順逆無一文

第34回『自動免許』


 ホンダさんから原付二種の新車がどどっとリリースされました。オーソドックスな水冷4スト単気筒SOHCエンジンあり、カブ系横型シリンダーの空冷SOHCエンジンあり、そして純然たるスクーター系エンジンだったり、eSP(Enhanced Smart Power)という新型エンジンがあったりと、様々なエンジンバリエーションをラインナップさせられるのがホンダさんの底力ですね。
 
 さすがにミッション形式は、Vマチック無段変速か常時噛合式のリターン式ミッションの2タイプでしたが。ただ、同じ常時噛合式でもCBR125Rは、小型限定の普通二輪免許以上なのに対して、クロスカブは小型AT限定の普通二輪免許でも乗れるんですね(ホンダさんのWEBサイトで、バイクラインナップの免許別「小型AT限定普通自動二輪」で検索するとちゃんとクロスカブも入ってます)。
 
 AT限定免許といえばその名の通りオートマチック車のための免許だったような。クロスカブってオートマチックでしたっけ? で、今月はAT限定免許にひっかかりました。
 
 クロスカブは、カブの名が付く通り、横型シリンダーのいわゆるカブ系エンジンに常時噛合式4段リターン変速機を組み合わせたカブ伝統のパワープラントを受け継ぎました。フリークさんたちにとってはカブ・コンセプトはまだまだ健在、とさぞかし喜ばれたことでしょう。
 
 ご存じの通りカブ系エンジンを搭載するモデルは、人間が足でミッション(シフター)を操作するのですが、自動遠心クラッチと組み合わされた場合は、運転免許的には“オートマチック”モデルとされ、AT限定免許で乗れるのですね。カブの名誉のため付け加えておけば、カブは誕生した当初から現在まで「自動遠心式クラッチにリターン式○段ミッション」などというようにカタログに表記してきました。オートマチックなどとは一度もカタログに記載したことはなかったはず。じゃ、免許制度でいうところのAT車とは? AT限定免許とは?


●道路交通法
第1節 通則
(運転免許)
第84条 自動車及び原動機付自転車(以下「自動車等」という。)を運転しようとする者は、公安委員会の運転免許(以下「免許」という。)を受けなければならない。
2~5項※省略
第85条 次の表の上欄に掲げる自動車等を運転しようとする者は、当該自動車等の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる第1種免許を受けなければならない。
 
自動車等の種類   第1種免許
大型自動車     大型免許
中型自動車     中型免許
大型特殊自動車   大型特殊免許
大型自動二輪車   大型二輪免許
普通自動二輪車   普通二輪免許
小型特殊自動車   小型特殊免許
原動機付自転車   原付免許
 
2 前項の表の下欄に掲げる第1種免許を受けた者は、同表の区分に従い当該自動車等を運転することができるほか、次の表の上欄に掲げる免許の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる種類の自動車等を運転することができる。
第1種免許の種類  運転することができる自動車等の種類
大型免許      中型自動車、普通自動車、小型特殊自動車及び原動機付自転車
中型免許      普通自動車、小型特殊自動車及び原動機付自転車
普通免許      小型特殊自動車及び原動機付自転車
大型特殊免許    小型特殊自動車及び原動機付自転車
大型二輪免許    普通自動二輪車、小型特殊自動車及び原動機付自転車
普通二輪免許    小型特殊自動車及び原動機付自転車
3~11項※省略


 まずは全ての出発点、運転免許の種類を規定した道交法(道路交通法)を見てみました。ですが、ここにはAT免許という分類は出てきません。1996年9月1日施行された改正道交法で、自動二輪免許が普通二輪免許と大型二輪免許に分かれて以来、二輪車専用免許はこの2種類と原付免許という分類になりました。ならば小型二輪免許やAT免許は? と思われるでしょうが、こちらの定義は、次の第2節(免許の条件)で定義されています。


第2節 免許の申請等
(免許の条件)
第91条 公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めるときは、必要な限度において、免許に、その免許に係る者の身体の状態又は運転の技能に応じ、その者が運転することができる自動車等の種類を限定し、その他自動車等を運転するについて必要な条件を付し、及びこれを変更することができる。

