MBHCC E-1
 西村 章

MBHCC E-1

スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第74回 第17戦日本GP「」

 ツインリンクもてぎ一帯の週末は荒れ気味の天候から徐々に回復し、日曜はおそらく秋晴れの好天、という事前の予報が的中したものの、まさか濃霧で救護用ヘリが飛べないという事態が発生して金曜のセッションがすべてキャンセルになるとは誰にも予想できなかった第17戦日本GPでありました。
 そのような気象状況だったために、今回は毎戦恒例の素人写真はほとんどありません。プロフェッショナルな写真については、楠堂亜希姐さんの記事中でお楽しみください。
 で、この天候のためにタイムスケジュールが大幅変更になり、土曜の予選はいつもの15分一発勝負とは違う75分の長尺セッションで行われた。日曜午前の20分間のウォームアップセッションも、このような事情から今回は45分のフリープラクティスへと変更になった。
 ツインリンクもてぎは、全18戦中でももっともブレーキに対して過酷なコースで、昨年のレースではブレーキトラブルが頻発した。そのために、今年はこのもてぎに限って別仕様のディスクを使用してもよい、とレギュレーションに変更が加えられており、ブレンボ、ニッシンともにいつもより径の大きなものを投入した。第13戦サンマリノGPの事後テストでこのディスクを試した陣営もあったようだが、そうはいってもミザノともてぎは諸条件が異なるので、できるならば金曜からの実戦の場でブレーキのテストをしたかったことだろう。土曜午後の予選はウェットセッションでスチールディスクを使用したため、結局、日曜午前のセッションがこの大径カーボンディスクの初走行、ということになった。
 だから、というわけでもないのだろうが、午後の決勝レースでスタートを決めてオープニングラップに2番手を走行していたバレンティーノ・ロッシが2周目の90度コーナーでオーバーラン。背後につけていたレプソル・ホンダの2台の後ろにさがってしまった。ロッシは3周目も同じ場所で同様の失敗を犯し、今度はグラベルまでコースアウトしてしまった。これで順位を11番手に落とし、その後は懸命に追い上げたものの6位でフィニッシュ。不本意な結果ではあるだろう。
 このブレーキミスについて、ロッシにレース後訊ねてみたところ、
「ブレーキしてもフロントのしっかり感がなく、オーバーランしてしまった。マテリアル自体はミザノの事後テストの際にもテストしていたモノだけど、このコースはブレーキへの負荷がとても高い。幸い、その後の周回では非常によく作動したけど、この問題がなぜ起こったのか、しっかり究明しないといけない。ミスがなければもっといいリザルトになっていたと思う。トップスリーに食い下がれていたかどうかはわからないが、自分のリズムでは4位には行けていたと思う」
 と話した。
 そのロッシだが、今回のレースではリアタイヤ2種類のうち、ハード側のコンパウンド(ソフト)を選択してレースに臨んだ。ちなみに、優勝したチームメイトのホルヘ・ロレンソと、サテライトチームのブラッドリー・スミス(モンスターヤマハTech3)、そして今回ワイルドカード参戦した中須賀克行(ヤマハYSPレーシングチーム)の3台はソフト側(エクストラソフト)を選択している。今シーズンのロッシは、BSの供給するリア用コンパウンドのうちハード側は全然機能しない、と毎回のように、他の選手の先頭に立って苦情を述べてきた。ところが今回に限り、積極的にハード側を選択したわけだが、その理由についても訊ねてみたところ、
「ハード側でも、とてもソフトだから(笑)」
 と、わかったようなわからないような回答が返ってきた。
「ホルヘはソフト側のタイヤで行って、それがとてもうまく作動していたようだね。自分にとっては、ソフト側とハード側はそんなに大きな差を感じなかった。ホルヘはソフト側が良かったようだけど、自分(が使用したハード側)も極めて似たような印象。エッジが少しすべったけど、そんなに悪くなかったよ」
 ロッシが今季、BSのハード側コンパウンドに対して肯定的な発言をしたのは、おそらくこれが最初だと思う。以上、ブリヂストン山田さんへの業務連絡でした(うそ)。
 ヤマハ関連でロッシ絡みのネタを、もうひとつ。
 じつは今回の予選は、ヤマハがミザノでシームレスギアボックスを投入して以来、初めてのウェットコンディションでの走行になる。そこで予選後に、ウェットでのシームレスギアボックスの効果について訊ねてみたところ、じつに意外な答えが返ってきた。
「とてもよく機能した。残念ながら自分たちのシームレスギアは、1−2速間がシームレスではないので、ヤマハとともに努力して、今後、改良していきたい。このコースでは3回、1速に入れる場所があるので、その部分については改善の余地があるけど、それ以外はOKだった」
 なにが驚いたかって、「1−2速間がシームレスではない」という部分である。ホンダのマシンに装備されているニュートラルスイッチ(と推測されている左手元のレバー)がヤマハに見当たらないことは以前にも当コラムでレポートしたとおりで、両社の機構にはおそらく何らかの相違があるだろうと想像はしていたけれども、まさかそんな違いがあるとは思わなかった。しかもライダーの口からそんな事実があっさりペロッと出て来るとは、いや、ホントにビックリしました。

