オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

放狼記  エイプ、リニューアルの初戦にて

 スバラシイ! 一速毎のスピードの伸びも申し分ない。ちょっと前まで気になっていた高回転域での僅かな息継ぎも今は皆無。変更したキャブのセッティングはドンピシャリなハマリ具合でエイプはゴキゲンなエキゾーストを奏でながら国道372号線を東へ疾走していた。
 オレのエイプは以前から使用していたエアフィルターの劣化が進みマメに掃除してても調子を崩す事が多く、出発の数日前、オレはフィルターの交換を考え何種類かのフィルターを用意した。その中からロングな旅を想定して全天候型のフルカバードをチョイス。最初、ダクト面積の不安からエアの吸い込み量が足りないのではないかと心配したが走らせてみるとこれが思ったほどでもない。だがやはり途中途中、僅かに息継ぎが起こり特にトップスピードあたりではかなりなもたつきが見て取れた。プラグを外してみると案の定、真っ黒。しかしそういう事なら話は早い。キャブそのもののセッティングを変えてやればいい。
 とりあえずメインジェットを一つ下げてみる。するとエイプは劇的な変化を見せた。とにかくエンジンは高回転域までスムーズに回り、スピードの乗りが良く特に3速あたりはストレスなく80辺りまでスピードが乗ってくれる。これはレースをやっていた頃のベストな状態に限りなく近い。プラグの焼け具合も申し分ない。

 こうしてオレは出発前にマシン的にはほぼ完璧と言っていい状態を準備する事ができた。とは言っても長距離の中で様々なステージを走ってみると改めて気づく事もある。372号線のアップダウンが連続する辺りでは上りにおいてミドルレンジ付近でのトルクが以前と比べて若干薄くなっているのを感じた。それでも公道を走り旅をするぶんには問題視するほどの事ではない。とにかくエイプは絶好調なのだ。



マシン的に最高な状態での久々の旅に走るペースもついつい速くなっていく。おかげで周りの車からは無自覚な悪意をたっぷりと感じ取りましたわ


マシン的に最高な状態での久々の旅に走るペースもついつい速くなっていく。おかげで周りの車からは無自覚な悪意をたっぷりと感じ取りましたわ
マシン的に最高な状態での久々の旅に走るペースもついつい速くなっていく。おかげで周りの車からは無自覚な悪意をたっぷりと感じ取りましたわ。

 
 しかし・・・まだ京都に達するかどうかと言った地点であたりは薄暗くなりつつあった。当然だ。出発したのが昼過ぎであったのだから仕方がない。
 時は10月頭の3連休初日。夜も走らなければならない事態は想定済みであったが日が暮れてからの気温の低下は予想以上で昼間の陽気に合わせたオレ自身の装備では体感的に極寒の冬に走っているような気になってくる。
 目的地は愛知県の岡崎市。頑張って走れば何とか日付が変わる頃には着けそうなのだが気温の低下と共にオレのモチベーションも低下の一途を辿っていた。結果、鈴鹿あたりの道の駅に停まったところで電池切れ。この日はここで一夜を過ごす事にした。

 岡崎で何があるのかって? まぁこれに関してはいつもの事だ。この日は太陽の宴なる集まりが岡崎市のとある公園で開かれていた。今回、(この宴に関しては毎回の事のようなのだが)世間の3連休に乗じて2夜通しの宴会なので是が非でもこの日のうちで辿り着かなければならないと言うわけではない。よってオレはあれこれ理由をつけては自分に都合のいい解釈で2日目の到着を決定した。


3連休だけあって集会を掛け持ちしてくるツワモノもいる。今回は久しぶりに会う人の方が多かった
3連休だけあって集会を掛け持ちしてくるツワモノもいる。今回は久しぶりに会う人の方が多かった。

 翌朝、5時30分起床。あたりはまだ暗い。道の駅泊まりの場合、朝はひじょうに早い。なんせ3連休の中日だ。人が動き出す前には行動を開始する。
 早々にビバーク設備を片付けて出発する。激寒の鈴鹿峠を越えた頃にはすっかり明るくなってきた。早朝のメリットは交通量が少なく走りやすい事なのだがあまりの寒さにペースはイマイチあがらない。だがここからは先日の逆である。日が昇るにつれ気温は上昇していく。
 平日なら通勤ラッシュで渋滞に見舞われるであろう23号線も休日はガラガラだ。順調すぎるほどに距離は進み途中、朝食を含めてたっぷりと休憩をとりながらの移動にもかかわらず3時間ほどで岡崎市入り。一本路地を入ったところにある小学校では子供たちの健全な運動会が開かれておりそれを抜けた先にある公園では呑んだくれたバイク乗り達の見慣れた翌朝の光景が目に飛び込んできた。まっとうな一般市民がどんな休日を送っているのかは知らないがオレ達はそれでいいのだ。うん、そういう事にしておこう。

 さっそく出迎えてくれた主催者のイヌイくんに挨拶を済ませいつものようにテントの設営を行う。いつものようにと言いながらも実は結構、久しぶりな感じである。実際、オレは8月、9月とどこへも行けずにいた。まぁこれはいずれ誰にでも起こりうる個人的な厄介事なんかが絡んだ結果なのだがこれによってオレの中で少々リズムが狂っていたのは間違いない。しかもエイプでの長距離はほぼ一年ぶりであったりもする。そのせいもあるのだろう、結構、新鮮な気持ちで今回は走ってきたように思う。



マニアックな車で来る者もいる。趣味はそれぞれが個性的。そしてもちろん彼もバイク乗り
マニアックな車で来る者もいる。趣味はそれぞれが個性的。そしてもちろん彼もバイク乗り。

 しかし、長期に渡る旅ならばいざしらず、バイク乗りの集まりとなると辿り着いた時点で仲間との再会がそんなブランクの大半を払拭してくれる。そう、ここからはひたすら呑んだくれてダラダラと至福の時を過ごすのだ。これぞスタンダード。

 同じような面子と同じような事をオレはもう何年も続けている。だが中身は毎回おなじではない。時を追うごとにそれぞれが色んな意味で少しずつ変わっていく。くっついたり、離れたり、ぶつかったりと・・・もちろん、みんな人である以上歳もとる。そんな中で生活環境の変化だってある。今までとは違い今回のようにちょっと長い時間を間をおいて会ってみると大きく変わっていたりする事もある。変わっていないのは皆バイクが好きであると言う事だけだ。
 まったくバイク乗りは面白い。そしてその持ち合わせた拘りとプライドゆえにかなり面倒くさい人種でもある。それについてはオレ自身も相当ではあるが・・・。

 そんな厄介で面白い一夜を過ごした翌日、オレは帰路につく事にした。なんともあっさりしたもんだと思う人もいるだろう。オレ自身もそう思う。当初の予定ではこのあと、さらに東へ向けて走ろうかとも思っていたのだが・・・
 理由は天候の悪化だ。この日はまったく問題ないのだが翌日から大きく天気が崩れていくという予報が出ていた。少々、雨が降るくらいならまったく気にしないのだが台風が来ているとなると話は別だ。
 かつては台風? それがどうした。などと口走りながら強行したものだが、まぁこれもまたオレの変化なのだろう。ほんのちょっと正直になったってところだ。だってツライんだもん。というわけでひとまずこの旅はこれで完結した。

 だがこれはほんの序の口。本番はこれからだ。オオカミは寒い季節にこそ真価を発揮するものなのだよ。


※次回は新年1月上旬に恒例の「ショットガン・パーティー」と「アメリカから!?」お送りいたします。しばしお待ちください。それではみなさま、よりお年を!


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