぜ飛びぬけて低能であることがホウキに例えられるようになったのか、諸説ありますが有力なのを一つ。

 

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 ローマ帝国軍の話。新しく入ってきた兵隊に最初に任される仕事は、他の多くの職業と同じで「掃除」であった。何もできない新米の兵士でも単純な掃除ぐらいはできる。ローマは乾燥しており、兵士たちの軍服の足元はサンダル。そう、聖書に足を洗う話があるが、南ヨーロッパ地域は非常に埃っぽく、当時は室内であっても常に床の掃除が必要だった。兵舎でもそれは同様で、よって新米兵士は終日、ホウキで砂埃を掃く仕事に追われたのだ。
 しかしこの仕事、大変でこそあれど特別な技術を必要とするものではない。ただ黙々と掃き続ければいいだけであり、忍耐は試されるものの思考能力や柔軟性は必要とされない作業である。よってどんな新兵でも問題なくできる仕事であった。
 入隊して最初にするこの掃き掃除は、「最も単純な仕事」として認識され、よって他に何もできない人のやる仕事、ということとされるようになる。それにより、この作業は罰として与えられることもあり、階級の高い兵士がホウキで掃き掃除をさせられていると「あいつは無能だからあれをやらされている」と見られるのである。
 しかし中には失敗ばかりして、掃き掃除ばかりをやらされている兵士も出てくる。そういったときにその無能っぷりを笑い、周りの兵士たちは「あいつはなんて無能なんだ。掃き掃除に使ってるホウキの方がまだ頭がいいんじゃないか」とからかうのである。

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 このようにして「Daft as a Brush」という言葉が生まれました。また、大抵の兵士は体つきがいいため、細い兵士もホウキに見立てられたといいます。細い体で髪の毛がある程度伸びてると、逆さに立てられているホウキに似ている、ということらしいのですが、それは体格をからかっているものであって頭の良さには関係ないので、たぶん語源は最初の方で正しいと思われます。

 まぁ、なんにせよ「考えなし」で行動し続けてしまったら、それは「低能」であるということ。考えなしの低能ドライバーもいれば、考えなしの車道自転車や青信号突進歩行者(先月を参照)もいます。考えをもって、周りをよく観察し、想像力やインスピレーションで潜む危険を見抜ける人でいたいものです。

 NEXCOへの意見書はそのうち書きます。そのときはWEBミスターでしっかり掲載しましょう! お楽しみに。そして雨天時はライトの点灯を!!

筆者 
梶ヶ谷 コリーヌ
フランスから移住してきたフリーライター。BMWのGSに追いつけ追いつけの「アドベンチャーバイク」ブームが気に入らない。トランザルプがあったじゃないか。TDM850もずっと前からある。いまさら何を言ってるんだ。「あたしゃ前からそのジャンルがイイことは知ってたよ!」。 愛車はソレックス。


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