#46 #46
「トップスリー」と自分との差を、最近ではごく普通に認めるようになった。

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 ところで、今回のレースウィークではマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)がスペシャルデザインのヘルメットを用意し、その内容が欧州メディア、特にスペイン関係者の間でちょっとした話題になった。
 このデザインは、「日本」と漢字の記された鉢巻きを締めたマルケスが両手の人差し指で左右の目尻を引っ張って吊り目を模している絵柄で、物販エリアではTシャツも販売されていたので、来場した観客の中にはご覧になった方々もいることと思う。
 ご存知のとおり、このジェスチュアはモンゴロイド、東アジア系人種を軽侮する仕草である。マルケス自身に差別的な意図はもちろん一切なく、日本人に対する愛情と敬意の表現としてこれを採用した、ということなのだが、その本人の意図はともかくとしても、このデザインを公に用いることが問題視された格好になった。
 スペインの中でも、これを使用することには賛否両論があり、「本人に差別的な意図は毛頭ないのだし、愛情表現としてやっているんだからべつに構わないじゃないか」という声と「たとえそうであったとしても、彼はファクトリーやスポンサーなどの世界的大企業を背負っており、しかも世界的スターになることが確実な公的存在なのだから、不快に思う人が確実に存在するであろうことへの配慮が行き届かなかったのは、20歳とはいえ、あまりに軽率」という意見に分かれた。
 ぼくに対しても、友人のスペイン人ジャーナリスト数名から「日本人ジャーナリストとして、このデザインにどういう印象を持つか」と訊ねられた。
「自分はマルクの性格や人柄を知っているし、彼が悪意や差別的意図でこのデザインを採用したわけではないことは充分にわかっている。でも、それはふだん彼を取材しているオレだからその善意を汲み取れるのであって、一般論としてこの表現を差別的なモノと理解する人は少なからずいるし、日本に限らず、アジア諸国でこのジェスチュアをされると不愉快に思う人はごく普通に存在すると思う」と率直に自分の見解を述べておいた。
 もちろん、無知や純真さが差別を弁明したり正当化する理由にはならないし、それどころかむしろ、差別する側がその行為を意識しなくなったときに、差別は社会構造の中に透明化して組み込まれる、ということを考えれば、今回のイラストはたしかに軽率であっただろう。ただ、マルケス自身も人々の様々な反応に対してはかなり思うところもあったようで、レース終了後の日曜夜に、「あのスペシャルヘルメットは、日本の仲間やファンに対する感謝を込めてデザインしたつもりだったんだけど、不愉快にさせてしまった人がいたとしたら、本当にごめんなさい」とツイートした。
 この言葉が1300回以上リツイートされ600以上フェイバリット登録されたところを見ると、やはりかなりの数の人たちが今回のイラストの理非や適否について気にしていたのだと思われる。ともあれ、本人が素直に自らの短慮を認めてツイートした事実をもって、本件は一件落着、である。

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 今回の日本GPでは、2015年のMotoGP復帰を予定しているスズキ関係者の方々とも遭遇したので、彼らの情報も少々アップデートしておこう。
 今年は6月のカタルーニャを皮切りに欧州のサーキット走行テストを実施したスズキだが、来年はさらに精力的に、8回程度のテストを計画しているという。公式な決定はまだのようだが、どうやらチームマネージャーのダビデ・ブリビオ氏、テストライダーのランディ・ド・プニエともに来季も続投の模様だ。できれば、どこかのレースで復帰リハーサルやトレーニングを兼ねたスポット参戦をしてくれると盛り上がるのだが、MotoGPプロジェクトリーダーの寺田覚氏によると、「そのあたりについては、まったくの未定です」ということだ。
 そのスズキチームは、日本GPが明けた翌月曜から宮城県のスポーツランドSUGOで、日本人テストライダーの津田拓也と青木宣篤が三日間のテストを実施しているのだとかしていないのだとか。また、このテストはスズキの単独ではなく、ホンダも合同で実施しており、来年仕様のRC213VとMotoGP市販レーサーの双方をケーシー・ストーナー氏が走行してるのだとかしてないのだとか。
 というわけで、今回も長くなってしまったのでそろそろこのへんで。ところで、最後になってしまったけれども、今回の決勝レースはホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)が優勝して、マルケスは2位に終わったため、2013年のチャンピオン決定は次回の最終戦バレンシアGPに持ち越し、ということは、すでにみなさんとっくにご存知ですね。
 では、その第18戦バレンシアGPで、またお目にかかることといたしましょう。

もてぎ
#99 #93 #26
最終戦まで勝負をもつれ込ませたのは、まさにこの人の「豪腕」である。 それでも圧倒的有利な状況は変わらない。最終戦で史上最年少王者誕生か。 今回の結果をもって正式に年間総合ランキング3位が確定。悲運の人である。
#99 #46 #26
金曜6315人。土曜1万4549人。日曜4万0233人。三日間総計は6万1097人。 傘を本来の目的に使用しております。 日曜はそれまでの雨が嘘のようなカラリとした晴天になりました。
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■第17戦 日本GP

10月27日 ツインリンクもてぎ 晴

順位 No. ライダー チーム名 車両
1 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
3 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
4 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
5 #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
6 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
7 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
8 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
9 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
10 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
11 #21 中須賀克行 Yamaha YSP Racing Team YAMAHA
12 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
13 #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
14 #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
15 #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport DUCATI
16 #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
17 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
18 #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
19 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
20 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR Kawasaki(CRT)
21 #50 Damian Cudlin Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
22 #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
RT #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
RT #23 Luca Scassa Cardion AB Motoracing ART(CRT)
RT #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project IODA-SUTER(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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