バイクの英語

第32回「Begorra
(ビゴラもしくはベゴラ)」

 英語のコラムのはずなのに、なぜか筆者の交通事情やドライバー/ライダーの意識についての問題提起がウケてしまって、どんな方向で進んでいいのかわからなくなっている「バイクの英語」です。
 そうだ、どんな方向に進んでいいのかわからなくなっているといえば、信号の青い矢印ですね! 海外では赤い矢印もあって、アレは本当にどうして良いのかわからなくなりますが、日本は一般的に青い矢印のみ。ということはわかりやすいはずなのに、これがどうにもトリッキーなのです。
 去年あたりにWEBミスター・バイクで取り上げられていた「右折可」の青矢印信号。あれはあくまで「右折」が可なのであって、Uターンはダメだったらしいです。え、だってそんな、Uターン禁止標識のない交差点ではずっと前からみんな青右矢印信号でUターンしてきたじゃないか、と思うでしょう? ところが、Uターン禁止じゃない交差点でUターンしていいのはあくまで通常の青信号の時だけであって、右青矢印信号では右折しかできなくUターンは不可だったんですね。
 ということは、だ。右折レーンにいて、青信号時には対向車がいてUターンできなかった人は、右青矢印信号になった時はたとえ後続で右折したい人がたくさんいても、かたくなにその右折レーンで止まっていなければいけなかったというんですよ。そんなバカな! だけどそれが本当のことらしく、どこか取り締まり点数と一般常識が足りていない、取り締まり担当の、あの、なんて言うんだっけ、あ、警察官ね、が「厳密に言えばそういうことじゃん!」と気づいてしまい、シメシメと取締りを始めたわけです。
 確かに厳密に言えばそうかもしれないけれど、今まで当たり前にそうしてきたことで円滑な交通が保たれていたのに、法の穴を見つけてわざわざ混乱を巻き起こしたんだからDaft as a Brushですね(前号参照)。
 しかしバカ加減はここで終わらないから面白い。「そんな取締りないぜ!」という声が大きくなったため、早急に右青矢印信号でもUターンはOKと法改正すればよかったのに、都内の一部では青右矢印信号の他にさらに青Uターン矢印信号まで付け加えた。てことは、だ。明らかにおかしい、法の穴だった右青矢印信号でUターンできないというルールを、その青Uターン矢印信号をつけたことで認めてしまったわけで、その信号がないところでは堂々と右青矢印信号でのUターンを取り締まれるようになったわけ。うわわ、もうだめだこりゃ。早急な法改正までは黙認、ってわけにはいかなかったのかいな…… 完全にバカの仕業です。その後法改正され、つい最近ですが右青矢印信号でUターンもできるようになりましたけどね。じゃあの青Uターン矢印信号はどうなっちゃうんだよ! 税金返せ!
 青矢印信号にはまだ難しいところがあって、直進と左折に青矢印が出ていることはよくあるでしょ? ところがそのときの左折時の歩行者信号の色が統一されていない。本当は左折に青矢印が出てるんなら歩行者信号は赤にして、優先的に左折できるようにするべき。ところがそれがバラバラで、青のこともある。右折可の青矢印信号のときは右折先の歩行者信号は必ず赤だから安心して右折できるわけです。そうなると左折可青矢印信号は一体何の意味があるのだろう。それじゃただの青信号と変わらないじゃないか。
 と言うと、いや、あれは右折車が右折可の右青矢印信号が出るまで交差点に進入させないためだ、という反論も出るでしょう。うん、それはわかる。ところが何でそうさせたいかはわからない。普通の青信号でいいじゃないか。交通量の多い交差点だったら右折したくても対向車がいて行けないんだから、どっちにしろ右折可の右矢印信号が出るまで待たなきゃいけないでしょう。直進車優先なんだから、そのぐらいはドライバーの判断でできるでしょうよ。できない? じゃそのドライバーには免許証を出すべきではない。極論に聞こえるかもしれないけれど、ハード面での過剰な安全性の追求は交通社会のソフト面(ドライバー)の劣化を促進させると共に、円滑な交通の流れを阻害するのです。

