バイクの英語

第35回「Bung it In
(バング イット イン)
(※実際の発音はバンギティン)」

 規格・基準の統一を進めていただきたい! 最近気になってしょうがないのが、様々な規格・基準の表示の仕方。バイクのスペック表が最たるもので、メーカーによって「車両重量」「装備重量」「半乾燥重量」などと表記がバラバラなんですよ。タンク容量も輸入車は0.5リッターまで表示するけど国内では切り捨てだったりとかするから、同じバイクでも逆輸入車のほうがタンクが500cc多いような勘違いを受けたりする。

 さらに気になるのは燃費。車はJC08モードとか、より実走行に近い表示の仕方に切り替えて久しいし、各社ともに同じ規格・基準に沿ってそれを表示してるでしょう? ところがバイクは相変わらずの測定方法でとても燃費がいいような印象をカタログから受けるけれど、実際はリッター18ぐらいしか走らなくてがっかりしたりする。こういうのってどうにかならないものか……。

 そういうことは普段から思っている筆者ですが、最近オイル交換でまたその思いを強くしました。筆者が乗ってるのは国産の最新モデル。最近のエンジンはオイル交換時期が5000キロ以上ということもよくあるのですが、このモデルでも慣らし後のオイル交換は6000キロのインターバルとオーナーズマニュアルに記してありました。そして使うべきオイルは:SAE 10w-40、API規格なら SF/SG もしくはSH/SJ、JASO規格ならMA という指定。両方を満たす必要はないけれど、どうせなら両方の規格を通ってるオイルを見つけたい。さーこれが難しい!

 量販店に行ってこれらオイルを探してみました。すると大抵のオイルはSAE10w-40などという表記はありますが、しかしAPI規格が書いていないものは多く、さらにはJASO規格についても書いてないのもあったりする。

 よくオイル選びの基準として、鉱物油なのか、化学合成油(もしくはその間の半化学合成油)なのかを気にする人がいるようです。一般的には100%化学合成油の方が高性能ということになってるんだけど、だけど僕のオーナーズマニュアルのオイル指定には鉱物油もしくは化学合成油を使うべきという指示はない。 ということは量販店で販売されているオイルの表示にはJASOのMAなのかMBなのか、もしくはAPIのどのレベルなのかを明記することの方が重要なはずなのに、それが書いていないものがあるとはどういうことだろう。

 色んなオイルに書いてある基準と自分の知識を組み合わせながら推測すると:
①ちゃんとJASOの表示がある多くのバイク用オイルはMAと書いてあるけれど、例えばホンダのS9やE1など、スクーターにいいとされるオイルはMBとなっている→確かS9とE1はモリブデンが入ってて、潤滑性能は高いけれどクラッチがミッションと一緒のバイクではクラッチ滑りに繋がるからお奨めできなかったはず。ということは、MBはスクーターなどに向けたオイルで、一般的なクラッチがついてるバイクはMA指定なんだな、と推測できました。

②APIはSに続くアルファベットが進むほどに高級オイルになるみたい。安いオイルはSGやSHで、高級オイルだとSJやSLと書いてあるみたい。ちなみにホンダ純正はそんなに高くないけどみんなSLと書いてあった。こうなるとアルファベットが進むほどに高級オイルかと思ったけれど、四輪用の安物オイルはさらにSNとかSMも見たことがあるような気がするから違うのかな……?

 量販店の店員さんにこんな話をぶつけたら、とってもフレンドリーな方で「すみません、私よりお客さんの方がお詳しいですね。一緒に勉強させてもらっていいですか」と資料を持ってきてくださった。いいですね、こういう対応。知らないことを知らないままにせず、しかも押し切らずに素直に認める接客。そんな対応ができるあなたを尊敬しますよ! 見習わなくては。

 その店員さんが持ってきてくれた資料によると、やっぱりJASOのMAとMBはそういう関係みたい。MBは普通のクラッチがついてるバイクに使うとクラッチ滑りの恐れがあるそうです。よしよし、それは納得、片付いた。MA指定のバイクにMBは入れてはいけないってコトで。

 ではAPIは? これはアルファベットが進むにつれて環境にも対応した新しい基準に合格していますよ、ということらしい。その量販店で一番高いアルファベットはホンダ純正オイルのSL、他はSJが最高でそれが一般的だった。これはホンダのオイルが環境にも対応しているってことなんだろうけど、じゃなんでSNとかのもっと上のグレードに行かないんだろう。

 ここで再びオーナーズマニュアルを見ると、指定はあくまでSF~SJだそう。しかも次のページには「SH以上のオイルは『エナジーコンサービング』表記があるものがあるが、これは使用しないこと」とあった。API基準の内容を見ると、アルファベットが進むほどに環境に対応する指数が高まるといったことが書いてあった。その中の項目のひとつに、マフラー内の触媒への攻撃性なんかも謳ってたから、ここら辺にポイントがありそう。バイクは四輪に対して圧倒的にマフラーの用量が小さく、よって触媒のサイズや材質も違うでしょう。ということは筆者のバイクのオーナーズマニュアルにあるように、あまりAPIグレードが高いオイルだとかえって触媒の効果を阻害しちゃったりするのかもしれない。だからバイクのオイルはSNグレードなど高いのではなく、SJグレードあたりにとどめてあるのではないか、と推測しました。

