MBHCC E-1
 西村 章

MBHCC E-1

スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第62回 第3戦スペインGP「Passion, Grace and Fire」

 欧州大陸に戦いの場を移して本格的なヨーロッパラウンドの始まりとなった第3戦スペインGPは、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)が優勝。開幕戦と第2戦がいまひとつの内容で、やや不安を感じさせるシーズンスタートだっただけに、今回の後続を引き離す圧勝は、さすがダニ、と思わせるしぶとい走りで、チャンピオン争いの興趣を掻きたてる結果になって、ひとまずやれめでたし、といったところである。
 が、今回のレースでもっとも話題を集めた出来事はといえば、そのダニの背後で発生した最終ラップ最終コーナーでのホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)対マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)の2位争いのバトル。これに尽きるだろう。
 ヘレスサーキットの最終コーナーは左へ曲がるタイトなコーナーで、ライダー同士の意地と技術がぶつかり合うこの勝負どころでは過去にいくつも劇的なドラマが発生している。
 最も有名なものは、2005年のバレンティーノ・ロッシとセテ・ジベルナウのバトルだろう。このときも最終ラップの出来事で、かなりきわどいインのつきかたをしたロッシが優勝。接触の結果、外へはじき出されたジベルナウはコースに復帰して2位でフィニッシュした。2010年には、優勝争いのレース終盤、最終ラップへ向かう立ち上がり勝負でロレンソとペドロサのカウルが接触したこともあった。さらにもっと遡れば、1996年にはミック・ドゥーハンとアレックス・クリビーレの間でも同様の出来事が発生している。
 今回のレースでは、マシン同士が接触した結果、アウト側へはじき出されて3位に終わったロレンソは、クールダウンラップから憤然とした様子を露わにしていた。優勝を飾ったペドロサとは握手を交わしたものの、自分をはじき飛ばしたマルケスが求めてきた握手は拒否。右手の人差し指を立てて「ちっちっちっ」という仕草で不満を表明した。パルクフェルメでも、挨拶をしようとするマルケスにふたたび「ちっちっちっ」。表彰台のシャンパンファイトでも、フレシネのボトルをカチンと合わせにきたマルケスに、みたびの「ちっちっちっ」で拒否。
 ロレンソはこの日のレースについて「今日はミスをふたつ犯してしまった。ひとつはスタートに失敗したことと、もうひとつは最終ラップの最終コーナーでインを開けていたこと」と語ったものの、そのインにマルケスが飛びこんできた一部始終の感想については「いまはなにも話したくない」とコメントをこばんだ。
 もう一方の当事者であるマルケスは、「最初は『OK、3位でもいいか。自分たちには上々の結果だし……』と思っていたけど、ホルヘがインを少し開けているのが見えたから、110パーセントの力でトライしてみようと思った」と説明。また、「自分も同じことをしかけられたら、きっと腹が立つと思う。でもそれは、挙動に対してじゃなくて順位をひとつさげてしまったことに気分が悪くなるんだと思う」とも話した。
 この出来事に対してレースディレクションは、レーシングアクシデントであるという判断をくだし、他の選手たちも、おおむね同様の感想を語っている。以下、レース後に集めたいくつかのコメントを紹介しておこう。
 まずは、4位に終わったバレンティーノ・ロッシ。2005年の出来事の当事者でもある。
「離れた場所からモニターで一度ちらっと見ただけなので、正確な判断は難しいけれど、マルケスが懸命にトライして、ホルヘが空けていたスペースに飛び込んで接触したように見えた。レース直後にホルヘが気分を害するのもよくわかるけど、これはレースだからね。最終ラップの最終コーナーで、後ろにいる側が必死でトライしたら、最後はあんなふうになることもあるだろう。今日のレースでは、自分は彼らほど速く走れなかったのは残念だけど、あの最終コーナーにもし自分とマルクとホルヘが一気に突っこんでいったら、とても面白いことになっていただろうね(笑)」
 5位でフィニッシュしたカル・クラッチローも同様の意見だ。
「マルケスが悪いことをしたとは思わない。ホルヘもチャンスがあったら、まったく同じことをしていたんじゃないかな。マルケスは最初からぶつけるつもりで突っこんだわけではないだろう。インに飛び込んだらそこにホルヘがいた、ということだと思う。もし自分が同じことをされたら、クールダウンラップでは頭に来るだろうけど、でも自分も同じことをしていたかもな、と考え直すかもね。マルケスは激しい乗り方をするけど、それは(危ないというのとは)別のことだよ。何台ものバイクが同じ場所をいちどきに走っていれば、そりゃ何かは起こるって。前を譲り合ってレースをして、それで『3位でハッピーです』なんて、そんなの気持ち悪いぜ。3位でハッピーなわけないじゃないか」
 アンドレア・ドヴィツィオーゾは、今回も永遠のテーマである旋回性に悩み、途中CRTにも突っつき回される憂き目にあったものの、なんとか8位フィニッシュ。マルケス・ロレンソ事件にたいする見解は以下の通り。
「問題のコーナーに至る前はどうだったのか。自分はただあの瞬間の出来事をみただけで、ハッキリしたことはいえないけど、激しい争いだった。マルケスはロレンソに意図的にぶつけようとしていたようには見えない。マルケスがブレーキを遅らせて突っこんでいって、そのときにロレンソは自分のラインにいて、ああいう結果になったように見えた。ただ、それ以前の展開がどうだったかで違ってくるけど、意図的ではないから、まあOKだと思う。だからといって、次のレースでも同じ行為をしていい、ということにはならないと思うけどね」
 今回のレースで終盤にエンジンが壊れて18位となってしまった日本人選手の青山博一は、2009年の250ccクラス当時、まさにこのコーナーで同様のバトルをアルバロ・バウティスタに仕掛けた。このときはきれいにクロスラインで抜き去り、逆転勝利をもぎ取っている。
「当たった瞬間の映像しか見ていなくて、その前の展開がよくわからないのでなんともいえないけれども、スペインGPだしスペイン人同士だし、ああいうこともあり得るでしょうね。2005年のセテとバレンティーノの一件にも似てるけど、マルケスは純粋な選手だから、行けると思って突っこんだんだと思いますよ。そりゃあ、バトルに負けた方にしてみれば、悔しくてしようがないでしょうけどね」
 状況が酷似しているために2005年のロッシvsジベルナウを想起する人も多いようだが、そのときと今回の重要な違いをひとつ、指摘しておこう。
 2005年のバトルではロッシがジベルナウを結果的に押し出して優勝をもぎとったわけだが、その表彰式で、痛そうに肩をおさえ、接触が原因で痛めたとアピールするジベルナウに対し、ロッシは「へへ、優勝をいただいちゃった。悪かったね。でもレースだからさ」といわんばかりの表情で握手を求めに行った。その手をジベルナウは握り返したのだが、この瞬間に、ジベルナウはロッシに対して精神的にも凌駕されてしまったといっていいだろう。あそこで握手に応じるのは、いわばボスザルにマウンティングされたようなものなのだから。
 握手を求める表面的な行為は同じでも、心理的にも狡智に長けたロッシと無垢なマルケスを単純に比較することはできないにしても、それでも、三度の「ちっちっちっ」で不快感を表明し、握手を拒否したロレンソは「負けん気の強い戦う男の子」ごころを見せつけたという意味で、2005年のジベルナウとは全然違うし、だからこそ、「いいぞホルヘ」とも思う。
  