 最近、とてもいい信号を見ました。近所で歩道橋が取り払われたのですね。老朽化しているし、高齢歩行者は利用しにくいとかで最近は歩道橋の撤去が増えているようです。これは横断歩道が増えるし、交差点の流れを悪くするだろうと思われるけれど、他にいい案が浮かばなく困ってます。だって歩行者がふてぶてしいんだもの! 「歩行者優先でしょ」と言わんばかりに横断歩道をチンタラ渡る。携帯とかチコチコしながらね。こんなに車が待ってるのに、まるで神経をわざと逆撫でしたいかのように、待ってる車の方はチラリとも見ずにゆっくり歩くんだ。歩行者、車が互いに譲り合いながらいけるなら横断歩道はとてもいいシステムだけど、こういうメンタリティの人が増えてしまってはもはや横断歩道というシステムは崩壊してるよ……。だから個人的には横断歩道を全部やめて、地下歩道とかにしたらいいのに、ぐらいに思っていたけれど、たしかに高齢歩行者のことを考えると酷。妙案が浮かばずにいたところに、さっきの「とてもいい信号」を見ました。
 歩道橋が撤去されたこの交差点はけっこう歩行者が多いため、今までと同じ信号システムでは、横断歩道を渡る歩行者に譲るため左折車がスムーズに左折するのはとても難しいと思えたのだけど、なんとこの信号、車道が青信号になっても横断歩道は連動して青にならず、時間差で青になるのです! だから左折車線(がある交差点なのだけど)で信号待ちをしていた車は信号が変わってすぐにどんどん左折できる。で、信号待ちの左折車がはけた頃、横断歩道の信号が時間差で青になるから歩行者もたくさんの左折待ち車を気にすることなく横断できるというわけ! 誰だコレ思いついたの! 交通ルールやシステムを考えてるヤツはイモばかりと思っていた筆者ですが、これには唸りました。あっぱれ! グッダイディア! うーん、ハード面の工夫でさらなる安全でストレスフリーな交通社会は追及できるのだな、と普段のグチをグイッと飲み込みました。こういうちょっとした工夫なんだよ、必要なのは!!

 今月の英語はBegorraです。

「ビゴラ」もしくは「ベゴラ」と発音します。
 意味としては「ほら!」「おお!(笑)」とか「おおっ!いいね!」「おぉ、なるほど!」というもので、幅広い使い方が楽しめます。今回、この歩行者用時間差信号機を見たときに思わず口をついて出ました、「ビゴッラ!」と。 
 ちょっとイタリア語風に小さい「ツ」を入れると雰囲気が出ますが、語源はイタリアではなくスコットランドからです。最初はBy God(バイゴッド)という言葉で、「おお神様!」という意味。アメリカ人が使う「オーマイゴッド」とどこか共通する使い方かもしれません。驚きや感嘆に無意識につけるような。
 スコットランドではケルティック、もしくはセルティックという言語が使われていますが、この言語でBy Godを言っているのか、それともそちらの言語と英語が合わさってこのように訛ったのかは不明ですが、今では英語圏でもBegorraという言葉として成り立っています。
 峠でカブに抜かれた時、わらじカツ丼が予想以上に大きかった時、ツーリング行ったら燃費が初めて35キロを超えた時、ふと思い出して「ビゴッラ!」もしくは「ベゴッラ!」と、ちょっとイタリア調で発してみましょう。

筆者 
パトリック・エルナンデモ
ヤマハTZ350エンジンを積んだビモータ「YB3」を走らせ1980年の世界選手権に参戦。チームメイトのジョン・エケロルドがチャンピオンを獲っている。ビモータのフレームはコーナリングが得意だからこそ、左青矢印信号ではスパッと左折したいのに、歩行者が気になってしょうがない。好物はハギス。


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