 では、そんな知識を得た今一体どんなオイルを買おうかな! ちょっとひいきにしていた国産メーカーはJASOもAPIの表示もないことに気付いてパス。だってオーナーズマニュアルに書いてある基準を表示してないんじゃ信用できないもの。迷ったらホンダ純正、と思っていたけれど、APIがSLだから、きっと問題はないのだろうけど今回はパス。スズキ純正でもいいかなと思ったけど、こちらはJASOはちゃんと書いてあったけど、鉱物油なのか化学合成油なのかが書いていない。ここまでの話の流れでは基準さえ通ってればいいじゃないか、とも思うしそもそもマニュアルにはその指定はないけれど、1リッター1600円チョイ出すなら鉱物油なのか化学合成油なのかぐらいは知りたいじゃないか。価格帯としては半化学合成油の辺りだけど、ただの高い鉱物油だったら悔しいからね。と思ったら、ヤマハ純正とカワサキ純正も鉱物油か化学合成油か書いてないじゃん! ヤマハのトップグレードには小さくsynthetic と書いてあったけれど。もちろん、行ったお店に全てのグレードがあるわけじゃないから、あくまでその時見た範囲での話ですけど、純正オイルはかなり余裕を持って作ってるだろうからそういうところはあんまり重視してないのかな?

 さんざん頭を悩ませた結果、結局オイルを買わずにお店を出ました。そんでオートバックスに行きました。だってあっちは4リッターで2200円とか、とにかく安いのですもの。だけど表示を見たらほとんどのものにJASOの表示はなく、かつSAEが0w-30とか、やわらかいものばかり。でAPIはSNとか、結構高め。低回転エンジンで高燃費を狙う車が多いからそういうことになるんでしょう。バイクには使えないなんだろうな(後に編集部からの指摘で、JASOは二輪の規格だといわれました。そっか、じゃ基本的に車用オイルには書いてないわな)。

 途方にくれてホームセンターに行ったら、輸入物のオイルがプラスチックの容器に入って600円ぐらいで売ってた。あぁ、確かアメリカってバイクでも車でもみんなこんなオイルを使ってるなぁ、と何気なく後ろを見たら、(見慣れた規格の表示マークでこそないけれど)JASO MA・FPI SF/SG/SJの各規格相当と明確に書いてあるじゃないか!! しかも粘度も10w-40とマニュアルの指定どおり。素晴らしい! 素晴らしい!! 業界では「そんな安いオイル、危なくて使えない」みたいな風潮がありますが、オーナーズマニュアルの指定にこれほどちマッチしてくれたオイルはありません。しかも安いんだからありがたい。早速購入して、オイル交換をしました。

 そしたら、フィルターは代えてないから2.2リッターぐらいしか入らないはずなのに3本目が半分ぐらい入っちゃう……。あれー? 全容量でも2.4のはずだけど? よくよく見たらオイル1本の容量が1リッターじゃなくて「1U.S. QT.」!! アメリカガロンの1/4ってことで、リッターに直すと0.946リッターなんです(笑)。

 だからさー、規格・基準を統一してくれっての!!

 今回の英語:Bung It Inですが、これは「放り込んどけ!」という意味です。「後は何とかなるよ」とか「後は野となれ山となれ」、もしくは「結果は神のみぞ知る」といった、無責任なニュアンスも含みます。よく使われるのは、例えばスープや鍋を作る時。入れていいかどうか怪しいような具材でも「大丈夫だよ! バンギティン!!」と使います。今回のオイルの件でも、心の中でこの言葉が鳴り響いていました。「大丈夫だよ! 安いオイルでもマニュアルの基準に適合してるんだから! バンギティン!!」と。とはいえ、スープや鍋の時もそうですが、成功する確率はかなり高いですね。無責任なニュアンスはありつつも、心の中では「大丈夫さ」という根拠のない自信があるときに使う傾向にあります。ま、オイルについては基準に適合してるんだから根拠があるわけでして。

 この語源には諸説ありますが、行数がかさんできたので手短に有力なものをひとつ。

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 そもそもは鉱山の中で使われるようになったといわれている。掘り出しているものは金や銀、様々な宝石だったりするわけだが、しかし暗い鉱山の中でこれら貴金属の原石を見極めるのはなかなか難しい行為だった。また鉱山が忙しくなるほどに人手も足りなくなり、経験の少ない鉱夫ではますますその判断があいまいだったという。しかし掘り出す石の塊一つ一つを丹念に調べている暇はなく、目的の原石だと思しきものはどんどんとトロッコの中に放り込んでいかなければならなかった。Bungerとは当時鉱山で使っていたスコップ状の特殊工具。前線で山を切り崩しているベテランの後ろで、Bungerを用いてトロッコにその石を放り込むのは若手の仕事であり、石の判別に困った場合はベテランの手を止めて聞かなければいけなかった。しかし仕事に集中したいベテランはいちいち手を止めたくはなく、よって「いいよいいよ! ッポイやつはみんな放り込んどけよ!」「Oh Bung It In!」と答えたとされる。こんなやり取りから、放り込むのに使う道具Bungerが、放り込む行為そのものを指すようになり、また無責任ではあるもののある程度自信があってやっている行為を指すようになった。

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 いかがでしょうか「バンギティン」。筆者は日本での生活が長く日々の言語は日本語ですが、実はこのバンギティン、日常的に使ってる言葉の一つです。ぜひご活用ください。


筆者 
アッシュランド・バルボー

アメリカではベアリング類やオイルシールなど、メーカー純正ではなく汎用品を使うことも多いため、ブランドネームを必ずしも信じず、廉価版が大好き。だけど危険なものは廉価版でも正規品でも「あぶにゃー!」としっかり指摘する。実体験から「クルーザーだったらチ○ンシンタイヤでも全然問題ないよ?」が口癖。静岡県富士宮市在住。
※例によって写真はイメージです。



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