おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第38回 富士山麓のみち

世界遺産に登録されて大きな話題となり、昨夏は登山者数がずいぶん増えたようだが、周知のように富士山の周りには有料道路、一般道路を合わせ、いい道がいくつもある。北麓で有名なのは富士スバルラインだ。南麓には富士山スカイラインや南富士エバーグリーンラインがあり、十里木高原やその周辺にも景色のいい道がある。東側には富士山スカイラインを構成する道のひとつとされる県道23号線の御殿場富士公園線、そして須走登山道がある。


MAP

 著名な有料道路の富士スバルラインは、河口湖側の入り口から新五合の終点までの距離が28kmで、軽自動車(125cc以上のバイク)の全線往復の通行料金は1600円と比較的高めだ。でも、それだけの価値がある道で、路面はいいし、眺望が素晴らしい(夏の登山シーズンなど乗り入れできないマイカー規制期間もある)。初めて走ったのは70年代の半ばだったから、40年近く前のことになる。富士五湖めぐりのツーリングに出かけたときに、料金は高かったが(当時は今より安かったかもしれないけれど)思い切って乗り入れた。

 ゴールデンウイークの頃で、お天気がよくて見晴らしがよかった。途中何カ所か駐車場があって、高度を上げてゆくと麓が見渡せ、光り輝く富士五湖のいくつかも…。さらに上ってゆくと、南アルプスや八ヶ岳、駿河湾をも遠望できる駐車場がある。全線ワインディングだが、飛ばして走りを楽しむより景色を愛でるほうがいいと思わせる道で、実際、俺もそうした。標高2300mあまりの終点=新五合目からの眺めはやはり一番で、来てよかった、と思った。

 その後、仲間とのツーリングや仕事がらみで数回走った。80年代初頭の頃、まだ富士山麓にたくさんあった林道で250クラスの国内外のオフロードスポーツの比較テスト試乗をするために出かけたこともあった。鳴沢周辺の林道から新五合までハードな林道を登って行ったのだが、新五合に近づくと土質は火山灰となり、グリップ力が低下して難儀した。帰路はスバルラインを下ったように記憶する。その後、80年代後半か90年代前半には新車発表試乗会でも一度走ったように思う。でも、ここ10数年以上、河口湖周辺には何度も仕事で訪れているが、諸事情により、スバルラインには乗り入れていない。

 県道150号線の須走登山道=ふじあざみラインは数10年前から仕事がらみで走ることが多く、ここ数年でも5、6回は利用している。国道138号線から入るとしばらく自衛隊の演習場の中のストレート区間があり、それを過ぎると様相は一気に変わって勾配がきついタイトコーナーが続く九十九折となる。距離は11km余り。登山道入り口(須走口五合目)まで上り切ることは稀で、たまに直前まで行くこともあるが、ほとんど途中で撮影して引き返している。オフシーズンの平日は交通量が非常に少なく走りやすく、秋には紅葉も楽しめる。

 表富士の御殿場冨士公園線とそれと接続する富士山スカイラインも仕事がらみでよく利用してきた。特に、御殿場冨士公園線の太郎坊入り口くらいまでは頻度が高い。こちらも途中までは自衛隊の演習場のなかをストレートがしばらく続き、その後中速の回り込んだコーナーが多いワインディングとなる。上り切ってから右折し、太郎坊の駐車場に入って写真を撮り、Uターンすることが多かった。そういえば一度、1100ccのツーリングスポーツ車を駐車場わきのがけの上に置いて写真を撮っていたら、サイドスタンドに敷いておいた岩が砕けてバイクが火山灰の斜面に倒れ、崖から落ちそうになったことがあった。慌てて走り寄って必死で引き起こした。火事場の馬鹿力でなんとかできた。



富士山
東名高速から見た富士山。見えるとなぜだか嬉しいものです。※以下写真はすべてイメージです。


富士山
最もメジャーと言えるのがスバルライン。125cc以上は往復1600円。月によって変動する営業時間以外は通行できない。(撮影-アン・ジョー)


富士山
ふじあざみラインへと続く直線道路。両側は自衛隊の広大な演習場。間違って侵入しないように注意。


富士山
東側ルート、ふじあざみラインの路面はやや荒れ気味の部分も。冬季は閉鎖される。(撮影─楠堂亜希)

 数回、太郎坊から富士山スカイラインに戻って富士宮に行ったこともあるし、分岐点を右折してそのまま富士山スカイラインを駆け上がり、表富士の新五号まで上ったこともある(その区間の距離は13.5km)。標高が高くなるにつれて道幅が狭くなり(そういう印象だったが間違っているかも)、特に後半はRの小さいコーナーが連続して、シーズンだったのか車が連なっていた。雲も多くて景色を楽しむこともできなかった。そんなわけでその後は行っていない。

 太郎坊から富士山スカイラインを少し南西に走り、左折すると南富士エバーグリーンラインだ。距離は10.5kmで、125cc以上の二輪車通行料金は350円。この道は標高の高い部分はタイトコーナーが続き、見晴らしがいい。その後ストレートが多い区間となり、国道469号線にぶつかる。国道を右折してすぐのところにサファリパークがある。その周辺が十里木高原で富士山の雄姿を拝める。国道を左折すれば御殿場方面で、比較的まっすぐな道となり、両側は富士演習場のススキ野原が広がる。秋は夕日に輝く穂の群れがとてもきれいだ。この道も昔、ツーリングで何度か通り、その後仕事で利用したこともある。

 地図ではよくわからないのだが、十里木高原の東側にはとてもさわやかな牧歌的風景の中を走る道もある。距離は短いが富士南麓の草原が広がっていてその区間は道端に家屋はなく、別世界のような雰囲気が味わえる。そこでも何度か写真を撮った。そうそう、忘れていたが、富士山の西山麓にある朝霧高原の東側を走る県道71号線=富士宮鳴沢線も穴場的なグッドロードだといえる。距離は20数kmで、林間を走る区間が多いが見晴らしのいい場所も少しあるし、交通量が少なくてコーナーも適当に現れる。春は若葉がきれいだったし、秋に走ったことはないが、きっと紅葉も美しいだろう。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、16年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万km。

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