 
 この第91条にある(免許の条件)で運転できる条件や対象を制限しています。AT免許も「眼鏡等」などと同じ条件付免許になります。“普通二輪免許”で乗れるバイクのうち、125cc以下のバイクに限定する(小型限定)とか、“普通二輪免許”で乗れるバイクのうちAT車に限る(AT限定)といったものですね。ここでちょっとご注意を。


(罰則)
第119条 次の各号のいずれかに該当する者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
1~14号省略
15 第91条(免許の条件)の規定により公安委員会が付し、若しくは変更した条件に違反し、又は第107条の4(臨時適性検査)第3項の規定による公安委員会の命令に違反して自動車又は原動機付自転車を運転した者。

 
 交通反則金制度では「免許条件違反」は、違反点数2点と反則金6千円(二輪)となっています。あくまで公安委員会が付した、又は変更した条件に違反、ということなので「免許条件違反」なのですね。かつて中型限定制度があり、それを解除することで全ての自動二輪に乗れるようになっていた時代は、中型限定免許で大型に乗っても「免許条件違反」だったのですが、現在は普通二輪免許と大型二輪免許では免許そのものが異なり、普通二輪免許で大型二輪を運転したとなると「無免許運転」となり、反則金の納付では済まずに違反点数19点プラス罰金となるのでリターンライダーの方々は特に注意が必要でしょう。さていよいよ「AT限定」のATの定義ですが、こちらは道路交通法施行規則にあります。


●道路交通法施行規則第19条第4項および別表第2
道路交通法施行規則
(免許証の記載事項等)
第19条  1~3項省略
4 免許証に記載されている別表第2の上欄に掲げる略語は、それぞれ同表の下欄に掲げる意味を表すものとする。
 
別表第2(第19条関係)抜粋
略語:AT車
意味:オートマチック・トランスミッションその他のクラッチの操作を要しない機構がとられており、クラッチの操作装置を有しない自動車等


 この部分が法律上でのAT車の定義です。“クラッチの操作を要しない機構がとられている”ということと、もうひとつ、“クラッチの操作装置を有しない”という2点が構成要件です。
 
 まず、前半部分。よく考えると非常に問題ありな表記ですよね。
 
 トルクコンバーター式やCVT方式のオートマチックを採用したクルマや、バイクでもDN-01のような本格的なオートマチック機構を採用しているモデルは、確かにクラッチの操作を要しませんが、カブなどに見られる自動遠心クラッチ車などは、その名の通り独立したクラッチ機構を備えており、自動とはいえクラッチ操作を介することにより変速操作が行えるようになっています。Vベルト無段変速を採用するミニスクーターだって、アイドル状態ではプーリーとウェイトローラーの組み合わせがクラッチの役目を果たしてパワーを断続しています。
 
 まあ、重箱の隅をつついていてもしかたないですから話を先に進めますが、この条文のポイントは後半の「クラッチの操作装置を有しない」ということろに重点を置いていると解釈するべきなのでしょう。
 
 ちなみにクロスカブ、そしてベースとなったスーパーカブ110などは、発進用と変速用と2つも立派なクラッチが付いています。しかし、人間が直接クラッチ操作をしているわけではない(操作装置を有しない)と判断されて、AT車とみなしましょうということなんですね。発進用のクラッチは遠心シュー式クラッチですから確かに自動で作動しますが、変速用の多板クラッチはシフトペダルの動きを検知して動力の接続、切断を行っているので人間が操作(のきっかけを)していると言っても間違いないのですが…。またまた重箱の隅でした。
 
 さて、もうひとつ、AT免許の話題で取り上げられる項目に「排気量が650cc以下」というのがありますね。ホンダのDCT(Dual Clutch Transmission)は、VFR1200FをはじめNCシリーズでも採用され、オートマチック・バイクの世界がここに来てどんどん広がっていますが、これらのモデルは650以上なのでAT限定免許で運転可能なAT車としては認められず、運転するには通常の大型二輪免許が必要となってしまっています。DN-01や、ヤマハのFJR1300ASなどもそうですね。この排気量制限による「AT限定」は施行規則の改正と同時に、以下の通り定義づけられています。