ダニ
MotoGPのヘレス表彰台獲得率は100パーセント。それもすごい話である。
マルケ ホルヘ
3戦連続表彰台で史上最年少のランキング首位。 高い路面温度条件などもあり、今回は持ち前の安定感を活かせなかった。
バレ ドビ 青山
フロントが切れ込んで前を追えなかった、とレース後に。 月曜の事後テストではニューシャシーをテスト。 8位も狙えた位置でレース終盤にエンジンが逝去。

 ※        ※        ※ 

 さて、長くなったので手短かにもう一点だけ小ネタ(?)を。2014年の戦列復帰を計画しているスズキが、6月のカタルーニャテストから欧州でテストを予定していることは既報のとおりだけれども、その来年のチームマネージャーとして某氏就任の正式発表がおそらく近々にもありそうだとかなんだとか。また、その某氏が浜松で来年の体制について打ち合わせを行い、選手のラインナップや予算の枠組みなども近々に決定されるだろうとかなんだとか、そういう話も水面下で着々と進行しているようです。
 詳細は近いうちに正式発表されるという話もあるとかないとかなので、ひとまずそれを愉しみに待つことといたしましょう。
 ではでは。

ランディ ランディ
とりあえずカタルーニャの事後テストはこの人が乗る?
ヘレス ヘレス
みなさんこんにちは。保積てぃおぺぺです。 決勝日11万人超。三日間の総計は21万9020人。
ヘレス ヘレス
超高解像度で撮影中。 若井伸之氏の事故から、はや20年。

■第3戦 スペインGP

5月5日 ヘレス・サーキット 晴
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
3 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
4 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
5 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
6 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
7 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
8 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
9 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
10 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
11 #51 Michele Pirro Ducati Test Team DUCATI
12 #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
13 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
14 #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
15 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
16 #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
17 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
18 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
RT #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
RT #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
RT #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
RT #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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