順逆無一文

第32回 『殺人未遂』

 半年くらい前にこのコラムで書いたが、道路を横切るようにロープや針金を張る“殺人未遂”事件がやまない。このうち2月に東大阪であった事件の容疑者が捕まったという。捕らえてみれば13歳の中学生ふたり組だった。
 悲しいかな、成りは大きくとも子供は子供、己の行為がどんな結果を招くかを想像できる脳みそを持ちあわせてはいなかったと言うことなのだろうか。いや、本当はそこまで考えて“楽しんで”いたのかもしれない。他人の心の奥底までは計り知れないから何とも言えない。
 で、さすがに警察も“配慮”が働いてしまったのだろう。「いたずら目的だった」として容疑を“殺人未遂”から“往来妨害”にトーンダウンして、この2人を補導、児童相談所に書類通告したという。


※※※※往来妨害罪(刑法)※※※※
第十一章 往来を妨害する罪
第百二十四条【往来妨害及び同致死傷】
 第一項 陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
 第二項 前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
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 往来妨害罪というのは、道路や水路、橋など一般的に交通の用に供する所を“損壊”や“閉塞”つまり壊したり、障害物を設けて通行できなくすることを想定した法律ですね。部分的な遮断でも交通を困難な状況に至らしめている面があれば適用されます。しかも、現実に誰かが被害を受けたという事実がなくても、通行を困難にする状態にしたという時点でアウトです。
 また、第二項にあるように、実際に誰かを怪我させたり、死亡させたとなると、傷害や死亡させた罪と比較して、重い方の刑が適用されることになってますから、怪我を負わせれば二百四条の傷害罪、万が一死亡したりしてしまえば二百五条の傷害致死罪が適用されることになるでしょう。


※※※※※傷害罪(刑法)※※※※※
第二十七章 傷害の罪
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
(現場助勢)
第二百六条 前二条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(同時傷害の特例)
第二百七条 二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(危険運転致死傷)
第二百八条の二 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
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 以上のように傷害罪の場合「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」、致死では「三年以上の有期懲役」となりますから、往来妨害罪ではなく、傷害罪、傷害致死罪が適用されることになるわけですね。

 ここでもう一つ問題になるのは、誰かが怪我をするであろう、ひょっとすると死ぬかもしれない、と結果を予想していた場合です。


※※※※※殺人罪(刑法)※※※※※
第二十六章 殺人の罪
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
第二百条 削除
(予備)
第二百一条 第百九十九条の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
(自殺関与及び同意殺人)
第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
(未遂罪)
第二百三条 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。
第八章 未遂罪
(未遂減免)
第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
(未遂罪)
第四十四条 未遂を罰する場合は、各本条で定める。
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 万が一に被害者が死亡してしまった場合に良く耳にする「こんなことになるとは思わなかった」の軽いフレーズ。遺族の心情を逆なでするだけじゃなく、こんな無責任な言い訳を口にするだけで量刑が大幅に左右されてしまう。人間の考え出した法律の限界というものでしょうか。それはともかく傷害致死罪と殺人罪では、天と地の違い。

 これだけ各地で同様のロープ張り事件が起きている裏には、やはり自分がやっていることをきちんと理解できていないことが背景にあるのだろう。

 そのためにも、実際に死者を出してしまう前に、ことの重大さをもっと積極的に、未成年者にも分かりやすく教えておかなければならない、ってこと。そのためには事件の発生を報道するだけでなく、やはり“殺人未遂”行為としてすみやかに犯人を検挙、起訴し、ことの顛末を広範囲に認知させることが大切なのでは。

「いたずら目的だった」などといとも簡単に犯罪容疑を変えてしまうのはいかがなものだろう。この手の行為は「単なるいたずらなんかじゃなくて、運が悪ければ人が死ぬ行為なのだ」と、ソーシャルメディアなども利用して伝えていくべきだ。そんなメッセージが一番必要な層は、新聞など旧来のメディアなど端から相手にしていないのだから。

 いかに未熟な頭とはいえ、自分の人生をも終わらせてしまうような危険な行為なのだと説明すれば理解できるはず。万が一、人を死なせるようなことが起こってしまってからあ~だ、こ~だ言っても遅い。

“いたずら”なんていう言葉ではすまされない、重大な犯罪だ。

         ※
 もう一つ残念なニュース。都内の交差点で、警視庁交通機動隊の白バイとゴミ収集車が衝突し、白バイ隊員が意識不明の重体となったという。

 どうやら交通違反の車両を追跡して交差点にさしかかったところ、ゴミ収集車がUターンしに出てきてしまった、という事故らしい。「らしい」というのがポイントで、このニュースを伝えた各紙、WEBサイトなどでも「目撃者によると」とか「らしい」としか報道できていなかった。この白バイには、ドライブレコーダーが取り付けられていなかったのだろう。

 これまで何回も言ってきているように、白バイ隊員たちの安全のため、そして名誉を守るためにも全国の白バイの全車両にドライブレコーダーの装着を義務づけるべきだ。

 ちなみに全国に先駆けて神奈川県警は、2012年1月から全配備台数54台のうち、半数以上の31台の白バイに、ドライブレコーダーの搭載を行ったが、費用は1台あたりわずか4万円ちょっと。全国の白バイ全車両に取り付けたとしてもたいした予算じゃない。是非とも早急な導入を。

 事故にあった白バイ隊員の方が意識を回復されることを祈りたい。
(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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