●道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令(平成16年内閣府令52号)2005年6月1日施行
(1) AT限定大型二輪免許、AT限定普通二輪免許及びAT小型限定普通二輪免許をそれぞれ以下のとおり定めた。
 
ア AT限定大型二輪免許
運転することができる大型自動二輪車及び普通自動二輪車をオートマチック・トランスミッションその他のクラッチの操作を要しない機構がとられておりクラッチの操作装置を有しない大型自動二輪車(総排気量0.650リットル以下のものに限る。)及び普通自動二輪車に限る大型二輪免許
イ AT限定普通二輪免許
運転することができる普通自動二輪車をオートマチック・トランスミッションその他のクラッチの操作を要しない機構がとられておりクラッチの操作装置を有しない普通自動二輪車に限る普通二輪免許
ウ AT小型限定普通二輪免許
運転することができる普通自動二輪車をオートマチック・トランスミッションその他のクラッチの操作を要しない機構がとられておりクラッチの操作装置を有しない小型二輪車(総排気量0.125リットル以下の普通自動二輪車をいう。)に限る普通二輪免許

 
 125の小型限定、400の普通二輪それぞれに合わせてAT限定を設定したわけですね。それにしても、AT限定大型二輪の「総排気量0.650リットル以下のものに限る」という制限が出来た理由は、巷で良く言われているように、この法律が出来た当時最大の国産AT車がスカイウェイブ650だったから、というのは本当のようですが、ただ、なぜそのような制限を付けなければいけなかったのか、その背景の方を知りたいものです。想像できるのが教習車の存在で、当然ながらAT限定免許取得希望者を対象とする教習車を用意しなければならず、それには国産モデルの枠内で制限する必要があったということだったのでしょうか。真相や如何に、です。
 
 ちなみにAT限定免許がスタートした2005年6月から年末までの免許取得者数は、AT限定大型二輪が185人、AT限定普通二輪が10,757人、小型AT限定普通二輪が3,261人でした。それが7年経った2012年にはそれぞれ、961人、89,160人、49,195人を記録。やはり650で制限されてしまうAT限定大型二輪免許には、ほとんどメリットが感じられないということなのでしょう。バイクでもクルマのよう市販車の9割以上がAT車、などという時代が到来すればまたこの制限は見直されるのでしょうか。
 
        ※

 
 今月の“困ったちゃん達”のコーナーです。
  
 5月23日、山形県の東根市の市道で、山形署交通2課の巡査部長が、酒を飲み車道に座り込んでいたため乗用車にはねられ重傷。交通課の巡査部長が、です。
 
 5月24日、岩手県の県警本部に勤務する警部補が、国道106号線で法定速度を50km/h超過する110km/hで摘発された事件で戒告処分。同乗していた警部を口頭注意。一般国道で110km/hとは。
 
 5月26日、秋田県警の生活環境課係長が酒気帯び運転で現行犯逮捕される。
 
 5月29日、大阪府警の巡査部長を、交通違反取締りの際、うその記載をした見取り図を作成したとして虚偽公文書作成容疑で書類送検。
 
 6月5日、神奈川県大和市の国道246号で警察官の出した速度取締りの旗にぶつかったバイクが中央分離帯に衝突し、ライダーが死亡。
 
 6月10日、警視庁浅草署の巡査部長を虚偽の交通違反で反則切符を切ったとして虚偽有印公文書作成・同行使容疑逮捕。クルマの違反者に原付で違反したかのように改ざんすること複数回。
 
 6月15日、京都府警中京署の巡査が3月に当て逃げ事故を起こし書類送検されていたことが露見。
 
 6月23日、新潟県警見附署の巡査が酒気帯び運転で当て逃げ。
 
 まあ、次から次から良くやってくれますこと。(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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